感情労働とは?疲れる理由と対処法

感情労働とは、仕事上求められる感情や態度を相手に示すために、自分の感情を管理することまでが、仕事の一部として求められる労働を指します。
代表的なのは接客業ですが、医療・介護・教育など、人と継続的に関わる仕事でも感情労働が求められます。
この記事では、感情労働とは何かを整理したうえで、心身にどのような負担が生じるのか、企業が負担を減らすためにどのような対策を取れるのかを解説します。

感情労働とは

感情労働とは、仕事の中で自分の感情を意識的にコントロールし、相手に対して適切な態度や感情を示すことが求められる労働のことです。

たとえば、クレームを受けても怒りを表に出さず冷静に対応する、不安を抱える相手に穏やかに寄り添うといった場面がこれにあたります。自分が内側で感じていることとは関係なく、仕事上求められる感情や態度を維持し続けることが、感情労働です。

接客・医療・介護など対人業務で多く求められる

感情労働は、接客・販売、コールセンター、医療、介護など、人と直接関わる仕事で求められます。
接客やコールセンターでは、顧客から強い口調で苦情を受けても、怒りをそのまま表に出すのではなく、冷静に話を聞いて対応する必要があります。
医療や介護では、不安や緊張を抱える患者・利用者と接する機会が多くあります。そのため、看護師や介護職員には、自分が疲れていたり、いら立ちを感じていたりしても、それをそのまま表に出さず、相手が安心できるよう落ち着いて対応することが求められます。

このように、人と接する仕事では、自分の気持ちをそのまま表に出すのではなく、相手や状況に応じて、話し方や表情を変えながら対応することが求められます。

本音を隠して振る舞う「表層演技」

表層演技とは、自分が実際に感じている気持ちは変えずに、表情や話し方だけを仕事で求められるものに合わせることです。
たとえば、顧客の言動に腹が立っていても笑顔で対応したり、疲れていても明るい声で受け答えしたりするケースが当てはまります。怒りや疲れを感じていても、その感情を相手には見せず、接客や応対に必要な表情や話し方を保ちます。
つまり表層演技では、実際に感じている感情とは異なる感情を、表情や声、話し方を通して相手に示すことになります。研究では、こうした表層演技を頻繁に行うことは、情緒的消耗などと関連することが報告されています。

表情だけでなく気持ちにも働きかける「深層演技」

深層演技とは、表情や話し方だけを取り繕うのではなく、自分の考え方や物事の受け止め方を変えることで、相手に対する感情そのものを変えようとする方法です。
たとえば、顧客から強い口調で苦情を言われ、腹が立っても、その怒りを抑えて笑顔をつくるのではなく、「商品やサービスに問題があり、困っているから強い口調になっているのかもしれない」と考えます。相手が置かれている状況を理解しようとすることで、怒りだけにとらわれず、相手の話を落ち着いて聞こうとする気持ちにつなげていこうとするのが深層演技です。

表層演技では、怒りを感じたままでも笑顔で接するなど、外から見える表情や話し方を変えます。これに対して深層演技では、相手の立場を考えたり、状況の捉え方を変えたりすることで、自分が感じる気持ちそのものにも働きかけます。
研究では、深層演技は表層演技ほど情緒的消耗との強い関連がみられず、接客の質や顧客満足とはプラスの関連を示すことが報告されています。
参考:感情心理学研究/感情労働尺度日本語版(ELS-J)の作成
参考:日本行動医学会/病棟看護師における感情労働とワーク・エンゲイジメントおよびストレス反応との関連

感情労働が心身に与える主な負担

感情労働では、相手に腹が立っていても笑顔で対応する、不安や疲れを抱えていても落ち着いて接するといったように、自分の感情を抑えながら仕事をしなければならない場面があります。これらの対応がすべて心身の負担になるわけではありませんが、本当の気持ちを隠し、仕事で求められる感情を表す「表層演技」を繰り返すと、精神的な疲れにつながります。
研究では、表層演技やこうした感情の食い違いは、情緒的消耗やバーンアウトなどと関連することが報告されています。

嫌な気持ちを隠して対応を続けることで消耗する

接客や電話応対では、顧客から強い口調で苦情を言われたり、納得できない要求を受けたりすることもあります。そのような時に怒りや不快感を覚えても、感情のままに反応するわけにはいきません。気持ちを抑えながら、ていねいな言葉遣いや落ち着いた話し方を保って対応する必要があります。

このような表層演技を続けるには、自分が感じている感情を抑えながら、相手に見せる表情や話し方にも気を配らなければなりません。
研究では、こうした表層演技を頻繁に行うことと、気持ちがすり減ったように感じる「情緒的消耗」との関連が報告されています。

本音と求められる感情のずれが負担になる

仕事では、自分が実際に感じていることとは別に、相手に見せる感情を求められることがあります。たとえば、気持ちが落ち込んでいても明るく接客する、顧客に強い不満を感じていても親切な態度を保つといった場合です。
このように、自分が実際に感じている感情と、仕事で表すよう求められる感情が食い違っている状態を「感情的不協和」といいます。

そして、この感情的不協和が続くと、本当の気持ちとは異なる感情を示し続けなければならず、それ自体が心理的な負担になります。
研究でも、感情的不協和が大きいほど、情緒的消耗が強くなる傾向や、仕事に対する満足度が低くなる傾向が報告されています。

仕事を終えても疲労が残ることがある

仕事中に自分の感情を抑え、相手に合わせた表情や話し方を続けていると、仕事が終わった後にも疲れが残ることがあります。特に、本当の気持ちとは異なる感情を表す「表層演技」を多く行った日は、仕事を終えた時点で疲労を感じ、休息を必要とする度合いが高くなることが研究で示されています。

こうした疲れは、職場を離れたら解消されるとは限りません。仕事中に感情を抑え続けたことで、帰宅後も気持ちを切り替えられず、十分にくつろげない場合があります。実際に、表層演技を多く行った日は、仕事後のリラックスが十分にできず、就寝時の活力が低下する傾向も報告されています。

感情を抑える負担が続くとバーンアウトにつながることがある

腹が立っていても笑顔で対応したり、疲れていても明るく受け答えしたりするなど、自分の気持ちを抑えて相手に接しなければならない場面があります。こうした対応を繰り返すと、自分の感情を抑えながら仕事を続けることが負担となり、精神的な疲れにつながることがあります。
特に、本当は怒りや不満を感じていても笑顔で対応するといった「表層演技」は、情緒的消耗やバーンアウトとの関連が研究で報告されています。

バーンアウトは、忙しい一日を終えて「疲れた」と感じるような、一時的な疲労とは異なります。WHOでは、適切に対処されないまま慢性的な職場ストレスが続いた結果として生じる状態とされており、強い疲労感のほか、仕事に対して距離を置きたくなる感覚や、仕事への否定的な気持ち、仕事上の達成感の低下などがみられます。

なお、感情労働をしている人が必ずバーンアウトになるわけではなく、負担の大きさには、感情をどのようにコントロールしているかだけでなく、業務量や仕事の裁量、上司や同僚から受けられる支援なども関係します。
参考:PubMed/On the costs and benefits of emotional labor: a meta-analysis of three decades of research
参考:Wiley Online Library/Need for recovery after emotional labor: Differential effects of daily deep and surface acting

感情労働の負担を減らすために企業ができること

接客や電話応対、医療、介護など、人と接する仕事では、相手に配慮した言葉遣いや冷静な対応が求められます。そのため、仕事の性質上、ある程度は自分の感情を抑えたり、表し方を変えたりする必要があります。

しかし、どのような相手にも常に笑顔で接することを求めたり、暴言や理不尽な要求への対応を一人に任せたりすると、従業員は怒りや不快感を抱えていても、それを表に出さずに対応を続けなければなりません。こうした状態が続けば、自分の感情を抑えながら仕事をする負担が積み重なります。

企業には、対応ルールや相談体制を整え、必要に応じて休憩や担当交代ができる仕組みを設けることが求められます。あわせて、セルフケアを学ぶ機会を設けるだけでなく、業務の進め方や人員配置など、職場側の対策も進めることが重要です。

ストレスへの対処法やセルフケアを学ぶ機会を設ける

感情労働では、腹が立っていても冷静に対応するなど、自分の感情を抑えながら仕事を続ける場面があります。こうした負担が重なる前に、自分の心身の変化に気づき、休息や相談など必要な対応を取れるようにしておくことが大切です。
企業は、疲労や緊張、不安などのストレス反応に気づく方法や、ストレスを和らげる具体的な方法を学ぶ機会を設けます。たとえば、十分な休息や睡眠を取る、適度に体を動かす、呼吸法などで緊張をほぐす、悩みを一人で抱え込まず周囲に相談するといった方法があります。研修や社内資料を通じて、こうしたセルフケアの方法と相談先をあらかじめ伝えておくとよいでしょう。

カスハラ対応を個人任せにしない

顧客から暴言を浴びせられたり、威圧的な態度を取られたりしても、従業員が一人で対応を続けなければならない職場では、大きな負担がかかります。腹が立ったり恐怖を感じたりしても、接客する立場として感情を抑え、冷静に対応し続けなければならないこともあるからです。

このような負担を従業員だけに背負わせないためには、カスタマーハラスメントが発生した場合の対応方法を、会社としてあらかじめ決めておく必要があります。たとえば、どのような言動があったら上司に引き継ぐのか、対応を打ち切る場合は誰が判断するのか、被害を受けた従業員はどこに相談できるのかなどを明確にしておきます。

また、実際にカスタマーハラスメントが発生した場合は、事実関係を確認したうえで、被害を受けた従業員への配慮や再発防止に取り組むことも必要です。従業員に「接客の仕事だから我慢するしかない」と考えさせるのではなく、会社が対応を引き継ぎ、従業員を守ることができる体制を整えることが重要です。

2026年10月1日からは、カスタマーハラスメントを防止するために必要な措置を講じることが、すべての事業主に義務付けられています。もちろん、顧客からの苦情や要望がすべてカスタマーハラスメントに当たるわけではありませんが、正当な申し入れには適切に対応しながら、社会通念上許容される範囲を超えた言動については、従業員個人ではなく組織として対応することが求められます。
参考:ストレスチェッカー/カスハラとは?企業の対策と従業員の心のケア

従業員に過度な感情表現を求めない

接客や電話応対では、ていねいな言葉遣いや落ち着いた対応が求められます。ただし、どんな場面でも笑顔で接する、常に明るい声で話すといった対応まで一律に求めると、従業員に余計な負担をかけることがあります。

そのため企業は、接客の質を「笑顔だったか」「明るく振る舞えたか」といったことだけで判断せず、相手の話をきちんと聞いたか、必要な説明を分かりやすく行ったか、落ち着いて対応できたかなど、実際の対応内容を基準にすることが大切です。
また、強い苦情や威圧的な言動を受けている場面まで笑顔や親しみのある態度を求める必要はありません。状況に応じて、笑顔ではなく冷静で事務的な対応を認めるなど、従業員が無理に感情を作らなくても業務を続けられるルールを整えることが、感情労働の負担を減らすことにつながります。

相談できる体制を整え、対応後に振り返る

顧客から強い言葉を浴びせられたり、長時間にわたって苦情への対応を続けたりすると、対応が終わった後も怒りや緊張が残ることがあります。こうした経験を従業員一人で抱え込ませないために、困ったときに相談できる体制を整えておくことが大切です。

相談先は直属の上司だけに限りません。人事担当者や産業医・保健師などの産業保健スタッフ、社内外の相談窓口など、内容に応じて相談できる相手をあらかじめ決め、従業員に知らせておきます。特に強い精神的な負担を受けた従業員については、本人の状態を確認し、必要に応じて産業保健スタッフや外部の専門機関につなぐことも必要です。

また、負担の大きかった対応があった場合は、対応した従業員だけの問題として終わらせず、上司やチームで状況を振り返ります。「どのようなやり取りがあったのか」「途中で上司に引き継げる場面はなかったか」「対応ルールや人員配置に問題はなかったか」などを確認すると、職場側で改善すべき点が見えてきます。

休憩や担当交代で負担を一人に集中させない

顧客から強い口調で苦情を受けたり、長時間にわたって難しい対応を続けたりすると、従業員は怒りや緊張を抱えながらも、感情を抑えて冷静に応対しなければなりません。

そのため企業は、負担の大きな対応が特定の従業員に集中しないよう、業務の進め方を工夫することが大切です。たとえば、強い苦情への対応が終わった後に短時間でも休憩を取れるようにする、対応が長時間に及んだ場合は上司や別の担当者に引き継ぐ、電話や窓口の担当を交代制にするといった方法が考えられます。

また、休憩や担当交代を従業員本人からの申し出だけに任せないことも重要です。強い苦情を受けた場合や対応が長時間に及んだ場合など、どのようなときに上司が交代を判断するのかをあらかじめ決めておけば、一人の従業員が無理をして対応を続ける状況を防ぐことができます。

ストレスチェックの集団分析で部署ごとの負担を把握する

感情労働の負担は、従業員から相談や申し出があって初めて分かるとは限りません。本人が声を上げていなくても、顧客対応の多い部署や特定のチームで、仕事によるストレスが高くなっている場合があります。

こうした職場単位の状況を把握する方法の一つが、ストレスチェックの「集団分析」です。ストレスチェックの結果を部署や課などの単位で集計・分析すると、仕事の負担が大きい部署や、上司・同僚からの支援が十分ではない部署など、職場ごとの傾向を確認することができます。

ただし、ストレスチェッの集団分析でストレスが高い部署が分かったとしても、その原因が顧客対応にあるとは限りませんから、感情労働の負担を確認する場合は、集団分析の結果だけで判断せず、顧客対応の件数や内容、苦情対応にかかる時間、休憩や担当交代の状況、時間外労働など、実際の働き方もあわせて確認する必要があります。

たとえば、顧客対応の多い部署で仕事の負担に関する数値が高い場合は、「一人で長時間対応するケースが多くないか」「強い苦情を受けた後に休憩を取れているか」「上司へ引き継ぐルールが機能しているか」といった点を確認します。そこで問題が分かれば、人員配置や業務量、顧客対応のルールなどを見直し、職場全体の負担を減らす対策につなげることができます。
参考:厚生労働省/カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
参考:Journal of Occupational Health Psychology/Service with a smile: do emotional intelligence, gender, and autonomy moderate the emotional labor process?

 

ストレスチェッカーとは

「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
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また、無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下である「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場でも実施義務化が進むため、早めの準備が大切です。
導入や運用については、ぜひお気軽にご相談ください。

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まとめ

感情労働とは、自分が実際に感じている気持ちを抑えたり、仕事で求められる表情や話し方に合わせたりしながら働くことです。接客やコールセンター、医療、介護など、人と接する仕事では避けることが難しい一方、こうした対応が続くと、情緒的な疲れやバーンアウトなどにつながることがあります。
負担を減らすには、カスハラへの対応を個人任せにしない、過度な笑顔や明るさを求めない、相談できる体制を整える、必要に応じて休憩や担当交代を行うなど、企業側の取り組みが必要です。
また、感情労働による負担は、本人からの申し出だけでは把握できない場合があります。ストレスチェックの集団分析を活用すれば、仕事の負担や周囲からの支援などについて、部署ごとの傾向を確認することができます。ストレスチェックだけで感情労働の負担を判断することはできませんが、顧客対応の状況や業務量、休憩の取り方などとあわせて確認することで、負担が集中している職場を見つけ、働き方を見直すきっかけになります。

ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
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