
テクノストレスとは、パソコンやスマートフォン、チャット、Web会議、業務システムなど、デジタル技術を使う中で生じるストレスです。
研究では、仕事量の増加、仕事と私生活の境界の曖昧化、技術の複雑さ、雇用への不安、技術の変化などが、テクノストレスを生む要因とされています。
この記事では、テクノストレスの意味や背景、個人や職場でできる対策について分かりやすく解説します。
目次
テクノストレスとは
テクノストレスとは、パソコンやスマートフォン、業務システムなどのICTを使う中で生じるストレスです。1980年代に米国の心理療法家クレイグ・ブロード(Craig Brod)が提唱した概念で、当初は新しいコンピューター技術への適応に伴う問題として捉えられていました。現在では、技術を使いこなせない不安だけでなく、仕事量の増加、勤務時間外まで続く連絡、複雑なシステムへの対応、頻繁な技術変更、雇用への不安などもテクノストレスを生む要因として研究されています。
テクノストレスが注目されるようになった背景
テクノストレスという言葉が使われるようになったのは、職場にコンピューターが急速に普及し始めた1980年代です。米国の心理療法家クレイグ・ブロードは1982年からテクノストレスについて論じ、1984年には『Technostress: The Human Cost of the Computer Revolution』を出版しました。当時は、新しいコンピューター技術にうまく対応できないことや、反対にコンピューターに過度にのめり込むことなどが主な問題として捉えられていました。
その後、仕事で使うデジタル技術は大きく変化しました。現在では、パソコンだけでなく、スマートフォン、クラウドサービス、ビジネスチャット、Web会議などを日常的に使う職場も珍しくなく、それに伴い、テクノストレスの研究対象も広がっています。
現在の研究では、ICTによって多くの仕事を短時間で処理することを求められる、勤務時間外にも仕事の連絡が届く、新しいシステムを繰り返し覚えなければならないといった状況も、テクノストレスを生む要因として扱われています。
つまり、テクノストレスは「パソコンの操作が苦手だから生じるストレス」だけを指すものではありません。デジタル技術を使いこなしている人でも、仕事量の増加や仕事と私生活の境界、技術の複雑さや頻繁な変更などによって、テクノストレスを抱える可能性があります。
テクノ不安症・テクノ依存症とは
日本では、テクノストレスを説明する言葉として、「テクノ不安症」と「テクノ依存症」が使われてきました。
テクノ不安症は、コンピューターなどのデジタル機器に対して不安や苦手意識を感じ、操作を避けたり、新しいシステムへの対応に大きな負担を感じたりする傾向です。
一方、テクノ依存症は、コンピューターやデジタル機器への関わりが過度になり、仕事や生活の中で機器から離れられなくなる傾向を指します。
ただし、現代のテクノストレスは、この2つだけでは説明できません。現在の研究では、仕事量の増加、勤務時間外まで続く連絡、システムの複雑さ、技術による雇用への不安、頻繁なシステム変更など、仕事で生じる負担をより細かく分けて捉えています。
現代のテクノストレスの5つの要因
現代のテクノストレス研究では、職場でICTを使うことで生じる負担を、大きく5つの要因に分けて捉えています。具体的には、「テクノ過負荷」「テクノ侵入」「テクノ複雑性」「テクノ雇用不安」「テクノ不確実性」です。
それぞれ、仕事量の増加、勤務時間外への仕事の入り込み、システムの複雑さ、雇用への不安、頻繁な技術変更といった異なる負担を表しています。
テクノ過負荷(Techno-overload)
ICTの利用によって、以前より多くの仕事を、より速いペースでこなすことを求められる状態です。たとえば、メールやチャットですぐに返信を求められたり、デジタル化によって短時間で多くの業務を処理することが当たり前になったりするケースが該当します。
テクノ侵入(Techno-invasion)
ICTによって、仕事が勤務時間外や私生活にまで入り込む状態です。スマートフォンやビジネスチャットを通じて、退勤後や休日にも仕事の連絡を確認するなど、仕事と私生活の境界が曖昧になることを指します。
テクノ複雑性(Techno-complexity)
新しいシステムやツールが複雑で、使いこなすために多くの時間や労力を必要とする状態です。通常の仕事を進めながら操作方法を調べたり、新しい機能や知識を学んだりすることが負担になります。
テクノ雇用不安(Techno-insecurity)
新しい技術の導入や、自分より高いITスキルを持つ人の存在によって、「自分の仕事がなくなるのではないか」「今の立場を維持できないのではないか」と不安を感じることです。自動化やAIの導入による仕事への不安も、この考え方に含まれます。
テクノ不確実性(Techno-uncertainty)
システムやソフトウェアが頻繁に更新され、そのたびに新しい知識や操作方法を学ばなければならない状態です。ようやく操作に慣れた頃に仕様が変わるなど、技術の変化に対応し続けることが負担になります。
参考:日本心身医学会/テクノストレス症候群的傾向の検査尺度用質問紙を用いたテクノストレスの自己管理
参考:International Archives of Occupational and Environmental Health/Definition, symptoms and risk of techno-stress: a systematic review
参考:Information Systems Research/The Consequences of Technostress for End Users in Organizations: Conceptual Development and Empirical Validation
仕事でテクノストレスが生じる主な原因
デジタル技術は、業務の効率化や情報共有に欠かせないものになっています。しかし、導入すれば必ず仕事の負担が減るわけではありません。新しいツールによって業務の進め方が変わったり、これまで以上の対応を求められたりすれば、かえって負担が増えることもあります。また、技術の変化に対して十分な研修や支援がなければ、通常の業務に加えて新しい操作や知識を身につける必要が生じます。
デジタル化によって仕事量や処理速度が増える
デジタル化によって業務を短時間で処理できるようになると、その分、より多くの仕事や素早い対応を求められることがあります。テクノストレス研究では、このようにICTの利用によって「より多く、より速く働く」ことを求められる状態を「テクノ過負荷(Techno-overload)」と呼びます。
たとえば、メールやビジネスチャットで次々に連絡が届き、複数の依頼に短時間で対応しなければならないケースです。また、システムの導入によって1件あたりの処理時間が短くなった結果、担当する件数そのものが増える場合もあります。
つまり、デジタル化によって作業が効率化されても、それ以上に仕事量や求められる対応速度が増えれば、社員の負担は軽くなりません。こうした仕事量と処理速度の増加が、テクノストレスを生む要因の一つです。
勤務時間外もメールやチャットから離れられない
スマートフォンやビジネスチャットの普及によって、勤務時間外でも仕事の連絡を確認できるようになりました。その一方で、退勤後や休日にもメールやチャットへの対応を求められると、仕事と私生活の区切りがなくなっていきます。
たとえば、退勤後も通知が気になって何度もスマートフォンを確認する、休日にも仕事のメールへ返信するといったケースです。こうした状態が続くと、勤務時間が終わっても仕事から十分に離れられず、休息の時間にも仕事を意識することになってしまいます。
テクノストレス研究では、ICTによって仕事が私生活に入り込み、常に仕事とつながった状態になることを「テクノ侵入(Techno-invasion)」と呼びます。勤務時間外の仕事目的のスマートフォン利用についてまとめた研究でも、仕事と家庭生活の衝突や、仕事から心理的に離れることとの関連が報告されています。
デジタル化によって仕事量や処理速度が増える
デジタル化で業務を効率化できても、処理する仕事の量が増えたり、より早い対応を求められたりすれば、社員の負担は軽減されません。
たとえば、メールやビジネスチャットで複数の依頼が次々に届き、短時間で返信や対応を求められるケースです。また、システムの導入によって一つひとつの作業時間が短くなった結果、これまで以上の件数を担当するようになることもあります。
テクノストレス研究では、このようにICTによって「より多くの仕事を、より速くこなすこと」を求められる状態を「テクノ過負荷(Techno-overload)」と呼びます。デジタル化による効率化が、そのまま社員の負担軽減につながるとは限らず、仕事量や求める処理速度まで増えていないかを見ることが重要です。
新しいシステムやツールへの対応を求められる
新しいシステムやツールが導入されると、社員は通常の業務を進めながら、操作方法や新しい手順も覚えなければなりません。特に、機能が多く操作が複雑なシステムでは、使い方を理解するまでに時間や労力がかかります。
たとえば、経費精算や勤怠管理のシステムが変わり、これまでと入力方法が大きく異なる場合です。マニュアルを確認したり、研修を受けたり、分からない操作を調べたりする時間が増えれば、本来の業務に加えて新しい負担が生じます。
テクノストレス研究では、このようにICTが複雑で、使いこなすために知識やスキルを身につける必要がある状態を「テクノ複雑性(Techno-complexity)」と呼びます。新しいシステムを導入する際は、操作の分かりやすさだけでなく、社員が習得にかける時間や負担も考える必要があります。
デジタル技術によって仕事を失う不安を感じる
新しいデジタル技術が導入されると、「これまで自分が担当していた仕事がなくなるのではないか」と不安を感じることがあります。業務の自動化が進んだり、より高いITスキルを持つ人が求められたりすることで、自分の役割や雇用に不安を抱くケースです。
テクノストレス研究では、このように新しい技術によって自分の仕事や立場が脅かされると感じることを「テクノ雇用不安(Techno-insecurity)」と呼びます。
近年では、AIや自動化によって担当業務が変わる場面も増えています。新しい技術を導入する際は、操作方法だけを説明するのではなく、「どの業務が変わるのか」「社員には今後どのような役割を担ってもらうのか」を伝えることも重要です。
参考:International Journal of Environmental Research and Public Health/How Are Techno-Stressors Associated with Mental Health and Work Outcomes? A Systematic Review of Occupational Exposure to Information and Communication Technologies within the Technostress Model
参考:International Journal of Environmental Research and Public Health/Overcoming the “Dark Side” of Technology—A Scoping Review on Preventing and Coping with Work-Related Technostress
テクノストレスを減らすための対策
テクノストレスを減らすには、社員個人の工夫だけでなく、職場のルールやシステムの運用方法を見直すことも重要です。たとえば、通知やメールを確認する時間を決める、勤務時間外の連絡方法を整理する、新しいシステムを導入する際に研修や相談先を用意するといった対応があります。また、導入したツールが実際に業務を効率化しているのか、かえって作業や確認の手間を増やしていないかを確認することも必要です。
メールやチャットを確認する時間を決める
メールやチャットを頻繁に確認すると、そのたびに作業が中断され、取り組んでいた仕事から別の内容へ意識を切り替えることになります。緊急性の低い連絡については、届くたびに確認するのではなく、確認する時間を決めてまとめて対応する方法がおすすめです。
たとえば、メールを確認する時間を1日の中で数回設け、資料作成など集中して取り組みたい時間帯はチャットの通知をオフにします。すぐに対応が必要な連絡については、電話など別の連絡方法を決めておけば、緊急の連絡にも対応することができます。
2015年の実験では、メールの確認を1日3回に制限したところ、好きなタイミングで何度でも確認した場合と比べて、参加者が感じる日々のストレスが低くなりました。2023年のフィールド実験でも、コミュニケーションツールの通知を止めて作業の中断を減らした結果、負担感が低下し、作業のパフォーマンスも向上しました。
勤務時間外の連絡ルールを整える
勤務時間外にもメールやビジネスチャットが届く状態が続くと、退勤後や休日でも仕事のことを意識し続けることになります。返信の必要がなくても、通知を確認したり、対応が必要か気にしたりすることで、仕事と私生活の区切りが曖昧になります。
こうした状態を避けるには、勤務時間外の連絡について、会社や部署で対応の基準を決めておく必要があります。
たとえば、緊急性のないメールやチャットは翌営業日に対応する、休日は原則として返信を求めない、緊急時は電話を使うなど、連絡する時間帯や返信が必要なケースを具体的に決めます。送信する側についても、急ぎではない連絡は翌営業日に送る、予約送信を利用するといった運用を決めておけば、勤務時間外の連絡そのものを減らすことができます。
2023年のメタ分析では、勤務時間外にメールやチャットなどで仕事に対応することが、仕事と私生活の両立に負担を与えることと関連していました。日本のIT企業で働く人を対象にした調査でも、勤務時間外に仕事のメールをする機会が多い人ほど、退勤後も仕事のことを考え続け、翌朝まで疲労が残る傾向が報告されています。
新しいシステムの研修や相談窓口を用意する
新しいシステムを導入した直後は、これまでと操作方法や業務の進め方が変わるため、社員は通常の仕事と並行して新しい使い方を覚えなければなりませんが、操作が分からないたびに自分で調べたり、周囲の人に聞いたりする状態が続けば、それだけ時間と負担が増えます。
そのため、導入前には、実際の業務で使う機能を中心に研修を行い、基本的な操作や変更点を確認できるようにします。導入後も、マニュアルやFAQを用意するだけでなく、分からないことを質問できる担当者や相談窓口を明確にしておくことが重要です。
たとえば、勤怠管理システムを入れ替える場合は、打刻、休暇申請、残業申請など、日常的に使う操作を導入前に説明します。運用開始後は、操作で迷ったときの問い合わせ先を決めておけば、社員がその都度、自分で解決方法を探す必要がありません。
テクノストレス研究でも、ICTの使い方を学ぶ機会や知識を共有する仕組み、操作上の問題を相談できる技術サポートは、職場側が整えられる支援として位置づけられています。新しいシステムを導入するときは、導入そのものだけでなく、社員が使い方を覚え、困ったときに相談できるところまで準備することが大切です。
ツールの導入時に業務量や操作負担を確認する
新しいツールを導入するときは、機能や導入コストだけでなく、社員の仕事が実際にどう変わるのかを確認する必要があります。作業の一部が効率化されても、新たな入力や確認作業が増えたり、複数のシステムを併用したりすれば、かえって仕事量が増えることもあります。
導入前には、現在の業務のうち何が減り、代わりにどのような作業が増えるのかを整理します。実際にそのツールを使う社員に試してもらい、入力にかかる時間や操作で迷う箇所、通知の多さなどを確認する方法もあります。
導入後も、予定していたとおりに業務が効率化されているかを確認します。操作に時間がかかっている、同じ情報を複数のシステムへ入力している、通知への対応が増えているといった問題があれば、設定や業務手順を見直します。
テクノストレス研究でも、新しい技術を導入する際に社員へ情報を伝え、導入の過程に参加してもらう「参加支援」が、組織側の対策の一つとして研究されています。ツールを導入する際には、実際に使う社員の負担まで確認しながら運用を調整することが重要です。
職場のストレス状況を定期的に確認する
新しいシステムやツールを導入した後は、社員の負担が増えていないかを定期的に確認します。導入によって作業が減った部分だけでなく、入力や確認の手間が増えていないか、対応する仕事の量が増えていないかなど、実際の働き方まで見ることが重要です。
職場の状況を確認する方法の一つが、ストレスチェックの集団分析です。厚生労働省の「仕事のストレス判定図」では、「仕事の量的負担」「仕事のコントロール」「上司の支援」「同僚の支援」などを職場単位で確認することができます。
ストレスチェックは、テクノストレスの有無や原因を特定するわけではありませんが、新しいシステムを導入した部署で仕事の量的負担が高まっているなど、以前と異なる結果が見られた場合は、業務量や勤務時間、システムの使い方、社員からの意見などを改めて確認するきっかけになります。
集団分析の結果を継続して確認し、実際の勤務状況や社員への聞き取りと照らし合わせることで、導入したツールが負担を増やしていないか、追加の対策が必要かを検討することができるようになります。
参考:Journal of Occupational Health/Work e-mail after hours and off-job duration and their association with psychological detachment, actigraphic sleep, and saliva cortisol
参考:International Journal of Environmental Research and Public Health/Overcoming the “Dark Side” of Technology—A Scoping Review on Preventing and Coping with Work-Related Technostress
まとめ
テクノストレスは、デジタル機器そのものが原因になるのではなく、ICTによって仕事量や対応のスピードが増えること、勤務時間外まで仕事の連絡が届くこと、新しいシステムや頻繁な仕様変更への対応を求められることなどによって生じます。デジタル技術を使いこなしている人でも、使われ方や職場の運用によって負担を感じることがあります。
こうした職場全体の負担を把握する材料の一つが、ストレスチェックの集団分析です。集団分析だけでテクノストレスの有無や原因を特定することはできませんが、仕事の量的負担、仕事のコントロール、上司や同僚からの支援などを部署ごとに確認することができます。システム導入前後の結果や勤務実態、社員の声と照らし合わせながら、職場にどのような負担が生じているのかを確認し、改善につなげていくことが大切です。
ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
導入方法や実施方法など、お気軽にお問い合わせください。

