
問題社員(モンスター社員)とは、業務命令を繰り返し無視する、勤怠上の問題を改善しない、周囲への暴言やハラスメントを続けるなど、職場運営に具体的な支障を生じさせる社員を指す俗称です。
このような問題社員を放置すると、職場環境の悪化や周囲の負担増加、ハラスメント対応上のリスクにつながる場合があります。
この記事では、問題社員に見られる行動、放置するリスク、裁判例、人事が取るべき対応まで整理して解説します。
目次
問題社員(モンスター社員)とは
問題社員(モンスター社員)とは、業務命令を繰り返し守らない、周囲への暴言やハラスメントを続ける、勤怠上の問題を改善しないなど、職場の業務や人間関係に具体的な支障を生じさせる社員を指して使われる俗称です。
なお、暴言や侮辱、仕事の妨害などは、内容によっては職場のパワーハラスメントに該当することがあります。
参考:ストレスチェッカー/モンスター社員(問題社員)|ケース別対策方法
業務命令や社内ルールを繰り返し守らない
問題社員と呼ばれるケースの一つに、業務命令や社内ルールを繰り返し守らない行動があります。たとえば、上司から業務上必要な指示を受けても従わない、決められた手続きを何度注意されても守らないといったケースです。
アボットジャパンの事案では、マネージャー職の社員について、正確な勤怠処理を行わない、上司の業務命令に従わないといった行動が問題となりました。さらに、事業部の責任者と人事部長について「地獄に落ちるまで許さない」という趣旨を英文で記載したメールを送るなど、上司や会社に対する攻撃的な言動も繰り返していました。
会社は、まず注意指導書を交付し、その後も複数の上司や上席者が長期間にわたって注意や改善指導を行いました。それでも同様の言動が続いたため、会社は配置転換を行い、さらに20日間の出勤停止処分を科しています。
しかし、問題行動は収まらず、出勤停止処分後にも、ゼネラルマネージャーや副社長に対して、侮辱的・差別的と受け取られる表現を含む攻撃的なメールを送信しました。会社は最終的に懲戒解雇を通知しています。
東京都労働委員会は、出勤停止処分の対象となった33項目の言動について「おおむね事実」と認定し、懲戒解雇時に会社が挙げた15項目についても、おおむね事実であり、上司や会社組織に対する反抗的・攻撃的な言動だったと認定しました。
この事例では、業務命令に従わないことだけが問題になったわけではありません。注意や指導を受けても改善せず、上司への攻撃的な言動を繰り返したことで、複数の管理職や人事部門が長期間にわたって指導、配置転換、懲戒処分などの対応を行うことになりました。一人の社員への対応に、会社側が継続的に多くの労力を割くことになった事例です。
参考:中央労働委員会/アボットジャパン不当労働行為審査事件
周囲への暴言や威圧的な言動を繰り返す
問題社員の中には、同僚や後輩に対して暴言を繰り返したり、威圧的な態度を取ったりする人もいます。本人は「指導しているだけ」と考えていても、言動がエスカレートすると、被害を受ける社員だけでなく、周囲の社員まで対応に巻き込まれます。
厚生労働省「あかるい職場応援団」では、作業をなかなか覚えられない後輩社員に対し、先輩社員が暴言を繰り返した事例が紹介されています。当初は作業手順を教えていましたが、次第に「お前は本当にばかだ。早く辞めろ」などと言うようになりました。
その様子を見ていた同僚は上司に相談しましたが、上司は先輩社員による指導の一環と考え、対応しませんでした。その後も暴言は連日続き、後輩社員の作業着や備品を蹴るまでに行動がエスカレートしています。
見かねた同僚が相談窓口へ通報したことで、会社が調査を開始しました。被害を受けた本人に加え、同じ職場の4~5人から聞き取りを行ったところ、暴言が1年以上続いていたことが判明しました。会社は行為者をいったん自宅待機とし、約1か月かけて事実確認と処分を検討しています。
最終的に、暴言を繰り返した先輩社員だけでなく、問題を把握しながら対応しなかった上司も懲戒処分を受け、先輩社員は別の支店へ異動となりました。
この事例では、周囲の社員が暴言を目撃し、上司への相談や相談窓口への通報まで行っています。問題社員の言動が続けば、当事者だけの問題では終わらず、同僚が仲裁や相談に動き、管理職や人事も事実確認や処分への対応を迫られます。一人の問題行動によって、職場全体が長期間対応に追われた事例といえます。
遅刻・欠勤など勤怠上の問題を繰り返す
問題社員の中には、遅刻や無断欠勤を繰り返し、上司から注意や指導を受けても勤務態度を改めない人もいます。
東京プレス工業事件では、社員が6か月間に24回の遅刻と14日間の欠勤を繰り返していました。この6か月間に勤務する予定だったのは124日で、完全に勤務した日は全体の約69%にとどまっていました。
会社は、遅刻が続いた段階で上司が繰り返し注意し、始末書を提出させる譴責処分も行っています。それでも遅刻や欠勤が続いたため、人事担当者が改めて本人を注意しました。
その後、会社が本人に働く意思があるのかを確認したところ、本人が反省の意向を示したため、会社は訓戒処分にとどめました。しかし、その後も無断欠勤や遅刻が繰り返され、最終的に会社は懲戒解雇を行いました。裁判所は、この懲戒解雇を有効と判断しています。
勤怠上の問題が繰り返されると、欠勤のたびに同僚が仕事を引き受ける、上司が勤務状況を確認する、人事が注意や面談、処分の手続きを行うなど、周囲にも継続的な対応が発生します。
この事例では、会社が何度も注意や処分を行ったにもかかわらず、遅刻と欠勤が改善されませんでした。単発の遅刻ではなく、勤怠不良を繰り返し、指導後も改善が見られない状態になると、本人だけではなく職場全体の問題になります。
参考:全国労働基準関係団体連合会/東京プレス工業事件
自分のミスを認めず、部下や同僚に責任を押しつける
問題社員の中には、自分の判断や作業に原因があるにもかかわらず、問題が起きると部下や同僚の責任だと主張する人もいます。
たとえば、自分の確認不足によって納期や社内手続きに問題が生じたにもかかわらず、「担当者から報告がなかった」「部下の説明が不十分だった」などと主張し、周囲に責任を求めるケースです。
茨城労働局は、パワーハラスメントを防ぐために注意すべき言動例として、自分のミスを部下に押しつける上司のケースを紹介しています。この例では、上司は部下から自分と異なる意見が出ると、自分の意向に沿う発言をするまで怒鳴り続けていました。さらに、自分自身にミスがあった場合にも、部下に一方的に責任を押しつけていました。
こうした言動によって部下が体調を崩し、入院することになっても、上司は自分の言動を振り返らず、「日頃の健康管理が悪い」という趣旨で本人を責めています。
人事院も、パワーハラスメントに当たる可能性のある「威圧的な行為」の例として、自分の意に沿う発言をするまで怒鳴り続けることや、自分のミスを部下に責任転嫁することを挙げています。
自分のミスを他人に押しつける行動が続けば、責任を負わされた社員が説明や修正対応を求められ、本来必要のなかった仕事まで抱えることになります。また、問題の原因を正しく検証できなければ、同じミスを防ぐための対策も進みません。責任転嫁を繰り返す社員の問題は、人間関係だけでなく、業務管理にも影響します。
参考:茨城労働局/どんな言動が、パワーハラスメント?
注意や指導を受けても問題行動を改めない
問題社員の中には、上司から具体的な注意や指導を受け、改善の機会を与えられても、同じ問題行動を繰り返す人もいます。
前原鎔断事件では、金属加工会社に勤務していた社員について、長年にわたり作業上のミスや事故が繰り返されていました。会社は、本人に必要な技能を身につけてもらうために勉強会を実施し、主任による指導も行っています。
しかし、入社から12年以上たっても、上司や作業伝票の指示を確認して従うという基本的な行動が十分に身につかず、新入社員がおおむね3か月で習得する作業も習得できていない状態でした。
さらに、裁判所が認定した事実では、懲戒処分後に2件のクレーン事故を起こし、その処分から約2か月後にも再びクレーン事故を起こしました。最後の事故では、工場全体の操業が停止する事態にまで至っています。
会社は、その間も指導や教育を続けていましたが、勤務状況は改善しませんでした。裁判所は、技量が低いことだけを理由にしたのではなく、長期間の指導を受けても基本的な指示に従わず、危険な作業を繰り返して事故を起こしていたことなどを総合して、会社による解雇を有効と判断しています。
注意や指導を繰り返しても同じ問題が続けば、上司はそのたびに指導や確認を行い、同僚も事故やミスの後処理に対応することになります。この事例のように安全に関わる業務では、一人の問題行動が職場全体の操業にまで影響する場合があります。
参考:全国労働基準関係団体連合会/前原鎔断事件
SNSに社内情報や顧客情報を投稿する
近年増えている問題社員の行動が、職場で撮影した写真や動画をSNSへ投稿し、社内情報や顧客情報を外部へ公開してしまうケースです。本人に情報を漏らす意図がなくても、写真の背景に書類やパソコン画面、ホワイトボードなどが映り込めば、第三者が業務上の情報を確認できる状態になります。
2026年4月、N銀行は、同行職員が営業店の執務室内を撮影した動画や画像をインターネット上へ投稿し、それが拡散された事案を公表しました。
銀行が確認したところ、投稿された画像には、7人の顧客の氏名が記載されたホワイトボードが映っていました。同行は対象となった顧客へ個別に謝罪と説明を行うとともに、情報管理とコンプライアンスを徹底し、再発防止に取り組むとしています。
このようなSNS投稿では、投稿した社員本人だけの問題では済みません。会社は、どの情報が外部へ出たのかを確認し、対象となった顧客への説明や謝罪、投稿の削除、社内調査、再発防止策の検討などに対応する必要があります。
また、SNSに投稿された画像や動画は、投稿者が削除しても、第三者によって保存されたり別のSNSへ転載されたりする可能性があります。職場で何気なく撮影した写真であっても、その中に顧客情報や社内資料が映っていれば、企業として対応が必要な情報漏えいにつながります。
一人の軽率な投稿によって、顧客対応や社内調査、信用回復まで会社全体が対応を迫られることがあります。
問題社員(モンスター社員)を放置するリスク
問題社員による勤怠不良、業務命令違反、責任転嫁、暴言、社内ルール違反などを放置すると、本人が担当すべき仕事を同僚が引き受ける、問題が起きるたびに上司が対応する、周囲がトラブルを避けるために発言や協力を控えるなど、職場全体へ負担が広がります。
また、問題行動を把握していながら会社が何も対応しない状態が続けば、「真面目に働いても報われない」「会社は問題を放置する」と周囲から受け取られることもあります。
職場の士気や生産性が低下する
問題社員がルールを守らない、仕事を十分に行わない、ミスを周囲の責任にするといった行動を繰り返しているのに、会社が対応しなければ、周囲の社員は不公平感を持つようになります。
たとえば、遅刻や欠勤を繰り返す社員の仕事を同じ社員が何度も引き受ける、業務命令を守らない社員の後処理を上司や同僚が行う、問題行動を起こしても本人には何の変化もないといった状況が続けば、「きちんと働いている側だけが負担を負っている」という不信感が生まれかねません。
2024年に『組織科学』へ掲載された研究では、職場における非生産的行動を目撃すること自体が、目撃者のストレス反応を高め、組織に対する公正感を低下させることが、402人を対象とした調査で確認されています。
問題社員の行動を直接受けていない社員であっても、その様子を繰り返し見ていれば、「会社はなぜ対応しないのか」「同じルールが全員に適用されていない」と感じることがあります。こうした不公平感が広がれば、会社への信頼や仕事への意欲にも影響します。
さらに、社員同士が「余計な問題に巻き込まれたくない」と考えて協力を控えたり、積極的に意見を出さなくなったりすれば、情報共有やチームワークも損なわれます。問題社員を放置することは、その社員一人の生産性だけでなく、周囲が仕事に向き合う姿勢にも影響します。
参考:組織学会/非生産的行動の悪影響は目撃者にも及ぶ
周囲の社員の休職・離職につながる
問題社員との関係が長期間続けば、周囲の社員が精神的な負担を抱えることもあります。責任を押しつけられる、何度も仕事をフォローする、威圧的な言動を受ける、同じ職場で常に相手の行動を気にしながら働くといった状態が続けば、職場そのものがストレスの原因になります。
職場における対人葛藤は、以前から職業上のストレッサーの一つとして研究されてきました。また、2024年の「非生産的行動」に関する研究でも、問題行動を直接受けた本人だけでなく、それを目撃した社員にもストレス反応が生じることが確認されています。
職場への不公平感も健康と無関係ではありません。2025年の産業医学レビューでは、組織の公正さが低いことと、精神的不調、睡眠障害、バーンアウト、疾病による休業などとの関連が、国内外の研究をもとに整理されています。
さらに、職場で孤立していると感じることと離転職意思との関係を調べた2026年の研究では、就業者397人を対象とした調査で、職場内の孤独感が離転職意思につながることが示されています。
問題社員を放置した結果、周囲の社員が「この職場では安心して働けない」「会社は問題を解決してくれない」と感じる状態が続けば、休職や退職を考える社員が出ても不思議ではありません。問題を起こしている社員をそのままにした結果、別の社員を失うことが、企業にとって大きなリスクになります。
参考:産業医学振興財団/組織の公正と従業員の健康
会社の対応次第では法的責任を問われる
問題社員の行動を放置した場合、内容によっては会社側の法的責任が問題になることがあります。
労働契約法第5条では、使用者は、労働者が生命や身体などの安全を確保しながら働けるよう必要な配慮を行うことが定められています。厚生労働省は、この「安全」には身体だけでなく心身の健康も含まれると説明しています。
たとえば、ある社員による暴言や威圧、嫌がらせなどによって別の社員の心身に負担が生じていることを会社が把握していたにもかかわらず、長期間放置した場合には、安全配慮義務や使用者としての責任が問題になることがあります。
また、職場のパワーハラスメントについては、事業主に相談体制の整備、事実関係の確認、被害者と行為者への対応、再発防止などの措置が法律上求められています。
つまり、問題社員が起こした行為そのものだけが問題になるわけではありません。会社が問題を把握していたのか、その後どのような対応を取ったのかも問われます。問題社員の言動によってほかの社員の健康や安全が脅かされている場合、会社が何もしなかったこと自体が法的な争点になることがあります。
参考:厚生労働省/労働契約法
顧客や取引先からの信用を損なう
問題社員の行動が社内だけに収まらず、顧客や取引先に及べば、会社そのものの信用にも影響します。
たとえば、顧客への暴言や不適切な対応、会社の許可を得ない情報の持ち出し、SNSへの顧客情報や社内情報の投稿などです。顧客から見れば、その行動をしたのが一人の社員であっても、対応した相手はその会社の従業員です。
個人情報保護委員会は、一定の漏えい事案について報告や本人への通知を求めていますが、従業員が顧客の個人データを不正に持ち出して第三者へ提供した場合も、個人情報保護委員会が示す漏えい等事案の具体例に含まれています。
問題社員による不適切な行動が社外へ出れば、会社は顧客への説明、謝罪、事実確認、関係機関への報告などに対応することになります。取引先から管理体制を問われたり、顧客が会社との取引に不安を感じたりすることもあります。
本人にとっては一度の軽率な行動でも、顧客や取引先からは「その会社が情報や従業員をどのように管理しているのか」という問題として見られます。問題社員を放置することで失われるのは、社内の秩序だけではなく、企業として積み重ねてきた信用でもあります。
参考:個人情報保護委員会/漏えい等の対応とお役立ち資料
問題社員(モンスター社員)を放置しないための対応
問題社員への対応では、「態度が悪い」「周囲とうまくいかない」といった印象だけで判断するのではなく、実際にどのような行動が起きているのかを確認することが出発点になります。遅刻や欠勤、業務命令違反、社内ルール違反、暴言など、問題となっている行動を具体的に整理し、本人への指導とその後の変化を確認していきます。
懲戒や解雇を検討する段階では、就業規則に定められた内容だけでなく、行為の内容や程度、それまでの指導歴、本人の改善状況なども重要になります。問題が起きたからすぐに重い処分を行うのではなく、事実確認と記録を積み重ねながら、会社として一貫した対応を取ることが求められます。
問題行動を日時・場所・内容まで具体的に記録する
まず実際に起きた出来事を記録します。「勤務態度が悪い」「協調性がない」といった評価ではなく、いつ、どこで、誰に対して、何をしたのかを具体的に残します。
たとえば、「遅刻が多い」ではなく、遅刻した日付、出勤時刻、本人から連絡があった時刻、その日に担当していた業務への影響まで記録します。業務命令に従わなかった場合も、どのような指示を、いつ、誰が出し、本人がどのように対応したのかを整理します。
メールやチャット、勤怠記録、業務日報など、後から確認できる資料がある場合には、それらも事実確認の材料になります。
記録を残しておけば、同じ問題が何度繰り返されているのか、以前の指導後に改善したのかを時系列で確認することができます。
本人と周囲の社員から事実関係を確認する
問題行動について報告や相談があった場合には、一方の説明だけで結論を出さず、本人や関係者から事実関係を確認します。
たとえば、「業務命令を拒否した」という報告があれば、指示を出した上司だけでなく、本人にも、どのような指示を受け、なぜその対応を取ったのかを確認します。その場にいた社員や、業務上関係していた社員から話を聞くこともあります。
勤務状況であれば勤怠記録、業務上のやり取りであればメールやチャット、顧客対応であれば対応記録など、客観的に確認できる資料も整備します。
問題社員への対応では、本人の性格を評価するのではなく、確認できた事実をもとに判断することが重要です。事実関係を整理しておくことで、その後の指導や人事上の判断についても、なぜその対応を取ったのかを説明することができます。
就業規則や業務上のルールに照らして指導する
事実関係を確認したら、その行動が就業規則や会社の業務ルールのどこに反しているのかを本人に伝えます。
たとえば、無断欠勤であれば勤怠や服務規律に関する規定、情報を無断で持ち出した場合には情報管理規程、正当な業務命令に従わなかった場合には服務規律や業務上の指示に関するルールを確認します。
「みんな困っている」「社会人として常識がない」といった抽象的な注意では、本人が何を改めるべきなのかが明確になりません。「○月○日の無断欠勤について、今後は就業規則に定める方法で始業時刻までに連絡する」といった形で、問題となった行動と求める改善内容を具体的に伝えます。
懲戒を行う場合には、就業規則に懲戒の種類と事由を定め、労働者に周知していることも重要です。最高裁判例でも、懲戒にはあらかじめ就業規則で懲戒事由などを定め、その内容が労働者に周知されていることが求められています。
参考:厚生労働省/モデル就業規則について
口頭注意だけで終わらせず、指導内容を記録に残す
問題行動を口頭で注意した場合にも、何を指摘し、どのような改善を求めたのかを会社側で記録しておきます。
問題行動が繰り返されるケースでは、「以前にも注意した」という記憶だけでは、いつ、何について、どこまで説明したのかが分からなくなってしまいます。そのうえ、本人から「そのような指導は受けていない」と反論された場合にも、経緯を確認できなくなってしまいます。
面談を行った場合には、実施日時、参加者、問題となった行動、本人の説明、会社から求めた改善内容などを記録します。必要に応じて指導書や注意書を交付し、会社が何を改善してほしいと伝えたのかを明確にします。
記録を積み重ねることで、本人に改善の機会を与えてきた経緯と、その後の行動がどのように変化したのかを確認できるようにしておきます。
改善状況を確認し、必要に応じて配置や業務内容を見直す
指導を行った後は、その場で終わらせず、問題となった行動が改善しているかを確認します。
たとえば、期限を守れない状態が続いていた社員には、指導後の提出状況を確認します。特定の業務でミスが繰り返されている場合には、本人の経験や技能と担当業務が合っているのかも確認します。
業務内容や職場環境との組み合わせによって問題が生じている場合には、担当業務や役割分担、配置を見直すことも選択肢になります。
配置転換については、会社が自由にどのような異動でも命じられるわけではありません。労働契約や就業規則の内容、業務上の必要性、本人に生じる不利益などが問題になります。問題社員を職場から遠ざけることだけを目的にするのではなく、担当業務と本人の能力や職場の状況を踏まえて判断します。
懲戒処分は行為の内容と程度に応じて判断する
注意や指導を行っても問題行動が続く場合や、重大な規律違反があった場合には、就業規則に基づいて懲戒処分を検討することがあります。
懲戒処分は、会社が問題社員に自由に科せるものではありません。労働契約法第15条では、労働者の行為の性質や態様などに照らして、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない懲戒は、権利の濫用として無効になると定められています。
また、懲戒の種類や対象となる行為は、あらかじめ就業規則に定めておく必要があります。厚生労働省のモデル就業規則では、懲戒処分の例として次の4種類を挙げています。
- けん責
始末書を提出させるなどして、本人に問題行動を認識させ、今後同じ行為を繰り返さないよう戒める処分です。モデル就業規則で示されている懲戒の中では、比較的軽い処分に位置づけられます。 - 減給
制裁として賃金の一部を減額する処分です。減給できる金額には労働基準法第91条の上限があり、1回の額は平均賃金1日分の半額まで、複数の減給を行う場合でも、一賃金支払期の賃金総額の10分の1までとされています。 - 出勤停止
一定期間、社員の出勤を停止し、その期間の賃金を支給しない処分です。けん責や減給よりも重い処分として定められるのが一般的です。出勤停止の日数について全国共通の上限が法律で決められているわけではなく、会社の就業規則に定めた内容と処分の相当性が問題になります。 - 懲戒解雇< 重大な規律違反などを理由として、懲戒処分として労働契約を終了させるものです。懲戒処分の中では最も重い処分です。懲戒解雇であっても、就業規則に懲戒事由が定められていることに加え、その行為に対して解雇という処分が重すぎないかが問われます。
会社によっては、このほかに戒告、降格、諭旨解雇などを就業規則に定めている場合もあります。懲戒の名称や種類はすべての会社で同じではないため、実際の処分では自社の就業規則を確認する必要があります。
また、「最初はけん責、次は減給、その次は出勤停止」というように、必ず軽い処分から一段ずつ進めなければならないわけではありません。重大な非違行為であれば、初回でも重い処分検討されることがあります。一方、比較的軽い問題行動について、十分な指導を行わないまま突然懲戒解雇するなど、行為に比べて著しく重い処分を科せば、懲戒権の濫用として無効と判断される可能性があります。
そのため、懲戒を検討する際には、問題行動の内容や回数、故意か過失か、会社や周囲への影響、それまでの指導歴、過去の同種事例に対する処分などを確認し、行為に見合った処分を判断することが必要です。
なお、懲戒解雇だからといって、必ず解雇予告なしで即日解雇できるわけではありません。30日前の解雇予告または解雇予告手当を支払わずに即時解雇するには、労働基準監督署長による解雇予告除外認定が必要です。
参考:厚生労働省/モデル就業規則について
参考:厚生労働省/労働契約法 第15条
解雇・退職勧奨はそれぞれの法的要件を確認する
指導や懲戒を重ねても重大な問題行動が改善されず、雇用を継続することが困難になった場合には、解雇や退職勧奨を検討することがあります。この2つは性質が大きく異なります。
解雇は、会社側から一方的に労働契約を終了させるものです。労働契約法第16条では、解雇について「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当」と認められることが求められています。
厚生労働省も、勤務態度に問題がある、業務命令や職務規律に違反したといった事情があっても、一度の失敗だけで直ちに解雇が認められるわけではないと説明しています。行為の内容や程度、会社に生じた損害、故意の有無など、複数の事情から判断されます。
解雇を行う場合には、原則として30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を支払うという労働基準法上の解雇予告のルールもあります。
一方、退職勧奨は、会社が本人に退職を提案し、本人が応じることで労働契約を終了する方法です。解雇とは異なり、本人に応じる義務はありません。厚生労働省も、本人の自由な意思決定を妨げる退職勧奨は、違法な権利侵害と判断される場合があると説明しています。
また、退職勧奨は「解雇する前に必ず行わなければならない手続」ではありません。退職を勧める場合には、本人が断る自由を確保したうえで話し合う必要があります。
問題社員であるという呼び方だけを理由に解雇や退職勧奨を行うのではなく、実際に起きた問題行動、それまでの指導や処分、改善状況などを整理し、それぞれの法的要件に沿って判断することが重要です。
参考:厚生労働省/労働契約の終了に関するルール
問題行動の影響を受けた社員へのフォローを行う
問題社員への対応では、本人への注意や処分だけでなく、その行動によって負担を受けている社員の状況も確認します。
たとえば、問題社員の欠勤が続き、特定の社員が長期間仕事を引き受けている場合には、その社員の業務量も増えています。責任転嫁や攻撃的な言動が続いている場合には、周囲が本人とのやり取りを避けたり、仕事上の相談を控えたりしていることもあります。
問題社員への対応が進んでも、それまで周囲に発生していた業務負担や人間関係上の緊張が自動的になくなるわけではありません。残業や仕事の偏り、体調不良、休職の兆候などがないかを確認し、必要なフォローを行います。
大切なのは、「問題社員をどう処分するか」だけではなく、その問題によって職場全体にどのような影響が出ているのかを把握することです。
ストレスチェックの集団分析で職場全体への影響を確認する
問題社員への対応では、本人の問題行動だけを見ていると、その影響が周囲にどこまで広がっているのかを把握できないことがあります。個別の聞き取りに加えて、部署や職場全体の状態を確認する方法の一つとして活用できるのが、ストレスチェックの集団分析です。
厚生労働省版ストレスチェック実施プログラムの「職場のストレス判定図」では、部署などの集団ごとに「仕事の量的負担」「仕事のコントロール」「上司の支援」「同僚の支援」を確認することができます。
たとえば、問題社員の欠勤や業務上のミスを同じ部署の社員が長期間フォローしていれば、周囲の仕事量が増えている可能性があります。また、責任転嫁や攻撃的な言動などによって社員同士が協力しなくなっている場合には、同僚からの支援など、職場内の人間関係に関する指標にも影響が表れることがあります。
もちろん、集団分析の数値だけを見て「問題社員が原因だ」と判断することはできません。同じ結果は、繁忙期による業務量の増加、人員不足、管理職のマネジメント、業務の進め方など、さまざまな要因によって生じます。
ストレスチェックの集団分析は、問題社員を特定したり、懲戒処分の根拠にしたりするためのものではありませんから、問題社員への個別対応とは切り分けたうえで、その問題によって部署全体の仕事量や人間関係、職場から受けられる支援にまで影響が広がっていないかを確認し、職場環境を見直す材料として活用します。
参考:厚生労働省「こころの耳」/ストレスチェック制度について
まとめ
遅刻や欠勤、業務命令違反、責任転嫁、社内ルール違反などを放置すると、本人だけの問題では済みません。周囲の社員に仕事の負担が偏り、職場の士気や連携が損なわれるほか、休職や離職、顧客・取引先からの信用低下につながることもあります。内容によっては、会社側の対応そのものが法的に問われる可能性もあります。
そのため、人事や管理職には、問題行動を具体的に記録し、本人や関係者から事実を確認したうえで、就業規則に沿って指導することが求められます。改善が見られない場合も、懲戒、配置転換、解雇、退職勧奨にはそれぞれ異なるルールがあるため、感情的に判断せず、行為の内容やこれまでの経緯を踏まえて進める必要があります。
同時に忘れてはいけないのが、周囲の社員への影響です。問題社員への対応に目を向けるあまり、仕事を肩代わりしている社員や、人間関係の緊張にさらされている社員の負担を見落としてはいけません。
ストレスチェックの集団分析は、こうした職場全体への影響を確認する材料の一つです。問題社員を特定するためではなく、仕事量や上司・同僚からの支援など、部署全体の状態に変化が出ていないかを確認し、必要な職場環境の見直しにつなげるために活用することができます。
問題社員への対応は、本人をどう処分するかだけで終わるものではありません。本人への適切な対応と、周囲の社員が安心して働ける環境づくりの両方を進めることが求められます。
ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
導入方法や実施方法など、お気軽にお問い合わせください。

