
ジョブ・クラフティングとは、与えられた仕事をただこなすのではなく、自分なりに業務の進め方や人との関わり方、仕事の捉え方を整えながら、働きやすさややりがいを高めていく考え方です。
働き方や価値観が多様化されるなかで、受け身ではなく主体的に仕事と向き合う姿勢として注目されています。
この記事では、ジョブ・クラフティングの基礎知識から進め方、実務での例、会社としてできる支援までを分かりやすく整理します。
監修医師:細江 隼
日本医師会認定産業医
医学博士(東京大学大学院)
総合内科専門医
糖尿病専門医、指導医
健康経営アドバイザー
株式会社中央総合産業医事務所 代表取締役
目次
ジョブ・クラフティングとは
ジョブ・クラフティングとは、与えられた仕事をそのまま受け身でこなすのではなく、自分なりに仕事との向き合い方を整えていく考え方です。
具体的には、業務の進め方や担当の幅を工夫する「タスク」、関わる相手や関係の持ち方を見直す「リレーショナル」、仕事の意味づけや捉え方を変える「コグニティブ」の3つを組み合わせながら進めていく考え方です。
タスク(業務内容)のクラフティング
タスク(業務内容)のクラフティングとは、与えられた仕事について、今の役割の中で進め方や関わる範囲を自分なりに工夫し、仕事の意味や納得感を高めていく考え方です。
たとえば、「報告書で図解を取り入れて伝わりやすくする」「新人指導を引き受けて教える力を磨く」「形だけの作業を効率化してより重要な業務に時間を回す」などです。
大切なのは、業務自体を変えることではなく、求められる役割を踏まえたうえでやり方を調整するという点です。こうした工夫を行うことで、仕事への前向きさや手応えが生まれ、単調さの軽減にもつながるとされます。
リレーショナル(人間関係)のクラフティング
リレーショナル(人間関係)のクラフティングとは、仕事の中で誰と、どのように関わるかを自分なりに整理していく考え方です。
たとえば、尊敬できる先輩や他部署のメンバーとの対話を増やしたり、反対に必要な関係性は保ちつつ、過度に負担となる関わり方を見直したりすることなどが含まれます。
また、指示を出す・受けるだけの関係から、相手の考えや悩みに目を向けた関わり方へと変えることや、新しい社内外のつながりをつくることも一つの方法です。こうした工夫によって、職場をただ働く場ではなく、信頼できる人たちと支え合う場として捉えやすくなると言われています。
コグニティブ(認知・意味づけ)のクラフティング
コグニティブ(認知・意味づけ)のクラフティングとは、仕事内容や人間関係そのものを変えるのではなく、自分の中で仕事の見方や目的を捉え直すことです。
たとえば、データ入力作業について「このデータが、会社の未来の一部を決めるかもしれない」という風に仕事の目的や価値を頭の中でアップデートしたり、地味な下準備を将来の成長につながる経験として受け止めたりすることです。
目の前の作業が誰の役に立ち、全体の中でどんな意味を持つのかを意識できるようになると、小さな仕事にも手応えを感じるようになります。
ジョブ・クラフティングが注目される理由
ジョブ・クラフティングが注目されている背景には、働き方や仕事観の多様化があります。
近年は、決められた業務をそのままこなすだけではなく、自分なりに工夫しながら主体的に働きたいと考える人が増えており、給与や肩書だけでなく「この仕事は何のためにあるのか」「自分は誰の役に立っているのか」といったやりがいや意味を見直したい人も増えています。
こうした流れの中で、仕事との向き合い方を自分で整えていく考え方として、ジョブ・クラフティングへの関心が高まっています。
受け身ではなく主体的に働きたい人が増えている
ジョブ・クラフティングが注目されている背景には、会社から与えられた仕事をそのままこなすのではなく、自分なりに工夫しながら働きたいと考える人が増えていることがあります。
働き方の多様化とリモートワーク
リモートワークでは働く場所や時間の自由度が増し、仕事の進め方や周囲との関わり方を自分でコントロールする余地(および必要性)が広がり、自分自身で仕事のやり方を工夫(クラフト)し、自律的に動ける能力が強く求められるようになっています。
キャリアの自律
終身雇用を前提にしにくくなった今は、会社に任せるのではなく、自分で市場価値を高めていく姿勢が重視されています。今の仕事を自分なりに見直し、経験や強みを積み上げていく考え方として、ジョブ・クラフティングが受け止められています。
仕事のやりがいや意味を見直したい人が増えている
近年は、単にやる気があるからだけでなく、「自分で納得感を作らないと働き続けにくい時代」になっています。
やらされ感の強い仕事では、前向きさや集中力が続きにくいものです。だからこそ、仕事に自分なりの意味や納得感を見いだすことは、働きがいやワーク・エンゲイジメントに関わる要因として注目されています 。
ジョブ・クラフティングのメリット
ジョブ・クラフティングのメリットは、仕事をただ与えられたものとして受け取るのではなく、自分なりに意味づけしながら向き合えるようになる点です。
その結果、仕事への前向きさやモチベーションが高まり、ワーク・エンゲイジメントの向上にもつながり、日々の業務に納得感が生まれます。こうした変化は個人だけでなく、職場全体の活気や協力関係にもよい影響を与えることが期待されます。
モチベーションやワーク・エンゲイジメントの向上
ジョブ・クラフティングの大きなメリットは、仕事を「やらされるもの」ではなく、「自分なりに工夫できるもの」として捉えられるようになることです。
自分でコントロールできている感覚は、過度な負担感をやわらげます。業務の進め方や関わり方を調整することで、自己決定感が高まり、モチベーションやワーク・エンゲイジメントの向上が期待できます。
また、さらに、自分の強みや得意なやり方を仕事に取り入れやすくなるため、成果や生産性との関連が示されている研究もあります。
組織全体の活性化につながる
ジョブ・クラフティングは、個人の働き方を前向きに変えるだけでなく、組織全体にもよい影響を広げます。
社員一人ひとりが仕事を自分事として捉え、やり方を工夫するようになれば、「言われたことをこなすだけ」の空気から、「もっとこうしたほうがよいのでは」と提案が生まれる職場へ変わっていくことが期待できます。
さらに、それぞれが自分の強みを仕事に活かすことで、画一的な動き方では出せないチーム全体の力も引き出されます。
ジョブ・クラフティングの手順
ジョブ・クラフティングは、まず今の仕事を棚卸しし、自分が負担に感じていること、逆に力を発揮しやすいことを整理するところから始まります。そのうえで、変えられることと変えにくいことを分け、何のために見直すのかを明確にします。
次に、小さな工夫から試し、結果を振り返りながら調整していきます。
現状の棚卸し
ジョブ・クラフティングでは、「どこを、どう、どれくらい変えられるか」という判断基準を持つために、まず現状の棚卸しを行います。
仕事には、進め方やコミュニケーションの取り方のように自分の工夫で動かせることもあれば、締め切りや組織のルールのように変えられないこともあります。まずはその違いを整理することで、無理なく手をつけられる部分が見えてきます。
いわば、「今の仕事という素材」をテーブルに広げて、どう料理し直すかを考えるための準備が棚卸しです。
変えられること・変えにくいことを分ける
現状の棚卸しをしたあとは、自分の力で動かせることと、すぐには動かせないことを分けて考えます。
変えにくいことを見極める
仕事には、会社のルールや締め切り、他人の性格や行動のように、すぐには変えにくいこともあります。ただし、そうした条件そのものは動かせなくても、その中での進め方や相手との距離の取り方を見直すことはできます。
まずは自分の領域から始める
最初から大きく変えようとせず、自分だけで完結できる範囲から試していきます。他人の許可や組織の承認が必要なことから始めると、調整だけで疲れてしまいます。まずは自分で調整しやすい範囲から、小さく試してみることはできます 。
目的の再定義
仕分けが終わったら、いよいよ「目的の再定義(認知のクラフティング)」に移ります。これは、バラバラになった業務の断片を、「自分にとって納得感のある一つのストーリー」に編み直す作業です。
誰のため、何のためかを考える
現状の棚卸しをして、変えられることと変えにくいことを分けたら、次は仕事の目的を捉え直します。目の前の作業が、最終的に誰を支え、何につながっているのかを考えることで、業務の見え方が変わってきます。
自分の強みや価値観と結びつける
その仕事が、自分のどんな強みを活かせる場なのかを整理します。たとえば正確さ、気配り、調整力など、今の業務を自分の力を磨く機会として捉え直す視点を持ちます。
将来の自分への投資と捉える
今の経験が、これから目指したい姿にどうつながるかを考えます。目的がはっきりすると、途中で迷いにくくなり、仕事の進め方や人との関わり方を工夫する意味も見えやすくなります。
小さく試して振り返る
最後の手順である「小さな実践とふりかえり」は、頭で考えた「理想の働き方」を、実際の行動に移して、自分に合っているか微調整するプロセスです。
小さく試す
ジョブ・クラフティングは、頭の中で理想の働き方を考えて終わりではなく、実際に小さく行動してみることが大切です。いきなり大きく変えるのではなく、報告書の見せ方を少し変える、あいさつにひと言添える、短い時間だけ仕事の意味づけを変えてみるなど、負担の少ない一歩から試すのが基本です。
振り返る
実践したあとは、その工夫が自分に合っていたかを振り返ります。少し気持ちが軽くなったか、仕事の進み方が変わったか、相手との関係に変化があったかを見ていくことで、続けるべき工夫と見直したい工夫が見えてきます。
合う形を探す
ジョブ・クラフティングには、誰にでも当てはまる正解があるわけではありません。小さく試して、振り返って、また調整する。その繰り返しの中で、自分にとって無理のない仕事の進め方や、納得感のある関わり方を見つけていくことが大切です。
実践するときの注意点
ジョブ・クラフティングを実践するときは、自分だけが働きやすくなる方向に偏らないことが大切です。業務の進め方を工夫しても、その結果として周囲に負担が寄ったり、チーム全体の流れを乱したりしては本末転倒です。とくに役割分担や進め方に影響する内容は、上司や同僚と共有しながら進める必要があります。自分の納得感と、職場全体のバランスの両方を意識することが欠かせません。
独りよがりにならない
ジョブ・クラフティングを実践するときは、独りよがりにならないことが大切です。仕事のやり方を工夫しても、求められている成果や品質、納期を損なっては意味がありません。会社やチームの目的とずれていないかを意識しながら進める必要があります。
また、主体的に動こうとして仕事を抱え込み過ぎると、かえって負担が増えてしまいます。自分の余力を見ながら、増やすことだけでなく減らすことも含めて調整する視点が欠かせません。
周囲へのしわ寄せを防ぐ
自分にとってやりやすい形を追い求めるあまり、周囲に負担を与えてしまわないよう注意することが大切です。苦手な仕事を勝手に減らしたり、進め方を変えたりした結果、他の人の業務が増えてしまうと職場全体のバランスが崩れます。
人との関わり方を見直すときは、自分だけでなく相手にもプラスがあるかを考え、きちんと話し合いながら進める視点が欠かせません。
上司やチームとの共有が必要な場面もある
ジョブ・クラフティングは自分で工夫する考え方ですが、その内容が自分の中だけで完結しない場合は、上司やチームと 共有することも重要です。むしろ、きちんと相談しながら進めることで、主体的な姿勢として受け取られたり、職場全体の改善につながったりすることもあります。
業務のやり方を大きく変えるとき
前後の工程に影響する可能性があるため、「試しにこの方法で進めたい」と相談の形で伝えることが大切です。
役割分担を見直したいとき
自分の得意を活かしたい場合も、1on1などで前向きな意図として共有すると話が進みやすくなります。
周囲の協力や許可が必要なとき
新しい取り組みは、個人の希望だけでなく、チームにどんなプラスがあるかまで示すことが大切です。
不調が強いときは一人で抱え込まない
なお、強い不眠、気分の落ち込み、出勤困難などの不調が続く場合は、ジョブ・クラフティングだけで抱え込まず、産業医・主治医などに相談することが重要です。ジョブ・クラフティングは仕事との向き合い方を見直す一つの方法ですが、心身の不調が強いときは、休養や専門的な支援が優先されることもあります 。
ジョブ・クラフティングの実践例
ジョブ・クラフティングは、考え方を知るだけでなく、実際の仕事にどう落とし込むかを知ることで理解が深まります。営業職、エンジニア、事務職、管理職では、抱える課題や工夫できるポイントがそれぞれ異なるため、実践の形も変わってきます。
営業職の場合
営業職におけるジョブ・クラフティングは、数字(ノルマ)という制約がある中で、「プロセス」や「顧客との向き合い方」を自分流にカスタマイズするのが成功の鍵です。
タスクのクラフティング
営業職では、売上目標そのものを変えることはできなくても、そこに至るまでの進め方は工夫できます。たとえば、資料作成が得意な人なら、競合比較や提案資料をていねいに作り込み、説明の分かりやすさで信頼を積み重ねることができます。
定型メールや見積書づくりを整理して時間を作り、顧客の業界研究や提案準備に力を回すのも一つの方法です。自分がうまくいった商談の進め方をチーム内で共有するなど、役割を少しずつ広げる工夫も考えられます。
人間関係のクラフティング
営業は顧客との関係だけでなく、社内との連携でも成果が変わります。決裁者だけを見るのではなく、現場で困っている担当者の話をていねいに聞くことで、単なる売り手ではなく相談相手として関わる形が生まれます。
また、開発部門やカスタマーサクセス部門と普段から情報交換しておくと、提案の幅が広がり、顧客に返せる内容も深くなります。関係の持ち方を少し変えるだけでも、仕事の手応えは変わってきます。
認知のクラフティング
「商品を売る仕事」と考えるだけでなく、「顧客の課題を整理し、よりよい選択につなげる仕事」と捉え直すと、数字だけに追われる感覚が少しやわらぎます。苦手な新規開拓も、断られる作業ではなく短時間で相手の関心をつかむ練習と考えると、取り組み方が変わることがあります。
エンジニアの場合
エンジニアにおけるジョブ・クラフティングは、「技術への好奇心」と「開発の目的」をいかに結びつけるかがポイントです。仕様通りに作るだけの「作業者」から、技術で価値を生む「クリエイター」へと自分を再定義していきます。
タスクのクラフティング
エンジニアの場合、ジョブ・クラフティングでは、日々の開発業務の中に自分の技術的な関心をうまく組み込んでいくことが大切です。たとえば、手作業で行っているデプロイやテストを自動化したり、バグ修正の流れでコードの整理や保守性の向上まで意識したりすることで、業務の効率化とスキルアップを同時に進められます。興味のある技術について社内で勉強会やLTを開き、自分なりの専門性を育てていくのも一つの方法です。
人間関係のクラフティング
エンジニアの仕事はコードを書く作業などに目が向きがちですが、その先には必ず人がいます。営業や企画の担当者に自分から話を聞きに行き、「この機能が誰の役に立っているのか」を知ることで、業務への納得感が変わってきます。さらにペアプログラミングやコードレビューの機会を前向きに活かして、学びの多い関係をつくることもできます。
認知のクラフティング
仕事を仕様書どおりに実装する作業と考えるだけでなく、技術を通して利用者の不便を減らす仕事と捉え直すと、日々の業務の見え方が変わります。
保守案件や地道な改修も、将来に役立つケーススタディとして受け止めることで、単調さがやわらぎます。自分の書いたコードが誰かの生活や仕事を支えていると意識できると、手応えも生まれてきます。
事務職の場合
事務職におけるジョブ・クラフティングは、一見ルーチン化された業務の中で「自分の介在価値(自分だからできること)」を見出し、仕事の主導権を握ることがポイントです。
タスクのクラフティング
事務職のジョブ・クラフティングでは、決められた作業を正確にこなすだけでなく、その中に自分なりの工夫を加えていくことが大切です。たとえば、Excelの関数やマクロ、生成AIなどを使って集計作業を効率化したり、依頼された資料に比較グラフや要点メモを添えたりすることで、仕事の質を一段上げることができます。また、属人的になっている業務をマニュアル化して、誰でも対応できる状態に整えるのも大きな貢献となるはずです。
人間関係のクラフティング
事務職は、書類やデータを扱う仕事に見えて、実際には多くの人の業務を支える立場でもあります。だからこそ、提出した資料について「この形で使いにくくないですか」と相手に確認してみたり、部署の間に立って調整役を引き受けたりすることで、仕事の意味合いが変わってきます。事務的な連絡の中でも、ひと言感謝を添えるだけで、職場の空気がやわらぐこともあります。
認知のクラフティング
書類を整理するだけの仕事と考えるのではなく、現場の人が安心して動けるように土台を整える役割と捉え直すと、日々の業務への納得感が変わります。小さなミスを防ぐことも、会社をトラブルやリスクから守る行動として考えれば、仕事の重みが見えてきます。単調に見える作業も、集中力や正確さを磨く機会として受け止めることで、業務に前向きに向き合うことが期待できます。
管理職の場合
管理職におけるジョブ・クラフティングは、「自分の働き方」だけでなく「チーム全体の環境」をデザインするという意味で、非常に影響力の大きいです。「板挟みの調整役」から「チームの可能性を最大化する演出家」へと役割を再定義するのがポイントです。
タスクのクラフティング
管理職の場合、ジョブ・クラフティングは自分の仕事を楽にする工夫というより、チーム全体が動きやすくなる形へ整えていく視点が大切です。
たとえば、細かく指示を出し続けるやり方から、1on1や対話を通じて部下の考えを引き出す関わり方へ比重を移すのもひとつの方法です。
また、自分が抱え込んでいた実務の一部を、成長の機会として部下に任せ、自分は中長期の方針整理や他部署との調整に力を向ける方法もあります。判断基準を見える形にして、現場である程度決められる仕組みを整えることも、管理職ならではの工夫です。
人間関係のクラフティング
管理職は、部下との関係を単なる評価者と被評価者にとどめず、支援する立場として再構築することができます。部下がやりたいことや伸ばしたい力をくみ取り、それを社内で通しやすくする後押し役に回ることで、関係の質は変わってきます。さらに、自部署の中だけで完結せず、他部署の管理職や若手ともつながりを持つことで、チームの外にも相談先や協力先を増やせます。
認知のクラフティング
管理職にとって特に大切なのは、自分の役割の捉え方を見直すことです。会社の方針を伝えて管理する人と考えるだけでなく、部下一人ひとりが力を発揮できる土台を整える人と捉え直すと、日々の言動も変わってきます。
部下のミスやトラブルも、ただの後始末ではなく、チームの弱い部分を知る材料として受け止めることで次の改善につなげやすくなります。今の目標達成だけでなく、この職場で育った人が将来どう成長していくかまで視野に入ると、管理職の仕事により深い納得感が生まれます。
会社ができる支援
ジョブ・クラフティングは、個人の工夫だけに任せるのではなく会社側が支える視点も欠かせません。働く人が自分なりに仕事を整えようとしても、裁量がまったくなく、相談できる相手もおらず、失敗を許さない空気がある職場では続きません。
一定の裁量権を持ち上司や周囲からのフィードバックや支援があること、挑戦を後押しする心理的安全性があることが、実践を支える土台になります。
裁量権の付与
裁量権の付与は、従業員が自分で仕事を工夫(クラフティング)するための「余白」を作る、最も基本的で重要な支援です。会社が「やり方」をガチガチに固めてしまうと、工夫の余地がなくなってしまうからです。
工夫できる余白を与える
ジョブ・クラフティングを進めるうえで、まず大切なのは従業員が自分なりに仕事を工夫できる余白を持つことです。会社がやり方を細かく決めすぎてしまうと、工夫の入り込む余地がなくなってしまいます。だからこそ、一定の裁量権を認めることが、会社による基本的な支援になります。
研修や対話の機会づくり
ジョブ・クラフティングは、ただ自由にやってよいという話ではなく、仕事の目的や周囲との関係を踏まえて進めることが大切です。研修で考え方を共有したり、1on1で上司が意図を聞いたりすることで、独りよがりを防ぎながら後押しできます。
フィードバックと社会的支援
ジョブ・クラフティングが独りよがりな修正にならず、組織にとっても個人にとってもプラスの効果を生み出すために、「フィードバック」と「社会的支援」は非常に重要です。
フィードバックによる支援
ジョブ・クラフティングを会社として支えるうえで大切なのは、「自由にやっていい」と任せきりにしないことです。社員が仕事の進め方を工夫したときに、「効率が上がった」「顧客の反応がよかった」など、結果をきちんと言葉で返すことで、本人は手応えを持ちます。反対に、工夫の方向が組織の目的からずれそうなときは、否定ではなく対話を通じて軌道修正することが大切です。
社会的支援の土台づくり
上司が1on1などで本人の考えをていねいに聞いたり、業務の棚卸しを一緒に手伝ったり、必要な情報を共有したりすることで、本人が工夫しやすい環境を整えることができます。AIツールや書籍、学ぶ機会への後押しも、実践を前に進める支えになります。
同僚との共有も後押しになる
周囲とのつながりも大きな支援になります。たとえば、同僚同士で「こんな工夫をしてみた」と共有できる場があると、自分だけが試しているわけではないと感じられます。小さな工夫が職場の中で言葉になることで、仕事を前向きに整えていく空気も生まれてきます。
挑戦的な機会と心理的安全性
挑戦的な機会と心理的安全性を与えることも大切です。
なぜなら、この2つが揃って初めて「人が最も成長し、成果が出る『学習ゾーン』」に入れるからです。
人は安心して意見を出せる土台があってはじめて、新しいやり方や少し難しい仕事にも前向きに取り組めるからです。もし挑戦だけがあり、失敗を許さない空気が強いと、萎縮して守りに入りやすくなり、工夫や提案も生まれにくくなります。
逆に、安心感だけがあって刺激や目標が乏しい環境では、成長のきっかけが少なくなり仕事への手応えも薄れがちです。だからこそ、会社は安心して試せる空気をつくりつつ、少し背伸びできる役割や機会も用意することが大切です。
心理的安全性の確保
ジョブ・クラフティングを会社として後押しするうえで欠かせないのが、まず心理的安全性のある職場づくりです。
社員が仕事の進め方を少し変えてみたり、新しい工夫を試したりしたときに、すぐ否定されたり失敗だけを責められたりする環境では、主体的な工夫は育ちません。うまくいかなかった点があっても、まずは試したこと自体を受け止め、何がよかったか、次にどう改善できるかを一緒に考える姿勢が大切です。そうした空気があることで、社員は「自分で考えて動いてもいい」と感じやすくなります。
ストレスチェックの活用
心理的安全性の確保を行うためには、ストレスチェックも有用です。
※ストレスチェックとは、「働く人が自分のストレス状態に気づき、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐこと(一次予防)」を主な目的とした検査制度です。2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、50人未満の全事業場でも実施が義務化されることが決定しています。
やらされ感」が減り、心理的負担が軽くなる
JD-Rモデルでは、仕事の負担は消耗や不調につながりやすく、一方で裁量、上司や同僚の支援、仕事の意義といった「仕事の資源」は、ワーク・エンゲイジメントを高めるだけでなく、仕事の負担が燃え尽きに及ぼす悪影響を弱める方向に働くと整理されています。厚生労働省の資料でも、仕事の要求度と仕事の資源の組み合わせが、ワーク・エンゲイジメントや健康に関わるモデルとして示されています。
ストレスチェックで仕事上の負担が高い傾向が見られた場合、業務の進め方や支援の受け方を見直すことは有用です。ジョブ・クラフティングは、その一つの視点になり得ます。
参考:厚生労働省/仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)とワーク・エンゲイジメントについて
集団分析で職場改善できる
ストレスチェックの集団分析は職場環境改善において重要な「客観的なエビデンス(証拠)」になります。
集団分析で、業務量の偏り、人間関係の負担、上司の支援不足などが見えてくると、どこでジョブ・クラフティングを進めると効果的か考えることができます。たとえば対人ストレスが高い部署なら、関わり方の見直しや対話の増加に重点を置く、といった進め方ができます。
ストレスチェッカーとは
「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しているのはもちろん、2025年5月からは無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。
ストレスチェックを活用することで自分の状態を客観的に把握でき、早めのセルフケアにつなげやすくなります。導入方法など、お気軽にご相談ください。
監修:医学博士・日本医師会認定産業医/細江 隼
【監修医師】細江 隼
日本医師会認定産業医
医学博士(東京大学大学院)
総合内科専門医
糖尿病専門医、指導医
健康経営アドバイザー
株式会社中央総合産業医事務所 代表取締役
都内の基幹病院・大学病院内科で専門医・指導医として診療に従事してきた経験から予防医学の重要性を実感し、現在は多様な業種の企業で産業医として活動。衛生委員会参加や職場巡視、健診の事後措置、長時間労働面談、ストレスチェック、休職・復職面談など幅広い産業保健業務を担当しています。メンタルヘルス対策やフィジカル面の健康管理、健康経営の推進を通じ、働く人と組織双方の支援を行っています。
まとめ
ストレスチェックは、従業員のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした制度です。現在は従業員50人以上の事業場で義務化されていますが、今後は50人未満の企業にも対象が拡大される予定です。
ジョブ・クラフティングは、仕事の進め方や関わり方を自分なりに整え、裁量や支援、やりがいといった「仕事の資源」を増やす考え方です。ストレスチェックで現在地を把握しつつ活用すれば、負担の偏りに早めに気づいて微調整しやすくなり、メンタルヘルス不調の一次予防にも役立つことが期待されます 。
ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
導入方法や実施方法など、お気軽にお問合せください。

