
ハラスメントハラスメントとは、上司から業務上必要な注意や指導を受けた際に、それをすぐ「パワハラだ」「不当な扱いだ」と主張する行為などを指す俗称です。たとえば、ミスの修正を求められた、期限を守るよう注意された、担当業務の進め方を見直すよう指示されたといった場面でも、ハラスメントだと反発するケースがあります。
こうした状態が続くと、管理職が必要な注意や指導をためらい、問題行動をそのままにしてしまうことがあります。
ただし、部下の訴えを最初から「大げさだ」と決めつけるのも危険です。重要なのは、指導の内容や言い方、頻度、場所などを確認し、正当な業務指導だったのか、それともハラスメントに当たる言動が含まれていたのかを事実に基づいて判断することです。
目次
ハラスメントハラスメントとは
ハラスメントハラスメントとは、業務上必要な指示や注意、指導などに対して、過剰に「パワハラだ」「不当な扱いだ」と主張する行為を指す言葉で、「ハラハラ」とも呼ばれます。近年は、マルハラ、フキハラ、菓子ハラなど、日常のささいな言動まで「○○ハラスメント」と呼ぶ言葉が次々と登場し、メディアやSNSでも話題になってきました。そうした流れの中で、今度は「ハラスメントだ」と過剰に訴える行為そのものを指す「ハラスメントハラスメント」という言葉まで使われるようになったことで、注目されています。
なお、ハラスメントハラスメントは、パワハラやセクハラのように法令や厚生労働省の指針で定義された概念ではありません。一般には、正当な業務指示や注意、指導に対してまで「ハラスメントだ」と過剰に主張する行為を指す言葉として使われています。
参考:厚生労働省/職場におけるハラスメントの防止のために
正当な指導まで「パワハラ」と訴える
ハラスメントハラスメントで典型的なのが、業務上必要な注意や指導まで「パワハラだ」と訴え、指導そのものを拒もうとするケースです。厚生労働省の指針では、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指示や指導は、パワハラには当たりません。
たとえば、ある会社で、提出期限を何度も守らない社員に対し、上司が「今後は前日までに進捗を報告してください」と指示したところ、ある社員が「自分だけ細かく管理されるのはパワハラだ」と反発しました。しかし、この社員は期限遅れが続いており、進捗確認に業務上の必要性がありました。しかも、上司の言い方にも問題はなく、通適正な業務指導の範囲と考えられるものでした。
それなのに、こうした場面で毎回「パワハラ」と訴えられると、上司は必要な注意や指導まで控えるようになります。
このように、ハラスメントという言葉が、本人の行動を改善するための話し合いを止めるために使われてしまう点が、ハラスメントハラスメントの問題です。
参考:厚生労働省「あかるい職場応援団」/よくある質問「これって、パワハラ?」
業務上必要な指示を「不当な扱い」と主張する
自分にとって不都合な業務指示を受けたことを理由に、「不当な扱いを受けた」「嫌がらせだ」と主張するのも、ハラスメントハラスメントの一例です。
仕事では、担当業務の変更や追加、期限の設定、作業手順の変更など、本人の希望とは異なる指示が出ることがあります。
しかし、ある会社で、繁忙期に業務量が増えたため、管理職がチーム内の担当を見直し、ある社員にも新たな業務を割り振りました。すると、その社員が「自分だけ仕事を増やされた。不当な扱いだ」と訴えました。しかし、実際にはチーム全体で業務の再配分が行われており、その社員だけが特別に不利益を受けていたわけではありませんでした。
このように、業務上の必要性があり、他の社員とのバランスも考慮された指示であっても、自分の希望に合わないという理由だけで「ハラスメントだ」と主張されることがあります。こうした主張が繰り返されると、通常の業務分担や指示まで問題視され、管理職が必要な判断を下せなくってしまう可能性があります。
ハラスメントを理由に特別な配慮を求める
なかには、「ハラスメントを受けた」と主張し、そのことを理由に自分だけ特別な扱いを求めるケースもあります。
たとえば、ある会社で、上司とのやり取りを「威圧的でつらい」と訴えた社員が、「今後はその上司から直接指示を受けたくない」「業務連絡はすべて別の社員を通してほしい」と求めました。しかし、会社が事実関係を確認したところ、上司の言動は通常の業務指示の範囲で、ハラスメントと判断できる事実はありませんでした。
このように、ハラスメントの申告を、特別な扱いを求めるための材料として使うことも、ハラスメントハラスメントの一つです。会社が事実関係を確認することは必要ですが、ハラスメントと認められなかったにもかかわらず、本人の希望だけを理由に業務上のルールや指揮命令の流れまで変更すれば、周囲の社員にも追加の負担がかかります。
これってハラハラ?判断するときのポイント
部下から「ハラスメントを受けた」と訴えがあった場合は、まず、問題となった上司の言動が本当にハラスメントに当たるのかを確認します。部下が不快に感じたというだけでハラスメントになるわけではなく、反対に、上司が「業務上必要な指導だった」と考えているだけで問題がないとも限りません。
とくに職場で問題になりやすいパワハラについて、厚生労働省は「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」「就業環境が害される」の3つをすべて満たすものとしています。
ハラスメントハラスメントかどうかを考えるときも、まずは指導の目的や内容、言葉、場所、頻度、当時の状況などを確認し、元の言動がハラスメントに当たるかどうかを事実に基づいて判断することが出発点です。
業務上必要かつ相当な範囲を超えていないか
パワハラかどうかを判断するときの大きな基準が、「業務上必要かつ相当な範囲を超えているか」です。
厚生労働省は、客観的に見て必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラには当たらないとしています。
たとえば、仕事のミスについて原因を確認し、「次回からは提出前にこの項目を確認してください」と改善を求めることは、通常の業務指導です。
一方、ミスをした社員に「こんなこともできないのか」「仕事を辞めたらどうだ」と人格まで否定したり、業務上明らかに達成できない仕事を罰として与えたりする行為はNGです。厚生労働省も、人格を否定する言動や、遂行不可能な仕事の強制などをパワハラに該当し得る例として挙げています。
したがって、部下が「パワハラだ」と訴えたときは、主張の強さではなく、実際の指導が業務上必要な範囲だったのかを確認することが大切です。
言い方や頻度、場所などに問題はなかったか
指導する内容が正しくても、伝え方によってはパワハラになる場合があります。厚生労働省の指針では、パワハラの判断にあたり、言動の目的だけでなく、態様、頻度、継続性、当時の状況などを総合的に考慮するとしています。
たとえば、遅刻を繰り返す社員を会議室に呼び、「これまで何度か注意しています。今後は始業時間を守ってください」と伝えることは、内容や態様が適切であれば通常の指導です。
一方、同じ遅刻について、毎日のように大声で叱責したり、他の社員がいる前で「社会人失格だ」などと繰り返し非難したりするのは問題です。厚生労働省も、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責や、他の労働者の前で繰り返す大声の威圧的な叱責を、パワハラに該当し得る例として挙げています。
「注意する必要があった」という事実だけでは十分ではありません。何を、どのような言葉で、どこで、何回伝えたのかまで確認して判断する必要があります。
「ハラスメントではない」と最初から決めつけていないか
ハラスメントハラスメントを判断するときに注意したいのが、相談者の訴えを最初から「大げさだ」「ハラハラだ」と決めつけないことです。
正当な指導のつもりでも、言い方や頻度、場所などによっては、実際にハラスメントに当たる場合があるからです。
たとえば、ある社員が「上司から繰り返し怒鳴られている」と相談したとします。上司は「仕事上の注意をしただけ」と説明していても、周囲への聞き取りや記録を確認した結果、他の社員の前で何度も大声で叱責していたことが分かれば、単なる業務指導として片づけることはできません。
反対に、事実関係を確認した結果、上司の言動が通常の業務指導の範囲だったと分かれば、そこで初めてハラスメントハラスメントに当たる可能性を検討することができます。
つまり、順番が重要です。最初に「ハラハラだ」と判断するのではなく、まず元の言動がハラスメントだったのかを確認し、そのうえで相談者の主張が妥当だったのかを判断します。
参考:厚生労働省/職場におけるハラスメントの防止のために
ハラスメントハラスメントが職場にもたらす問題
ハラスメントハラスメントが職場で繰り返されると、「注意すればパワハラと言われるかもしれない」「余計なことは言わないほうがいい」という意識が広がり、必要な指導や日常の会話まで減っていきます。
一方で、本当にハラスメントを受けた人の相談まで「また大げさに言っているだけでは」と受け取られるようになれば、会社のハラスメント対策そのものが機能しなくなります。
上司が必要な指導や注意をためらう
ハラスメントハラスメントが繰り返されると、上司が「またパワハラと言われるのではないか」と考え、本来必要な指導まで控える可能性があります。
パーソル総合研究所が上司635人を対象に行った調査では、81.7%が「部下が不注意なミスをしてもあまり厳しく叱咤しない」、60.3%が「必要以上にコミュニケーションをとらない」側に回答しています。この調査はハラスメントハラスメントだけを調べたものではありませんが、ハラスメントを避けようとするあまり、部下への関与そのものを減らす「回避型マネジメント」が広がっていることを示しています。
もちろん、強く叱ればよいという話ではありません。ミスの原因を確認し、改善方法を伝えることまで避けてしまえば、管理職として必要な指導まで失われてしまいます。
部下とのコミュニケーションが希薄になる
「どの言葉がハラスメントと受け取られるか分からない」と警戒するあまり、上司が部下との会話そのものを減らしてしまうことも問題です。業務に必要な連絡しかせず、部下の仕事の状況や困っていることについて話さなくなると、上司が部下の状況を把握できなくなります。
パーソル総合研究所の調査では、上司の60.3%が「必要以上にコミュニケーションをとらない」側に回答しています。これはハラハラの発生率を示す数字ではありませんが、ハラスメントへの過度な警戒が、上司と部下の距離を広げる可能性を考えるうえでは参考になります。
問題のある行動を注意できなくなる
遅刻を繰り返す、社内ルールを守らない、顧客対応で同じ問題を起こすなど、職場では本人に改善を求めなければならない場面があるものです。しかし、こうした注意まで「ハラスメントと言われるから」と避けてしまえば、改善すべき問題がそのまま放置されてしまいます。
さらに、ハラスメントを恐れて必要な指導まで控えれば、本人の問題行動が改善されないだけでなく、そのフォローを周囲の社員が引き受けることになりかねません。結果として、ルールを守っている社員ほど負担が増えるという不公平も生まれます。
本当に必要なハラスメント相談まで軽視される
根拠の乏しいハラスメントの訴えが繰り返されると、相談を受ける側に「今回も同じではないか」という先入観が生まれ、内容を十分に確認する前から「またハラハラではないか」と見てしまうリスクがあります。
実際、ハラスメントに関する相談の中には、最初の説明だけでは本当にハラスメントかどうか判断できないケースも多いものです。言い方や頻度、周囲の状況、過去のやり取りまで確認して初めて見えてくる問題もあります。ところが、過去のハラハラ対応に引きずられて相談者の訴えを軽く扱えば、こうした確認そのものが不十分になってしまうことがあります。
厚生労働省の指針でも、ハラスメントの相談があった場合には、相談者と行為者の双方から話を聞くなど、事実関係を迅速かつ正確に確認することが求められています。これはハラスメントハラスメントに限った話ではありません。過去の相談内容や相談者への印象に引きずられず、新たな相談はその都度、事実関係を確認して判断する必要があります。
参考:厚生労働省/事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
参考:パーソル総合研究所/ハラスメントの「回避」が部下の成長を妨げる
ハラスメントハラスメントへの対応
ハラスメントハラスメントへの対応で重要なのは、「ハラスメントではない」と反論することではありません。
まず、本当にハラスメントに当たる言動があったのかを確認し、そのうえで、正当な指導まで繰り返しハラスメントと主張しているのかを判断します。会社側が基準を共有せず、その場ごとに対応していると、管理職も従業員も何が問題なのか分からなくなります。ハラスメントの防止と、不当な主張への対応を分けて考えることが必要です。
社内でハラスメントの基準を共有する
まず必要なのは、何がハラスメントに当たり、何が通常の業務上のやり取りなのかを社内で共有することです。パワハラ、セクハラなどは、それぞれ判断基準が異なります。
また、ハラスメントは必ずしも「上司から部下」など、優越的な関係を背景とした言動に限られるものではありません。
たとえばパワハラでは、上司による言動だけでなく、業務上必要な知識や経験を持つ部下からの言動や、複数の部下による集団的な行為も、対象になり得ます。いわゆる「逆パワハラ」と呼ばれるケースです。
したがって、「上司が部下を注意したらパワハラ」「部下から上司への言動ならパワハラではない」といった単純な理解では判断を誤ります。社内研修では、実際にどのような言動があり、どの基準に当てはまるのかを具体例とともに共有することが重要です。
管理職と従業員の双方に研修を行う
ハラスメント研修を管理職だけのものにすると、「上司が何をしてはいけないか」という説明だけで終わりがちです。ハラスメントハラスメントを防ぐには、従業員側にも、業務上必要な指示や注意までハラスメントになるわけではないことを伝える必要があります。
管理職には、注意すときの言葉や場所、頻度、記録の残し方などを学んでもらいます。一方、従業員には、パワハラの判断基準や相談窓口の利用方法に加え、不快に感じたこととハラスメントに該当することは必ずしも同じではないことを説明します。
厚生労働省の指針でも、管理監督者を含む労働者への周知・啓発や、研修・講習の実施が対策例として示されています。
ハラハラ行為者が問題社員とされる場合もある
些細な注意や通常の業務指示まで繰り返し「ハラスメントだ」と訴えたり、事実を大きく誇張して周囲を責めたりする行為が続けば、本人の職場での言動そのものが問題になる場合があります。
たとえば、正当な指導を受けるたびに「パワハラだ」と申告し、上司や人事がその都度対応に追われるようになれば、本来必要な業務や指導にも影響が出ます。さらに、事実と異なる内容を繰り返し申告したり、特定の相手をハラスメント加害者として周囲に広めたりすれば、相手の名誉や信用を傷つけるおそれがあります。内容や方法によっては、単なる社内トラブルでは済まず、不法行為として損害賠償責任が問われる可能性もあります。
実際、学校法人A学院ほか事件(大阪地裁・2013年11月8日判決)では、同僚について虚偽のセクハラ被害を申告したことが問題となり、申告者本人の不法行為責任が認められました。
ハラスメントハラスメントでも、正当な指導を「パワハラだ」と強く主張するだけでなく、事実を誇張したり、実際にはなかった言動まで加えて申告したりすれば、相手の名誉や信用を傷つけることがあります。その内容によっては、単なる社内の人間関係の問題では済まず、申告した側が損害賠償責任を問われる可能性もあります。
会社が放置すると安全配慮義務が問題になることもある
ハラスメントハラスメントが続き、特定の上司や同僚への攻撃、虚偽の申告、執拗な非難などによって職場環境が悪化している場合、会社は「社員同士のトラブル」として放置することはできません。
労働契約法5条では、会社に対して、労働者が生命や身体等の安全を確保しながら働けるよう必要な配慮をすることを求めています。ここでいう安全には、心身の健康も含まれます。会社が問題となる言動を把握していた、または把握できる状況にあったにもかかわらず、事実確認や必要な対応を取らず、その結果として従業員に精神的・身体的な損害が生じた場合には、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。
そのため、会社は相談や申告を受けた段階で、誰が何を言ったのか、どのような行為が繰り返されているのか、相手にどの程度の負担が生じているのかを確認する必要があります。そのうえで、必要に応じて当事者への聞き取りや指導、配置上の配慮などを行い、問題が続かないよう対応することが求められます。
参考:厚生労働省/職場におけるパワーハラスメント防止のための指針
参考:クオレ・シー・キューブ/虚偽のハラスメント申告は法律問題に―学校法人A学院ほか事件
まとめ
ハラスメントハラスメントは、正当な業務指示や注意まで過剰に「ハラスメントだ」と主張する行為を指します。こうした訴えが繰り返されると、管理職が必要な指導をためらったり、上司と部下の会話が減ったりすることがあります。ただし、過去に根拠の乏しい申告があったとしても、新たな相談まで最初から疑ってよいわけではありません。相談内容を受け止めたうえで、具体的な言動や経緯を確認し、事実に基づいて判断することが大切です。
ストレスチェックの集団分析で、ハラスメントハラスメントそのものを判定することはできません。ただし、ハラハラによって上司と部下の会話が減ったり、職場内の不信感が強まったりした場合、その影響が集団分析の結果に表れることがあります。
たとえば、管理職が「またハラスメントと言われるかもしれない」と考えて部下との関わりを控えるようになれば、「上司の支援」が低くなる可能性があります。また、ハラハラをきっかけに社員同士の対立や警戒が強まれば、「同僚の支援」にも影響が出ることがあります。
そのため、集団分析で「上司の支援」や「同僚の支援」が以前より低下している部署があれば、その背景を確認する材料の一つになります。ただし、その結果だけで原因をハラハラと断定することはできません。部署ごとの変化や過去の結果と比べながら、実際にコミュニケーションの減少や人間関係の悪化が起きていないかを確認していくことが大切です。
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