
アクティブリカバリーは、もともとスポーツ分野で、運動後にウォーキングや軽いストレッチなどを行いながら回復を促す方法として研究されてきました。近年では、デスクワーク中心の職場でも、長時間座り続けるのではなく、仕事の合間に立つ、歩く、体を伸ばすといった短時間の運動を取り入れる考え方が注目されています。
ただし、「動けば疲れが消える」という万能な方法ではありません。大切なのは、強い運動をすることではなく、同じ姿勢を続けず、無理のない範囲で体を動かすことです。
この記事では、アクティブリカバリーの基本から、職場で実践できる方法、期待できる効果や注意点、企業の取り組みまで紹介します。
目次
アクティブリカバリーとは
アクティブリカバリーとは、完全に体を休ませるのではなく、ウォーキングや軽い運動など、低強度の身体活動を行いながら回復を図る方法です。
スポーツの分野では、運動や競技の後に行う回復手段として研究されてきました。
ただし、「動いた方が休むより必ず回復する」というほど単純なものではありません。目的や疲労の程度によって、休み方を使い分けることがポイントです。
「何もしない休養」と「動いて休む」の違い
疲れたときは、ソファに座って何もしないのも立派な休養です。こうした身体活動をほとんど伴わない休み方を、スポーツ研究ではパッシブリカバリーと呼びます。
一方、アクティブリカバリーは、ゆっくり歩く、軽く自転車をこぐなど、負担の小さい運動を取り入れる方法です。
ただし、「動いて休む方が、効果がある」というものではなく、競技スポーツを対象とした研究でも、アクティブリカバリーによって一部の生理指標が変化することはあっても、その後の運動パフォーマンスまで一貫して改善するとは確認されていません。高強度運動の合間では、何もせず休んだ方が次の運動パフォーマンスで有利だった研究もあります。
「休む=じっとする」「動く=疲れる」と二択で考えるのではなく、疲労の状態や次に何をするのかに応じて選ぶことが大切です。アクティブリカバリーは休養の上位版ではなく、数ある回復方法の一つと考えた方が正確です。
アクティブリカバリーにはどんな効果がある?
アクティブリカバリーについては、「血流を促して疲労物質を流す」といった説明を見かけることがあります。
しかし、「乳酸がたまるから疲れる」「乳酸を早く除去すれば疲労回復も早まる」というのは、適切ではありません。乳酸は単なる老廃物ではなく、運動時や運動後にはエネルギー源としても利用されます。また、疲労にはさまざまな要因が関係しており、乳酸の蓄積だけで説明することはできないからです。
競技者を対象としたシステマティックレビューでは、6~10分間のアクティブリカバリーを行った研究で、その後のパフォーマンスに好ましい結果が比較的一貫して報告されました。一方、研究全体では方法や結果にばらつきがあり、運動後のパフォーマンス改善を裏付けるエビデンスは強くないと評価されてもいます。また、血中乳酸の除去速度についても、それだけを回復の指標として扱うことには限界があると指摘されています。
つまり、「軽く動けば疲労が取れる」と断定することはできません。数字で測れる回復だけでなく、「少し体を動かすと気分が変わる」と本人が感じるかどうかも、休み方を選ぶ材料の一つとして考えるとよいでしょう。
参考:日本スポーツ栄養学会誌/乳酸はエネルギー源で、適応を起こすシグナルである
参考:体育学研究/間欠的短時間高強度運動におけるアクティブリカバリーとパッシブリカバリーがパフォーマンスと筋の酸素化に及ぼす影響
スポーツの回復法を仕事にも使える?
スポーツ分野で研究されているアクティブリカバリーと、デスクワーク中に行う短時間の身体活動を、同じ概念として扱うのは適切ではありません。仕事の途中で立つ、歩く、ストレッチするといった行動は、研究では「アクティブブレイク」や「座位行動の中断」などとして扱われています。また、「マイクロブレイク」は10分以内の短い休憩を指す概念として研究されていますが、身体活動だけでなく、リラックスする休憩なども含まれます。
ただ、仕事中に「休まず座り続けるのではなく、短い休憩を入れる」という考え方には研究上の根拠があります。2022年のメタ分析では、10分以内のマイクロブレイクによって、活力の向上と疲労感の軽減に小さいながら統計的に有意な効果が確認されました。
また、厚生労働省も長時間の座位を避け、座りっぱなしをできる限り頻繁に中断することを勧めています。
参考:PLOS ONE/“Give me a break!” A systematic review and meta-analysis on the efficacy of micro-breaks for increasing well-being and performance
職場でできるアクティブリカバリー
仕事中のアクティブリカバリーに、トレーニングウェアや広いスペースは必要ありません。長時間同じ姿勢を続けず、数十秒でも立つ、伸びる、脚を動かすといった行動を挟むだけでも効果が期待できます。汗だくになる必要はありません。デスクの横でできる程度の動きから始めてみましょう。
肩甲骨をゆっくり動かす
パソコン作業が続いたら、いったんキーボードから手を離して肩まわりを動かしてみましょう。椅子に座ったまま背筋を軽く伸ばし、両肩を耳に近づけるように上げてから、後ろへ回すようにゆっくり下ろします。
前回し、後ろ回しを数回ずつ行う程度で十分です。腕を大きく振り回す必要はありません。
ポイントは、「肩こりを治そう」と力を入れすぎないことです。仕事中の目的は本格的なトレーニングではなく、同じ姿勢をいったん終わらせることだからです。肩を回している数十秒間は、画面から目を離す時間にもなります。
座ったまま体側を伸ばす
デスクから離れられないときは、座ったまま体側を伸ばす方法があります。椅子に浅すぎない位置で座り、背筋を伸ばします。片腕を頭の上へ上げ、反対側へゆっくり体を傾けます。脇腹から腕にかけて心地よく伸びる位置で数秒保ち、反対側も同じように行います。
ここでも、反動をつけて深く曲げる必要はありません。「どこまで曲がるか」を競う運動ではなく、固定されていた姿勢を変えることが目的です。
座ったまま上半身をひねる
椅子に腰掛けて背筋を軽く伸ばし、両足を床につけた状態で、上半身を左右へゆっくりひねります。椅子の背もたれを無理に引っ張ったり、勢いをつけたりせず、自分が自然に動かせる範囲で行ってみてください。
「ストレッチは深く伸ばすほど効果が高い」と考える人がいますが、限界までひねる必要はありません。
メールを1本送ったらひねる、会議が終わったら立つなど、業務の「節目」と動作をセットにすると取り入れやすいです。
その場でかかとを上げ下げする
立ち上がるスペースがあるなら、デスクや椅子の背に軽く手を添え、かかとをゆっくり上げ下げします。つま先を床につけたまま、かかとを上げて戻す動きを数回繰り返します。コピー機まで歩く、飲み物を取りに行くといった行動と組み合わせてもよいでしょう。
厚生労働省の「アクティブガイド2023」でも、長時間座りっぱなしにならないよう注意し、少しでも体を動かすことが勧められています。
大げさな運動ほど価値があるわけではありません。エレベーターを待つ間にかかとを数回上げる程度でも、効果は期待できます。
仕事の合間に体を動かすメリット
厚生労働省は、座りっぱなしの時間が長くなり過ぎないよう注意し、少しでも体を動かすことを勧めています。
仕事の合間に立つ、歩く、体を伸ばすといった短い動きは、本格的な運動の代わりではありませんが、それでも、座位をいったん中断し、仕事と仕事の間に小さな区切りをつくることができます。
重要なのは、「何分動けば必ず効果が出る」と考えることではなく、長時間動かない状態をそのまま続けないことです。
座りっぱなしを中断して頭を切り替える
2026年に発表されたシステマティックレビューでは、長時間の座位を身体活動で中断した25研究が検討されました。急性効果を調べた23研究のうち15研究で何らかの認知機能の改善が報告され、特に実行機能で好ましい結果が多くみられました。ただし、すべての研究で効果が確認されたわけではありません。その後に発表されたメタ分析でも、実行機能への小さな効果が示されていますが、エビデンスの確実性は低く、あらゆる認知機能が改善するとまではいえません。
そのため、「数分歩けば集中力が必ず戻る」と断言するのは早計です。ただし、長時間座り続ける状態を中断するという意味では、仕事の合間に立ったり、少し歩いたりすることには意味があります。集中が途切れたときに、いったん画面から離れて体を動かすことも、休憩の選択肢の一つです。
参考:厚生労働省 e-ヘルスネット/「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」推奨シート:成人版
参考:産業衛生学雑誌/デスクワーカーの座位行動中における運動プログラムの構築
短い休憩で疲労感のリセット
忙しい日に休憩を取ると、「仕事を止めた分だけ遅れる」と感じる人もいるでしょう。しかし、仕事の合間に取る10分以内の短い休憩「マイクロブレイク」については、疲労感や活力との関係を調べた研究があります。
2022年のメタ分析では、19報から得られた22の独立した研究サンプル、計2,335人のデータを分析しました。その結果、マイクロブレイクには、活力を高め、疲労感を軽減する効果が確認されました。一方、仕事のパフォーマンス全体を高める効果は統計的に有意ではありませんでした。
つまり、「休憩を入れれば仕事が速くなる」とまでは言えません。それでも、疲労を感じながら休まず働き続けることだけが最善とは限らないことが分かります。
デスクワークが続いたときは、休憩のタイミングで席を立ち、少し歩いたり体を伸ばしたりするのは、長時間の座りっぱなしを中断できるだけでなく、同じ姿勢が続く状態を避け、気分を切り替えるきっかけになります。
参考:PLOS ONE/“Give me a break!” A systematic review and meta-analysis on the efficacy of micro-breaks for increasing well-being and performance
同じ姿勢を中断して肩や腰を動かせる
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、オフィスワーカーのように座って仕事をする時間が長い職種では、歩数が少なく、身体活動レベルが低くなる可能性が高いと説明されています。また、身体活動不足や長い座位時間は、腰痛や肩こり、頭痛などとも関連するとされています。
ただし、「数分ストレッチすれば肩こりや腰痛が治る」という意味ではありません。痛みにはさまざまな原因があり、短時間の運動だけで解決できるとは限りません。仕事中のアクティブリカバリーでは、治療効果を期待するよりも、長時間同じ姿勢を続ける状態を中断し、体を動かす機会をつくるものと考えるのがおすすめです。
参考:厚生労働省 e-ヘルスネット/「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート:働く人が職場で活動的に過ごすためのポイント
「1時間に1度」が正解?休憩頻度に絶対ルールはない
「デスクワークでは1時間に1回立つ」「50分働いたら10分休む」など、休憩についてさまざまな数字を見かけます。しかし、「○分ごとに動けば仕事の生産性が最大になる」という絶対的なルールが確立されているわけではありません。
厚生労働省の身体活動・運動ガイド2023では、長時間の座位をできる限り頻繁に中断することが重要とされ、その例として「30分ごと」が挙げられています。これは主に食後血糖値や中性脂肪、インスリン抵抗性など健康リスクとの関係から示された考え方です。
また、マイクロブレイク研究でも、休憩時間や直前に行っていた仕事の種類によって結果が異なります。時計を見て「1時間たったから必ず運動」と機械的に考えるより、会議が終わったら立つ、資料を一本仕上げたら歩くなど、仕事の区切りに短い身体活動を組み込む方が現実的です。休憩については、誰にでも通用する黄金比はありません。
「動いて休む」を取り入れている企業
仕事の途中に体を動かす取り組みは、すでに企業の健康施策やオフィスづくりにも取り入れられています。
ただし、ここで紹介する企業が、自社の施策を「アクティブリカバリー」と呼んでいるわけではありません。オンラインヨガ、立って働く環境、歩くことを促すオフィス設計など方法はさまざまです。共通しているのは、「運動は仕事が終わってから行うもの」と限定せず、働く時間の中に身体活動を組み込んでいることです。
コクヨマーケティング|週2回10分の「みんなでストレッチ」
コクヨマーケティングでは、社員の健康促進策として「みんなでストレッチ」を実施しています。2024年に公開された公式ブログによると、週2回、1回10分間のオンラインヨガ動画を配信し、自席やリモートワーク先から参加できる仕組みを整えました。オフィス勤務者向けには、大型モニターに動画を投影し、職場でも参加できる環境を用意しています。
本格的な運動時間を別に確保するだけでなく、仕事の合間にも短時間で体を動かせる環境をつくった事例といえます。
参考:コクヨマーケティング株式会社/オフィスが健康ジムに変身?準備0分でできる取り組みとは
イトーキ|仕事そのものに身体活動を組み込む「Workcise」
イトーキは、「Work(働く)」と「Exercise(健康活動)」を組み合わせた「Workcise(ワークサイズ)」という考え方を展開しています。スポーツジムで運動する時間を別に設けるのではなく、立って仕事をする、同僚の席まで歩いていくといった「仕事にも健康にも良い行動」を、普段の働き方の中に組み込む発想です。
さらに、歩くことを促すオフィス動線、立って仕事ができるスタンディングスポット、ストレッチを行うためのマーキング、オフィス内を一周できる通路「コリドー」など、環境そのものから身体活動を促す仕組みも提案しています。「運動する時間」を仕事から切り離すのではなく、働いている間の座る・立つ・歩くといった行動そのものを見直す点が、職場で「動いて休む」方法を考えるうえでも参考になります。
参考:株式会社イトーキ/Workcise(ワークサイズ)
小島プレス工業|ストレスチェックの分析とリフレッシュエクササイズを健康経営に活用
小島プレス工業では、ストレスチェックの集団分析結果をさらに分析し、心理的ストレスやワークエンゲージメントなど8項目の傾向を把握したうえで、各職場に合わせた職場環境の改善活動を行っています。ストレスチェックを実施して終わりにするのではなく、結果を職場単位の改善につなげている点がポイントです。
身体面の健康施策としては、小島健康保険組合と共同で「リフレッシュエクササイズ」も開催しています。公式サイトによると、隔週の月・水・金曜日17時45分から実施し、ヨガ、ピラティス、太極拳の3種類を用意。予約なしで現地またはZoomから参加できます。さらに、健康増進アプリを利用した社内ウォーキングイベント「KojiwalK」も実施しています。
参考:小島プレス工業株式会社/健康経営
まとめ
アクティブリカバリーは、仕事の合間に立つ、歩く、体を伸ばすなど、軽い身体活動を取り入れて休息を図る考え方です。長時間の座りっぱなしを中断し、疲労感や気分を切り替えるきっかけになります。大切なのは、無理なく続けられる方法を仕事の中に取り入れることです。
一方、疲労やストレスが続いている場合は、体を動かすだけで解決しようとせず、自分の状態を客観的に確認することも重要です。その一つの機会となるのがストレスチェックです。
本人が自身のストレス状態に気づくきっかけとなるほか、企業側も集団分析の結果を職場環境の改善に活用できます。
ストレスチェックは、労働者が自分のストレス状態に気づき、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことなどを目的とした制度です。現在は労働者50人以上の事業場に実施が義務付けられており、2028年4月1日からは50人未満の事業場にも義務化されます。
ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
導入方法や実施方法など、お気軽にお問合せください。

