
パワーナップとは、15~30分ほどの短い仮眠によって、脳と体をリセットする休息法です。
午後になると集中力が落ちる、会議中に眠気が抜けない、資料を読んでも頭に入ってこないといった状態を、気合いだけで乗り切ろうとしている方も多いと思いますが、パワーナップは、短時間の仮眠により脳の疲労がリセットして、集中力や作業効率の回復に役立つ方法として注目されています。
この記事では、パワーナップの基本ルールや具体的な方法、職場で取り入れる際のポイントを分かりやすく解説します。
目次
パワーナップとは
パワーナップとは、仕事や勉強の合間に取る、15~20分程度の短い仮眠のことです。主に午後の眠気を和らげ、集中力や作業効率の回復を図る目的で行います。
「パワーナップ」という言葉は、米国の心理学者ジェームズ・B・マース氏が広めたものです。通常の昼寝とは異なり、短い時間で目覚めることを前提としています。
午後になると眠気を感じ、仕事に集中できなくなる人もいるでしょう。こうした眠気への対策として、短時間の仮眠が役立つことが研究で報告されています。
厚生労働省も、午後の早い時間に短い昼寝を取ることが、作業能率の改善に有効だと説明しています。
パワーナップは短時間の仮眠のこと
パワーナップは、午後の眠気を和らげるために、短時間だけ眠る方法です。一般的には15~20分程度を目安とし、長く眠りすぎないことを重視します。
午後は、昼食の有無にかかわらず、体内時計の働きによって眠気が強まる時間帯です。この時間帯に短い仮眠を取ることで、眠気が軽減され、注意力や作業能力の改善が期待できます。
2024年に学術誌『睡眠と環境』に掲載された論文「昼寝の功罪とパワーナップ」でも、15~20分程度の昼寝によって、眠気の軽減や作業能力の向上が期待できると説明されています。
普通の昼寝との違い
パワーナップは昼寝の一種ですが、眠る時間と目的を明確にしている点が異なります。
普通の昼寝には、短い居眠りから1時間以上の睡眠まで、さまざまな取り方があります。一方、パワーナップは、午後の眠気を軽減するために、15~20分程度で起きることを基本としています。
短い時間で切り上げるのは、深い睡眠に入った状態で目覚めることを避けるためです。
深い睡眠の途中で起きると、目覚めた後も眠気や頭がぼんやりする状態が続く可能性があります。これを「睡眠慣性」といいます。
長時間の昼寝では睡眠慣性が強くなる可能性があり、目覚めた直後の作業能力に影響します。また、夕方以降に長く眠ると、夜の睡眠にも影響するおそれがあります。
短い仮眠でも睡眠慣性が生じる可能性はありますが、長い昼寝と比べて影響を抑えられると考えられています。
そのため、仕事の休憩時間に仮眠を取る場合は、目覚ましを設定し、予定した時間で起きることが大切です。
厚生労働省も短時間昼寝を推奨
厚生労働省は、2014年に公表した「健康づくりのための睡眠指針2014」で、午後の早い時間に30分以内の短い昼寝を取ることが、眠気による作業能率の改善に効果的だと説明しています。
同指針では、勤労世代にとって毎日十分な睡眠を確保することが基本だとしたうえで、夜間の睡眠が不足した場合の眠気対策として、短い昼寝を取り上げています。
また、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、交替制勤務者の眠気対策として、夜勤中の仮眠についても解説しています。
ただし、夜勤中の仮眠は、昼間に取るパワーナップとは適切な時間や条件が異なります。同ガイドでは、夜勤中に20~50分の仮眠を取ることで、眠気や疲労、仕事の効率が改善した研究を紹介しています。
つまり、仮眠は時間が長ければよいというものではなく、勤務時間帯や目的に応じて適切な長さを考える必要があります。
日中に働くビジネスパーソンがパワーナップを取り入れる場合は、午後の早い時間に15~20分程度の短い仮眠を取ることを目安にしましょう。
参考:厚生労働省/健康づくりのための睡眠指針2014
参考:日本睡眠環境学会『睡眠と環境』/昼寝の功罪とパワーナップ(2024年)
パワーナップの基本ルール
パワーナップは、ただ短い時間眠ればよいというものではありません。仮眠の長さや時間帯によっては、起きた後に眠気が残ったり、夜の睡眠に影響したりする可能性があります。
仕事の合間に取り入れる場合は、15~20分程度を目安に、午後の早い時間に行うのが基本です。
15~20分程度で切り上げる
パワーナップは、15~20分程度の短い仮眠を目安にします。
人の睡眠は、眠り始めの浅い睡眠から、徐々に深い睡眠へと進みます。長く眠ると深い睡眠に入る可能性が高まり、目覚めた後も眠気やだるさが残る原因になります。
こうした、起床後に眠気や判断力の低下が残る状態を「睡眠慣性」といいます。
2024年に学術誌『睡眠と環境』に掲載された総説論文「昼寝の功罪とパワーナップ」でも、15~20分程度の短い仮眠は深い睡眠に入りにくく、眠気の軽減や作業能力の改善に役立つと説明されています。
一方、30分程度の仮眠では、目覚めた直後に睡眠慣性が強くなる可能性も指摘されています。
職場で取り入れる場合は、15~20分程度を目安にアラームを設定し、長く眠りすぎないようにしましょう。ただし、短時間でも睡眠慣性が生じる可能性があるため、起きた直後の状態にも注意が必要です。
15時前までに行う
パワーナップは、午後の早い時間に取るのが基本です。
人には体内時計による睡眠と覚醒のリズムがあり、昼食を取ったかどうかにかかわらず、午後の早い時間に眠気が強まる傾向があります。
この時間帯に短い仮眠を取ることで、午後の眠気を和らげる効果が期待できます。
厚生労働省のe-ヘルスネットでも、日中に眠気がある場合は、午後3時前までに30分以内の昼寝を取ることが勧められています。
反対に、夕方以降に長い仮眠を取ると、夜に眠るために必要な眠気が弱まり、寝つきに影響する可能性があります。
一般的な日勤のビジネスパーソンであれば、昼休みから14時台までの間に仮眠時間を設けるとよいでしょう。
ただし、15時という時刻は絶対的な境界ではありません。夜勤や交替制勤務など、働く時間帯が異なる場合は、勤務時間や夜間の睡眠との関係を考えて仮眠を取る必要があります。
職場では椅子で仮眠を取る
職場でパワーナップを取り入れる場合は、椅子に座った姿勢で休む方法が考えられます。
2019年に学術誌『労働科学』に掲載された研究では、昼食後に椅子とベッドでそれぞれ20分間の仮眠を取り、睡眠の深さや眠気への影響を比較しています。
その結果、椅子での仮眠はベッドでの仮眠よりも深い睡眠が少ない傾向にあり、眠気を軽減する効果は両者で確認されました。
ただし、この研究は分析対象者が6人と少なく、椅子で眠る方が仕事の効率が高まるとまでは確認されていません。
実際に職場で仮眠を取る際は、背もたれに寄りかかったり、机にクッションを置いて軽く伏せたりする方法が考えられます。
首や腰に負担がかからない姿勢を選び、周囲の音や明るさが気になる場合は、できる範囲で休憩環境を整えましょう。
なお、パワーナップは椅子で眠ることが必須条件ではありません。休憩スペースに横になれる設備がある場合も、予定した時間で起きられるようにすることが重要です。
起床後は眠気が残っていないか確認する
パワーナップでは、目覚めた直後の状態にも注意が必要です。
短時間の仮眠でも、起床後に頭がぼんやりしたり、眠気が残ったりする可能性があります。
特に、睡眠不足が続いている場合は、予定より深く眠ってしまうことも考えられます。
目覚めた後に眠気が残っている場合は、すぐに重要な判断や機械の操作を始めず、十分に目が覚めてから仕事に戻りましょう。
洗顔をしたり、明るい場所で過ごしたりする方法は、目覚めを促す対策として研究でも取り上げられています。
また、仮眠を取る前にアラームを設定するだけでなく、起床後に余裕を持てるよう休憩時間を調整しておくことも大切です。
眠れなくても目を閉じるだけでよい
パワーナップでは、うまく眠れなくても焦る必要はありません。15~20分で眠りにつこうとすると、かえって「早く寝なければ」と緊張してしまうことがあります。そんなときは、目を閉じて静かに過ごすだけでも、光や情報の刺激を減らし、頭を休ませる時間になります。目を閉じた安静状態では、脳がリラックスしやすい状態になることも知られています。
パワーナップで期待できるメリット
パワーナップには、午後の眠気を和らげ、集中力や作業効率の回復を助ける効果が期待できます。眠気が強い状態で仕事を続けると、注意力が低下し、入力ミスや確認漏れにつながるおそれもあります。
短時間の仮眠は、こうした眠気への対策として研究されてきました。さらに、記憶や学習、気分への影響についても研究が進められています。
集中力・作業効率の向上
パワーナップには、午後の眠気を軽減し、注意力の回復を助ける効果が期待できます。
午後は体内時計の働きによって眠気が強まり、仕事への集中が途切れたり、作業中の確認が不十分になったりする可能性があります。
こうした時間帯に短い仮眠を取ると、眠気が和らぎ、注意力や作業能力の改善につながると考えられています。
2024年に学術誌『睡眠と環境』に掲載された論文「昼寝の功罪とパワーナップ」でも、15~20分程度の短い昼寝によって、眠気の軽減や作業能力の向上が期待できると説明されています。
また、2019年に学術誌『労働科学』に掲載された研究では、20分間の仮眠を取った後に、主観的な眠気が軽減したことが報告されています。
記憶力・学習効率のサポート
昼寝は、記憶や学習に関わる脳の働きにも影響すると考えられています。
2023年に学術誌『Sleep』に掲載された研究では、32人の若年成人を対象に、10分、30分、60分の仮眠が記憶や注意力などに与える影響を調べました。
その結果、30分の仮眠を取った場合には、仮眠を取らなかった場合と比べて、新しい画像を覚える課題の成績が改善しました。一方、10分と60分の仮眠では、同じ効果は確認されませんでした。
この研究では15~20分の仮眠を調べていないため、一般的なパワーナップにも同じ記憶力向上の効果があるとは断定できませんが、短い仮眠で眠気を和らげ、集中して学習や作業に取り組める状態を整える効果は期待できます。
ストレス軽減と気分転換
パワーナップは、眠気を和らげるだけでなく、気分転換にも役立つと考えられています。
2023年に発表された仮眠の研究では、10分、30分、60分のいずれの仮眠でも、主観的な眠気が軽減し、前向きな気分が改善したことが報告されています。
また、2007年に日本の研究者らが発表した研究でも、20分間の仮眠によって、快適さや満足感、リラックス感などの改善が確認されています。
このように、短い仮眠には、午後の眠気を和らげ、気分を切り替える効果が期待できます。
参考:日本睡眠環境学会『睡眠と環境』/昼寝の功罪とパワーナップ(2024年)
参考:米国国立医学図書館 PubMed/Influence of mid-afternoon nap duration and sleep parameters on memory encoding, mood, processing speed, and vigilance(2023年)
職場でパワーナップを取り入れる方法
職場でパワーナップを取り入れるには、従業員が業務の合間に安心して休める環境を整えることが大切です。短時間の仮眠は午後の眠気対策として役立ちますが、利用時間や場所が決まっていないと、会議や電話対応などの業務と重なる可能性があります。
まずは、昼休みなどを利用して15~20分程度の仮眠を取れるよう、時間や場所のルールを決めましょう。専用の仮眠室がなくても、会議室や休憩スペースを活用する方法が考えられます。
また、従業員が周囲の目を気にせず休めるよう、管理職が制度の目的を説明することも重要です。仮眠を希望しない人への配慮も含め、職場の実情に合った運用を検討しましょう。
利用時間や場所をルール化する
職場でパワーナップを取り入れる際は、利用する時間帯や場所をあらかじめ決めておきましょう。
日勤の職場であれば、昼休みのうち15~20分程度を仮眠に充てる方法が考えられます。厚生労働省も、日中の眠気対策として、午後3時前までに30分以内の昼寝を取ることを勧めています。
利用場所は、休憩室や空いている会議室など、業務に支障が出ない場所を選びます。自席での仮眠を認める場合は、電話対応や来客対応との調整も必要です。
また、利用者がアラームを設定し、決めた時間に仕事へ戻れるようにしておきましょう。
なお、労働基準法では、休憩時間は労働者が自由に利用できるものとされています。昼休みに仮眠を取るかどうかは本人の判断に委ね、会社が一律に仮眠を義務付けることは避けるべきです。
「休む=サボり」という心理的抵抗をなくす
パワーナップを導入しても、従業員が周囲の目を気にしていれば、制度を利用する人は増えません。
特に、仕事中に眠ることに抵抗を感じる職場では、短時間の仮眠を取り入れる目的を説明することが大切です。
まずは、管理職から従業員に対して、パワーナップが午後の眠気を和らげるための休息方法であることを伝えましょう。
社内チャットや掲示板で利用方法を周知するほか、部署内のミーティングで仮眠の取り方を説明する方法も考えられます。
また、上司が部下の休憩を妨げないようにすることも重要です。仮眠を取っている従業員に、急ぎではない仕事を頼んだり、休憩中の様子を評価の対象にしたりすることは避けましょう。
一方で、昼休みを食事や散歩に使いたい従業員もいます。パワーナップを全員に勧めるのではなく、希望する人が選べる休息方法として導入することが大切です。
仮眠スペースや静かな休憩環境を用意する
パワーナップを職場に導入する際は、従業員が落ち着いて休める場所を確保しましょう。
専用の仮眠室を設置する必要はありません。利用していない時間帯の会議室を開放したり、休憩スペースの一角に椅子を置いたりする方法でも始められます。
会議室を利用する場合は、使用できる時間帯を決め、通常の会議予約と重ならないようにします。
また、周囲の話し声や電話の音が気になる場所では、落ち着いて休めません。できるだけ静かな場所を選び、必要に応じてパーテーションやアイマスクなどを活用しましょう。
椅子は背もたれのあるものを選び、首や腰に負担がかからない姿勢で休めるようにします。照明の明るさや室温にも配慮するとよいでしょう。
複数の従業員が同じ場所を利用する場合は、清掃方法や利用人数なども決めておきます。
まずは既存の設備を使って試験的に導入し、利用者の意見を聞きながら改善する方法が現実的です。
「パワーナップ中」の卓上ミニプレートを活用する
自席でパワーナップを取る場合は、「パワーナップ中」と書いた卓上ミニプレートを用意する方法も考えられます。
周囲の従業員に休憩中であることを伝えれば、急ぎではない用件による声かけを控えてもらえます。
ミニプレートには、休憩中であることに加え、終了予定時刻を記載するとよいでしょう。
「13時20分まで休憩中」と表示すれば、同僚も仕事を依頼する時間を判断できます。
ホワイトボード式のプレートなら、利用するたびに終了時刻を書き換えられます。
また、部署で共通のプレートを用意し、利用方法を統一しておくと、初めて使う従業員も迷わずに済みます。
ただし、プレートを置くだけでは、電話や来客への対応を避けることができません。仮眠中はほかの担当者が対応するなど、業務の分担も決めておきましょう。
なお、卓上ミニプレート自体に眠気やストレスを軽減する効果が確認されているわけではありません。あくまで、休憩中であることを周囲に知らせるための工夫として活用します。
パワーナップをしても疲れが取れないときは
短い仮眠を取っても強い眠気や疲労感が残る場合は、夜間の睡眠不足や業務負担など、ほかの原因を確認する必要があります。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人は6時間以上を目安に、必要な睡眠時間を確保することが推奨されています。
ただし、必要な睡眠時間には個人差があり、6時間眠れば十分というわけではありません。
慢性的な睡眠不足が続いている場合、15~20分の仮眠だけでは十分な休息を補えません。本人が睡眠時間を確保しても日中の強い眠気が続く場合は、睡眠障害などが関係している可能性も考えられます。
特に、日中の強い眠気が続く、仕事中に居眠りを繰り返す、十分に眠っても疲れが取れないといった場合は、医療機関への相談を検討しましょう。
また、企業側も従業員の業務負担を確認することが大切です。
特定の部署で長時間労働が続いている場合は、残業時間や仕事量を確認し、必要に応じて人員配置や業務分担を見直します。
職場全体の負担を確認する際には、ストレスチェックの集団分析も参考になります。
集団分析では、部署ごとの仕事の量的負担、仕事の裁量、上司や同僚からの支援状況などを把握できます。ただし、眠気や睡眠不足を直接測定するものではありません。
個人が特定されないように結果を取り扱い、勤怠記録や従業員からの意見とあわせて、職場環境の改善に活用しましょう。
パワーナップは日中の眠気を和らげる方法の一つですが、従業員の疲労をすべて解決できるわけではありません。仮眠を導入するとともに、十分な睡眠時間と休息を確保できる働き方を整えることが大切です。
参考:厚生労働省/労働条件・職場環境に関するルール
まとめ
パワーナップは、午後の眠気や一時的な疲労感をやわらげるうえで役立つ習慣です。ただし、どれだけ短い仮眠を取り入れても疲れが抜けない場合は、個人のセルフケアだけでは対応しきれない負荷がかかっている可能性があります。人事としては、ストレスチェックの集団分析などを通じて、特定の部署や職種に疲労感、ストレス反応、業務負荷の偏りが出ていないかを確認することが大切です。必要に応じて、人員配置や業務量、働き方そのものを見直すことで、パワーナップに頼りすぎない職場環境づくりにつなげることができます。
ストレスチェックは、従業員のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした制度です。現在は従業員50人以上の事業場で義務化されていますが、今後は50人未満の企業にも対象が拡大される予定です。
ストレスチェックを活用すれば、部署ごとの負荷や心理的な傾向を可視化でき、早めの相談体制づくりや業務改善につなげられます。失敗を責めるのではなく、学びながら前に進む職場づくりにも役立ちます。
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