インポスター症候群とは?公認心理師 監修

インポスター症候群とは、成果を出しているにもかかわらず、自分の実力を信じられず「たまたま評価されただけ」「いつか化けの皮がはがれる」などと感じてしまう心理状態です。
こうした感覚が強い状態で続くと、必要以上に準備に時間をかけたり、挑戦を避けたりすることがあります。その結果、仕事の進め方やキャリア選択、人間関係に影響が出る場合もあります。
この記事では、インポスター症候群の意味や背景、仕事への影響、対処法を解説します。

監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)

この記事で分かること
  • インポスター症候群の意味
  • 成果を信じられない理由
  • 完璧主義との関係
  • 仕事に出る悪影響
  • 不安を軽くする対処法

インポスター症候群とは

インポスター症候群とは、成果を出しているにもかかわらず、自分の実力を信じられず、必要以上に自分を過小評価してしまう心理状態です。周囲から評価されても「今回は、たまたまうまくいっただけ」「本当は自分には力がない」と感じてしまいます。
なお、インポスター症候群は、医学的な診断基準(DSM-5など)で定義される「正式な精神疾患」ではなく、多くの人が経験する一般的な「心理的な傾向」や「状態」として捉えられています。

なぜ自分を過小評価してしまうのか

インポスター症候群で自分を過小評価してしまう背景には、「個人の心理的な癖」「幼少期の環境」「社会・文化的な背景」などの要因が複雑に絡みあっていると言われています。

インポスター症候群の人にはマイナス思考の癖があり、仕事で成果を出しても「運がよかっただけ」「環境に恵まれていただけ」「周りが助けてくれたからできただけ」と考え、自分の努力や実力として受け止められないことがあります。一方で、失敗したときには「自分に能力がないからだ」と強く責めてしまいます。このように、成功は自分の外側の要因に、失敗は自分の内側の要因に結びつけてしまうため、自己評価が低くなりやすいのです。

また、能力がある人ほど、自分の課題や足りない部分に気づくことができるため、その分「自分はまだまだ未熟だ」「もっとできる人がいる」と感じ、周囲から評価されても自信につながりにくいといった傾向もあります。

幼少期の環境や両親の教育方針が影響する場合もあります。たとえば、「テストで良い点を取ったときだけ褒められる」「成果を出したときだけ認められる」といった経験が続くと、成果を出せない自分には価値がないと感じてしまいます。

さらに、日本では謙遜を大切にする文化もあります。自分の実績を強く主張するより、控えめに振る舞うことが礼儀正しいとされる場面も少なくありません。もちろん謙遜そのものが悪いわけではありませんが、自分の成果まで否定し続けることは別問題です。

なぜ成果を出しても自信を持てないのか

本来、仕事の成果には、自分の努力や判断、準備、これまで積み上げてきた経験が関わっています。しかし、インポスター症候群の傾向がある人は、自分の貢献を小さく見積もり「これくらい誰でもできる」と考えがちです。

さらに、周囲から褒められたり評価されたりすると、安心するどころか、「実力以上に評価されているのではないか」と不安が強くなることもあります。周囲から見れば着実に成果を積み重ねていても、本人の中では「自分はまだ足りない」という感覚が残り続けます。

正式な診断名ではない点に注意

インポスター症候群は「症候群」と呼ばれていますが、精神医学上の正式な診断名ではありません。DSM-5やICD-11といった診断基準に登録されている疾患ではなく、医学的な病名というより、成果や評価をうまく受け取れない心理的な傾向・現象として理解されることが多く、環境の変化や新しい挑戦(昇進や入学など)に伴って誰もが直面し得る「心理的プロセスの偏り(現象)」や「認知の歪み」であるという認識がベースにあります。
もともとは1978年に「インポスター現象」として提唱された考え方で、その後メディアなどで広く一般に普及する過程で「インポスター症候群」という呼び方が広がりました。

ただし、正式な病名ではないからといって軽く見てよいわけではありません。不安や自己否定が長く続くと、過剰なストレスや燃え尽きにつながることもあります。心身に何らかの症状があり仕事や生活に支障が出ている場合は、早めに専門家へ相談することも大切です。

インポスター症候群が起こる背景

インポスター症候群が起こる背景には、完璧主義や失敗への強い恐れがあります。完璧主義が強い人は、成果を出しても「まだ足りない」「もっとできたはず」と考えてしまい、自分の実力として受け止めることが苦手です。少しのミスでも大きな失敗のように感じてしまいます。
また、評価されるほど安心するのではなく、期待に応え続けなければならないというプレッシャーが強くなってしまうこともあります。

完璧主義が強い

インポスター症候群が起こる背景には、完璧主義があります。
完璧主義の人は、成果の基準をいつも100点に置きがちです。そのため、周囲から見れば十分に評価される90点の仕事でも、本人の中では「10点も足りない」「まだまだ不十分」と感じてしまいます。むしろ、できた部分よりも、できなかった部分ばかりに目が向いてしまいます。

失敗を過度に恐れる

インポスター症候群の傾向がある人にとって、失敗は単なるミスではありません。そもそも「自分には本当は実力がない」と思い込んでいるため、一度の失敗を「自分は仕事ができない人間だ」と感じてしまいます。
また、成果を出して評価されている状態でも、「次に失敗したら一気に信用を失う」というプレッシャーが強くなります。
本来、失敗は改善の材料になるものですが、インポスター症候群では自分の価値を否定する証拠のように見えてしまいます。そのため、挑戦を避けたり、過剰に準備しすぎたりして、仕事の負担がさらに重くなってしまうことがあります。

評価されるほど不安が強くなる

本来、周囲から評価されることは自信につながるはずです。
しかし、インポスター症候群の傾向がある人は、「自分には、本当は実力がないのに、周囲が過大評価している」と感じやすい傾向があります。

そのため、褒められるほど「次に失敗したら、期待外れだと思われる」と不安が大きくなっていきます。一度高い評価を受けると、それが次の最低ラインのように感じられ、「次はもっと成果を出さなければ」と自分を追い込んでしまうこともあります。

インポスター症候群が仕事に与える影響

インポスター症候群は、仕事のパフォーマンスにも影響します。自分の判断に自信が持てないため、確認や準備に時間をかけすぎたり、失敗を恐れて発言や挑戦を避けたりします。
また、「自分にはまだ早い」と昇進や新しい仕事を断ってしまうと、キャリアの選択肢を狭めてしまうこともあります。さらに、周囲と比較して落ち込むなど、職場の人間関係にも影響が出ます。
つまり、能力の問題ではなく自分を信じられないことが仕事のブレーキになってしまうのです。

パフォーマンスへの影響

インポスター症候群の傾向がある人は、必要以上に準備や確認を重ねてしまいます。その結果、資料作成やメール対応に時間がかかり、仕事のスピードや効率が落ちてしまうことがあります。
また、間違った判断を恐れるあまり、決断を先延ばしにしたり、新しい仕事への挑戦を避けたりすることもあります。
自信のなさを努力で埋め続ける働き方は、燃え尽き症候群や心身の不調による離職につながるリスクもあります。

キャリア形成への影響

インポスター症候群の傾向がある人は、能力や実績があるにもかかわらず、「自分にはまだ早い」と考えてしまい、なかには昇進やリーダー職の打診を自ら断ってしまうケースもあります。
また、転職や異動のチャンスがあっても、求人票の条件をすべて満たしていないと応募できないと思い込むなど、挑戦する前にブレーキをかけてしまいます。
このように、失敗を恐れるあまりに安全で慣れた仕事だけを選び続けると、スキルアップの機会も減っていきます。

職場での人間関係への影響

インポスター症候群の根底にあるのは、「自分の実力不足が周囲に分かってしまうのではないか」という不安です。
その不安が強くなると同僚との雑談や業務外の関わりを避け、自分から距離を置くようになり、周囲からは「近寄りにくい」「協調性がない」と見られてしまうこともあります。

また、質問や相談をすると能力不足だと思われる気がして、分からないことを一人で抱え込むケースもあります。結果として、本人は必死に頑張っているのに周囲との信頼関係が築けず、チームワークにも悪影響が出てしまうことがあります。

インポスター症候群への対処法

インポスター症候群への対処では、まず思考を整理し、自分を客観視することが大切です。
また、完璧を目指しすぎると、少しのミスでも自信を失ってしまうため、「合格点を設定しそこを目指す」という考え方も必要です。

思考の整理と客観視

インポスター症候群への対処では、まず思考を整理し、自分を客観視することが大切です。「自分には実力がない」と感じても、それは事実ではなく感情かもしれません。任された仕事、出した成果、周囲からの評価を分けて見直すことで、自身の過小評価に気づくことがあります。

事実と感情を分ける

インポスター症候群の人は、「いつか実力不足が周囲に分かってしまう」という不安を、現実のように受け止めがちです。しかし実際には、「プロジェクトを達成した」「上司から評価された」などの事実があることを忘れてはいけません。不安を感じたときは、「これは事実か、それとも感情か」と問い直すことで、自分を過小評価する流れを止めることができます。

実績をノートに記録する

実績をノートに記録することも、インポスター症候群への対処法として有効です。「自分は無能だ」という思い込みに引っ張られないためには、成果だけでなく、その裏にある行動や努力も書き残します。たとえば「プレゼンが成功した」だけでなく、「資料を3回修正し、5回リハーサルした結果、プレゼンが成功した」と記録することで、運ではなく自分の準備や工夫が成果につながったと見直すことができるようになります。

職場での行動変容

職場での行動を少し変えることも、インポスター症候群への対処につながります。褒められたときに「いえ、たまたまです」と否定せず、まずは「ありがとうございます」と受け取ります。
また、失敗を「能力不足の証明」ではなく、次に活かす材料として捉え直します。

褒め言葉を素直に受け取る

インポスター症候群の人は、評価された瞬間に「そんなことないです」「たまたまです」と反射的に否定しがちです。謙遜のつもりでも、相手の評価を否定し続けると、自分の成果を認める機会まで失ってしまいます。褒め言葉は、過大評価ではなく、自分の仕事を見てくれた人からの客観的なフィードバックとして受け止めてみましょう。

失敗の定義を変える

「失敗=自分の無能さが周囲に分かってしまうこと」と考えると、挑戦そのものが怖くなります。そこで、失敗を「うまくいかない方法が分かったデータ」と捉え直します。人格の否定ではなく、次に活かせる経験だと考えることで、過度な恐怖をやわらげることができます。

完璧になる前に早めに相談する

失敗を恐れる人ほど、資料や提案を完璧に仕上げてから出そうとし、過剰な準備で疲弊しがちです。そこで、あえて60~70点の段階で「方向性の確認です」と上司や同僚に見せてみます。むしろ早めに相談したほうが進めやすいと分かることで、失敗への恐怖を少しずつ弱めることができます。

信頼できる人に打ち明ける

「自信が持てない」「いつか実力不足がバレそうで怖い」といった本音を一人で抱え込むほど、不安は大きくなります。そこで、否定せずに聞いてくれる上司や同僚、メンターに話す機会を持ちましょう。気持ちが軽くなり、客観的な見方を取り戻せることがあります。

他人と比較しない

他人の華やかな成果だけを見て、自分の努力や失敗と比べると、「自分だけが足りない」という不安が強くなります。比較するなら、他人ではなく過去の自分と比較することです。1年前よりできるようになった事実、任されるようになった事実に目を向けましょう。

客観的な評価を求める

インポスター症候群への対処では、客観的な評価を求めることも有効です。自分の仕事ぶりを頭の中だけで判断すると、「実力がない」という思い込みが強くなりがちです。そこで、上司や同僚に「改善できる点はありますか」「今のままで良い点はどこですか」と具体的に聞いてみます。周囲の評価を言葉で確認することで、自己評価とのズレに気づけるようになります。

ストレスチェックを活用する

インポスター症候群の対策では、ストレスチェックの結果を活用することも有効です。ストレスチェックとは、働く人のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために、定期的に自分のストレス状態を確認する制度です。質問票に回答し、ストレスの原因、心身の自覚症状、周囲からのサポートなどをもとに、今の負担を見える化します。
インポスター症候群を診断するものではありませんが、自分では気づきにくい疲れや不安を確認する材料になります。

自分の限界に気づく重要なアラート
インポスター症候群の傾向がある人は、「もっと頑張らないと評価されない」「これくらいできて当然」「失敗したら実力不足がバレる」と考える傾向が強く、自分を追い込みがちです。周囲から見れば十分に成果を出していても、本人は無理をしている自覚がないこともあります。
このような時、ストレスチェックの結果は自分の限界に気づくための重要なアラートになります。「まだ大丈夫」という主観だけで判断せず、数値や結果を通して今の状態を見直すことが大切です。

義務ではなく、活用することが大切
ストレスチェックは、年に一度の義務として受けて終わりにするのではなく、結果をどう活かすかが重要です。
今の自分がどれくらい疲れているのか、周囲のサポートを得られているのかを確認するきっかけになります。産業医面談や上司への相談をするきっかけにもなります。
ストレスチェックは、等身大の自分のコンディションを知るための「心のものさし」として活用したい制度です。
 

ストレスチェッカーとは

「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しています。
また、無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下である「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場でも実施義務化が進むため、早めの準備が大切です。
導入や運用については、ぜひお気軽にご相談ください。

ストレスチェック導入のご相談はこちら

 

監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)

公認心理師 山本久美さんの写真

大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わる中、社内のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。
現在は公認心理師として、ストレスチェックのコンサルタントを中心に、働く人を対象とした対面・Webやメールなどによるカウンセリングを行っている。産業保健領域が専門。

> ストレスチェッカー

 

    まとめ

    インポスター症候群は、成果を出しているにもかかわらず、自分の実力を信じられず、「たまたまうまくいっただけ」「いつか実力不足がバレる」と感じてしまう心理的な傾向です。正式な診断名ではありませんが、不安や自己否定が強い状態で続くと、過剰な準備、挑戦の回避、相談しづらさ、燃え尽きなどにつながることがあります。
    大切なのは、自分の感情だけで判断せず、実際に出した成果や周囲からの評価を客観的に見直すことです。褒め言葉を否定せず受け取る、実績を記録する、完璧を目指しすぎない、信頼できる人に相談するなど、小さな行動の積み重ねが不安をやわらげる助けになります。
    また、ストレスチェックはインポスター症候群を診断するものではありませんが、心身の負担や職場のサポート状況を確認する手がかりになります。結果を受けて終わりにせず、自分のコンディションを見直し、必要に応じて産業医や専門家への相談につなげることが大切です。

    参考:厚生労働省/ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策

    ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
    導入方法や実施方法など、お気軽にお問合せください。

      あわせて読みたい

      >ストレスチェックサービスおすすめ22選

      >ジョハリの窓とは?分かりやすく解説

      >マイクロアグレッションとは?

      >メンタルタフネスとは?高める方法は?

      >アクティブレストとは?効果は?

      >ソーシャル・ジェットラグとは?

      >マインドワンダリングとは?産業医監修

      >自己承認力とは?高める方法は?

      >リアリティショックとは?対策は?

      >ジョブ・クラフティングとは?産業医 監修

      >メンタルダウンの対処法

      >262の法則とは?パレートの法則・343の法則との違いは?

      >入社後ギャップとは?原因と対処法を解説

      >職場の人間関係に疲れたら読むコラム

      >ポモドーロ・テクニックとは?効果は?

      >ソーシャルハラスメント(ソーハラ)とは?

      >人材流出のリスクと前兆

      >リフレーミングとは?言い換え一覧で解説

      >アブセンティーズムとは?意味と対策を解説

      >社内でのコミュニケーション 事例&対処法

      >共感疲労とは?原因と対処法は?

      >最善主義とは?完璧主義との違いは?