
役割葛藤とは、職場や家庭などで求められる複数の役割や期待がぶつかり、板挟みになってしまう状態を指します。たとえば、上司からは成果を求められ、部下からは負担軽減を求められる中間管理職や、仕事と育児・介護の両立に悩む人などは、役割葛藤を感じやすい立場にあります。これは本人の努力不足ではなく、権限と責任のズレ、人手不足、相談しにくい職場の空気などから生じることもあります。放置すると、疲労感や不満が積み重なり、仕事への意欲低下につながる可能性があります。
この記事では、役割葛藤の意味や原因、起きやすい職場、個人・人事ができる対処法を分かりやすく解説します。
目次
役割葛藤とは
役割葛藤とは、職場や家庭などで複数の役割を担う中で、それぞれに求められる期待や要求がぶつかり、心理的な板挟みになる状態を指します。英語では「ロール・コンフリクト」と呼ばれ、たとえば上司からは成果を求められ、部下からは負担軽減を求められる中間管理職のように、どちらか一方だけを優先しにくい場面で起こりやすくなります。
社会学では、ロバート・K・マートンが1957年に「役割セット」の概念を通じて、ひとつの立場に複数の人間関係や期待が結びつくことを整理しました。その土台には、ラルフ・リントンの地位と役割の議論や、タルコット・パーソンズの社会システム論があります。さらに組織心理学の分野では、1970年にリッツォらが役割葛藤と役割あいまいさを測定する研究を行い、職場におけるストレス要因として広く扱われるようになりました。
参考:Ralph Linton『The Study of Man』Internet Archive
参考:Robert K. Merton「The Role-Set: Problems in Sociological Theory」JSTOR
参考:Rizzo, House & Lirtzman「Role Conflict and Ambiguity in Complex Organizations」CiNii Research
役割間・役割内・個人と役割の違い
役割間葛藤
「役割間葛藤」とは、仕事、家庭、地域活動など、個人が同時に担っている複数の役割の間で期待や要求がぶつかり、板挟みになってしまう状態を指します。たとえば、職場では重要なプロジェクトを任されて残業や成果を求められる一方で、家庭では親や配偶者として、子どもの送迎や家事、介護などを担う必要がある場合がこれにあたります。
どちらも大切な役割であるにもかかわらず、一方を優先するともう一方が疎かになってしまうことがあるため、心理的な負担やストレスが生じます。代表的な例が、仕事と家庭の間で起こるワーク・ファミリー・コンフリクトです。これは、仕事の都合が家庭生活に影響する場合だけでなく、家庭の事情が仕事に影響する場合にも起こります。役割間葛藤は、本人の時間管理だけで解決できる問題ではなく、職場の働き方や周囲の理解とも深く関わっています。
参考:Greenhaus & Beutell「Sources of Conflict between Work and Family Roles」
役割内葛藤
「役割内葛藤」とは、ひとつの役割を担う中で、両立させることが難しい期待や要求を受け、板挟みになる状態を指します。なかでも、周囲の異なる立場の人から相反する要求を受ける状態は、専門的には「送り手間葛藤」と呼ばれることがあります。仕事と家庭のように複数の役割の間で悩む役割間葛藤とは異なり、役割そのものはひとつである点が大きな違いです。
たとえば中間管理職の場合、上司からは「目標数値を厳しく管理してほしい」と求められる一方で、部下からは「現場の負担を減らすよう上に掛け合ってほしい」と期待されることがあります。どちらも管理職として無視できない要求ですが、同時に応えようとすると心理的な負担が生じます。
看護師であれば、医師から迅速な処置や検査対応を求められる一方で、患者からは不安に寄り添い、じっくり話を聞いてほしいと求められる場面があります。学校の先生でも、教育委員会の方針と保護者の要望が一致せず、その間で判断に迷うことがあります。
このような役割葛藤は、本人の能力不足だけで起こるものではありません。同じ役割に対する期待の複雑化や、優先順位、権限の不明確さが背景にある場合もあります。
参考:Rizzo, House & Lirtzman「Role Conflict and Ambiguity in Complex Organizations」CiNii Research
個人と役割の葛藤
「個人と役割の葛藤」とは、本人の価値観や倫理観、考え方と、その立場で求められる役割がかみ合わず、心理的な負担が生じる状態を指します。専門的には「個人-役割葛藤」や「person-role conflict」と呼ばれます
役割間葛藤が「仕事と家庭」のように複数の役割同士の板挟みであるのに対し、個人と役割の葛藤は、「自分が大切にしたいこと」と「役割として求められる行動」のズレによって起こる点が大きな違いです。
たとえば営業職で、本当は顧客に合った誠実な提案をしたいのに、売上目標のために利益率の高い商品を強く勧めるよう求められる場合がこれにあたります。また、人事担当者が、個人的には納得できない会社の決定として人員削減を伝えなければならない場面でも、本人の価値観や感情と役割上の行動との間に葛藤が生じることがあります。
この状態が続くと、「自分の考えに反する仕事をしている」という違和感や、精神的な疲労につながる可能性があります。
参考:Kahn et al.『Organizational Stress: Studies in Role Conflict and Ambiguity』
役割過重・役割あいまいさとの違い
役割葛藤と役割過重、役割あいまいさは、いずれも職場でストレスを生む「役割」に関する問題ですが、原因は少し違います。
「役割葛藤」は、求められていること同士が矛盾している状態です。たとえば、上司からは「時間をかけて丁寧に仕上げてほしい」と言われる一方で、「今日中に出してほしい」と急かされるようなケースです。この場合、問題は作業量だけではなく、期待の方向性がぶつかっている点にあります。
一方、「役割過重」は、やるべきことの量や責任が本人の時間・体力・能力を超えている状態です。仕事の進め方は分かっていても、抱えている業務量が多すぎて対応しきれない場合に起こります。
「役割あいまいさ」とは、自分が何を担当し、どこまで責任を負い、どの基準で評価されるのかが明確でない状態です。役割葛藤が「求められる内容同士がぶつかっている状態」であるのに対し、役割あいまいさは「何を求められているのか自体が分からない状態」と整理できます。
現実の職場では、役割葛藤、役割過重、役割あいまいさが同時に起こることも珍しくありません。
たとえば、仕事と育児・介護の両立で板挟みになりながら、どちらの役割でもやることが多すぎる場合、質の矛盾と量の限界が重なり、強い負担につながります。また、担当範囲が分からないまま複数の人から異なる指示を受けるなど、役割葛藤と役割あいまいさが重なる場合もあります。
| 項目 | 役割葛藤 (ロール・コンフリクト) |
役割過重 (ロール・オーバーロード) |
役割あいまいさ (ロール・アンビギュイティ) |
|---|---|---|---|
| 主な原因 | 期待や要求の矛盾・対立 | 期待や要求の過多、対応能力や時間の限界 | 職務内容、責任、権限、評価基準の不明確さ |
| ストレスの本質 | 質の問題。あちらを立てれば、こちらが立たない状態 | 量の問題。時間や人手、体力が足りない状態 | 方向性の問題。何を、どこまで行えばよいか分からない状態 |
| 本人の状態 | 板挟みになり、どちらを優先すべきか悩んでいる | 忙しすぎて、心身の余裕が失われている | 自分の判断や行動が正しいのか分からず、不安を感じている |
| 解決へのアプローチ | 優先順位の整理、期待のすり合わせ | 業務量の削減、人員の追加、周囲への委譲 | 職務内容、責任範囲、権限、評価基準の明確化 |
職場で起こる役割葛藤の事例
職場でよく見られるのは、中間管理職が上司と部下の間で板挟みになるケースです。上司からは成果や数字を求められ、部下からは負担軽減や働きやすさを求められるため、どちらにも応えようとして苦しくなります。
また、昇進や兼務によって役割が急に増えたり、プレイヤーとしての仕事とマネージャーとしての仕事を同時に求められたりすると、期待される行動が複雑になり、迷いが生じることがあります。
さらに、仕事と育児・介護の両立も大きな要因です。職場では責任ある働き方を求められ、家庭では家族を支える役割を担うため、時間や気持ちの面で板挟みになりがちです。
中間管理職の板挟み
職場で起こる役割葛藤の代表例が、中間管理職の板挟みです。課長やマネージャーは、上長から売上目標の達成や経営方針の浸透を求められる一方で、部下からは業務量の調整や働きやすい環境づくりを求められます。
たとえば、上長から「今期の数字は必ず達成してほしい」と言われながら、部下からは「これ以上の残業は難しい」と相談されるような場面です。どちらの言い分も理解できるからこそ、簡単に片方を切り捨てられず、心理的な負担が大きくなります。
また、新しいシステムや方針を現場に浸透させる場面でも、経営側の意図と現場の不満の間に立たされることがあります。さらに近年は、ハラスメントへの配慮と、必要な指導や育成のバランスに悩む管理職も少なくありません。
こうした葛藤は本人の能力不足ではなく、責任に対して権限が足りない、相談先が少ないといった職場構造から生じることもあります。
昇進・兼務による役割の複雑化
昇進や兼務による役割の複雑化も、職場で起こる役割葛藤の代表的な事例です。
たとえば、プレイヤーからマネージャーに昇進した人は、これまでのように自分で手を動かして成果を出したい気持ちと、部下を育ててチーム全体の成果を高める役割の間で悩むことがあります。
自分でやったほうが早いと思って手を出しすぎると、部下の成長機会を奪ってしまいます。逆に任せすぎると短期的な成果が出ず、上司から管理不足を指摘されることもあります。
また、複数の部署やプロジェクトを兼務している場合、それぞれの立場で求められる優先順位や利害がぶつかり、どちらの立場で判断すべきか迷う場面もあります。
さらに、昇進によって同僚や先輩という立場から、評価者・指導者という立場に変わると、親しさを保ちたい気持ちと、公平に評価しなければならない責任の間で葛藤が生じます。
これは本人の適性だけの問題ではなく、役割の変化に対する説明不足や、権限・責任の整理不足から起こることもあります。
仕事と育児・介護の両立
仕事と育児・介護の両立も、職場で起こる役割葛藤の代表的な事例です。職場では、担当者や管理職として成果を出すこと、会議やトラブル対応に責任を持つことが求められます。
一方で家庭では、親として子どもの送迎や看病をしたり、介護者として通院の付き添いや日々のケアを担ったりする必要があります。
たとえば、重要な会議の直前に保育園から子どもの発熱で呼び出しが入る、親の介護で急に仕事を抜けなければならないといった場面では、どちらの役割も簡単には手放せません。
仕事を優先すれば家族への申し訳なさが残り、家庭を優先すれば職場に迷惑をかけたような罪悪感を抱くことがあります。特に介護は先の見通しが立たず、職場に事情を話しづらいこともあり、一人で抱え込む場合があります。
この葛藤は、本人の努力だけで解決するものではなく、職場での共有、制度の活用、周囲がフォローできる体制づくりが欠かせません。
役割葛藤が起きやすい職場の共通点
役割葛藤が起きやすい職場には、いくつかの共通点があります。
まず、権限と責任の範囲があいまいな職場では、「どこまで自分が判断してよいのか」が分からず、周囲の期待に振り回されることがあります。
また、人手不足が続き、一人が複数の役割を抱える状態が当たり前になると、本来の業務に集中できず、異なる要求の間で板挟みになりがちです。
さらに、本音を言えない雰囲気がある職場では、無理な依頼や違和感を抱えても相談できず、葛藤を一人で抱え込むことがあります。
こうした環境では、個人の努力だけでなく、役割分担や相談体制の見直しが欠かせません。
権限と責任の範囲があいまい
権限と責任の範囲があいまいな職場では、役割葛藤が起こることがあります。
たとえば、プロジェクトリーダーや中間管理職が「結果を出す責任」は負っているのに、人員配置や予算、業務フローを変える権限は持っていないケースです。
上司からは「成果を出せ」と求められ、部下からは「人も時間も足りない」と訴えられるため、本人はどちらにも十分応えられず、板挟みになってしまいます。
また、誰の仕事か分からないグレーゾーンの業務が多い職場では、親切な人や調整力のある人に仕事が集まることがあります。他部署や顧客からは対応を期待される一方で、自部署の上司からは「本来業務に集中してほしい」と言われることもあります。
さらに、複数の上司や関係者から違う指示が出ると、どちらに従っても別の相手から責められる状況になることがあります。
人手不足で一人複数役が常態化
人手不足で一人が複数の役割を抱える状態が常態化している職場では、役割葛藤が深刻になることがあります
単に仕事量が多いだけなら役割過重の問題ですが、そこに本来は分けるべき役割まで重なると、求められる行動そのものがぶつかります。
たとえば、実務担当でありながらチェック担当も兼ねている場合、早く処理したい気持ちと、厳しく確認しなければならない責任の間で葛藤が生じます。
また、自分の成果を出すプレイヤーでありながら、新人教育やメンバーのサポートも求められると、自分の仕事を進めたい役割と、人を育てる役割が衝突します。
店舗や拠点の責任者が現場業務まで担うケースでも、目の前の対応と全体管理の間で視点の切り替えが追いつかなくなります。
こうした職場では、「今どの役割で動けばよいのか」が分かりにくくなり、本人の努力だけでは解決できない負担につながります。
本音を言えない雰囲気
本音を言えない雰囲気のある職場では、役割葛藤が深刻になることがあります。
たとえば、上司から矛盾した指示を受けても、「どちらを優先すべきですか」「この条件では難しいです」と確認できない場合、本人は無理を抱えたまま動くしかありません。
表向きは「分かりました」と答えていても、内心では納得できないまま、指示に従う役割と自分の判断との間でストレスを感じ続けます。
また、相談や弱音を「能力不足」と見なす空気があると、仕事と育児・介護の両立や、複数プロジェクトの負担も言い出せません。周囲は本人が大丈夫だと思い込み、さらに期待や業務を重ねてしまうこともあります。
本音を言えない職場では役割葛藤が見えづらく、問題が表面化したときには、すでに疲弊が進んでいる場合もあります。
役割葛藤への対処法
役割葛藤への対処では、まず個人が周囲との期待値をすり合わせることが大切です。自分に何を求められているのか、どこまで対応できるのかを整理し、難しいことは早めに伝える姿勢が必要です。
すべてを抱え込まず、必要に応じてNOと言うことも、自分を守るための大切なスキルです。
一方、人事や管理職には、ジョブ・ディスクリプションを整え、役割や責任範囲を明確にすることが求められます。さらに1on1を通じて、現場で起きている期待のズレや負担感を把握することも有効です。
組織としては、ストレスチェックなどを活用し、役割葛藤が深刻になる前に職場のサインをつかむことが大切です。
個人:期待値のすり合わせとNOと言う技術
役割葛藤に直面したとき、多くの人は「自分が我慢すればなんとかなる」と考えがちです。しかし、役割葛藤は本人の根性不足ではなく、周囲からの期待や要求がぶつかることで起こるものです。
そのため、ただ耐えるだけでは解決せず、むしろ疲労や不満をため込む原因になります。個人ができる対処として大切なのは、期待値をすり合わせることと、必要な場面でNOを伝えることです。
期待値をすり合わせる
まずは、自分に求められている役割を整理することから始めます。
たとえば「Aプロジェクトを進める役割」と「新人を育成する役割」を同時に求められている場合、どちらも完璧にこなそうとすると、どちらも中途半端になるおそれがあります。
その場合は、「現状のままだと両方に十分な時間を割くのが難しいため、今期はどちらを優先すべきでしょうか」と上司に確認することが有効です。
ポイントは、「できません」と突っぱねるのではなく、限られた時間やリソースの中で何を優先するかを一緒に決めることです。
NOと言う技術を身につける
人手不足の職場や、グレーゾーンの仕事が多い職場では、すべての依頼にYESで応えていると、いずれ限界が来ます。
ただし、NOは冷たく断ることではありません。
たとえば「今は無理です」ではなく、「本日中に対応すると、A業務の納期が遅れる可能性があります。明日の午前中まででよければ対応できます」と伝えると、相手も判断できます。
これは拒否ではなく、条件付きの提案です。
自分を守るための線引き
役割葛藤への対処で大切なのは、相手を否定せず、自分の限界も隠さないことです。
すべてを抱え込んでミスや遅れを出すより、早い段階で状況を共有し、優先順位や担当範囲を調整するほうが、結果的に周囲のためにもなります。
NOを伝えることは、わがままではなく、仕事の質を守るための誠実なコミュニケーションです。
人事・管理職:ジョブ・ディスクリプションと1on1の活用
役割葛藤は、個人の努力だけで解決しようとしても限界があります。
もちろん、本人が期待値をすり合わせたり、無理な依頼に対してNOを伝えたりすることは大切です。しかし、そもそも役割や責任の範囲があいまいなままでは、同じ葛藤が何度も繰り返されます。
ジョブ・ディスクリプションで役割を明確にする
ジョブ・ディスクリプションとは、職務内容や責任範囲、求められる成果などを明文化したものです。
これを整えることで、「誰が何を担当するのか」「どこまでが本人の責任なのか」「どの権限を持って判断できるのか」が分かります。
役割葛藤が起きる職場では、グレーゾーンの仕事が特定の人に集中したり、複数の上司から違う指示が出たりすることがあります。
職務の範囲を文章で整理しておくことで、本人も周囲も判断でき、不要な板挟みを減らせます。
作って終わりにしないことが大切
ジョブ・ディスクリプションは一度作れば終わりではありません。組織改編、新規プロジェクト、兼務の発生などによって、実際の役割は少しずつ変わります。
そのため、人事や管理職は定期的に内容を見直し、現場の実態とズレていないかを確認する必要があります。
特に兼務が多い場合は、「どの業務にどの程度の時間を使うのか」まで整理しておくと、役割過重や評価のズレを防ぐ手がかりになります。
1on1で現場のズレを拾い上げる
ジョブ・ディスクリプションで仕組みを整えても、現場では想定外の業務や人間関係の葛藤が起こります。そこで役立つのが1on1です。
1on1を単なる進捗確認の場にせず、「今の役割で困っていることはないか」「上からの指示と現場の状況で矛盾を感じることはないか」「本来の業務以外に抱えている仕事はないか」といった問いを投げかけることで、表に出ない役割葛藤に気づくきっかけになります。
管理職は調整役として関わる
部下が役割葛藤を抱えていると分かったら、管理職は「頑張って乗り切って」だけで終わらせないことが重要です。
優先順位を決める、他部署との調整を引き受ける、不要な業務を外す、評価基準を見直すなど、上司の権限で役割のバランスを整える必要があります。
人事も、1on1で見えてきた現場の声を制度や配置の見直しにつなげることで、個人任せではない役割葛藤への対策ができます。
組織:ストレスチェックで早期把握する
役割葛藤は、本人が限界を迎えるまで表に出ないことがあります。
特に、本音を言いにくい職場では、「上司と現場の間で板挟みになっている」「複数の人から矛盾した指示を受けている」と感じていても、本人が言い出せず、周囲も気づかないまま負担が蓄積していきます。
そこで組織として活用したいのが、ストレスチェックです。個人のストレス状態を確認するだけでなく、部署ごとの傾向を見ることで、役割葛藤が起きている可能性のある職場環境を把握する手がかりになります。
役割葛藤のサインを数値で見る
新職業性ストレス簡易調査票の項目を追加した80項目版では、役割葛藤について「複数の人からお互いに矛盾したことを要求される」という設問が設けられています。
この項目の評価が低い部署では、複数の上司や関係部署から異なる指示が出ていたり、指揮命令系統が混乱していたりする可能性があります。
また、80項目版には、「自分の職務や責任が何であるか分かっている」という役割明確さの項目もあります。役割葛藤の負担が大きく、役割明確さも低い職場では、誰が何を判断するのかがあいまいなまま、現場へ負担が集中している可能性があります。
標準的な57項目版では、役割葛藤と役割明確さを独立した尺度として直接測定する項目はありません。また、一つの設問だけで職場の原因を断定することもできないため、集団分析の結果と現場へのヒアリングを組み合わせて確認することが大切です。
集団分析で職場の構造を見る
ストレスチェックは、個人の結果を返して終わりにしてしまうと、組織課題の発見にはつながりません。
大切なのは、部署やチームごとの集団分析を行い、どの職場で役割の混乱や板挟みが起きている可能性があるのかを確認することです。
たとえば、役割葛藤のスコアが高く、上司や同僚からのサポートも低い部署では、相談できない空気の中で、個人が一人で抱え込んでいる可能性があります。
こうした結果は、管理職個人を責める材料ではなく、職場の仕組みを見直すための材料として扱うことが重要です。
なお、少人数の部署やチームでは、結果から個人が推測されるおそれがあります。集団分析を行う際は、集計単位や結果の共有範囲に配慮し、ストレスチェック制度のプライバシー保護に関するルールを守る必要があります。
結果を改善につなげる
役割葛藤の傾向が見えたら、人事や経営層は現場へのヒアリングを行い、どこで指示の矛盾や責任の偏りが起きているのかを確認します。
原因が複数部署からの依頼にあるなら、依頼ルートを整理する必要があります。管理職に責任だけが集中しているなら、権限や人員配置の見直しも必要です。
ストレスチェックは、個人のメンタルの弱さを探すものではありません。健全に働こうとしている人が、役割の混乱によって疲弊していないかを確認し、職場環境を見直すための材料として活用することが大切です。
参考:新職業性ストレス簡易調査票を追加した80項目版
参考:厚生労働省「これからはじめる職場環境改善」
まとめ
役割葛藤とは、職場や家庭などで求められる複数の役割や期待がぶつかり、板挟みになってしまう状態を指します。上司と部下の間で悩む中間管理職や、仕事と育児・介護の両立に悩む人に起こることがあります。
対処するには、周囲からの期待を整理し、優先順位や責任範囲をすり合わせることが大切です。人事や管理職は、1on1や職務内容の明確化を通じて、役割のズレを早めに把握する必要があります。
ストレスチェックも、個人の不調だけでなく、部署ごとの役割葛藤や職場環境の課題を見つける手がかりとして活用できます。ただし、役割葛藤を直接確認できる項目は、主に新職業性ストレス簡易調査票の項目を追加した80項目版に含まれています。
ストレスチェックは、従業員のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした制度です。現在は労働者数50人以上の事業場で実施が義務づけられており、2028年4月1日からは50人未満の事業場にも義務が拡大されます。
部署ごとの集団分析を活用すれば、仕事の負担や心理的な傾向を把握し、相談体制や業務分担の見直しにつなげられます。ただし、結果だけで原因を断定せず、現場へのヒアリングや業務状況の確認を組み合わせることが重要です。
ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導希望者の管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム」の測定に対応しています。
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