
マッチャー・テイカー・ギバーとは、人との関わり方を「自分と相手の利益をどう捉えるか」という視点から整理した考え方です。
マッチャーは、自分が与えた分と受け取る分の釣り合いを重視します。
テイカーは、相手よりも自分が多く得ることを重視します。
ギバーは、自分が得ることよりも、相手に与えることを重視します。
この記事では、この3つのタイプの違いと職場での現れ方、注意したい行動、テイカーとの関わり方まで解説します。
目次
マッチャー・テイカー・ギバーとは?3タイプの違い
マッチャー・テイカー・ギバーとは、人とのやり取りで「自分が得るもの」と「相手に与えるもの」のバランスをどう取るかによって分けた3つのスタイルです。組織心理学者のアダム・グラントが著書『Give and Take』で取り上げ、広く知られるようになりました。
マッチャーは、与えた分と受け取る分の釣り合いを重視します。
テイカーは、相手に与える以上に自分が得ることを優先します。
ギバーは、自分への見返りを先に求めず、相手に何を提供できるかを考えます。
グラントは、この違いを人との「互恵性」の取り方として説明しています。
なお、「あの人はテイカーだからずっとテイカー」「自分はギバーだからいつでもギバー」と固定的に考えるものではありません。グラント自身も、大きな契約交渉ではテイカー、後輩の指導ではギバー、他社の人と専門知識を交換するときにはマッチャーになるなど、同じ人でも状況によってスタイルが変わる例を挙げています。
参考:/The Wharton School, University of Pennsylvania/Knowledge@Wharton: Givers vs. Takers
参考:/Adam Grant/Give and Take
マッチャー(Matcher:ギブとテイクの釣り合いを取る人)
マッチャーは、自分が相手に与えたものと、相手から受け取ったものの釣り合いを重視するタイプです。
「助けてもらったから、今度はこちらが助ける」「前回はこちらが対応したから、今回はお願いしたい」というように、一方だけが与え続ける関係ではなく、公平なやり取りを求めます。
たとえば、締め切りが迫った資料作成を同僚に手伝ってもらった社員が、後日、その同僚が忙しいときに仕事を引き受けるようなケースです。前に助けてもらったことを覚えていて、「今度はこちらが返そう」と考えます。
ただし、マッチャーは「見返りが確約されなければ何もしない人」という意味ではありません。ポイントは、長い目で見て、自分だけが与え続けたり、反対に受け取り続けたりする状態を避けようとすることです。グラントは、マッチャーを、「相手に何かをしてもらえば返し、自分が相手を助ければ相手からの協力も期待する、公平な交換を重視する人」として説明しています。
テイカー(Taker:自分が多く得ようとする人)
テイカーは、人とのやり取りで、相手に与えるものよりも自分が多くを得ようとするタイプです。
ただし、出世を目指したり、給与を上げたいと考えたり、自分の成果を正当に評価してほしいと求めたりするだけで、テイカーと呼ばれるわけではありません。なぜなら、出世を目指したり、給与を上げたいと求めたりすること自体は、仕事では当然のことだからです。
テイカーのポイントは、自分の利益を求めることではなく、相手から多くを受け取りながら、自分から相手に返すものは少なくしようとする点にあります。
たとえば、自分が忙しいときには何度も同僚へ仕事を頼む一方、その同僚から助けを求められても応じなかったり、必要な情報を持っていても、自分に利益がなければ共有しなかったりといった行動です。
ただし、一度依頼を断った、重要な交渉で自社の利益を強く主張した、といった一つの行動だけで人物をテイカーと決めつけるのは適切ではありません。見るべきなのは、複数のやり取りを通じて、自分が得るものを大きくし、相手へ返すものを小さくする行動が続いているかどうかです。
なお、Give & Takeの分類を検証した2014年の査読研究では、テイカー傾向が強い人ほど、実験上の公共財への資源提供が少なく、他者との情報共有も少ないという結果が報告されています。
参考:/Personality and Individual Differences/Give, match, or take: A new personality construct predicts resource and information sharing
ギバー(Giver:相手への貢献を優先する人)
ギバーは、自分が何を受け取れるかよりも、まず相手に何を提供できるかを考えるタイプです。
ただし、グラントが挙げているのは、寄付やボランティアのような特別な行動だけではありません。人を紹介する、相談に乗る、後輩を指導する、自分が持つ知識を共有するといった、職場で日常的に行われる協力も含まれます。
たとえば、同僚が企画書の作成で困っているときに、「以前作った資料が参考になると思う」と、自ら資料を共有するケースです。取引先から自分の専門外の相談を受けたときに、その分野に詳しい社内の担当者を紹介する行動も当てはまります。
ギバーは、「今回は自分が助ける代わりに、次は相手にも助けてもらおう」といった見返りを前提にして行動するわけではありません。相手に今必要なものは何か、自分に何ができるかを考えて動きます。一方、マッチャーは、自分が与えた分と相手から受け取る分のバランスを意識します。この点が、ギバーとマッチャーを分ける大きな違いです。
なお、グラントは、ギバーの中でも、自分の利益を後回しにして他者を助け続ける「selfless giver」と、相手を助けながら自分の利益や目標にも目を向ける「otherish giver」を区別しています。
selfless giverは、相手を助けるために自分の時間やエネルギーを使い続け、その結果、自分自身の余力を失うことがあります。グラントは、こうしたギバーはotherish giverに比べ、燃え尽きたり、相手から一方的に利用されたりするリスクが高いと説明しています。
一方、otherish giverは、相手の役に立つことを考えながら、自分への負担も軽視しません。たとえば、少ない時間で相手に大きな助けを提供できる方法や、自分にとっても学びや成果につながる方法を選びます。つまり、相手を助ける一方で、自分の時間や負担にも目を向けます。
参考:/Knowledge at Wharton/Givers vs. Takers: The Surprising Truth about Who Gets Ahead
3タイプは固定された「性格」ではない
マッチャー・テイカー・ギバーは、人を「生まれつきこのタイプ」と固定的に分類するためのものではありません。グラントは、人には普段よく取るスタイルがある一方で、相手や状況によって振る舞いが変わると説明しています。
たとえば、グラント自身も、大きな契約を交渉するときにはテイカー寄りに振る舞い、後輩を指導するときにはギバーになり、他社の人と専門知識を交換するときにはマッチャーになることがあると述べています。つまり、「普段はギバーだから、どの場面でもギバー」というわけではありません。
職場でも、普段は知識や情報を惜しまず共有する社員が、給与交渉では自分の実績を示し、希望する条件を主張することがあります。反対に、日頃は「助けてもらったら返す」という考え方の人でも、新入社員が困っていれば、見返りを求めずに仕事を教えることもあるでしょう。
このように、同じ人の中で、場面によって異なるスタイルが表れることは珍しくありません。
したがって、「部長はテイカーだから信用できない」「Aさんはギバーだから頼めば何でも引き受けてくれる」と、人物そのものにラベルを貼る使い方は適切ではありません。
職場のマッチャー・テイカー・ギバー
職場におけるマッチャー・テイカー・ギバーの違いは、仕事を頼むとき、同僚を助けるとき、情報を共有するとき、成果を評価されるときなどに表れます。マッチャーは「助けてもらったら返す」という公平なやり取りを重視し、テイカーは自分が得る利益を大きくしようとします。ギバーは、すぐに見返りを求めず、相手に何を提供できるかを考えます。
たとえば、忙しい同僚の仕事を手伝う場面でも、マッチャーは「以前助けてもらったから、今回は自分が返そう」と考えます。テイカーは、自分の評価や今後の利益につながるかを重視します。ギバーは、相手が困っているなら力になろうと考えます。同じ「手伝う」という行動でも、相手との貸し借りを重視するのか、自分の利益を優先するのか、見返りを求めず協力するのかで違いが表れます。
職場のマッチャー|貸し借りのバランスを見る
職場のマッチャーは、自分が相手に与えたものと、相手から受け取ったもののバランスを重視します。グラントは、マッチャーについて、「相手に助けてもらったら自分も返す」「自分が相手を助けたら、相手にも同じように協力してもらいたい」と考え、ギブとテイクの公平な関係を保とうとする人と説明しています。
たとえば、繁忙期にAさんが大量の資料作成を抱えていたとき、同僚のBさんが作業を手伝ってくれました。後日、今度はBさんが急な顧客対応で手が回らなくなったとき、Aさんは「前に助けてもらった分、今回は自分が力になろう」と考えて対応します。このように、受けた協力を覚えていて、別の機会に返そうとする行動は、マッチャーの考え方をよく表しています。
一方、Aさんが何度もBさんを手伝っているのに、Aさんが困ったときにはBさんが毎回断る状態が続けば、Aさんは「自分ばかりが協力している」と感じるでしょう。マッチャーが求めているのは、一度手伝ったら同じ時間だけ返してもらうといった厳密な交換ではありません。長い目で見たときに、一方だけが与え続けるのではなく、お互いに助け合える関係になっているかを重視します。
そのため、マッチャーを単に「損得勘定で動く人」と捉えるのは適切ではありません。「助けてもらった相手には自分も返したい」「自分が協力した相手には、必要なときに協力してほしい」という公平さを重んじる姿勢が、マッチャーの基本的な考え方です。
参考:/Knowledge at Wharton/Givers vs. Takers: The Surprising Truth about Who Gets Ahead
職場のテイカー|自分の成果や利益を優先する
職場のテイカーは、周囲への協力や貢献よりも、自分が得る利益を優先するタイプです。グラントはテイカーについて、相手からできるだけ多くを得る一方で、自分から相手に返すものはできるだけ少なくしようとする人と説明しています。
たとえば、Aさんは自分の仕事が忙しいときには、同僚のBさんへ「これだけお願い」「少し手伝って」と何度も頼みます。Bさんはそのたびに自身の仕事を調整して協力しています。
ところが、後日Bさんが忙しくなり、「この作業を少し手伝ってほしい」と頼んでも、Aさんは応じません。Aさんは、自分の成果や評価につながらない仕事には時間を使いたくないと考え、「自分の仕事で手いっぱいだから」と断ります。
このように、自分が困ったときには周囲の協力を求める一方、自分に利益がない場面では相手への協力を避ける行動が繰り返される場合、テイカーの考え方が表れているといえます。
2014年に『Personality and Individual Differences』に掲載された研究では、ギバー・マッチャー・テイカーの傾向と、資源や情報を他者と共有する行動との関係が調べられました。その結果、テイカー傾向が高い人ほど、グループのために提供する資源が少なく、他の参加者と共有する情報も少ない傾向が確認されています。特に、自分だけが持っている重要な情報を相手に伝える量が少ないという結果が示されました。
参考:/Knowledge at Wharton/Givers vs. Takers: The Surprising Truth about Who Gets Ahead
参考:/Personality and Individual Differences/Give, match, or take: A new personality construct predicts resource and information sharing
テイカーが得をするとは限らず、ギバーも成果は分かれる
テイカーは自分の利益を優先するため、一見すると仕事で成果を上げているように見えることがあります。しかし、テイカーだから高い成果を出し続けられるとは限りません。グラントは、テイカーは周囲との関係を壊すことがあり、その行動が知られると評判を落とすと説明しています。
特にマッチャーは、「一方的に利用された」と感じた相手の行動を周囲に伝えたり、その後の協力を控えたりすることがあります。
一方、ギバーも、周囲を助ければ必ず成果につながるわけではありません。グラントは、ギバーには仕事の成果が低い人がいる一方で、非常に高い成果を出す人もいると説明しています。その違いの一つとして挙げられるのが、どこまで自分を犠牲にして相手を助けるかです。
たとえば、Bさんは後輩から質問されるたびに自分の仕事を止め、同僚から頼まれた仕事も次々に引き受けます。その結果、自分の業務が後回しになり、締め切りに追われるようになりました。グラントは、このように自分の利益を後回しにして他者を助け続ける人を「selfless giver」と説明しており、燃え尽きや搾取を受けるリスクが高いとしています。
これに対してCさんも周囲を助けますが、「この件なら過去の資料を渡せる」「30分なら相談に乗れる」「この分野はDさんの方が詳しい」と、相手への支援と自分の仕事の両方を考えて対応します。グラントは、こうしたギバーを「otherish giver」と呼んでいます。
職場で問題が起きるのは「テイカー」だけではない
マッチャー・テイカー・ギバーを職場に当てはめると、「テイカーさえ避ければよい」と考えたくなります。しかし、実際にはそれほど単純ではありません。テイカーの中には、人当たりがよく、周囲に協力的な印象を与える人もいます。
一方、ギバーも、自分の仕事を後回しにして頼まれたことを引き受け続ければ、疲弊し、本来の業務に支障が出たりします。
また、マッチャーは、公平さを損なうテイカーの行動を問題視し、反対にギバーが正当に評価されるよう支えることがあると説明しています。職場で見るべきなのは、「誰がギバーか、テイカーか」というラベルだけではなく、誰が負担を引き受け、誰が利益を得ているのか、その関係が長く続いても無理がないかという点です。
一見ギバーに見える「偽装型テイカー」
テイカーというと、「自分のことしか考えず、周囲にも横柄な人」を想像するかもしれません。しかし、グラントは、人当たりのよさとギバーかテイカーかは別の問題だと説明しています。
TEDでは、親切そうで感じがよい一方、自分の利益を優先する人を「agreeable taker」と呼び、さらに「faker」と表現しています。
※TEDは、研究者や専門家、実務家などがさまざまなテーマについて講演する世界的なプレゼンテーション企画です。
たとえば、Aさんは上司から仕事を頼まれると、「もちろんです」と笑顔で引き受けます。会議でも他人の意見にうなずき、困っている人には声をかけます。ところが、同僚のBさんから地味な確認作業を頼まれると、「それは担当外だから」と断ります。また、役員が参加するプロジェクトには積極的に手を挙げ、上司の前ではBさんから教えてもらったアイデアも自分の提案として話します。
グラントは、こうしたタイプについて、立場が上の人にはよく振る舞いながら、立場が下の人には違う態度を取ることがあると説明しています。つまり、感じがよい、話しやすい、頼み事を快く引き受けるといった印象だけでギバーとは判断することはできない、ということです。
参考:/TED/Adam Grant「Are you a giver or a taker?」
頼まれるほど引き受ける「自己犠牲型ギバー」
これまでご紹介したように、「selfless giver」は、自分の利益や負担を後回しにして、他者を助け続けるタイプです。グラントは、このタイプについて、otherish giverよりも燃え尽きや搾取を受けるリスクが高いと説明しています。
たとえば、Aさんは後輩から「この資料を見てもらえませんか」と頼まれると、自分の仕事を中断して確認します。同僚が締め切りに間に合わないと聞けば、その日の予定を変更して手伝います。別の部署から相談が来ても、「困っているなら」と引き受けます。最初は小さな協力でも、依頼が重なれば、自分の業務に使える時間は減っていきます。周囲からは「Aさんに頼めば何とかしてくれる」と思われ、さらに依頼が増えることさえあります。
問題は、人を助けること自体ではありません。自分の仕事の優先順位や負担を確認しないまま、すべての依頼に応じ続けることです。グラントも、ギバーが「親切であること」と「いつでも誰の依頼にも応じること」を混同すると、自分の時間やエネルギーを失うと指摘しています。
自分も守りながら与える「他者志向型ギバー」
グラントは、相手を助けながら、自分の利益や目標も無視しないギバーを「otherish giver」と呼んでいます。日本語では一定した訳語があるわけではありませんが、この記事では「他者志向型ギバー」と表記します。
前述したselfless giverとの違いは、他人を助ける気持ちの強さではなく、自分の時間や仕事も含めて考えている点です。
たとえば、後輩から資料の確認を頼まれたBさんは、相手の仕事をそのまま引き取るのではなく、「15時なら20分ほど確認できる」「この部分は過去の資料を参考にするとよい」「この内容ならCさんの方が詳しい」と伝えます。自分で対応できる範囲は手伝い、それ以外は資料や詳しい人を案内するという方法です。
同僚から仕事を頼まれた場合も、すぐに引き受けるのではなく、自分の締め切りや作業量を確認したうえで、「ここまでなら対応できる」「今日は難しいが、明日なら手伝える」と具体的に伝えます。相手を助けながらも、自分の仕事まで滞らせないように線引きしている点が、自己犠牲型のギバーとの違いです。
マッチャーはテイカーの一方的な行動に反応する
マッチャーは、ギブとテイクの公平なバランスを重視します。そのため、誰かが周囲から助けてもらうばかりで、自分からはほとんど協力しない状態が続くと、不公平だと感じます。
グラントは、マッチャーについて、テイカーが他人を利用して得をすることを嫌い、その行動に対して不利益が返るように動くことがあると説明しています。反対に、周囲を助けているギバーが十分に評価されていなければ、その人を支えたり、貢献を周囲に伝えたりすることもあるとしています。
たとえば、Aさんが何度も同僚の仕事を手伝っているのに、その同僚はAさんが困ったときには一度も協力しません。その様子を見ていたマッチャーのBさんが、「最近はAさんに作業が偏っています」と上司へ伝え、次の案件では担当を明確に分けるよう提案することがあります。Bさんにとって問題なのは、Aさんとその同僚のどちらが好きかではなく、一方だけが負担を引き受けている状態です。
成果の扱いについても同じです。Cさんが、Aさんの作業やアイデアを含む成果を自分一人の手柄として報告した場合、Bさんが「この部分はAさんが担当しました」と補足すれば、誰が何をしたのかが正しく伝わります。反対に、Aさんが周囲を支えていても表立って評価されていなければ、「この案件はAさんのサポートが大きかった」と伝えることもあります。
グラントは、こうしたマッチャーの行動が、テイカーだけが一方的に利益を得続けることを抑え、ギバーの貢献が報われることにもつながると説明しています。
職場のテイカーにどう対応する?
職場にテイカーがいるからといって、依頼をすべて断ったり、必要以上に距離を置いたりする必要はありません。注意したいのが、「協力するか、しないか」の二択ではなく、どこまで協力するのかを決めることです。
たとえば、作業そのものを代わりに行うのではなく、資料を渡す、進め方を説明する、短時間だけ確認する、といった方法があります。また、共同作業では、誰が何を担当したのかを記録しておきます。
グラントも、ギバーが周囲に利用されたり、他者への支援で疲弊したりするのを避けるには、相手を助けながらも自分の時間や利益を守る必要があると説明しています。テイカーに対して必要なのは対立することではなく、一方だけが仕事や負担を引き受ける関係をつくらないことです。
依頼ごとに協力できる範囲を決める
テイカーへの対応で大切なのは、頼まれるたびに相手の仕事を引き受けるのではなく、自分の仕事量や締め切りを確認したうえで、どこまでなら協力できるのかを決めることです。
たとえば、「今日中に資料を確認してほしい」と急な依頼を何度も受け、そのたびに自分の仕事を止めて対応しているとします。この状態が続けば、自分の業務に使える時間が減ってしまいます。そこで次の依頼では、「15分なら確認できます」「過去の資料を送るので、まずはこちらを参考にしてください」「全体の修正はできませんが、この部分なら確認できます」と、対応できる範囲を具体的に伝えます。
協力するか断るかの二択ではなく、「資料は共有できる」「相談には20分対応できる」「作業そのものは引き受けない」と、自分の仕事を守りながら手を貸せる範囲を決めます。こうして境界線を設けることで、一方的に仕事を引き受け続ける状態を防ぐことができます。
仕事や貢献の記録を残す
テイカーとの共同作業では、自分が担当した仕事や、相手を支援した内容を記録に残しておくことも大切です。テイカーの中には、周囲から受けた協力には触れず、完成した成果だけを自分の実績として扱う人もいるからです。
たとえば、営業資料を作る際に、同僚から「市場データを集めてほしい」「過去の事例も探してほしい」と頼まれ、その作業を担当したとします。ところが、完成した資料を同僚が上司へ報告するときに、こちらが集めたデータや調査について触れず、「自分でまとめました」と説明するようなケースです。後から「自分も手伝いました」と伝えても、どこまで担当したのかを客観的に示せなければ、話が曖昧になることがあります。
こうした場合に備えて、メールやチャット、タスク管理ツールなどに「市場データの収集を担当」「過去事例を3件確認」「資料の○ページを作成」と、業務の流れの中で自然に記録を残しておきます。
記録を残す目的は、テイカーを監視することではありません。誰が何を担当し、どのように案件へ貢献したのかを事実として残し、他人の仕事が一人の成果として扱われるのを防ぐためです。
テイカーの仕事まで自分の担当にしない
テイカーから繰り返し仕事を頼まれていると、本来は相手が担当する仕事まで、自分が処理する状態になることがあります。
たとえば、同僚から「今月は忙しいから、顧客データの集計を代わりにやってほしい」と頼まれ、今回だけのつもりで対応したとします。ところが翌月も「前回と同じようにお願い」と依頼され、さらにその次の月も同じ仕事を頼まれました。一方、その同僚は空いた時間を自分の営業活動に使っています。この状態が続けば、本来その人が担当する集計作業をこちらが引き受け、その人だけが自分の成果につながる仕事へ時間を使うことになります。
このような場合は、「今回は対応しますが、次回からはそちらでお願いします」「集計方法は説明できますが、毎月の作業までは引き受けられません」と伝えます。手伝うこと自体を拒むのではなく、今回限りの支援なのか、今後も担当する仕事なのかを明確にします。
テイカーへの対応では、「一度手伝ったから次もやる」という流れをそのまま続けないことが大切です。相手が担当すべき仕事まで自分が抱え込まず、必要な協力だけを行うことで、一方的に仕事を引き受ける関係を防げます。
1対1で抱え込まず、上司やチームに共有する
テイカーから同じような依頼を何度も受けたり、自分の仕事まで押しつけられたりしている場合は、本人とのやり取りだけで解決するのを避けます。個人間の問題にしてしまうと、「頼まれた側が断ればよい」という話になり、同じ状態が繰り返されることがあるからです。
たとえば、「急ぎだから」と毎週のように自分の担当ではない作業を頼まれ、本来の仕事に影響が出ているような場合は、相手を「テイカーだ」と批判するのではなく、「今月はこの作業を3回依頼され、合計で数時間対応している」「このまま続くと自分の担当業務の締め切りに影響する」と、事実を整理して上司へ相談します。そのうえで、今後も必要な作業なら担当者を決める、依頼の優先順位を上司に確認するなど、個人間の貸し借りではなくチームの仕事として扱います。
成果を自分のものとして扱われるケースでも同様です。「あの人は人の手柄を取る」と訴えるのではなく、「この資料では自分がデータ分析と構成を担当した」と具体的に共有します。感情的な評価ではなく、誰が何をしたのかを事実として伝えることがポイントです。
グラントは、テイカーについて、周囲から一方的に利益を得る行動を続けると、その振る舞いを知った人から協力を得られなくなり、長期的には評判を損なうことがあると説明しています。ただし、「いずれ周囲も気づくから放っておけばよい」という意味ではありません。
自分の仕事に支障が出るほど依頼が続いている、担当していない仕事まで繰り返し引き受けている、自分の成果を相手の実績として扱われているといった場合は、その状態を放置せず、上司やプロジェクト責任者に相談します。
テイカーかどうかを周囲に判定してもらう必要はありません。問題にするのは、その人の性格ではなく、仕事の負担や成果の扱いに偏りが生じているという事実を伝えることが大切です。
まとめ
マッチャー・テイカー・ギバーは、人とのやり取りで「与えること」と「受け取ること」をどう考えるかを整理した考え方です。大切なのは、職場の人を3タイプに決めつけることではありません。誰か一人に仕事や相談が集中していないか、周囲の協力が一方通行になっていないか、貢献が正しく評価されているかを見るための視点として活用することができます。
とくに、頼まれると断れない人へ仕事が集中していたり、周囲を支える人ほど疲弊していたりする場合は、個人の性格だけでなく、仕事量や役割分担、上司・同僚からの支援にも目を向ける必要があります。
こうした職場全体の状態を確認する方法の一つが、ストレスチェックの集団分析です。ストレスチェックでは、部署ごとの仕事の負担や裁量、上司・同僚からの支援などを確認し、特定の人に負担が集中していないかを考える材料にはなります。人間関係をタイプ分けだけで終わらせず、働き方や職場の仕組みまで見直すことが大切です。
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