
マイナス思考とは、物事を悪い方向に考えたり、失敗や欠点ばかりに目が向いたりする考え方のことです。
こうした傾向は、本人の考え方の癖だけで生まれるわけではありません。過去の経験、仕事の負担、人間関係、睡眠不足や疲れなどが影響していることもあります。
この記事では、マイナス思考に見られる特徴や背景、上手な付き合い方を紹介します。あわせて、人事担当者や管理職が従業員にどう対応すればよいかも解説します。
目次
マイナス思考とは?
マイナス思考とは、物事の悪い面や失敗の可能性ばかりに意識が向き、実際以上に悪い結果を想像してしまう考え方のことです。
不安なときに悪い結果を考えてしまうのは、誰にでもあることです。問題になるのは、失敗や欠点ばかりが気になり、まだ起きていないことまで悪い方向に考え続けてしまう状態です。
失敗や欠点に意識が向く
マイナス思考が強くなると、うまくできたことよりも、失敗したことや自分の欠点ばかりが気になってしまうことがあります。評価された部分があっても、注意された点や修正を求められた部分に意識が集中してしまい、自分の仕事全体を悪く捉えてしまうことも少なくありません。
たとえば、上司から企画書について「全体としてよくまとまっている。ここだけ修正してほしい」と言われたようなケースでは、本来は「全体は評価された」「一部は修正が必要だった」という両方の内容を受け取ります。
ところが、マイナス思考が強いと、「ここだけ修正してほしい」という部分ばかりが気になってしまい、「企画書を書くのが苦手なのかもしれない」「自分は仕事ができない」と、自分の能力全体まで低く評価してしまいます。
悪い結果を先回りして考える
マイナス思考が強くなると、まだ起きていないことについて、悪い結果を先に予想してしまうことがあります。実際には結果が分からない段階でも、「きっとうまくいかない」「失敗したら評価が下がる」と考えてしまいます。
仕事では、起こり得る問題を事前に考えること自体は、悪いことではありません。「質問されそうな内容を整理しておこう」「資料をもう一度確認しておこう」と準備につなげられることもできます。
一方、根拠を確かめないまま悪い結果ばかりを考え続けると、実際の状況以上に不安が膨らんでしまいますので、注意が必要です。
過去の失敗を繰り返し考える
マイナス思考が強くなると、すでに終わった失敗や後悔を何度も思い返してしまうことがあります。頭の中では同じ出来事を繰り返し振り返り、自分を責めたり、周囲からの評価を気にしたりしてしまいます。
嫌だった出来事や自分の失敗について繰り返し考え続けることは、心理学で「反すう」と呼ばれています。反すうが続くと、すでに終わった出来事に意識が向き続け、気持ちを切り替えるまでに時間がかかります。反すうとストレスや心理的な負担との関連も研究されています。
参考:国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター/考えの工夫(6つのコラム、適応的思考の導き方)
参考:公益社団法人日本看護科学学会/反すうの概念分析
マイナス思考になるのはなぜ?
マイナス思考が続いてしまう理由としては、考え方の癖や過去の経験、そのときの心身の状態、仕事の負担、職場の人間関係など、さまざまな要因が考えられます。普段は気にならないことでも、仕事が立て込んでいたり、十分に休めていなかったりすると、失敗や不安ばかり考えてしまうこともあります。
ここでは、マイナス思考が強くなる背景として考えられる要因を4つに分けて説明します。
考え方の癖や過去の経験が影響する
同じ出来事でも、受け止め方は人によって変わります。仕事でミスを指摘されたときに、「次は気をつけよう」と考える人もいれば、「また失敗した。自分は仕事ができない」と、自分の能力まで否定的に捉えてしまう人もいます。
こうした受け止め方の違いには、これまでに身についた考え方の癖が関係しています。認知行動療法では、物事を受け止めたり判断したりするときの土台となる考え方を「スキーマ」と呼びます。
スキーマは、「自分はこういう人間だ」「人から認められるには失敗してはいけない」「仕事は完璧にこなすべきだ」といった、自分自身や周囲の人、社会について持っている基本的な考え方です。普段は強く意識していなくても、何か出来事が起きたときの受け止め方に影響すると言われています。
スキーマは、これまでの経験や人との関わりを重ねるなかで形成されると考えられていて、失敗したときに強く責められる経験が続けば、「失敗すると評価が下がる」と考えるようになることもあります。
仕事の負担やストレスが続いている
仕事量の多さや重なる納期、責任の重い業務が続くと、心身の負担は大きくなります。
余裕があれば「忙しい時期だから仕方ない」「優先順位をつけて進めよう」と考えられることでも、負担が続くと「終わらないかもしれない」「またミスをするかもしれない」「自分には無理だ」と、悪い結果ばかり考えてしまいがちです。
以前よりマイナス思考が強くなったと感じるときは、仕事量の増加、休息時間の減少、責任の重い業務の継続がないかを振り返ってみましょう。
睡眠不足や疲労が重なっている
睡眠不足や疲労が続くと、注意力や判断力が低下するだけでなく、感情を落ち着かせたり、物事を冷静に捉えたりする力にも影響が及びます。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、睡眠不足は日中の眠気や疲労、注意力・判断力の低下などにつながるとされています。
睡眠と感情の関係を調べた国立精神・神経医療研究センターなどの研究では、睡眠不足の状態では、恐怖表情などのネガティブな刺激に対して「扁桃体」の活動が強まり、感情の調整に関わる腹側前帯状皮質との連携が弱まることが確認されました。また、この連携の低下が大きいほど、不安や混乱が強まる傾向も示されています。
つまり、十分に眠れているときなら「少し注意されただけ」「今回はうまくいかなかっただけ」と受け止められることでも、睡眠が足りず疲れていると、必要以上に深刻に受け止めるリスクが高まります。冷静に別の見方を考える余裕が減り、不安や失敗といった悪い情報へ意識が向くためです。
したがって、以前より悲観的な考えが増えたときには、考え方だけの問題と捉えず、睡眠不足や疲労が続いていないかも確認する必要があります。
人間関係や職場環境に負担がある
職場の人間関係や働く環境に強い負担が続くと、仕事に対する不安や警戒心が高まり、物事を悪い方向へ考える要因になることがあります。
上司から繰り返し厳しく叱責されたり、周囲に相談できる人がいなかったりすると、「また怒られるかもしれない」「何か失敗したら自分だけで対応しなければならない」と考えてしまい、実際には何も起きていない場面でも、過去の経験から悪い結果を予測するようになり、仕事そのものに不安を感じてしまうことがあります。
上司や同僚から十分な支援を得られない状態が続くと、仕事上の問題を一人で抱え込むことになります。誰にも相談できないままでは、「この対応で合っているのか」「問題が大きくならないか」と不安を抱えたまま仕事を進めることになります。
こうした不安が続くと、実際に問題が起きていなくても、失敗やトラブルを先回りして考えるようになります。周囲からの支援が少ない職場では、仕事そのものの負担に加えて、「何か起きても自分で何とかしなければならない」という心理的な負担も重なり、マイナス思考が強まる要因になります。
参考:国立精神・神経医療研究センター/睡眠不足で不安・抑うつが強まる神経基盤を解明
参考:厚生労働省/健康づくりのための睡眠ガイド2023
マイナス思考との付き合い方
マイナス思考が浮かんだときに、「考えてはいけない」「もっと前向きにならなければ」と無理に打ち消そうとする必要はありません。まず、自分が何を不安に感じ、どのような考えが浮かんでいるのかを整理することが大切です。
認知行動療法では、頭に浮かんだ考えをそのまま事実と受け取るのではなく、実際に起きたことや、その考えを裏づける根拠を確認しながら、別の捉え方を検討していきます。目指すのは、何でも前向きに考えることではなく、悪い方向へ偏っていないかを確かめ、現実に合った考え方へ整えることです。
ここでは、仕事でマイナス思考が強くなったときに、自分の考えを整理するための4つの方法を紹介します。
起きたことを事実ベースで整理する
マイナス思考が強くなると、実際に起きたことに、自分の予想や思い込みを重ねて考えてしまうことがあります。そんなときは、まず確認できる事実だけを整理します。
上司から「この資料を修正してください」と言われた場合、確認できるのは「資料の修正を求められた」という事実です。この時、もし「内容全体を評価されていない」「自分は仕事ができないと思われている」と考えてしまったとしても、それは事実として確認された内容ではなく、自分なりの解釈や推測です。
悪い方向へ考え始めたときは、「実際に何が起きたのか」と「自分はそこからどう受け取ったのか」を分けてみましょう。事実と解釈を整理すると、まだ確認できていないことまで悪い結果として決めつけていないかを見直すことができます。
不安や考えを書き出して整理する
不安が強いときは、頭の中だけで考え続けるより、内容を分けて書き出した方が整理できます。
このとき、思いついたことをそのまま並べるのではなく、「何が起きたか」「何を考えたか」「何が不安なのか」「今できることは何か」の順に書いていきます。
たとえば、明日の会議が不安な場合は、次のように分けます。
「何が起きる予定か」
明日、上司や関係部署が参加する会議で説明を担当する。
「頭に浮かんでいること」
質問に答えられないかもしれない。資料に抜けがあるかもしれない。厳しく指摘されるかもしれない。
「自分で確認・対応できること」
資料を見直す。想定される質問を書き出す。回答できない質問が出た場合の伝え方を決めておく。
「自分では決められないこと」
上司がどう評価するか。どのような質問が出るか。
ここまで分けると、漠然としていた不安の中に、「準備すれば対応できること」と「今考えても決められないこと」が混在していたことが分かります。
認知行動療法で使われるコラム法でも、出来事、気分、頭に浮かんだ考えなどを書き分けながら整理します。仕事で取り入れる場合は、さらに「今できる行動」を一つ決めると実践につながります。
書き出したあとにすべてを解決しようとする必要はありません。「今日は資料を確認する」「想定質問を3つだけ考える」といったように、次にやることを一つ決めれば、不安を抱えたまま考え続ける状態から、具体的な行動へ切り替えることができます。
失敗だけで自分を評価しない
仕事で失敗すると、「自分は仕事ができない」「この仕事に向いていない」と、自分の能力全体を否定したくなることがあります。
そんなときは、まず「自分は駄目だった」と考える前に、何がうまくいかなかったのかを具体的にします。プレゼンテーションで説明を間違えたのであれば、「プレゼンが苦手」ではなく、「数字の確認が足りず、売上データを一か所間違えた」というように、失敗した部分をできるだけ限定して捉えます。
次に、その原因を「自分の能力」ではなく、実際の行動や状況から確認します。「資料の確認時間が足りなかった」「直前に数字を差し替えた」「緊張して説明の順番を飛ばした」など、何が影響したのかを具体的に考えます。原因が分かれば、「前日までに数字を確定する」「発表前にチェック項目を確認する」といった次の対応を決めることができます。
無理にポジティブになろうとしない
マイナス思考が続くと、「もっと前向きに考えなければ」と自分に言い聞かせたくなります。けれども、不安や心配が残っている状態で、「絶対にうまくいく」「何も心配しなくていい」と考え直しても、気持ちがついてこないことがあります。
大切なのは、マイナスの考えを無理にポジティブへ変えることではなく、今の状況に合った考え方へ整えることです。認知行動療法でも、否定的な考えをすべて肯定的な考えに置き換えるのではなく、事実を確認しながら、極端になっていない考え方を探していきます。
たとえば、明日の商談を前に「きっと失敗する」と考えている時に「絶対に成功する」と言い聞かせる必要はありません。まず、「何を不安に感じているのか」を具体的にします。「質問に答えられないかもしれない」「提案内容に弱い部分があるかもしれない」と分けて考えると、準備できることが見えてきます。
そのうえで、「質問されそうな内容は確認した」「提案資料も見直した」「結果は分からないが、準備できることは済ませた」と、確認できる事実をもとに考え直します。悪い予測を打ち消すのではなく、事実に合わせて考えを修正するイメージです。
マイナス思考との付き合い方では、「悪い考えをなくす」ことよりも、「その考えにどこまで根拠があるか」「今できることは何か」を確認する方が実践的です。無理にポジティブになろうとせず、現実に合った考え方へ少しずつ整えていくことがポイントです。
参考:国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター/考えの工夫(6つのコラム、適応的思考の導き方)
参考:国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター/認知行動療法セルフケアテキスト
人事・管理職はどう対応する?
部下や従業員からマイナス思考の発言が増えても、すぐに「マイナス思考の人」と決めつけるのは適切ではありません。仕事量の増加や人間関係の悩み、疲労の蓄積など、仕事や職場の状況が影響している可能性も考えられます。
管理職は、日頃の仕事ぶりや様子から普段との変化に気づき、本人の話を聞きながら、仕事上の負担がないかを確認します。業務量や役割分担など、職場で調整できる問題であれば対応を検討します。配置や人事異動、労働条件など、管理職だけでは対応できない問題については、人事労務部門との連携が必要です。
また、心身の状態について専門的な判断が必要な場合は、管理職や人事だけで抱え込まず、産業医や保健師などの産業保健スタッフにつなぎます。
「本人の性格」と決めつけない
部下から「また失敗する気がする」「自分には無理だ」といった発言が続くと、「もともと悲観的な性格なのだろう」と受け止めてしまうかもしれません。しかし、こうした発言だけで本人の性格を判断すると、仕事上の負担や職場で起きている変化を見落とすおそれがあります。
管理職がまず確認したいのは、以前と比べて本人の様子に変化がないかという点です。これまで問題なく取り組んでいた仕事に急に自信をなくした、発言が消極的になった、ミスや遅刻が増えたといった変化が続いている場合は、その背景を確認します。
普段と比べて何が変わったか
発言や表情、仕事への取り組み方など、いつ頃からどのような変化が出ているのかを確認します。
仕事にどの程度影響しているか
集中できない、判断に時間がかかる、ミスが増えた、仕事が予定どおり進まないなど、実際の業務への影響を確認します。
仕事量や納期、責任が増えていないか
担当業務の増加、締め切りの集中、残業の増加、責任の重い仕事への変更など、最近の働き方に変化がないかを確認します。
人間関係や周囲からの支援に問題がないか
上司や同僚との関係、困ったときに相談できる相手がいるか、職場で孤立していないかなどを確認します。
本人が何に困っているのか
管理職側で原因を決めるのではなく、「今、一番負担に感じていることは何か」「どの仕事で不安が強くなるのか」と本人の話を聞きます。
この順番は厚生労働省が定めたチェック手順ではなく、本人の状況を整理するための一例です。実際には、本人の様子や話の内容に応じて確認する項目を変えます。
声をかける際も、「もっと前向きに考えたほうがいい」「気にしすぎだよ」と考え方を変えるよう促すのではなく、「最近、以前より大変そうに見えるけれど、何か変わったことはある?」「仕事で負担になっていることはない?」と、本人が現在の状況を話せるようにします。
管理職に求められるのは、本人の性格を評価することではありません。普段との変化に気づき、本人の話を聞き、仕事や職場に負担の原因がないかを確認することが、必要な対応を考える第一歩です。
必要に応じて専門職につなぐ
本人の話を聞いても、管理職や人事だけでは心身の状態を判断できない場合は、産業医や保健師などの産業保健スタッフへの相談を検討します。管理職が本人の状態を診断したり、マイナス思考そのものを改善しようとしたりする必要はありません。
専門職への相談を考えるきっかけとしては、以前と比べて元気がない状態が続いている、仕事への集中が大きく落ちている、ミスや遅刻、欠勤が増えている、本人が強いつらさを訴えているといった変化が挙げられます。これらは診断の基準ではなく、普段との違いに気づくためのサインとして捉えます。管理職が対応に迷った場合は、本人への対応方法について産業医や保健師に相談する方法もあります。
本人に専門職への相談を勧める際は、病名や心身の状態を決めつけず、実際に確認した変化をもとに話します。「最近、かなり疲れているように見える」「仕事への不安が続いていると聞いたので、一度、産業医に相談してみませんか」と伝えれば、相談を勧める理由も伝わります。
相談先を案内するときは、窓口の名称だけでなく、誰に相談できるのか、予約が必要か、勤務時間中に利用できるのか、相談内容がどのように扱われるのかなど、利用に必要な情報も伝えます。社内に産業医や保健師などの相談先がない場合は、会社が契約している外部相談窓口や、地域の産業保健に関する相談窓口なども選択肢です。
専門職から就業上の配慮について意見や助言が示された場合は、本人のプライバシーを守りながら、必要な範囲で情報を共有し、業務量や勤務時間、担当業務などの調整を検討します。職場での対応は本人の希望だけで決めるのではなく、産業医などの専門的な意見も踏まえ、健康確保と業務の両面から判断します。
管理職や人事が担うのは、本人を診断することではありません。普段との変化に気づき、本人の話を聞き、職場で対応できる問題には対応し、専門的な判断が必要な部分は専門職につなぐことが基本です。
参考:厚生労働省「こころの耳」/管理監督者のためのメンタルヘルス研修教材
まとめ
マイナス思考は、失敗や悪い結果に意識が向き、必要以上に自分を否定したり、不安を先回りして考えたりする状態です。考え方の癖だけでなく、仕事の負担や人間関係、睡眠不足、疲労などが影響することもあります。
マイナス思考が強くなったときは、起きた事実と自分の解釈を分け、不安の内容を書き出しながら、今できることを整理する方法が役立ちます。無理にポジティブになろうとせず、現実に合った考え方へ整えていくことが大切です。
職場では、本人の性格だけの問題と決めつけず、仕事量や人間関係、働き方に負担がないかを確認する必要があります。ストレスチェックも、従業員本人が自分のストレス状態に気づき、企業が集団分析を通じて職場環境を見直すための一つの手段です。マイナス思考が目立つときも、本人だけに原因を求めず、職場全体の負担を確認する視点が求められます。
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