
カスハラとは、顧客や取引先などから受ける言動のうち、要求内容や言動の手段・態様が社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境を害するものを指します。
2026年10月からは、事業主にカスハラ防止のための措置を講じることが義務付けられ、企業には相談体制の整備や対応方針の明確化など、従業員を守るための具体的な取り組みが求められています。
この記事では、カスハラの判断基準や具体例、従業員や職場に与える影響、企業に求められる法的対応、実務上の対策について分かりやすく解説します。
目次
カスハラ(カスタマーハラスメント)とは
カスハラ(カスタマーハラスメント)とは、顧客や取引先、施設の利用者など、事業に関係する人から受ける言動のうち、社会通念上許容される範囲を超え、その言動によって労働者の就業環境が害されるものを指します。
2026年10月1日からは、改正労働施策総合推進法の施行により、事業主にカスハラ防止のための雇用管理上の措置を講じることが義務付けられました。企業には、相談窓口の整備や対応方針の明確化、被害を受けた従業員への適切な対応など、組織としてカスハラ対策を進めることが求められています。
参考:厚生労働省 あかるい職場応援団/カスタマーハラスメントとは
カスハラに該当する3つの要素
厚生労働省は、職場におけるカスタマーハラスメントについて、次の3つの要素をすべて満たすものとしています。
つまり、顧客から強い口調で苦情を受けたというだけで、直ちにカスハラに該当するわけではありません。誰からの言動なのか、どのような言動だったのか、その結果として従業員の就業環境が害されたかを確認して判断します。
1.顧客等による言動であること
カスハラは、顧客や取引先、施設の利用者など、事業に関係する相手から受ける言動を対象としています。
ここでいう「顧客等」は、商品やサービスを購入した人だけではありません。取引先の担当者や、駅・病院・学校・福祉施設・公共施設などの利用者をはじめ、事業に関係するさまざまな人が含まれます。また、現在の顧客に限らず、これから商品を購入したり、サービスを利用したりする可能性がある人からの言動も対象となります。
2.社会通念上許容される範囲を超えた言動であること
カスハラに該当するかどうかを判断する際は、その言動が一般的な社会常識に照らして、許容できる範囲を超えているかを確認します。判断するときは、要求の内容だけでなく、その要求を伝える方法や言動の程度も確認します。
たとえば、購入した商品に不具合があり、交換や返金を求めること自体は正当な申し入れです。
しかし、正当な要求であっても、従業員を長時間拘束する、人格を否定する発言を繰り返す、脅迫するなどの方法で要求した場合は、言動の手段や程度が社会通念上許容される範囲を超えていると判断されることがあります。
3.労働者の就業環境が害されること
3つ目は、その言動によって従業員が身体的または精神的な苦痛を受け、仕事を続けるうえで看過できない程度の支障が生じることです。
たとえば、顧客からの暴言や威圧的な言動が繰り返され、従業員が通常どおり業務を行えなくなった場合などが該当します。判断する際には、本人が不快に感じたかどうかだけでなく、同じ状況に置かれた一般的な労働者であれば、就業するうえで看過できない程度の支障が生じるかという観点も用いられます。
参考:厚生労働省/令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!
正当なクレームとの違い
カスハラと正当なクレームは、どちらも顧客から企業や従業員に対して意見や要求が示される点では共通しています。
しかし、正当なクレームは、商品やサービスの問題について改善や説明を求めるものであり、企業が適切に受け止めるべき申し入れです。
これに対してカスハラは、要求の内容や言動の方法が社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境を害するものを指します。
たとえば、購入した商品に不具合があり交換を求めることや、接客対応に問題があったとして説明を求めることは、通常のクレームとして対応すべき内容です。厚生労働省も、正当な申し入れについてはカスタマーハラスメントに該当しないと示しています。
一方、要求そのものに一定の理由があっても、その伝え方や要求の方法が許容される範囲を超える場合があります。たとえば、従業員に暴言を繰り返す、脅迫する、土下座を求める、長時間にわたって拘束するなどの行為です。このような場合は、要求内容だけでなく、言動の方法や程度も含めてカスハラに該当するかを判断します。
そのため企業側は、「強く抗議された」「厳しい言葉を受けた」という理由だけでカスハラと決めつけるのではなく、まず商品やサービスに問題がなかったか、顧客の要求に理由があるかを確認する必要があります。そのうえで、要求の伝え方や言動の程度、従業員の就業環境への影響まで含めて判断することが重要です。
参考:厚生労働省/カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
カスハラに該当する主な具体例
カスハラは、暴言や暴力だけを指すものではありません。顧客からの要求内容や、その要求を伝える方法、言動の程度によって、さまざまな行為がカスハラに該当します。厚生労働省のマニュアルでも、身体的な攻撃、精神的な攻撃、威圧的な言動、繰り返される要求、長時間の拘束など、複数の類型が示されています。
代表的な例として、次のような行為が挙げられます。
暴力や身体的な攻撃
従業員を殴る、蹴る、物を投げつけるなど、身体に危害を加える行為です。実際にけがをしたかどうかにかかわらず、暴力を用いた時点で重大な問題となります。
暴言・脅迫・人格を否定する発言
「殺すぞ」などと脅す、容姿や人格を否定する言葉を繰り返す、侮辱的な発言を続けるといった行為です。商品やサービスへの不満を伝える範囲を超え、従業員個人を攻撃する言動が該当します。
威圧的な言動や過度な謝罪要求
大声で怒鳴る、机をたたく、従業員を威圧する、土下座を求めるなどの行為です。謝罪そのものを求めることが直ちにカスハラになるわけではありませんが、要求の方法や内容が社会通念上許容される範囲を超えている場合は、カスハラに該当します。
同じ要求を繰り返す行為
すでに企業側が説明や回答を行っているにもかかわらず、同じ内容の苦情や要求を何度も繰り返す行為です。電話や来店を繰り返し、通常の業務に支障を与えるケースも含まれます。
長時間にわたって従業員を拘束する行為
店舗や窓口に長時間居座る、必要な説明が終わった後も電話を切らずに対応を求め続けるなど、従業員を長時間拘束する行為です。対応に多くの時間を取られることで、ほかの業務にも影響が及ぶ場合があります。
商品やサービスと関係のない要求
担当者の処分を求める、従業員の個人的な連絡先を要求するなど、本来の商品やサービスとは関係のない要求を行うケースです。要求内容そのものが社会通念上相当とはいえない場合があります。
SNSへの投稿などを利用した不当な要求
「SNSに書き込む」「動画を公開する」などと告げ、不当な値引きや特別な対応を求めるケースです。単にSNSへの投稿を伝えただけで直ちにカスハラとなるわけではなく、それを手段として不当な要求を行っているかどうかが判断のポイントになります。
このように、カスハラにはさまざまな形があります。ただし、同じ「交換を求める」「謝罪を求める」といった行為でも、それだけで一律にカスハラと判断することはできません。要求の内容に理由があるか、どのような言葉や方法で要求しているか、どの程度の時間や回数に及んでいるかなどを確認し、個別に判断する必要があります。
参考:厚生労働省/カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)
実際に起きたカスハラ事例
カスハラへの対応では、顧客からの言動そのものだけでなく、企業が被害を受けた従業員をどのように支えたかも重要になります。実際の裁判では、企業側が十分な対策を講じていたかどうかが、安全配慮義務との関係で争われた事例があります。
NHKサービスセンター事件
NHKサービスセンター事件では、コールセンターで働く従業員が、視聴者から電話でわいせつな発言や暴言などを受けたことについて、勤務先が安全配慮義務を怠ったとして損害賠償を求めました。
勤務先では、わいせつな電話を受けた場合は上司へ転送することや、同じ人物から繰り返し電話があった場合には従業員の判断で通話を切断できることなど、具体的な対応ルールを設けていました。さらに、電話相談やカウンセリングなど、従業員の心身を支える体制も整備していました。
東京高裁は2022年、こうした対応を総合的に評価し、勤務先は従業員の心身の安全を確保するために必要な対策を講じていたとして、安全配慮義務違反を認めませんでした。
社会福祉法人むつみ福祉会事件
社会福祉法人むつみ福祉会事件では、保育園の保護者とのトラブルによって強い心理的負荷を受けた保育士への対応が問題となりました。保護者らによる威圧的な対応などを受けた後、保育士はうつ病を発症し、自殺に至っています。
園側は、臨床心理士によるカウンセリングや面談、業務量の削減などを行っていました。しかし長崎地裁は2021年、保育士の心身の状態を十分に把握できていなかったことや、心理的負荷を軽減するための措置が十分ではなかったことなどから、安全配慮義務違反を認めました。
なお、この事件で裁判所が保護者の行為そのものを法的に「カスハラ」と認定したわけではありません。厚生労働省は、顧客等から強い心理的負荷を受けた従業員に対して、使用者がどのような対応を取るべきかを考えるうえで参考となる裁判例として紹介しています。
2つの事例を比べると、カスハラが発生した際には、従業員に対応を任せるのではなく、あらかじめ対応ルールを定めておくことや、必要に応じて上司へ引き継げる体制を整えることが重要だと分かります。また、被害を受けた後も、従業員の心身の状態を確認し、必要な支援を継続することが求められます。
参考:厚生労働省 あかるい職場応援団/NHKサービスセンター事件
参考:厚生労働省 あかるい職場応援団/社会福祉法人むつみ福祉会事件
カスハラが従業員や職場に与える影響
カスハラは、被害を受けた従業員の心身に負担を与えるだけでなく、日々の業務や職場全体にも影響を及ぼします。暴言や威圧的な言動、執拗な要求への対応に時間を取られることで、本来の業務が滞ることがあります。また、対応した従業員の仕事への意欲が低下したり、周囲の従業員が業務を引き継いだりすることで、職場全体の負担が増える場合もあります。
厚生労働省の調査では、過去3年間にカスハラに該当すると判断した事案があった企業のうち、63.4%が「通常業務の遂行への悪影響」、61.3%が「労働者の意欲・エンゲージメントの低下」、22.6%が「労働者の休職・離職」を被害として挙げています。
カスハラへの対応に時間を取られると、本来の業務が滞ったり、ほかの従業員が業務を引き継いだりすることがあります。また、被害を受けた従業員の仕事への意欲が低下し、休職や離職につながるケースも確認されています。
参考:厚生労働省/カスタマーハラスメントの発生状況
精神的・心理的な負担
カスハラを受けた従業員は、怒りや不安、恐怖、憂うつなど、強い心理的な負担を抱えることがあります。暴言や脅迫、威圧的な言動、執拗な要求などは、その場で不快な思いをするだけでなく、対応後の心身にも影響を残すことがあります。
厚生労働省の調査では、過去3年間に顧客等から著しい迷惑行為を受けた労働者1,200人のうち、67.6%が「怒りや不満、どきどきや不安、憂鬱な気持ちになった」と回答しています。カスハラが、従業員の心理状態に大きな影響を与えていることが分かります。
また、対応が終わった後も、相手の言動を思い出したり、再び同じ相手への対応を求められることに強い不安を感じたりする場合があります。こうした状態が続けば、仕事に集中できない、出勤そのものに負担を感じるなど、日常の勤務にも影響が及ぶことがあります。
厚生労働省は2023年に精神障害の労災認定基準を改正し、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」ことを、業務による心理的負荷を評価する具体的な出来事として追加しました。カスハラによる心理的負担が、精神障害の発症との関係で労災認定の対象になり得ることも明確にされています。
参考:厚生労働省/カスタマーハラスメントの発生状況
参考:厚生労働省/心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました
身体面に現れる不調
カスハラによる心理的な負担は、気分の落ち込みや不安だけでなく、睡眠や体調にも影響を及ぼすことがあります。対応後も緊張が続いたり、相手の言動を思い出したりすることで、眠れない状態が続く場合があります。
厚生労働省の調査では、過去3年間に顧客等から著しい迷惑行為を受けた労働者のうち、4.9%が「眠れなくなった」と回答しています。また、0.8%が「通院したり服薬をした」、1.7%が「入院した」と回答しており、カスハラによる負担が医療機関の受診や入院に至るケースも確認されています。
企業側には、被害を受けた従業員の心理面だけでなく、睡眠や体調の変化にも目を向けることが求められます。本人から不調の訴えがあった場合は、必要に応じて業務から離す、休養を確保する、産業医や医療機関につなぐなど、状態に応じた対応が必要です。
参考:厚生労働省/職場のハラスメントに関する実態調査 労働者調査
仕事への意欲や業務への影響
カスハラは、従業員の心理面だけでなく、仕事への意欲や日々の業務にも影響します。
長時間にわたる電話対応や、同じ要求への繰り返しの対応が続くと、通常業務に支障が出ることがあります。また、カスハラを受けた後に仕事への意欲が低下したり、職場内での会話や連携が減ったりするケースも確認されています。
厚生労働省の2023年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為に該当すると判断した事案があった企業のうち、63.4%が「通常業務の遂行への悪影響」、61.3%が「労働者の意欲・エンゲージメントの低下」を被害として挙げています。
労働者への調査でも、顧客等から著しい迷惑行為を受けた861人のうち、46.1%が「仕事に対する意欲が減退した」、10.6%が「職場でのコミュニケーションが減った」と回答しています。特に、同じような行為を何度も繰り返し受けた人では、「仕事に対する意欲が減退した」と回答した割合は57.5%、「職場でのコミュニケーションが減った」は21.8%でした。
このように、カスハラは被害を受けた従業員本人の意欲低下にとどまらず、通常業務の進行や職場内のコミュニケーションにも影響します。
参考:厚生労働省/従業員を守るために―カスタマーハラスメント対策の新ルール
参考:厚生労働省/令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査(顧客等からの著しい迷惑行為を受けた労働者の心身への影響)
休職・離職につながる可能性
カスハラは、従業員の休職や離職につながる可能性がある問題です。
厚生労働省の2023年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為に該当すると判断した事案があった企業のうち、22.6%が被害として「労働者の休職・離職」を挙げています。
休職や離職に至る背景には、仕事内容や職場環境、家庭の事情など、複数の要因が関係しますが、カスハラへの対応を従業員個人に任せたままにしたり、被害を訴えても会社が十分に対応しなかったりすると、心理的な負担や不安が長引くことがあります。
企業には、従業員から相談を受けた段階で状況を確認し、必要に応じて顧客対応から外す、担当者を交代する、休養を確保するなど、本人の心身の状態に応じた対応が求められます。
参考:厚生労働省/顧客等からの著しい迷惑行為該当事例の特徴(令和5年度企業調査)
周囲の従業員や職場全体への影響
カスハラの影響は、実際に被害を受けた従業員だけにとどまりません。対応をほかの従業員が引き継いだり、通常業務を代わりに担当したりすることで、周囲の従業員にも負担が及びます。
また、同僚が顧客から激しく叱責されている場面を目にしたり、同じ顧客への対応を求められたりすると、職場内に不安が広がることがあります。さらに、被害を受けた従業員が会社に相談しても十分な対応が取られなければ、「自分が同じ状況になったときも守ってもらえないのではないか」と感じる従業員が出てくる可能性もあります。
こうした点から、カスハラは担当者個人の問題としてではなく、職場全体の問題として捉える必要があります。会社がどのような方針で対応するのか、相談を受けた際にどのような支援を行うのかを明確にしておくことは、周囲の従業員の安心感にも関わります。
厚生労働省の2023年度調査では、ハラスメント対策を実施した企業が感じた副次的な効果として、「職場のコミュニケーションが活性化する・風通しが良くなる」が39.1%、「会社への信頼感が高まる」が34.7%と報告されています。カスハラを含むハラスメントに対して会社が明確な姿勢を示すことは、被害者本人の支援だけでなく、職場全体の安心感や会社への信頼にも関わります。
参考:厚生労働省/職場のハラスメントに関する実態調査
カスハラに関する企業の法的義務
2026年10月1日から、カスハラ対策は企業の自主的な取り組みではなく、法的義務となりました。改正労働施策総合推進法により、労働者を雇用するすべての事業主には、職場におけるカスハラを防止するため、必要な雇用管理上の措置を講じることが義務付けられています。
企業に求められるのは、相談窓口を設けることだけではありません。カスハラに対する会社の方針を明確にし、対応方法をあらかじめ定めたうえで、相談があった場合には事実関係を確認し、被害を受けた従業員に必要な支援を行うなど、組織として対応できる体制を整える必要があります。また、相談者のプライバシーを保護することや、相談したことを理由に不利益な取扱いをしないことも求められます。
さらに、使用者には従来から、労働契約法第5条に基づく安全配慮義務があります。カスハラを把握しながら必要な対応を取らず、従業員の心身に被害が生じた場合には、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われることがあります。また、カスハラによる強い心理的負荷によって精神障害を発症した場合は、労災認定の要件を満たせば労災として認定される可能性があります。
2026年10月から企業の対策が義務化
2026年10月1日から施行された改正労働施策総合推進法により、事業主には、職場におけるカスハラを防止するための措置を講じることが義務付けられました。対象は一部の業種や大企業に限られず、労働者を雇用するすべての事業主です。
カスハラは、接客業や小売業だけで起こるものではありません。顧客だけでなく、取引先や施設の利用者などから受ける言動も対象となるため、BtoB企業のほか、医療・福祉、教育、公共サービスなど、幅広い業種で対策が必要です。また、対面での言動だけでなく、電話やメール、SNSなどを通じた言動も対象となります。
企業には、カスハラが発生した後に個別対応するだけでなく、あらかじめ会社としての方針や対応方法を定め、従業員が相談できる体制を整えておくことが求められます。現場の従業員だけに判断や対応を任せるのではなく、組織として対応できる仕組みを整備することが必要です。
参考:厚生労働省/令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されました!
事業主に求められる雇用管理上の措置
厚生労働省のカスタマーハラスメント防止指針では、事業主が講じなければならない措置が具体的に定められています。社内で「カスハラを禁止する」と周知するだけでは十分ではなく、相談を受ける体制や、発生後の対応方法、悪質な事案への対処まで含めて整備する必要があります。
主な措置は、次のように整理できます。
カスハラに対する会社の方針を明確にする
会社として、カスハラには毅然と対応し、従業員を保護するという方針を明確にします。あわせて、カスハラとはどのような行為を指すのか、発生した場合にどのように対応するのかを定め、管理職を含む従業員に周知する必要があります。厚生労働省の指針では、社内報や社内サイトへの掲載、研修の実施などが例として示されています。
相談できる体制を整える
従業員がカスハラについて相談できる窓口をあらかじめ定め、社内に周知します。相談窓口は設置するだけでなく、担当者が相談内容や状況に応じて対応できる体制を整える必要があります。カスハラに該当するか判断が難しい段階や、発生するおそれがある段階の相談にも対応することが求められています。
発生後は事実確認と被害を受けた従業員への対応を行う
相談があった場合は、事実関係を迅速かつ正確に確認します。カスハラが確認された場合には、必要に応じて担当者を交代する、加害者と従業員を引き離す、産業保健スタッフなどにつなぐといった対応を行います。また、同じ問題を繰り返さないため、発生原因を確認し、再発防止策を講じることも必要です。
悪質なカスハラへの対処方法をあらかじめ決めておく
過度な要求を繰り返すなど、特に悪質なカスハラに対しては、事前に対応方針を定め、実際に対応できる体制を整えておくことが義務付けられています。厚生労働省の指針では、犯罪に当たる可能性がある場合の警察への通報、警告文の送付、店舗への出入り禁止などが例として挙げられています。法的な対応が必要な場合は、法務部門や弁護士との連携も想定されています。
相談者のプライバシーを守り、不利益な取扱いをしない
相談者などの情報については、プライバシーを保護するための措置を講じ、その内容を従業員に周知する必要があります。また、カスハラについて相談したことや、会社の事実確認に協力したことなどを理由に、解雇やその他の不利益な取扱いをしてはならないことも定められています。
参考:厚生労働省/事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
カスハラと安全配慮義務の関係
企業が従業員をカスハラから守る義務は、2026年10月に始まったカスハラ防止措置義務だけではありません。
使用者には以前から、労働契約法第5条に基づく「安全配慮義務」があります。
労働契約法第5条では、使用者は、労働者が生命や身体などの安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮を行うことが定められています。厚生労働省は、ここでいう「安全」には身体だけでなく、心身の健康も含まれると説明しています。
カスハラについても、企業が被害を把握していたにもかかわらず、同じ顧客への対応を続けさせたり、従業員から相談を受けても必要な対応を取らなかったりした場合には、安全配慮義務との関係が問題になることがあります。特に、会社が対応できる状況にありながら必要な措置を取らず、その結果として従業員の心身に被害が生じた場合は、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。
参考:厚生労働省 こころの耳/安全配慮義務
精神障害が労災認定される場合もある
カスハラによって強い心理的負荷を受け、その結果として精神障害を発症した場合には、労災として認定されることがあります。
厚生労働省は2023年9月に「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」を改正し、業務による心理的負荷を評価する具体的な出来事として、**「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」**を新たに追加しました。厚生労働省は、この項目を「いわゆるカスタマーハラスメント」と明記しています。
なお、労災認定では、カスハラを受けたという事実だけで判断するわけではありません。迷惑行為に至った経緯や状況、行為の内容や程度、相手との職務上の関係などを踏まえて、業務による心理的負荷の強さを評価します。
たとえば、顧客などから暴行や脅迫、ひどい暴言を受けた場合や、こうした行為が繰り返された場合などは、心理的負荷の程度を判断する際の重要な要素となります。
そのうえで、対象となる精神障害を発症しているか、業務による心理的負荷が認められるかなどを労災認定基準に基づいて個別に判断します。したがって、カスハラがあっただけで自動的に労災と認定されるわけではありません。
企業にとっても、カスハラは単なる顧客対応上のトラブルではありません。従業員の心身の健康や労務管理にも関わる問題として、被害を把握した段階から適切に対応することが重要です。
参考:厚生労働省/心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました
カスハラから従業員を守るための職場づくり
カスハラ対策では、法律で求められる体制を整えるだけでなく、実際に被害を受けた従業員をどのように守り、その後の職場環境をどう改善するかまで考える必要があります。カスハラへの対応を従業員個人に任せたままにすると、心理的な負担が長引いたり、通常業務に影響が及んだりするおそれがあります。
企業には、被害を受けた従業員を速やかに顧客対応から外す、必要な支援につなげる、事案の内容や対応経過を記録するなど、発生後の対応を具体的に進めることが求められます。また、同じ問題を繰り返さないためには、個別の事案を処理して終えるのではなく、職場全体の業務負担や支援体制も見直す必要があります。
発生時は従業員だけに対応を任せない
カスハラが発生した場合は、被害を受けた従業員だけに対応を続けさせないことが重要です。暴言や威圧的な言動を受けている最中に、本人だけで顧客への説明や判断を続ければ、心理的な負担がさらに大きくなることがあります。
現場では、一定の段階で上司や責任者が対応を引き継ぐ、担当者を交代する、必要に応じて顧客対応を終了するといった判断が必要です。誰に引き継ぐのか、どのような言動があった場合に対応を打ち切るのかをあらかじめ決めておけば、従業員がその場で一人で判断する必要もなくなります。
厚生労働省のカスハラ防止指針でも、カスハラが確認された場合には、被害を受けた労働者への配慮として、行為者と引き離すための配置転換や、必要な対応を行うことなどが示されています。
被害を受けた従業員の心身の状態を確認する
従業員のなかには、強い叱責や脅迫を受けた後に、不安や緊張が続いたり、眠れなくなったり、出勤することに負担を感じたりする場合があります。
そのため、事案が終わった後は、本人の心身の状態を確認し、業務を続けられる状態かどうかを把握する必要があります。通常どおり勤務できるのか、一時的に顧客対応から外した方がよいのか、休養が必要なのかなど、本人の状態を確認したうえで対応します。
また、本人が「大丈夫です」と話していても、時間がたってから不調が現れることもあります。深刻な事案では、発生直後だけでなく、その後も一定期間、体調や勤務状況を確認することが大切です。
産業医や相談窓口などにつなげる
カスハラを受けた従業員に、不安や不眠、気分の落ち込み、動悸などの不調が見られる場合は、本人の様子を確認したうえで、必要な支援につなげることが重要です。被害の程度によっては、通常業務を続けること自体が負担になることもあるため、まずは勤務を続けられる状態かどうかを確認します。
社内に産業医や保健師などの産業保健スタッフがいる場合は、本人の意向を確認しながら相談につなげます。社内の相談窓口や外部の相談サービスを利用できる場合は、連絡方法や利用手順を具体的に伝えます。症状が強い場合や長く続いている場合は、医療機関の受診を勧めることも検討します。
相談窓口を設けていても、従業員がその存在や利用方法を知らなければ、必要な支援にはつながりません。また、被害を受けた直後は、自分から相談先を探したり、状況を整理して説明したりすることが難しい場合もあります。管理職や人事担当者には、本人の負担を増やさないよう配慮しながら、利用できる支援を分かりやすく案内することが求められます。
厚生労働省も、職場のメンタルヘルス対策では、労働者からの相談への対応に加えて、産業保健スタッフや外部の専門機関と連携することを示しています。
ストレスチェックや集団分析を職場改善に生かす
ストレスチェックは、従業員が自分のストレス状態に気づき、必要に応じて面接指導や職場環境の改善につなげるための制度です。
ストレスチェックでは、個人ごとの結果だけでなく、部署や職場単位で結果を集計・分析する「集団分析」を行うことができます。
集団分析では、仕事の量や裁量、上司・同僚からの支援など、職場ごとの傾向を確認することができます。たとえば、顧客対応を担う部署で心理的な負担が高い場合は、カスハラへの対応だけでなく、業務量、人員配置、上司からの支援、相談体制、顧客対応のルールなどに課題がないかを確認する材料になります。
カスハラが繰り返し発生している部署では、個々の事案への対応だけでなく、従業員に負担が集中していないか、上司や同僚から十分な支援を受けられているか、対応ルールが現場で機能しているかまで確認する必要があります。ストレスチェックや集団分析は、こうした職場側の課題を見直すための材料として活用することができます。
参考:厚生労働省/ストレスチェック制度
参考:厚生労働省/集団分析・職場環境改善
事案を記録し、対応方法や職場環境を見直す
カスハラが発生した場合は、相手の言動、発生した日時や場所、対応した従業員、会社が取った対応などを記録しておくことが重要です。記録を残しておけば、同じ顧客から再び同様の行為があったときに、過去の経緯を確認したうえで対応することができます。また、対応が適切だったかを後から検証する際の資料にもなります。
事案が収束した後は、記録をもとに対応の流れを振り返ります。たとえば、現場の従業員が長時間一人で対応していなかったか、上司や責任者への引き継ぎが適切なタイミングで行われたか、被害を受けた従業員への支援が十分だったかを確認します。
同じような事案が繰り返されている場合は、個々の対応方法だけでなく、職場の体制そのものを見直す必要があります。人員配置に無理がないか、顧客対応のルールが現場で機能しているか、管理職が適切に介入できているかなど、背景にある課題まで確認します。
カスハラ対策では、記録と振り返りを重ね、対応方法や職場環境の改善につなげることで、同様の被害を繰り返さないための体制を整えていくことが重要です。
参考:厚生労働省/カスタマーハラスメント防止指針
まとめ
カスハラは、顧客や取引先などから受ける言動のうち、社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境を害するものを指します。2026年10月からは、事業主にカスハラ防止のための雇用管理上の措置が義務付けられ、企業には方針の明確化や相談体制の整備、被害を受けた従業員への対応などが求められています。
カスハラは、従業員の精神的・心理的な負担だけでなく、睡眠や体調、仕事への意欲、通常業務、休職や離職にも影響することがあります。被害を受けた従業員だけに対応を任せず、上司や人事、産業保健スタッフなどが連携し、心身の状態を確認しながら必要な支援につなげることが重要です。
また、個別の事案に対応するだけでなく、職場全体の負担にも目を向ける必要があります。ストレスチェックを実施している事業場では、集団分析を活用して、仕事の量や上司・同僚からの支援など、職場ごとの傾向を確認できます。カスハラ事案の記録や従業員からの意見などとあわせて確認することで、顧客対応を担う部署の負担や支援体制を見直す材料になります。
ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
導入方法や実施方法など、お気軽にお問い合わせください。

