努力―報酬不均衡モデルとは?具体例も解説

努力―報酬不均衡モデルとは、仕事に費やす努力と、そこから得られる報酬とのバランスに着目して、職業性ストレスを捉える理論モデルです。
また、仕事に過度に力を注ぎ、仕事から心理的に離れにくい「オーバーコミットメント」も、このモデルを理解するうえで重要な要素です。
この記事では、努力―報酬不均衡モデルの基本的な考え方から、職場で起こりやすい具体例、企業が見直したいポイントまで分かりやすく解説します。

努力―報酬不均衡モデルとは

努力―報酬不均衡モデル(Effort-Reward Imbalance Model:ERIモデル)とは、仕事に費やす努力と、そこから得られる報酬のバランスに注目して、職業性ストレスを捉える理論モデルです。ドイツの医学社会学者ヨハネス・ジーグリスト(Johannes Siegrist)らによって提唱されました。

このモデルでは、仕事上の要求や負担に多くの努力を費やしているにもかかわらず、給与や評価、昇進の見通し、雇用の安定など、それに見合う報酬が十分に得られない状態を「努力―報酬不均衡」と捉えます。そして、こうした高努力・低報酬の状態は、心理的ストレスだけでなく、抑うつなどの精神的健康や心血管系を含む健康上の問題と関連することが、国内外の研究で報告されています。

努力(Effort)とは

努力とは、仕事をするうえで求められる要求や責任、負担を指します。
ここでいう「努力」は、「本人がどれだけ頑張っているか」という意味ではありません。努力―報酬不均衡モデルでは、仕事量による時間的な圧力、重い責任、頻繁な作業の中断、残業を求められることなど、仕事をするうえで生じる負担を「努力」として捉えます。

たとえば、多くの業務を限られた時間で処理しなければならない、重要な判断を任されて責任が重い、日常的に残業を求められるといった状況です。つまり、本人の意欲や根性ではなく、仕事上どの程度の要求や負担にさらされているかを見るための概念です。

報酬(Reward)とは

努力―報酬不均衡モデルでいう「報酬」は、給与や賞与だけではありません。周囲からの評価や尊重、給与などの金銭的な処遇、昇進やキャリアの見通し、雇用の安定なども含まれます。
つまり、給与が一定水準に達していても、成果を上げても正当に評価されない、昇進の見通しがない、雇用が不安定といった状態では、「報酬」が十分とはいえないと解釈します。

努力―報酬不均衡モデルでは、仕事でどれだけ大きな負担や責任を引き受けているかと、その見返りとしてどのような評価や処遇、将来の見通しを得ているかを対にして考えます。

h3>努力と報酬の不均衡とは

努力と報酬の不均衡とは、仕事で大きな負担や責任を引き受けている一方で、それに見合う評価や処遇を得られていない状態を指します。
努力―報酬不均衡モデルでは、仕事量や責任が大きいこと自体ではなく、その努力に対して十分な報酬が返ってこないことに着目します。
高い努力に対して十分な報酬が得られない状態が続くと、「これだけ働いているのに報われない」という不満や緊張が蓄積します。

オーバーコミットメントとは

オーバーコミットメントとは、仕事に過度に力を注ぎ、仕事から気持ちを切り替えられない傾向を指します。勤務時間外も仕事のことが頭から離れない、仕事のために私生活を犠牲にしてしまうといった状態がその例です。
努力―報酬不均衡モデルでは、こうした傾向が強いと、努力と報酬のバランスが崩れた状態でも仕事に力を注ぎ続け、心身の負担が大きくなると考えられています。

ただし、研究結果は一貫していません。45件の研究をまとめたレビューでは、「高い努力」と「低い報酬」の組み合わせと健康との関連は多くの研究で確認された一方、オーバーコミットメント単独の影響や、不均衡との組み合わせによる影響については、明確な結論には至っていません。
参考:Social Science & Medicine/Reviewing the effort-reward imbalance model: drawing up the balance of 45 empirical studies
参考:Social Science & Medicine/A review of empirical studies on the model of effort–reward imbalance at work
参考:Journal of Occupational Health/日本人労働者における努力―報酬不均衡モデルに関する研究

努力と報酬が不均衡になる具体例

努力と報酬の不均衡は、さまざまな職場で起こり得ます。たとえば、仕事量や責任が増えているのに給与や評価が変わらない、重い責任を担っていても昇進の見通しがない、仕事上の負担が大きい一方で雇用が不安定といったケースです。

努力―報酬不均衡モデルでは、仕事の負担が大きいことだけでなく、それに対してどのような報酬が得られているかを重視します。
ここでは、努力と報酬のバランスが崩れる場面を具体的に見ていきます。

仕事量や責任は重いが、雇用が安定しない

Aさんは、1年ごとの有期契約で働いています。入社当初は補助的な業務が中心でしたが、経験を重ねるにつれて担当範囲が広がり、現在は主要な取引先への対応やチームの進行管理も任されています。一方で、契約を更新できるかは毎年その時期になるまで分からず、今後も働き続けられるという見通しを持てません。

努力―報酬不均衡モデルでは、雇用の安定も「報酬」の一つとして捉えます。そのため、有期契約であること自体が問題なのではありません。仕事量や責任が増えているにもかかわらず、雇用を継続できる見通しが得られない状態は、「高い努力」に対して「報酬」が少ないケースの一つと考えられます。

成果を上げても、給与や評価に反映されない

Bさんは営業部門で大型案件を担当し、売上や利益の向上につながる成果を上げました。取引先との調整や社内の関係部署との連携にも多くの時間をかけ、以前より大きな責任を担っています。しかし、評価基準が曖昧で、仕事ぶりが十分に評価されず、給与や賞与にもほとんど反映されませんでした。

努力―報酬不均衡モデルでは、給与などの金銭的な処遇だけでなく、仕事を適切に評価され、認められることも「報酬」に含まれます。このケースのように、大きな責任や負担を担っているにもかかわらず、それに見合う評価や処遇が得られない状態も、努力と報酬の不均衡の一例です。

長時間労働なのに、十分な評価や見返りがない

Cさんは、繁忙期になると残業が続き、通常業務に加えて、急な顧客対応や納期調整も担っています。以前より仕事量が増え、時間的な負担も大きくなっていますが、こうした働きぶりが人事評価や昇給、賞与にほとんど反映されていません。

努力―報酬不均衡モデルでは、長時間働いていること自体を問題とするわけではありません。仕事量や時間的な負担が大きい一方で、それに見合う給与、評価、尊重、昇進の見通しなどが得られていない状態を、努力と報酬の不均衡として捉えます。
参考:産業保健と看護/努力-報酬不均衡モデル(Effort-reward imbalance model/ERI model)
参考:Journal of Occupational Health/The Effort-reward Imbalance Model: Experience in Japanese Working Population
参考:Scandinavian Journal of Work, Environment & Health/Effort–reward imbalance at work and health: Review and critical appraisal of three decades of research

努力―報酬不均衡を減らすために企業ができること

努力―報酬不均衡を減らすには、従業員に求めている仕事量や責任と、給与、評価、昇進の機会、雇用の安定などが見合っているかを企業側が確認する必要があります。
「仕事量を減らす」「給与を上げる」だけではなく、どこに不均衡が生じているのかを見極めることが重要です。
仕事の負担が大きい部署では業務量や人員配置を見直し、成果が評価に反映されていない場合は評価制度を確認するなど、原因に応じた対応が求められます。キャリアの見通しや長時間労働、職場のストレス状況も含め、人事制度と職場環境の両面から見直すことが必要です。

仕事量や責任に見合った処遇になっているか確認する

従業員の仕事量や責任が増えている一方で、給与や評価、昇進などの処遇が見合っていなければ、努力と報酬の不均衡につながります。担当業務を増やしたり、これまで以上に重い責任を任せたりしたときは、役割の変化が処遇に反映されているかも確認することが大切です。

たとえば、役職は変わっていないものの、実際にはチームの管理や重要な判断まで任されているケースです。担っている役割と人事制度上の位置づけにずれがないか、給与や評価、昇進なども含めて確認する必要があります。

富士通では、ジョブ型人材マネジメントのもと、職種と職責の高さによって職務を区分し、職責の高さに応じて「FUJITSU Level」を設定しています。報酬水準もFUJITSU Levelに応じて決める仕組みです。ERIモデルを直接取り入れた制度ではありませんが、職責と処遇の対応を考えるうえで参考になる事例です。
参考:富士通株式会社/Financial Well-being

評価や昇進の基準を明確にし、処遇と結びつける

仕事に力を注いでも、何を基準に評価されるのか、どのような成果や行動が昇進につながるのかが分からなければ、自分の努力がどのように報われるのかを見通せません。企業側は、職種や役割ごとに評価基準を明確にするとともに、評価結果が給与や昇進などの処遇にどう反映されるのかを従業員に示すことが大切です。
また、評価結果を伝えるだけでなく、評価された点や今後求められることを本人に説明することも必要です。基準と評価結果、処遇の関係が分かれば、自分の仕事がどのように評価されているのかを確認できます。

株式会社日立製作所では、報酬に関する「グローバル報酬フィロソフィー」として、「市場競争力の確保」「ペイ・フォー・パフォーマンス」「透明性の維持」の3つを掲げています。

富士通株式会社では、グローバル統一の評価制度「Connect」を導入しています。チームの重点テーマをもとに個人の目標を設定し、上司と部下が1on1でパフォーマンスを振り返る仕組みです。評価結果は、報酬や人材配置、スキル向上支援の検討にも活用されています。

参考:株式会社日立製作所/報酬・福利厚生制度
参考:富士通株式会社/Financial Well-being

雇用の安定やキャリアの見通しにも目を向ける

努力―報酬不均衡モデルでは、給与や評価だけでなく、雇用の安定や昇進の見通しも「報酬」に含まれます。そのため、現在の処遇だけでなく、今後も安定して働けるか、どのような経験や能力が昇進や次の役割につながるのかといった点にも目を向ける必要があります。

たとえば、昇進や異動の仕組みが分からない、社内にどのような仕事やポジションがあるのか把握できない状態では、今後のキャリアについて具体的な見通しを持てません。キャリア面談や社内公募などを通じて、本人の希望を確認しながら、社内で選択できる仕事やキャリアの道筋を示すことも一つの方法です。

富士通株式会社では、社員のキャリア形成を支援する「FUJITSU Career Ownership Program(FCOP)」を展開しています。自身が希望するポジションに応募できる社内ポスティング制度のほか、社内キャリアカウンセラーによるキャリア面談や、上司との1on1を通じたキャリア対話などを実施しています。雇用の安定そのものを目的とした制度ではありませんが、社員が今後のキャリアを考え、社内で新たな役割に挑戦できる仕組みの一例です。

参考:国立大学法人東京大学/日本語版努力-報酬不均衡モデル調査票マニュアル
参考:富士通株式会社/Career & Growth Well-being

過度な長時間労働や業務負担を見直す

努力と報酬の不均衡を減らすには、給与や評価などの「報酬」だけでなく、仕事量や責任などの「努力」にあたる負担も見直す必要があります。

長時間労働が続いている場合は、単に残業時間を減らすよう求めるのではなく、その原因を確認します。業務量が多すぎないか、仕事が一部の従業員に偏っていないか、不要な会議や作業が残っていないかなどを洗い出し、必要に応じて業務の削減や分担、人員配置、仕事の進め方を見直します。

厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」でも、長時間労働の抑制につながる「仕事の進め方改善」として、会議の削減、必要性の低い資料の廃止、ICTを活用した業務効率化、業務計画や要員計画、役割分担の見直しなどを挙げています。長時間労働を従業員個人の問題だけにせず、業務量や仕事の進め方から見直すことが大切です。
参考:厚生労働省/働き方・休み方改善ポータルサイト 各種解説

ストレスチェックの集団分析を活用する

努力―報酬不均衡を考えるときは、給与や評価制度だけでなく、日々の仕事でどのような負担が生じているかにも目を向ける必要があります。仕事量が多い、自分で仕事を進められる範囲が狭い、上司や同僚から十分な支援を受けられていないといった職場では、従業員の負担がさらに大きくなることがあります。

ストレスチェックの集団分析では、部署ごとに仕事の量的負担、仕事のコントロール、上司の支援、同僚の支援などを確認することができます。努力―報酬不均衡そのものを測るものではありませんが、どの部署で仕事上の負担が大きくなっているのかを把握し、業務量や仕事の進め方、職場の支援体制を見直す材料として活用できます。

厚生労働省も、集団分析の結果だけを見るのではなく、業務内容や労働時間などの情報とあわせて職場の状況を確認し、職場環境の改善につなげることを示しています。
実際にEY新日本有限責任監査法人では、ストレスチェックの集団分析結果をもとに各部署を分類し、結果の悪かった部署にヒアリングを実施しています。そのうえで、把握した課題に応じてコミュニケーション研修などを行い、職場環境の改善につなげています。集団分析を、部署ごとの課題を見つけ、その後の対策を考えるために活用した事例です。
参考:厚生労働省「こころの耳」/EY新日本有限責任監査法人の取組事例

 

ストレスチェッカーとは

「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しています。
また、無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下である「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場でも実施義務化が進むため、早めの準備が大切です。
導入や運用については、ぜひお気軽にご相談ください。

ストレスチェック導入のご相談はこちら

 

まとめ

努力―報酬不均衡モデルは、仕事で求められる負担や責任と、給与、評価、昇進の機会、雇用の安定などの「報酬」とのバランスから、職業性ストレスを捉える考え方です。仕事量や責任が大きい一方で、それに見合う評価や処遇が得られない状態が続くと、心理的な負担や健康への影響につながることが研究で報告されています。

企業側は、仕事量や責任と処遇のバランスを確認し、評価制度や昇進基準、キャリアの見通しを明確にすることが重要です。また、長時間労働や業務の偏りが続いていないかを見直し、必要に応じて仕事の進め方や人員配置も調整する必要があります。

さらに、ストレスチェックの集団分析を活用すれば、部署ごとの仕事量や裁量、上司・同僚からの支援などを確認することができます。

ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
導入方法や実施方法など、お気軽にお問い合わせください。

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