
付き合い残業とは、自分の仕事は終わっているのに、「上司がまだ帰らない」「周囲が残っているから自分だけ帰りづらい」といった理由で、職場に残ることを指す俗称です。
このような付き合い残業は、単なる職場の慣習で済まされるようなものではなく、労務管理や従業員の健康にも関わる問題になりかねません。
この記事では、付き合い残業が生まれる原因や付き合い残業のリスク、付き合い残業をなくすためにできることなどをご紹介します。
目次
付き合い残業とは
付き合い残業とは、自分の仕事は終わっているにもかかわらず、「上司より先には帰りづらい」「忙しそうな同僚を残して帰るのは気まずい」と感じ、仕事が終わっていても周囲に合わせて職場に残る状況を指します。
自分の仕事が終わっていても、周囲への遠慮や評価への不安から帰れない状態が続くと、「仕事が終わったら帰る」という当たり前のことさえ、周囲の様子を見ながら判断するようになってしまいます。
なぜ付き合い残業が生まれるのか
付き合い残業が生まれる背景には、「自分だけ早く帰ると仕事への意欲が低いと思われるのではないか」「忙しい同僚を残して帰ると、協調性がないと思われるのではないか」といった不安があります。
また、上司の働き方が、部署全体の雰囲気に影響する場合もあります。
上司がいつも遅くまで残っていたり、長時間働く人を高く評価したりしていると、部下は「早く帰らないほうがよい」と受け取りかねません。「仕事が終わったら帰ってよい」と伝えていても、実際の評価や仕事の振り方がそれと合っていなければ、付き合い残業を減らすことはできません。
付き合い残業が職場にもたらすデメリット
本来、残業は業務上の必要性によって決まるものです。それにもかかわらず、「周囲がまだ残っているから」という理由で退勤時刻が遅くなれば、必要のない労働時間が積み重なってしまいます。
また、付き合い残業が続く職場では、早く仕事を終えた人ほど先に帰りづらくなります。さらに、長時間労働が続けば、休息時間が減り、疲労の蓄積や健康への影響を与えることもあります。
つまり、付き合い残業は、単なる人間関係の問題ではありません。労働時間の増加、職場の評価のあり方、従業員の健康、人材定着など、複数の問題につながるリスクがあるのです。
必要のない残業が当たり前になる
最初は「今日は少しだけ付き合おう」という程度でも、それが何度も続けば、定時を過ぎても職場に残っている状態が普通になってしまいます。
翌日に回せる仕事を続けたり、急ぐ必要のない作業に手をつけたりして、残業する理由を後から作るようになることもあります。
早く帰る人が肩身の狭い職場になる
本来、担当する仕事を終えて定時に退勤することは、当然のことです。しかし、付き合い残業が当たり前になった職場では、残っている人が「普通」で、先に帰る人だけが目立つようになってしまいます。
さらに、遅くまで職場にいる人ほど熱心に働いていると評価されるようになると、仕事を効率よく終える意味が薄れてしまいます。
長時間労働によって心身の負担が増える
職場に残る時間が長くなれば、その分だけ休息や睡眠、家族と過ごす時間などは減ります。残業中の仕事量が多くなかったとしても、職場に拘束される時間が長ければ、帰宅後に十分な休息を取れる時間は短くなります。
厚生労働省は、長時間にわたる過重労働について、疲労の蓄積をもたらす重要な要因と位置づけ、脳・心臓疾患の発症との関連が強いという医学的知見を示しています。
生産性が低下し、優秀な人材が流出する
業務を効率化して短時間で成果を出しても「早く帰る人」と見られ、逆に遅くまで残っている人のほうが熱心だと受け取られるような職場では、従業員が仕事の進め方を改善したり、無駄な作業を減らしたりする動機が弱くなり、生産性の低下につながります。
JILPTが2025年に公表した正社員調査では、現在の勤務先で働き続けている理由として、「残業が少ない、有休を取得しやすい等、働きやすい環境」を挙げた人が66.7%にのぼりました。また、年齢が低い層ほど、こうした働きやすい環境を就業継続の理由として挙げる傾向も確認されています。
参考:労働政策研究・研修機構(JILPT)/働く意識の変化や新たなテクノロジーに応じた労働の質の向上に向けた人材戦略に関する調査
付き合い残業を放置するとどうなる?
実際に業務をしている時間が労働時間に当たれば、会社には36協定による時間外労働の管理や割増賃金の支払いなどが求められます。さらに、残業が積み重なれば、時間外労働の上限規制や長時間労働者への健康確保措置も関係してきます。「付き合いだから」「明確に指示していないから」という理由だけで、通常の残業とは別扱いにできるわけではありません。
付き合い残業でも36協定の範囲を超えて働かせることはできない
労働基準法では、労働時間は原則として1日8時間、1週40時間までとされています。
これを超えて時間外労働をさせる場合、会社は労働者側と36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出なければなりません。付き合い残業であっても、実際の勤務が法定労働時間を超えて労働時間として扱われるのであれば、このルールから外れるわけではありません。
時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情があり、36協定に特別条項を設ける場合でも、年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満、複数月平均80時間以内などの上限があります。また、月45時間を超えることができるのは年6か月までです。
付き合い残業であっても、その時間が労働時間に当たるのであれば、36協定の上限規制の対象です。「本人が自分の判断で残っていた」「周囲に合わせて残っていただけ」といった事情があっても、労働時間として認められる以上、上限を超えて働かせることはできません。会社としては、付き合い残業も含めた時間外労働が36協定の範囲内に収まっているかを確認する必要があります。
明確な残業指示がなくても残業代が発生する場合がある
会社が「残業してください」と明確に指示していなくても、実際に使用者の指揮命令下で業務をしていた時間は、労働時間として扱わなければなりません。
厚生労働省のガイドラインでは、使用者の明示または黙示の指示によって労働者が業務に従事する時間は、労働時間に当たるとされています。
ただし、会社に残っていた時間がすべて労働時間になるわけではありません。仕事を終えた後に私的な理由で職場に残っていた時間など、使用者の指揮命令下にない時間は労働時間には当たりません。判断の基準になるのは「付き合い残業」という呼び方ではなく、その時間に実際に業務をしていたか、使用者の指揮命令下にあったかという実態です。
その時間が労働時間に該当する場合は賃金の支払いが必要であり、さらに法定労働時間を超えた部分については、原則として割増賃金を支払う必要があります。
参考:厚生労働省/労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
参考:厚生労働省/労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
長時間労働が続けば従業員の健康管理も必要になる
付き合い残業であっても、実際の労働時間が長くなれば、会社は従業員の健康への影響にも注意する必要があります。
厚生労働省が2026年9月に公表した令和7年度の監督指導結果では、長時間労働が疑われる29,150事業場のうち、5,919事業場で過重労働による健康障害防止措置の未実施が確認されました。さらに、12,811事業場では健康障害防止措置が不十分として改善指導が行われています。
参考:厚生労働省/長時間労働が疑われる事業場に対する令和7年度の監督指導結果を公表します
付き合い残業をなくすためにできること
付き合い残業をなくすには、「仕事が終わった人は早く帰りましょう」と呼びかけるだけでは不十分です。
従業員本人が断る方法を知ることも大切ですが、会社側も、周囲の様子を気にせず退勤できる職場づくりを進める必要があります。
そのためには、残業の申請や許可のルールを明確にし、管理職の評価方法や仕事の割り振りを見直すことが重要です。あわせて、そもそも定時までに終えられる業務量なのか、人員配置に無理がないかも確認しなければなりません。
付き合い残業を断るときのセリフ
付き合い残業を断るときは、強く拒否する必要はありません。相手の状況に配慮しつつ、自分の業務が終わっていることや、必要な仕事があれば対応する意思を伝えれば、角が立ちません。
付き合い残業を断るときは、「帰る理由」を必死に探すよりも、「今日の仕事は終わっている」「必要な業務があれば確認する」「急ぎでなければ翌日に対応する」という3点を軸にするのがおすすめします。相手を否定せず、業務上の必要性を確認しながら退勤することで、無用な対立も避けることができます。
・自分の仕事がすべて終わっているとき
「本日の業務は終わりましたので、お先に失礼します」
その日の仕事が終わっているのであれば、特別な理由を付け加えず、そのまま退勤することを伝えます。「帰ってもよいでしょうか」と許可を求めるより、通常の退勤として伝えるほうが自然です。
・上司や同僚が忙しそうで、そのまま帰るのが気になるとき
「何か今日中に私が対応したほうがよいことはありますか。なければ、お先に失礼します」
「手伝いましょうか」と広く聞くと、そのまま別の仕事を引き受ける流れになることもあります。「今日中に対応したほうがよいこと」と範囲を区切ることで、本当に必要な仕事だけを確認することができます。
・「もう帰るの?」と言われたとき
「はい、今日予定していた仕事は終わりましたので、お先に失礼します」
相手の言葉に反論せず、自分の業務が終わっていることだけを穏やかに伝えます。「今日は予定があるので」など、毎回私生活上の理由を説明する必要はありません。
・「まだみんな残っているよ」と言われたとき
「そうですね。私は今日の業務が終わっていますので、今日は失礼します」
最初に「そうですね」と一度受け止めると、相手の発言を否定する印象を和らげることができます。そのうえで、自分の仕事が終わっていることを簡潔に伝えます。
・上司から「もう少し残れない?」と言われたとき
「必要な業務があれば対応します。何を優先すればよいでしょうか」
いきなり断るのではなく、まず残る必要がある具体的な業務を確認します。対応すべき仕事があるなら優先順位を確認し、特に仕事がないのであれば、周囲に合わせるためだけに残る必要はありません。
・急ぎではなさそうな仕事を退勤直前に頼まれたとき
「承知しました。明日の対応でも問題ないでしょうか。今日中に必要であれば、優先して対応します」
まず依頼を受けたことを伝え、そのうえで対応期限を確認します。今日中に終える必要がなければ翌日に回せるため、相手に失礼な印象を与えず、不要な残業も避けられます。
・翌朝でも対応できる仕事を頼まれたとき
「ありがとうございます。明日の朝一番で対応します。今日は予定していた業務が終わりましたので、お先に失礼します」
「明日やります」とだけ伝えるより、「明日の朝一番で対応します」と具体的に伝えたほうが、いつ対応するのかが相手にも分かります。今日中に対応する必要がない仕事であれば、翌日に回すことを明確にしたうえで退勤できます。
・同僚から「一緒に残ってよ」と言われたとき
「今日は自分の仕事が終わっているので先に失礼します。何か困っていることがあれば、明日確認しますね」
同僚との関係を悪くしたくない場合は、相手を突き放さず、翌日にフォローする姿勢を示します。相手への気遣いと、自分が残業するかどうかの判断は分けて考えましょう。
残業は事前申請・許可を原則とする
付き合い残業を減らす方法の一つとして、残業の事前申請・許可制を設ける方法があります。
この場合、単に「何時まで残るのか」を申請させるのではなく、「なぜ今日中に残業する必要があるのか」「どの業務にどれくらいの時間がかかるのか」を確認できることが大切です。残業の必要性を事前に確認することで、周囲が残っているから何となく自分も残る、といった付き合い残業を防ぐことができます。
また、申請内容を確認することで、管理職も業務の偏りや仕事の進め方を把握することができます。特定の従業員に仕事が集中していないか、期限を調整できないか、ほかの従業員に業務を振り分けられないかなどを検討するきっかけにもなります。
なお、残業の事前申請・許可制は、「申請していない残業は本人の責任」とするための制度ではありません。不要な残業を防ぎ、本当に必要な残業を会社が把握し、業務量や人員配置の見直しにつなげるための仕組みとして運用することが大切です。
管理職に付き合い残業を生まない労務管理を徹底する
付き合い残業を減らすうえで、管理職の行動は重要です。部下に直接「残ってほしい」と言っていなくても、遅くまで職場にいる人ばかりを高く評価したり、定時直前に急ぎではない仕事を頼んだりすれば、部下は「早く帰らないほうが得だ」と考えるようになってしまいます。
したがって、管理職には、残業時間の長さを努力の目安にせず、業務の内容や成果、仕事の進め方を見ることが求められます。また、自分が残業する日でも、仕事を終えた部下まで付き合わせないことを明確にする必要があります。「自分は残るけれど、終わった人は帰ってください」と伝えるだけでも、部下が上司の退勤を待つ必要はなくなります。
管理職向けの労務管理教育では、36協定や割増賃金といった制度の理解に加えて、部下の残業をどのように把握し、必要性を判断するかまで扱う必要があります。たとえば、定時直前に急ぎではない仕事を依頼していないか、長く残っている人を無意識に高く評価していないか、部下が上司の退勤を待つ雰囲気をつくっていないかなど、日常のマネジメントを具体的に振り返ることが重要です。付き合い残業を防ぐには、法律の知識だけでなく、管理職自身の行動が部下の残業にどのような影響を与えているかを理解してもらう必要があります。
定時で帰れるように業務量と人員配置を見直す
付き合い残業をなくすには、従業員に「早く帰りましょう」と呼びかけるだけでなく、定時までに仕事を終えられる環境を整える必要があります。業務量が多すぎたり、一部の従業員に仕事が集中していたりする状態では、いくら、ノー残業デーやパソコンの強制シャットダウンを導入しても、根本的な解決にはなりません。仕事量が変わらなければ、終わらなかった業務が翌日に持ち越され、別の日の残業が増えることもあります。
まずは、従業員ごとの業務量に大きな偏りがないか、特定の人にしか対応できない仕事が集中していないかを確認します。あわせて、締め切りの設定に無理がないか、会議や報告、承認手続きに必要以上の時間を取られていないかなど、仕事の進め方そのものを見直すことも重要です。
そのうえで、繁忙期には必要な人員を確保する、担当業務を複数人で分担できるようにする、優先順位の低い業務を減らすなど、実際の業務量に合わせた対応を進めます。
ストレスチェックの集団分析も活用する
付き合い残業が続く職場では、単に残業時間が増えるだけでなく、「自分だけ先に帰りづらい」「周囲に合わせなければならない」といった心理的な負担も生じます。労働時間や仕事の量、職場の人間関係、上司や同僚からの支援、職場の風土などは、従業員のストレスに関わる要因です。
こうした職場の状態を把握する方法の一つが、ストレスチェックです。ストレスチェックは、労働者の心理的な負担の程度を把握し、本人への気づきを促すとともに、職場環境の改善につなげることを目的とした制度です。個人の結果だけでなく、部署や職場など一定の集団ごとに結果を集計・分析する「集団分析」も活用することができます。
「仕事のストレス判定図」では、「仕事の量的負担」「仕事のコントロール」「上司の支援」「同僚の支援」をもとに、職場ごとの健康リスクを確認します。たとえば、付き合い残業が目立つ部署で、仕事の量的負担が高い、仕事の裁量が低い、上司や同僚からの支援が少ないといった結果が出ている場合は、勤怠データや実際の業務内容と合わせて、職場環境を見直す材料にすることができます。
もちろん、集団分析の結果だけを見て、「付き合い残業がストレスの原因だ」と断定することはできません。大切なのは、残業時間や業務量、管理職の働きかけ、職場内のコミュニケーションなど、ほかの情報と組み合わせて確認することです。「残業が何時間あるか」だけではなく、「なぜ帰りづらいのか」「どの部署で負担が高まっているのか」まで確認することで、付き合い残業の背景にある職場の問題を整理することができます。
まとめ
付き合い残業は、周囲に合わせて必要のない残業を続けるだけの問題ではありません。労働時間に当たれば残業代や36協定の管理が必要になり、長時間化すれば従業員の健康にも影響します。
付き合い残業をなくすための対策としては、本人に「早く帰る勇気」を求めるだけでなく、残業の申請ルール、管理職の評価や仕事の振り方、業務量や人員配置まで見直すことが重要です。
さらに、勤怠データだけでは見えない職場の負担感を確認する方法として、ストレスチェックの集団分析も活用することができます。付き合い残業を個人の性格や気遣いの問題で終わらせず、職場全体の働き方を見直すきっかけにしていきましょう。
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