ワーカホリックな人は、よく「仕事中毒」と表現されます。
ワークホリズムは「強迫的に、過度に働く状態」という特徴がありますので、「仕事中毒」は、ある意味ワーカホリックの特徴をうまく表現しているといえるでしょう。
ワーカホリックな状態が続くと、後々メンタルヘルス不調につながるリスクがあるため、早期にこの状態を把握して適切な措置を講じることが大切です。
目次
ワーカホリックとは
ワーカホリックとは、ワーカホリズム(強迫的に、過度に一生懸命に働く状態)の高い人を指します。
ワーカホリズムとは、熱心に仕事に取り組んでいる状態ではありますが、それは「仕事が好きだから」とか「仕事にやりがいを感じるから」という理由ではなく、「自分では望んではいないのに、衝動がわきあがってくるから、やむなく仕事に取り組んでいる」という状態をいいます。
ワーカホリックな状態にある人は、周りからの期待以上の成果を出そうと焦っているため、常に仕事のことが頭から離れません。職場から離れたり仕事ではないことをしたりすると罪悪感を覚えてしまい、不安で落ち着かなくなってしまいます。
そして、その罪悪感や不安感を抑えるために、仕事をせざるを得なくなってしまうのです。
このようなワーカホリズムは、仕事をしていると落ち着く(罪悪感や不安感を抑えることができる)ことから、自分自身ではストレスに気づきにくくなっています。その結果、心身ともに疲弊してしまい、メンタルヘルス疾患につながる場合があります。
(1)ワーカホリックとバーンアウトとの関係
ワーカホリズムが「強迫的に働く状態」であるのに対して、バーンアウト(燃え尽き症候群)とは、「心身ともに疲れ切って仕事への意欲が激減または喪失してしまう状態」をいいます。
バーンアウトの原因は、慢性的にストレスや疲労が蓄積されることと言われています。つまりストレスを上手に解消できずにため込んでしまうと、次第に疲弊し、ついには燃え尽きてしまうことから、「バーンアウト」と言われるのです。
仕事に強迫的に取り組むという状況に陥っているワーカホリックな人ほど、ストレスを管理できずにため込んでしまうため、バーンアウトしやすいと言われています。
なお、バーンアウトの対義語は、後述する「ワークエンゲイジメント」です。
(2)ワーカホリックとワークエンゲイジメントとの関係
ワーカホリックとワークエンゲイジメントは、どちらも熱心に仕事をする状態をいいます。
しかし、ワーカホリックが「強迫的」に働くのに対して、ワークエンゲイジメントは「前向きに楽しんで」働くという点が異なります。
ワーカホリックな人は、仕事がしたくて仕事をするというより、仕事を離れていると罪悪感や不安感を覚えてしまい、「仕事をせざるを得ない(I have to work)」ですが、ワークエンゲイジメントの高い人は仕事を楽しんで、仕事にやりがいを感じています。つまり「仕事をしたい(I want to work)」という状態です。
また、労働政策研究・研修機構の研究によれば、ワークエンゲイジメントは仕事中の過度なストレスや疲労にはつながらない傾向がある一方、ワーカホリックは、仕事中の過度なストレスや疲労と強い相関関係があることが指摘されています。
ただし、状況によってはワークエンゲイジメントの高い状態にあった者がワーカホリズムの状態に陥りやすい傾向にあることから、ワーカホリックな労働者を称えるような職場環境を見直すなど、働き方をめぐる企業風土の在り方についても検討していく必要があるとも指摘しています。
ワーク・エンゲイジメントと労働者の離職意向・組織コミットメント
(3)ワーカホリックのリスク
ワークエンゲイジメントを向上させると、職務満足感や家庭生活満足感が上昇し、仕事のパフォーマンスが向上するのに対して、ワーカホリックな状態が続くと、バーンアウトやメンタルヘルス疾患につながるリスクが高いと言われています。
ワーカホリックは、仕事をしている方が気分が落ち着き、罪悪感や不安感を抑えられることから、自分自身のストレス状態に気づきにくく、知らず知らずのうちにストレスをため込んでしまう傾向があります。
また、自分自身の不調に気づいても、「仕事をすると落ち着く」という理由で仕事を止めることができず、ますます不調になるという悪循環に陥ってしまいます。
そしてこのようなワーカホリズムは、睡眠の質や仕事の生産性にも悪影響を及ぼすことが明らかになっています。
ワーカホリックを改善する方法
ワーカホリックな人は、バーンアウトやメンタルヘルス疾患につながるリスクがあるため、その状態を改善して、ワークエンゲイジメントを高めることが大切です。
これまでも述べてきたとおり、ワーカホリズムとワークエンゲイジメントは、どちらも仕事に対して多くのエネルギーを注ぐという特徴がありますが、ワークエンゲイジメントは仕事に対してポジティブな捉え方をしているのに対して、ワーカホリズムは仕事に対してネガティブな捉え方をしているという、根本的な違いがあります。
したがって、この根本的な違いを正しく理解したうえで、ワーカホリズムを低減させ、ワークエンゲイジメントを向上させる対策を行うことが大変重要です。
(1)ワーカホリックを「見える化」する
まずはワーカホリックな状態について、本人だけではなく管理監督者など周りの人も正しく理解することが大切です。そしてそのために活用したいのが「ストレスチェック制度」の集団分析です。
ストレスチェックも採用する質問票によっては、「仕事の適性」「働きがい」「成長の機会」といったワークエンゲイジメントと相関性の高い項目があるものも存在しています。
そこで、ストレスチェックの集団分析から、これらの項目を改善する方法を検討します。
たとえば、「成長の機会」という項目については、その質問票の内容から「自分が仕事を通じて成長する機会を得ることができている」と従業員が認識できれば向上につながります。
したがって、従業員が成長できるような目標を与えたり、新しいスキルを身につけたりして、その目標を達成できる業務やスキルを活用できるような業務をアサインする方法があります。
また、「働きがい」という項目については「自分の仕事は、意味あるものだと感じる」と従業員が認識できれば、向上につながります。
したがって、目標を意味のあるメッセージとして伝えたり、従事している仕事がどのような意義があるのか、会社にどのような良い影響を与えるのかを明確に伝えたり、成果についてはきちんとフィードバックするといった方法が考えられます。
このように、ストレスチェックの結果を活用しワークエンゲイジメントと相関性のある項目を向上させるための対策について、職場単位で検討してみることが大切です。
(2)問題解決スキルを高める
ワーカホリックな人は、すべての問題を重要視し、その結果すべてを完璧にこなそうとします。しかしこれは、物事の優先順位をつけられない非効率的な仕事の方法であり、過重労働につながるリスクがあります。過重労働は、脳梗塞や心筋梗塞のリスクを高め、メンタルヘルス疾患を発症するリスクも高めることは、よく知られています。
そこで、①課題を整理する。②その課題の解決策を検討する。③その解決策を実行するという3つのステップを経て問題を解決するスキルを身につけるために、研修等を行うことが有効です。
(3)タスク管理・タイムマネジメントを行う
ワーカホリックな人は、一度に多くの仕事にかかえてしまうという特徴があります。そこで、一つひとつの仕事を効率的に処理するためのタイムマネジメントの手法を身につけることが効果的です。
まずは自分自身の時間の使い方を整理して、タスクを整理します。
そして問題点を明確にしてから、目標を設定して行動計画を作成し、タスク管理を実践していきます。
この目標や行動計画は、短期的なものと長期的なものを作成し、定期的に達成度を見直すことが大切です。
(4)仕事に対する捉え方を見直す
これまでご紹介したように、ワーカホリックな人は、仕事についてネガティブな考え方をする傾向が強いため、不安や強迫観念、抑うつなどといった症状を発症することがあります。このような場合には、仕事に対する考え方を別の角度から見直す手法が効果的です。
具体的には、ストレスチェックの結果から自分自身のメンタルの状態を正しく理解し、自分の感情や考え方の問題点に気づくことからスタートします。そのうえで、その感情や考え方に代わるものを身につけ、結果を評価します。このように問題とじっくり向き合うことで、ワークホリズムの低減が期待できます。
(5)マインドフルネス等のセルフケアを指導する
マインドフルネスとは、今ここに意識を向ける心の在り方です。
近年このマインドフルネスが心の安定に効果をもたらし、精神療法的な側面があることが明らかとなり、Google、インテル、Twitterなどの大企業で導入されています。
マインドフルネスとは、主に自分の呼吸や自分の身体の状態に注意を向け、浮かんでくる思考や感情にありのまま気づいている状態です。
マインドフルネスを取り入れ、従業員に実践するよう指導することで、緊張を改善したりワークエンゲイジメントを高めたりする効果があるとされています。
ワーカホリズムを直接低減させる手法ではありませんが、ワークエンゲイジメントを高めれば、反対にワーカホリズムを低減させることが期待できます。
マインドフルネスの基本 ①椅子に腰かけ、脚を組まずに、地面に足裏をつけて座ります。 ②背筋を天井に向けてすっと伸ばし、肩を3~4回まわして胸を張ります。 ③両手は、膝の上に軽く置きます。 ④目を閉じて、ゆったりとします。 ⑤呼吸は、腹式呼吸(鼻から吸う時にお腹がふくらみ、吐く時にお腹がへこむ)で、ゆっくりと行います。 ⑥上記①~⑤を繰り返し、5~10分程度続けます。 |
まとめ
ワーカホリックは、「強迫的に、過度に一生懸命になって働く状態」であり、仕事をしていないと罪悪感や不安感を覚える傾向があります。そして、その罪悪感や不安感を抑えるために仕事をして、知らず知らずのうちにストレスをため込み、メンタルヘルス疾患を発症してしまうリスクがあります。
ワーカホリックとワークエンゲイジメントは、ともに仕事に熱心に取り組む状態ですが、ワークエンゲイジメントは仕事をポジティブにとらえる傾向があります。
また、ワークエンゲイジメントが高まると、ワーカホリズムは低減する傾向があります。
したがって、ストレスチェック制度などを活用し、ワークエンゲイジメントと相関性の高い項目をピックアップし、その項目を高める対策を実践することで、ワークエンゲイジメントを高め、ワーカホリズムを低減させる対策を講じることは大変重要といえるのです。
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【監修】 公認心理師 山本 久美(株式会社HRデ―タラボ) 大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わるなかで、職場のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。 |