
マミーギルトとは、仕事や家事、育児に追われるなかで「子どもに十分な時間をかけられていない」「母親としてちゃんとできていない」と自分を責めてしまう罪悪感のことです。
しかし、マミーギルトは決して「本人の心の弱さ」や「母親としての能力不足」で起こるものではありません。むしろ、個人の努力ではどうにもならない「社会の構造問題」や「環境の不備」が引き起こしている現象で、企業にとっても、社員の不調や離職を防ぐうえで見過ごせないテーマです。
目次
マミーギルトとは
マミーギルトとは、母親が子どもや家族に対して「十分に向き合えていない」「もっと一緒にいるべきなのでは」と感じ、自分を責めてしまう罪悪感のことです。
仕事と育児を両立するなかで、子どもと過ごす時間の少なさや、保育園に預けることへの申し訳なさを抱く人もいます。また、「家事も育児もきちんとこなすべき」という理想像と現実の忙しさの間で葛藤することもあります。
どのような時に感じるか
マミーギルトは、仕事や家事、育児の間で理想と現実の差を感じたときに表れます。
たとえば、子どもが泣くなか保育園に預けて出勤するとき、お迎えが遅くなったとき、発熱時に仕事を休むことへ引け目を感じるときなどです。
また、忙しさからスマホやテレビに頼ったり、感情的に叱ってしまったり、手料理を用意できなかったりしたときに、自分を責める気持ちが生まれてしまうことがあります。
マミーギルトが生まれる背景
マミーギルトの背景には、「母親なら、家事も育児も完璧にこなすべき」という理想像があります。その思い込みが強いほど、仕事で子どもと過ごす時間が減ったり、家事が思うように進まなかったりしたとき、自分を責める気持ちが生まれます。
理想の母親像(神話)の呪縛
マミーギルトが生まれる背景には、「母親はこうあるべき」という理想の母親像、いわゆる母性神話が関係しています。
たとえば、「3歳までは母親がそばで育てるべき」「食事やおやつは手作りがよい」「母親は、常に子どもを優先すべき」といった考え方です。こうした価値観が無意識のプレッシャーとなり、仕事や家事、育児を思うようにこなせなかったときに、「自分はダメな母親なのでは」と責める気持ちにつながります。
ワンオペ育児と過度な負担
マミーギルトが生まれる背景には、ワンオペ育児による過度な負担があります。核家族化が進み、祖父母や地域の手を借りる機会が少なくなると、育児の責任が母親一人に集中することがあります。
また、女性の社会進出が進んでも、家事や育児の負担は母親側に偏るケースが多く、職場では成果を求められ、家庭では理想の母親像を求められることで、心の余裕を失ってしまうのです。
インターネットやSNS
マミーギルトが生まれる背景には、インターネットやSNSによる比較もあると言われています。
SNSでは、ていねいに整えられた部屋、手の込んだ食事、子どもとの充実した時間など、日常の一部分だけが切り取られています。その投稿を見た母親が、自分の散らかった部屋や疲れた表情、思うように進まない育児と比べて「自分はダメな母親なのではないか」と感じてしまうことがあります。
マミーギルトが心身や仕事に与える影響
マミーギルトが続くと、心身や仕事にも影響が出てしまうケースがあります。「母親として足りていない」と自分を責める気持ちが積み重なれば、休んでいる時間にも育児や家事のことが頭から離れず、疲労感や焦りが残り、ミスが増えたりすることもあります。
自分を責める気持ちが続く
子どもの何気ない行動に強く反応してしまい、その後で「また怒ってしまった」と自分を責めてしまうことがあります。夜も子どもの寝顔を見ながら後悔が頭をめぐり、眠りが浅くなったり、途中で目が覚めたりする場合があります。
集中力や意欲が下がることがある
マミーギルトが強くなると、仕事中も「子どもが寂しがっていないか」「急な休みで職場に迷惑をかけていないか」といった考えが頭を離れず、集中力や意欲が低下することがあります。
また、時短勤務や子どもの都合で休むことへの申し訳なさから、限界を超えて業務を抱え込むケースもあります。その結果、「自分には両立できない」と感じ、昇進を断ったり、離職を選んだりするなど、本意ではないキャリア判断に至る場合もあります。
マミーギルトから開放されるヒント
マミーギルトから解放されるヒントのひとつが、「Good Enough Mother」という考え方です。
これは、完璧な母親を目指すのではなく、子どもにとって十分に安心できる存在であればよい、という考え方です。
また、子どもとの時間を「量」ではなく「質」で判断することも大切です。
どれだけ長い時間一緒にいても、母親がイライラしていれば、子どもの心は満たされません。逆に、短い時間であっても心が通い合う濃密な関わりがあれば、子どもは十分な愛情を感じて健やかに育ちます。
Good Enough Motherを目指す
「Good Enough Mother」とは、イギリスの小児科医・精神分析医であるドナルド・ウィニコットが提唱した概念で、「完璧な母親」ではなく「ほどよい母親」で十分だと考えるものです。子どもの要求にいつも100%応えられなくても、毎日手作りの食事を用意できなくても、母親として失格ではありません。
子どもが安心感や愛情を受け取れていれば、それは母として十分に関わっているといえます。
完璧ではなく、ほどよさを大切にする
母親が完璧にこなすことだけが、子どものためになるわけではありません。思い通りにいかない経験も、子どもが社会の中で生きていく力につながります。「すべて応えなければならない」と考えるより、「できる範囲で向き合えればいい」と捉えます。
<
b>「すべき」を「それもアリ」に変える
「手料理を作るべき」を「惣菜やミールキットの日もアリ」、「毎日公園に連れて行くべき」を「家で一緒に動画を見る日もアリ」と言い換えてみるのも有効です。できなかったことを減点するのではなく、「今日も子どもにご飯を食べさせた」「布団で眠れるようにした」と、できたことを加点していく視点が大切です。
罪悪感は、愛情の裏返し
マミーギルトを感じるのは、子どもを大切に思っているからです。「また罪悪感を持ってしまった」と責めるのではなく、「それだけ子どもを大事に思っているのだ」と受け止めてみましょう。
子どもとの時間を「量」で判断しない
マミーギルトから解放されるためには、子どもと一緒に過ごす時間を「長さ」だけで判断しないことが大切です。仕事や家事で一緒にいられる時間が限られると、「子どもに寂しい思いをさせているのでは」と感じることがあります。
ただ、子どもにとって大切なのは、長時間そばにいることだけではありません。短い時間でも、きちんと目を向け、声を聞き、安心感を伝える関わりがあれば、親子の信頼関係は十分に育っていきます。
短時間でも深く関わる
毎日何時間も全力で向き合う必要はありません。たとえば、1日5分だけスマホを置き、テレビも消して、子どもの話を聞く時間を作るだけでも意味があります。「今はあなたのことを見ているよ」というメッセージが伝わることで、子どもは安心できます。
家事の時間も関わりに変えられる
子どもと遊ぶ時間を作れない日でも、家事をしながら声をかけることはできます。「今からご飯を作るよ」「お皿を洗うから見ていてね」と話すだけでも、子どもは自分が親の視野に入っていると感じます。特別なお出かけだけが、愛情を伝える手段ではありません。
離れている時間にも意味がある
保育園や学童で過ごす時間は、子どもが親以外の大人や友だちと関わる機会にもなります。家庭の外でさまざまな経験を重ねることは、子どもの社会性や自立心にもつながります。
「ごめんね」を「ありがとう」に変える
マミーギルトから解放されるヒントのひとつが、「ごめんね」を「ありがとう」に置き換えることです。お迎えが遅くなったときや、仕事や家事で子どもを待たせたとき、つい「ごめんね」と言いたくなる場面は多くあります。ただ、その言葉が続くと、母親自身の自責感も強まり、子どもも「自分が困らせているのかな」と不安を感じてしまうかもしれません。
罪悪感を感謝に変える
「遅くなってごめんね」を「待っていてくれてありがとう」、「遊べなくてごめんね」を「一人で待っていてくれてありがとう」と言い換えるだけで、言葉の向きが変わります。子どもの行動を認める言葉になるため、親子の空気も少しやわらぎます。
子どもにも安心感が伝わる
「ありがとう」と伝えられた子どもは、「自分は役に立てた」「ちゃんと見てもらえている」と感じます。手作りの食事を用意できなかった日も、「一緒に食べてくれてありがとう」と言えば、申し訳なさよりも楽しい時間に目が向きます。
セルフケアを罪悪視しない
マミーギルトから解放されるためには、セルフケアに罪悪感を持たないことが大切です。育児や家事、仕事に追われていると、自分のために休むことやお金を使うことに罪悪感を抱く人もいます。
しかし、母親の心身がすり減った状態では、子どもに余裕を持って接することも難しくなります。自分を労る時間は、家族との関係を保つための土台でもあります。
休むことはサボりではなく充電
スマホのバッテリーが切れたら充電が必要なように、人にも休息が必要です。
「自分のために休む」と考えると後ろめたさが出る場合は、「明日、子どもに笑顔で向き合うために休む」と捉え直してみましょう。
小さなセルフケアから始める
まとまった時間を取れなくても、セルフケアはできます。5分だけ温かいお茶を飲む、好きな音楽を聴きながら家事をする、入浴剤を入れてお風呂に入る、疲れた日は家事を切り上げて早く寝る。こうした小さな行動でも、自分の心を立て直すきっかけになります。
自分を大事にすることも育児の一部
母親が元気でいることは、子どもにとっても安心材料になります。完璧にこなすことを目指すより、自分の機嫌や体調を守ることに目を向けましょう。その意識が、マミーギルトによる自責感を軽くし、無理のない育児や働き方につながります。
ひとりで抱え込まない
マミーギルトから解放されるためには、「私が全部やらなきゃ」という思い込みを手放すことが大切です。育児は本来、母親ひとりで背負うものではありません。パートナー、祖父母、保育士、自治体の支援、家事代行や一時預かりなど、頼れる人やサービスを含めて「チームで育てる」と考えます。
育児を共同プロジェクトにする
パートナーに対して「手伝って」と伝えると、育児が母親の担当であるかのように見えてしまいます。「私たちの子どもだから、どう分担するか相談しよう」と主語を変えるだけで、家庭内の役割を見直すきっかけになります。
外部の力を使う
家事代行、ファミリーサポート、病児保育、シッターなどは、決して贅沢ではありません。心と体の余裕を取り戻すための選択肢です。自分ひとりで無理を重ねるより、外部の力を借りて少し休むことで、子どもにも落ち着いて向き合える時間が増えます。
弱音を外に出す
友人、同じ立場の人、自治体の保健師、子育て支援センターのスタッフなどに気持ちを話すことも大切です。「大変だよね」と受け止めてもらうだけで、孤独感がやわらぐことがあります。「助けて」と言えることは、母親としての弱さではなく、家庭を守るための大切な力です。
企業がするべきマミーギルトへの対処
企業は、マミーギルトを個人の気持ちの問題として片づけず、職場全体の仕組みを見直すことが大切です。まず管理職が、育児中の社員を特別扱いではなく、状況に応じて支える姿勢を持つ必要があります。時短勤務や在宅勤務などの制度は、導入するだけでなく、周囲に遠慮せず使える空気づくりまで含めて考えることが重要です。
評価制度では、勤務時間の長さではなく成果や役割を適切に見る視点が求められます。男性育休や育児参画を進め、育児負担を母親だけに偏らせないことも欠かせません。
管理職の意識改革
企業がマミーギルトに向き合ううえで、まず必要になるのが管理職の意識改革です。マミーギルトは、母親本人の考え方だけで生まれるものではありません。育児中の社員に対する何気ない言葉、長時間働く人を高く評価する制度、急な休みを申し訳なく感じさせる職場環境などを見直す必要があります。
決めつけずに状況を聞く
管理職は、「育児中だから大変だろう」「時短勤務だから重要な仕事は任せない」といった決めつけを避ける必要があります。本人が何に困っているのか、どの範囲なら力を発揮できるのかを対話で確認することが大切です。配慮のつもりでも、本人の成長機会を奪えば、孤立感や不公平感につながります。
柔軟な働き方の制度設計と利用定着
企業がマミーギルトに対処するには、在宅勤務、フレックス、時短勤務、時間単位の有給休暇などの制度を整えるだけでなく、実際に社員が遠慮なく使える状態にすることが大切です。制度があっても、「周囲に申し訳ない」「評価に響くかもしれない」という空気が残っていれば、育児中の社員はさらに罪悪感を抱えてしまいます。
全社員が使える制度にする
柔軟な働き方を育児中の社員だけに限定すると、「自分だけ配慮を受けている」という負担感につながることがあります。介護、通院、学び直し、家庭の事情など、さまざまな理由で全社員が利用できる制度として設計することが大切です。
管理職が率先して使う
制度の利用を定着させるには、管理職や役員が自ら利用する姿勢も欠かせません。上司がフレックスや在宅勤務を自然に使えば、部下も制度を利用しやすくなります。
労働時間ではなく成果を見る
評価では、残業時間や在席時間ではなく、限られた時間の中でどのような成果を出したかを見ることが大切です。勤務時間が短くても、業務の優先順位を整理し、効率よく進めている社員は正当に評価されるべきです。
目標を勤務状況に合わせる
時短勤務の社員にフルタイムと同じ目標を課すと、無理な働き方や自責感につながります。勤務時間や担当範囲に合わせて、本人と上司が納得できる目標を設定することが重要です。数値結果だけでなく、業務改善、マニュアル作成、チームへの貢献なども評価に含めると、公平感が高まります。
支える側も評価する
育児中の社員をフォローした周囲のメンバーの貢献も、きちんと評価する必要があります。その結果、育児中の社員も「迷惑をかけている」と一人で抱え込まず、安心して働けるようになります。
男性育休・育児参画の推進
企業がマミーギルトに対処するうえで、男性育休や育児参画の推進はとても重要です。マミーギルトの背景には、「育児の中心は母親」という思い込みがあります。父親も育児の当事者として関わる職場文化が広がれば、母親だけが仕事と家庭の間で罪悪感を抱える構造を変えていけます。
育児を夫婦の共同プロジェクトにする
男性が育休を取り、夜泣き、食事、保育園対応、急な発熱、名もなき家事まで経験すると、育児を自分ごととして捉えられます。その結果、母親一人に偏っていた精神的な負担も分かち合えます。
職場全体の共通課題にする
子どもの体調不良で早退する、保育園のお迎えで定時に帰るといった行動が、女性社員だけでなく男性社員にも自然に起こる職場では、育児は一部の社員だけの問題ではなくなります。
管理職の意識も見直す
「男性が育休を取ると出世に響く」といった古い価値観が残ると、制度はあっても活用が進みません。管理職への研修や職場での周知を通じて、父親の育児参加を当然のものとして扱うことが必要です。
社内コミュニティ(ピアサポート)の設置
企業がマミーギルトに対処するには、同じ立場の社員が気持ちを共有できる場づくりも大切です。育児中の社員は、「両立できていないのは自分だけではないか」「弱音を吐くと評価に響くのではないか」と考え、悩みを抱え込むことがあります。社内コミュニティは、そうした孤独感を和らげる支えになります。
「私だけじゃない」と知る
ピアサポートの場で、他の社員の失敗談や葛藤を聞くと、マミーギルトを個人の能力不足として捉えずに済みます。お迎え、急な発熱、夕食づくり、仕事の調整など、リアルな悩みを共有することで、実践的な工夫も得られます。
制度改善にもつなげる
社内コミュニティは、単なる雑談の場で終わらせず、人事や管理職が現場の声を拾う機会にもできます。勤務時間内のオンライン座談会として実施したり、男性社員やプレママ・プレパパも参加できる場にしたりすると、育児を一部の社員だけの問題にせず、職場全体で考える流れが生まれます。
ストレスチェックの活用
ストレスチェックは社員の心身の負担を把握する手がかりになります。
マミーギルトを抱える社員は、「自分が頑張ればいい」「家庭の問題だから会社には言えない」と考え、限界が近づいても周囲に相談できないことがあります。ストレスチェックを活用すれば、職場の負担を客観的に確認できます。
部署ごとの集団分析を行う
ストレスチェックの結果は、個人の不調を見つけるためだけのものではありません。部署ごとの集団分析を行うことで、業務量、上司との関係、同僚からの支援、働き方の偏りなど、職場全体の課題も見えてきます。子育て中の社員が多い部署で高ストレスの傾向が出ている場合は、管理職の関わり方や業務配分を見直すきっかけになります。
まとめ
マミーギルトとは、母親が仕事や家事、育児の間で「十分にできていない」と自分を責めてしまう罪悪感のことです。背景には、理想の母親像、育児負担の偏り、職場や社会の空気があります。企業は、個人の努力だけに任せず、管理職の意識改革、柔軟な働き方、評価制度の見直し、男性育休の推進などを進めることが大切です。
ストレスチェックを活用すれば、従業員の負担感や人間関係の傾向を把握し、職場改善につなげることができます。
ストレスチェックは、従業員のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした制度です。現在は従業員50人以上の事業場で義務化されていますが、今後は50人未満の企業にも対象が拡大される予定です。
ストレスチェックを活用すれば、部署ごとの負荷や心理的な傾向を可視化でき、早めの相談体制づくりや業務改善につなげられます。失敗を責めるのではなく、学びながら前に進む職場づくりにも役立ちます。
ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
導入方法や実施方法など、お気軽にお問合せください。

