グッドハートの法則とは?分かりやすく事例で解説

グッドハートの法則とは、成果を測るための「指標」が目標そのものになると、その指標が本来の成果を正しく表さなくなるという考え方です。
もともとは英国の経済学者チャールズ・グッドハートが金融政策について示した議論に由来しています。そして、現在ではKPIや人事評価など、ビジネスのさまざまな場面でも使われています。
この記事では、グッドハートの法則の意味や起こる理由、身近な事例、グッドハートの法則を防ぐための対策についてご紹介します。

グッドハートの法則とは|数字を追うほど目的から遠ざかる理由

グッドハートの法則とは、成果を測るために使っていた「指標」が目標そのものになった途端、その指標が本来の目的を正しく反映しなくなるという考え方です。
イギリスの経済学者チャールズ・グッドハートが1975年に提唱した法則で、もとはマネーサプライ(貨幣供給量)を金融政策の目標にしたことで、かえってその有効性が失われることを指摘したものです。

身近な例で考えると、テストの点数は本来「理解度を測る指標」ですが、「点数を上げること」が目標になると、暗記だけに特化した勉強が増え、本当の理解力が育たなくなります。
営業のKPIで言えば、「架電数」を目標にした瞬間、質より量を優先するだけの電話が増え、本来の目的である「受注件数の向上」が置き去りになる、といったことが起きます。

近年では経済政策にとどまらず、教育評価や業績管理、AI・機械学習など、目標の数値化が求められる幅広い分野で応用されています。「数値で示せる目標」は管理しやすい反面、その指標だけが重視されると本来の目的が置き去りにされ、形だけの成果に終わってしまうことも少なくありません。

「指標」と「本来の目的」は同じではない

企業では、売上、契約件数、顧客満足度、離職率など、さまざまな数字を使って仕事の成果を確認します。ただし、こうした数字は、本来の目的そのものではありません。

たとえば、「顧客に長く選ばれるサービスをつくる」という目的があっても、その実現度を一つの数字だけで表すのは困難です。そこで、リピート率や顧客満足度、売上などを使い、目的にどこまで近づいているかを確認します。

つまり、指標は「目的そのもの」ではなく、成果を確かめるための「ものさし」です。

問題は、このものさしの数字を上げること自体が、仕事の目的に変わってしまうときです。「顧客に満足してもらう」より「顧客満足度の点数を上げる」、「必要な商品を提案する」より「販売件数を増やす」といった具合です。

数字には、部署や担当者を同じ基準で比較でき、進捗も確認できるというメリットがあります。一方で、測れるものだけを追いかけても、仕事の価値をすべて捉えられるわけではありません。「成果を見るための数字」が、いつの間にか「数字を作るための仕事」に変わってしまうというこの逆転が、グッドハートの法則を理解するうえでのポイントです。

指標が評価や報酬に使われると行動が変わる

売上や契約件数などの指標は、もともと仕事の成果を確認するための数字です。しかし、その数字が人事評価や報酬、ノルマに使われると、従業員にとって意味が変わってきます。

たとえば、営業担当者が「新規契約件数」だけで評価される会社では、既存顧客への対応より、新規契約を増やす仕事に力を入れるようになります。会社が本当に求めているのが「顧客と長く取引すること」だったとしても、評価されるのが新規契約件数だけなら、従業員はその数字を優先するようになるのは、ごく自然の流れだからです。

ここにグッドハートの法則の問題があります。本来は成果を確認するために設定した数字なのに、その数字を達成すること自体が目的になると、従業員の行動が本来の目的から外れていきます。

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多面的な仕事を一つの数字では測れない

仕事の成果は、たいてい複数の要素から成り立っています。営業なら売上や契約件数だけでなく、既存顧客への対応、社内への情報共有、後輩のフォロー、トラブルの予防なども仕事の一部です。ところが、これらを一つの数字ですべて表すことはできません。

たとえば、問い合わせ窓口で「1日に何件対応したか」だけを見ても、その対応が正確だったか、顧客の問題を解決できたか、同じ問い合わせが繰り返されないよう改善につなげたかまでは分かりません。難しい案件を時間をかけて解決した人より、短時間で多数の案件を処理した人のほうが、件数だけなら高く見える場合もあります。

これは、数字が役に立たないという話ではありません。売上なら売上、対応件数なら対応件数を把握するうえで、指標は必要です。問題になるのは、一つの指標が仕事全体を表しているかのように扱うことです。

会社の業績を売上だけで判断できないのと同じように、個人や部署の仕事も一つの数字ですべて評価できるわけではありません。グッドハートの法則を考えるときは、「この数字は何を測っているのか」だけでなく、「この数字では何が見えていないのか」まで考える必要があります。

グッドハートの法則が起こる身近な事例

売上目標、勉強時間、歩数、体重、SNSのフォロワー数など、私たちの日常にも数多くの「指標」があります。数字は成果を確認するうえで便利ですが、達成すること自体が目的になると、本来目指していたものを見失うことがあります。
ここでは、数字を追っているうちに、いつの間にか数字に行動を決められてしまう、グッドハートの法則の身近な事例について、ご紹介します。

コールセンター|対応時間を短くした結果、顧客対応の質が落ちる

コールセンターでは、業務効率を測る指標として「平均処理時間(AHT)」が使われます。しかし、AHTの短縮を強く求め、それを評価やノルマに直結させると、グッドハートの法則が起こることがあります。

オペレーターにとって「短く終わらせること」が重要になるため、時間のかかる問い合わせを別部署へ回したり、十分に説明しないまま対応を終えたりするなど、本来の目的である「顧客の問題を解決すること」が後回しになってしまう可能性があるからです。

数字の上では1件あたりの処理時間が短くなっていても、問題が解決していなければ、顧客から再び問い合わせが入り、結果として業務量が増えることもあります。

そこで重要になるのが、AHTだけを見ないことです。一度の問い合わせで問題を解決できた割合を示す「一次解決率(FCR)」や顧客満足度(CSAT)なども併せて確認します。「早く電話を終える」ことと「良い顧客対応」は同じではありません。
効率を示す数字だけを追った結果、かえって非効率になるという、グッドハートの法則を理解しやすい事例です。

IT開発|バグ修正件数を増やしても品質が上がるとは限らない

IT開発でも、グッドハートの法則は起こります。
たとえば「バグ修正件数」をエンジニアの評価指標にすると、修正件数を増やすこと自体が目的になりかねません。短時間で直せる軽微な不具合ばかりが優先され、原因究明に時間がかかる重大なバグや、システム全体の設計改善が後回しになることもあります。

本来重要なのは「何件直したか」ではなく、利用者にとって安全で安定したシステムをつくることです。修正件数だけを追うと、数字は良くても品質は上がらないという逆転が起こります。

職場の人事評価|残業時間や有休取得率だけを追う弊害

働き方改革では、残業時間の削減や有休取得率の向上が重要な指標として使われます。
しかし、業務量を減らさないまま「残業禁止」だけを徹底すると、勤怠上は定時で退勤していても、持ち帰り仕事や申告されない時間外労働が発生するリスクがあります。
有休取得率についても同様です。休暇の取得日数だけを目標にすると、仕事が残ったまま形式的に休暇を取得し、自宅でメールを確認したり、後日その分の業務を抱え込んだりすることも考えられます。

本来の目的は、残業時間や有休取得率という数字を整えることではなく、業務量や仕事の進め方を見直し、従業員が健康を損なわずに働ける状態をつくることです。
残業時間や有給取得率などの数字が改善していても、それだけで職場環境まで改善したとは判断できません。数値の変化だけでなく、実際に働く人の負担や職場の運用がどう変わったのかまでを確認する必要があります。

グッドハートの法則を防ぐための対策

グッドハートの法則を防ぐには、一つの数字だけで成果を判断しないことが重要です。
売上や件数などの「量」だけでなく、顧客満足度や品質などの「質」、最終的にどのような成果につながったかという「結果」もあわせて確認します。
また、数字が良くても現場に無理やひずみが生じていないか、定期的に実態を見直す必要があります。
さらに、従業員には「数字を達成すること」ではなく、その指標を使う本来の目的を共有することが大切です。

量・質・結果を複数の指標で確認する

一つの数字だけが独り歩きするのを防ぐ方法の一つが、成果を複数の角度から確認することです。たとえば、「どれだけ仕事を進めたか」という量だけでなく、「その仕事は適切に行われたか」という質、その結果として「本来の目的に近づいたか」まで確認します。

物流なら「出荷件数」だけを見ない
たとえば、倉庫の業務で1日の出荷件数だけを目標にすると、数字を増やすことばかりに意識が向くリスクがあります。そこで、出荷件数という「量」に加えて、誤出荷率や破損件数といった「質」、納期どおりに届けられた割合などの「結果」も確認します。

出荷件数が増えていても、誤出荷まで増えているのであれば、単純に「業務が改善した」とは判断できません。反対に、正確さを求めるあまり処理が極端に遅くなっても、物流業務としては別の問題が生じます。

採用活動なら「採用人数」の先まで見る
採用活動で予定人数を採用できたとしても、入社後すぐに退職する人が多ければ、「必要な人材を採用し、働き続けてもらう」という目的を達成できたとはいえません。

そのため、応募数や採用人数だけでなく、選考辞退や内定辞退の状況、入社後の定着状況なども組み合わせて確認します。すると、「人数は確保できたが、その後に課題がある」といった、一つの数字だけでは見えなかった問題を把握できます。

一つの指標を伸ばしたとき、別の数字も確認する
複数の指標を置く目的は、管理する数字をむやみに増やすことではありません。大切なのは、「この数字を良くしようとした結果、別の大切なものが悪化していないか」を確認できるようにすることです。

出荷件数を増やしたら誤出荷率はどうなったのか。採用人数を増やしたら入社後の定着状況はどう変わったのか。このように複数の数字をセットで見ることで、KPIだけは達成しているのに、本来の目的から離れているという事態に気づくことができるようになります。

KPIは一つの数字を競わせるためではなく、本来の目的に近づいているかを確認するためのものです。数字が良くなったときほど、「その代わりに悪くなったものはないか」まで見ることが、グッドハートの法則への実務的な対策になります。

指標と現場の実態が一致しているか見直す

KPIは、一度決めたらそのまま使い続ければよいものではありません。事業の内容や顧客のニーズ、仕事の進め方が変われば、以前は役に立っていた指標が、現在の成果を十分に表さなくなる場合もあります。

さらに、指標が評価や目標として定着すると、現場もその数字を意識して仕事を進めるようになります。その結果、KPIの数字は改善しているのに、本来解決したかった問題は残っているというズレも起こり得ます。グッドハートの法則への対策では、数字を見るだけでなく、「この数字は今も目的を正しく捉えているか」を定期的に確かめることが必要です。

数字の変化だけでなく、その理由まで確認する
売上、成約率、残業時間などの数字からは、「何が増えたか」「何が減ったか」は分かります。しかし、その数字がなぜ変わったのかまでは分かりません。

たとえば、残業時間が前年より減ったとしても、それだけで働き方が改善したとは判断できません。業務量そのものが減ったのか、業務の進め方を改善したのか、それとも勤務時間として記録されていない作業が残っているのかによって、意味はまったく異なります。

そこで、数値データだけでなく、1on1や従業員へのヒアリング、顧客から寄せられた意見、実際の業務の流れなども確認します。「数字は良くなった。では、現場では何が変わったのか」まで見ることで、KPIだけでは分からない実態を確認できます。

指標にも「賞味期限」がある
事業を始めたばかりの時期には「新規顧客数」が重要でも、顧客が増えた後は「継続率」や「解約率」のほうが経営課題を把握するうえで重要になるかもしれません。会社の状況が変わっているのに、何年も同じKPIだけを追い続ければ、現在の課題と指標がかみ合わなくなります。

そのため、「このKPIを設定した目的は何だったのか」「今の事業でも、その目的を測れているか」を定期的に確認します。そして必要に応じて、指標そのものを変更し、別の指標を追加します。

現場の違和感を、指標を見直す材料にする
「KPIは達成しているのに、仕事が良くなった実感がない」「この数字を上げるための作業ばかり増えている」といった声も重視します。単なる不満として片づけず、指標の設計を確認する材料にできます。
たとえば、商談件数は増えているのに成約率が落ちている、出荷件数は増えているのに誤出荷も増えている、といった状況です。

数字そのものが間違っているとは限りません。問題は、「数字が良くなった=本来の目的も達成した」と考えてしまうことです。KPIを見るときは、その数字の向こう側で実際に何が起きているのかまで確認する。この点検を繰り返すことが重要です。

数字ではなく本来の目的を共有する

KPIを設定するときは、目標の数字だけでなく、「何を良くするために、この数字を見るのか」まで共有することが大切です。KPIは本来、目的を達成できているかを確認するための目印です。数字そのものを達成することが、仕事の最終目的ではありません。

KPIには「何のための数字か」をセットにする
たとえば、「有休取得率を上げる」という目標だけを示すと、取得率という数字に意識が集中します。しかし、本来目指しているのが、従業員が休暇を確保できる職場にすることなら、確認すべきことは取得率だけではありません。

休暇を取るために仕事が特定の人へ集中していないか、休んだ後に業務が積み上がっていないか、そもそもの業務量に無理がないかといった点も見ていく必要があります。

「有休取得率を上げる」ではなく、「従業員がきちんと休暇を取れる状態をつくり、その状況を確認するために有休取得率を見る」と考えれば、数字と目的の関係が明確になります。

会議でも「数字の先」を話す
目標管理の場で「今月あと何件必要か」「達成率は何%か」という話だけを続けていると、数字を達成することが仕事の中心になってしまいます。

営業であれば、契約件数だけでなく、「どのような顧客に、どのような価値を提供したいのか」「契約後も利用を続けてもらえているか」まで確認します。数字について話すときに、本来の目的も一緒に確認するわけです。

KPIは、本来の目的を達成できているかを確認するための指標です。数字を達成すること自体が目的にならないよう、「何のためにこのKPIを設定したのか」を常に確認する必要があります。

評価の内容も、本来の目的とそろえる
目的を言葉で伝えるだけでは不十分です。「顧客との長期的な関係を大切にする」と掲げながら、評価が今月の売上だけで決まるのであれば、従業員に実際に伝わるのは売上を優先するというメッセージです。

本当に顧客との継続的な関係を重視するのであれば、売上だけでなく、契約後の対応や解約の状況、顧客からの評価なども含め、目的に沿った仕事が評価される仕組みにする必要があります。

グッドハートの法則への対策は、「数字を見るのをやめる」ことではありません。数字を追う理由を忘れないことです。「KPIを達成したか」だけで終わらず、「そもそも、このKPIで何を実現したかったのか」に立ち返れば、数字だけ達成して目的を見失うという逆転を防ぐことができます。

 

ストレスチェッカーとは

「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しています。
また、無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下である「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場でも実施義務化が進むため、早めの準備が大切です。
導入や運用については、ぜひお気軽にご相談ください。

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まとめ

グッドハートの法則とは、成果を測るための指標が目標そのものになることで、数字と本来の目的がズレてしまう現象です。
売上や残業時間など、一つの数字だけを追うのではなく、現場の実態や従業員の状態もあわせて確認することが重要です。

ストレスチェックの集団分析を活用すれば、仕事の量的負担、上司・同僚からの支援、職場のストレス要因などを把握し、表面的なKPIでは見えない組織の状態を確認することができます。
ストレスチェックだけでグッドハートの法則を防げるわけではありませんが、「数字は良いのに現場は疲弊している」といったズレを発見し、指標や職場環境を見直す材料の一つになります。

ストレスチェックとは、従業員のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした制度です。現在は従業員50人以上の事業場で義務化されていますが、2028年4月1日からは、50人未満の企業にも対象が拡大されます。
ストレスチェックを活用すれば、部署ごとの負荷や心理的な傾向を可視化でき、早めの相談体制づくりや業務改善につなげられます。失敗を責めるのではなく、学びながら前に進む職場づくりにも役立ちます。
ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
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