退却神経症とは?精神科医が解説!

退却神経症とは、仕事や学業など、本人に期待されている社会的な役割から選択的に退き、無気力や無関心、抑うつなどが現れる状態を指します。失敗や挫折、強いプレッシャーをきっかけに、本業への取り組みや対人関係を避ける一方で、趣味や遊びなどには比較的活動できる場合があります。
日本で提唱された臨床上の概念であり、現在の診断基準(DSM-5など)にある正式な病名ではありません。うつ病などと似た症状を伴うこともあるため、状態が長引く場合は自己判断せず、医療機関へ相談することが大切です。

監修医師:近澤 徹
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役

退却神経症とは

退却神経症とは、精神科医の笠原嘉(かさはら・よしみ)が提唱した臨床上の概念です。

本業に対して漠然とした不安や抵抗感を抱き、無理に向き合おうとすると、気持ちが動かなくなったり、その場を避けたりすることがあります。テストや昇進など、評価や競争、責任が伴う場面から距離を置く一方で、好きなことには活動できるという選択的な退却がみられます。
こうした行動は、単なる怠けではなく、失敗や挫折によって自分が傷つくことを避けようとする心理と関係していると考えられています。

眠いわけではないのに朝起きられず、会社へ向かう途中で反対方向の電車に乗ってしまう、欠勤の連絡ができないまま図書館などで夕方まで過ごすといった行動がみられる場合もあります。本人にも、なぜそのような行動を取るのか分からず、仕事へ気持ちが向かない状態が続くことがあります。

ただし、似た状態はうつ病や適応障害、不安症などでも起こり得るため、長引く場合は自己判断せず、精神科や心療内科へ相談することが大切です。

(1)退却神経症の典型的な特徴5つ

退却神経症には、以下のような特徴的な症状が見られます。

①無気力、無関心な状態になってしまい、自分から積極的に助けを求めることができません。
②無気力ではないのに、本業に対してだけ退却してしまいます。
③第三者によって無理やり本業に参加させられると、強い不安感を感じます。
④本業から離れると、不安感を感じなくなります。この点が不安神経症や強迫神経症と異なります。不安神経症や強迫神経症は、いつでも不安感から開放されることはありませんが、退却神経症は、不安感を感じる本業から退却すると、不安感が消え去ります。
⑤本業から退却することで周囲に迷惑をかけているのに、本人はそれほど気にしていないように見られます。「どうにかしなければ」という悩みや焦りを、あまり感じなくなってしまっています。

(2)退却神経症になりやすい性格

退却神経症がみられる人には、まじめで責任感が強く、完璧を求める傾向があるとされています。
周囲から高い評価を得てきた一方で、失敗や拒絶、否定に敏感で、些細なミスでも自分を強く責めてしまうことがあります。そのため、理想とする自分と現実とのずれが大きくなるほど、心理的な負担も重くなります。努力を重ねて高い目標を掲げてきた人ほど、思うような結果が得られない状況で自信を失い、本業から距離を置いたり、行動にブレーキがかかったりする場合があります。
なお、こうした性格傾向だけで状態が生じるわけではなく、環境や挫折体験なども関係するとされています。

(3)退却神経症とうつ病の類似性

退却神経症とうつ病には似た症状がありますが、症状の現れ方には違いがあります。

うつ病では、強い抑うつ気分や意欲・気力の低下、興味や喜びの喪失などが幅広い場面で続き、睡眠や食欲の変化、自責感、希死念慮を伴う場合もあります。

一方、退却神経症では、仕事や学業など社会的に期待される本業から選択的に退き、無気力や無関心が現れるとされています。本業に向き合う場面では不安や抵抗感が強まるものの、趣味やアルバイトなど関心のある活動には意欲を示すことがあります。たとえば、職場では緊張して行動できない人が、趣味や別の活動では落ち着いて振る舞うケースもあります。

(4)退却神経症と職場環境の関連性

厳しいノルマが課される営業職や、判断の正確さが求められる医療現場、高い成果を期待される専門職では、業務上の失敗や評価の低下が大きな心理的負担となることがあります。プレッシャーが続くなかで本業に向き合うことへの不安や抵抗感が強まり、仕事から選択的に距離を置く場合があります。

また、職場の人間関係も関係する要因の一つです。
拒絶や否定に敏感な人では、上司からの叱責や同僚との対立などが重なることで、出勤や業務への心理的な抵抗が強まることがあります。その結果、欠勤が増えたり、本業を避けたりする状態が続き、休職や退職に至るケースもあります。

ただし、突然の休職や退職を退却神経症だけで説明することはできず、うつ病や適応障害などを含めた慎重な判断が必要です。職場の人間関係や過重な業務は、メンタルヘルス不調に関係する要因として厚生労働省も挙げています。

(5)退却神経症の一般的な治療法

退却神経症は、過去の体験や性格傾向、仕事・学業上の挫折、周囲からの期待などが複雑に関係して生じると考えられています。退却神経症は正式な診断名ではないため、決まった治療法が確立されているわけではありません。まずは、うつ病や適応障害、不安症などの可能性も含め、症状や生活状況をていねいに確認します。
治療では、精神療法や心理療法を通じて、完璧を求める考え方や失敗への恐れ、本業を避ける行動などを見直していきます。認知行動療法が用いられる場合には、出来事の受け止め方や行動パターンを整理し、より現実的で柔軟な対応を身につけることを目指します。認知再構成法や段階的な行動練習を取り入れることもありますが、曝露療法が退却神経症に一律に有効とは断定できません。

抑うつや不安、不眠などを伴う場合には、診断された症状や疾患に応じて抗うつ薬などが処方されることもあります。薬物療法の位置づけは状態によって異なるため、必ずしも補助的とは限りません。本人が状態を理解するための心理教育や、家族・職場など周囲の理解と支援も大切です。
治療は専門家と相談しながら、本人の状態に合わせた無理のないペースで進めます。

(6)退却神経症とストレスチェック

退却神経症では、無気力や本業への拒否感、漠然とした不安、本業から離れた際の一時的な安心感などがみられることがあります。一方で、趣味や副業などには活動できる場合があるため、周囲からは単なる怠けや意欲不足と受け取られ、本人の不調が見過ごされることもあります。

ストレスチェックは、労働者が自分のストレス状態に気づき、メンタルヘルス不調を未然に防ぐための制度です。退却神経症を直接発見・診断するための検査ではなく、また一般的な質問票だけでは、本業から選択的に退く一方で、それ以外の活動には取り組める状態を十分に捉えられない可能性があります。仕事への興味や活力の低下、欠勤や遅刻の増加、業務を避ける行動なども含めて、日頃の変化を確認することが大切です。

また、本人が問題を自覚していない場合や、自分から相談できない場合もあります。そのため、同僚同士で評価する仕組みを設けるよりも、上司による日常的な声かけや産業医・保健師との面談、相談窓口の周知など、本人が安心して相談できる体制を整えることが重要です。ストレスチェックの個人結果は適切に保護し、集団分析は個人が特定されない形で職場環境の改善に活用します。
 

ストレスチェッカーとは

「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しています。
また、無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下である「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場でも実施義務化が進むため、早めの準備が大切です。
導入や運用については、ぜひお気軽にご相談ください。

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(7)退却神経症と職場復帰

退却神経症の人は、強制的に仕事に復帰させられると強い不安感を覚えます。そのため、段階的に業務に慣れていくプログラムを設けることで、不安感を軽減しながら復職をサポートできます。

たとえば、リモートワークや短時間勤務の活用、業務内容の調整などが有効です。
また、本人の状態に応じて業務量を少しずつ増やしたり、安心できる支援者との定期的な面談を設けたりすることで、復職後の不安を軽減できます。無理のないステップを設け、成功体験を積み重ねていくことが、再発予防にもつながります。
このような段階的なサポートを行うことで、本人が「やれるかも」と思える環境を整えることが何よりの鍵です。


     

    監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

    精神科医 近澤徹氏

    【監修医師】
    精神科医・日本医師会認定産業医
    株式会社Medi Face代表取締役・近澤 徹

    オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。


    > 近澤 徹 | Medi Face 医師起業家(Twitter)

     

    まとめ

    ストレスチェックを単なる「仕事のストレスを測るもの」として終わらせるのではなく、退却神経症の兆候を捉えるための工夫を加えることで、より効果的な活用が可能になります。本業に対する興味の低下や回避傾向、業務復帰時の不安感などに注目し、早期発見・対策に繋げることが重要です。さらに、チェック結果をもとに本人の特性や過去の職場経験などを丁寧に振り返る時間を設けることで、より個別性の高いケアや支援策の立案にもつながっていきます。こうした視点を加えることで、ストレスチェックは単なるスクリーニングツールではなく、メンタルヘルスの継続的な支援ツールとして活用できるようになります。

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