
ストレスチェックの結果、一定の基準を超えて高ストレス状態と判定され、実施者が医師による面接が必要と認めた労働者に対しては医師による面接や、それに基づく就業上の配慮を行うことが求められます。
また、こうした個人対応だけでなく、集団分析の結果から見えてくる職場全体の傾向に基づき、環境改善を行うことも重要です。
特に、中間管理職層に高ストレス者が多い職場では、責任とプレッシャーのバランス、上層部と現場の板挟み構造、部下とのコミュニケーション負担など、複合的な要因が存在するケースが少なくありません。
この記事では、こうした中間管理職層に焦点を当て、ストレスの構造的背景と改善のための具体的な職場づくりのポイントについてご紹介します。
目次
ストレスチェックの高ストレス者とは
ストレスチェックにおける「高ストレス者」とは、心身の不調が強くあらわれ、ストレスの影響が大きいと判定された従業員を指します。
ストレスチェック制度は、従業員が自分のストレス状態に気づき、早期にセルフケアや相談につなげることを目的としています。高ストレス者に該当した場合は、医師による面接指導や、結果に基づいた就業上の配慮が行われるほか、集団分析の結果を活用した職場環境の改善が、事業者の努力義務とされています。
では、「高ストレス者」を具体的にどのように決定するかについてですが、ストレスチェックの高ストレスの選定基準は、衛生委員会で調査審議のうえ事業者が決定することになっているので、一律の基準はありません。会社の実情にあわせて選定基準を設定することができます。
ただし、多くの会社で採用されているのが、厚生労働省が推奨する57項目の質問票の①「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が高い者、②「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の評価点数の合計が一定以上ある者、かつ「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」および「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」の評価点数の合計が著しく高い者という選定基準です。
高ストレス者の基準に該当し、実施者によって面接指導が必要と判断された労働者から面接指導の申し出があった場合には、事業主は医師による面接指導を実施しなければなりません。
(1)高ストレス者に関する事業主の責任
労働契約法第5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています(安全配慮義務)。
したがって、ストレスチェックを行い、労働者の同意を得て事業主が高ストレス者について知った場合には、改善ための配慮が求められると考えられます。
なお、この安全配慮義務とはストレスチェックを受検しなかった労働者がメンタルヘルス不調に陥ったとしても、事業主が免れることができないという義務です。
すなわち、ストレスチェックの結果を把握できなかったからといって、メンタルヘルスに対する事業主の安全配慮義務がなくなるわけではありません。
事業主には、ストレスチェック制度の実施とともに適切な安全対策が求められているため、その点については注意が必要です。
(3)高ストレスの原因の確認は重要
高ストレス者に選定された従業員がいた場合には、過重労働やハラスメント、業務上の人間関係など、ストレスの具体的な原因を丁寧に確認することが極めて重要です。
もし企業が「ストレスは本人の問題」として扱い、休職などの一時的な対応のみで根本的な原因を調査・改善しないまま放置すれば、同様のストレス要因が残り、別の従業員にメンタルヘルス不調が発生するリスクがあります。
また、メンタル不調で休職していた社員が復職したとしても、職場の環境が変わっていなければ再発の可能性が高まります。したがって、個人のケアと並行して職場全体の構造的な課題を洗い出し、必要に応じて業務量の調整や人間関係の再構築、管理職への支援体制の強化などを進めることが、再発防止と組織の健全化の両立につながります。
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中間管理職に高ストレス者が多い場合
ストレスチェックの集団分析は、「年代×業務量」「性別×職位」など、複数の特徴をクロス分析することができます。
その結果、部署によって「若手従業員に高ストレス者が多い」「中間管理職に高ストレス者が多い」などの傾向が見られることがあります。
中間管理職層に高ストレス者が多いという傾向が見られた場合、その職場ではマネジメントの機能が低下し、組織全体のパフォーマンスや士気にも悪影響を及ぼすおそれがあります。中間管理職は、経営層からの指示を現場に落とし込み、部下を支援しながら成果を出すという両方向のプレッシャーを抱えやすい立場です。そのため、ストレスが慢性化すると判断力の低下や離職の増加、部下との関係悪化など、組織運営上のリスクが高まります。
したがって、経営者はこの状況を単なる一部署の問題ではなく、事業の根幹に関わる重要課題と捉える必要があります。ストレス要因の把握と構造的な原因分析を行い、業務負担の見直しや意思疎通の改善、管理職向けのメンタルサポート体制を早急に整備することが求められます。
なお、若手従業員に高ストレス者が多いケースにおいても、もちろん対策を講じる必要があります。若手従業員に高ストレス者が多い職場における対策については、以下の記事でご紹介しておりますので、あわせてご覧ください。
(1)労働時間管理を徹底する
職場環境の改善に取り組む際は、まず中間管理職を含めた全社員の「実際の労働時間」を正確に把握することが重要です。特に管理職であっても、健康管理の観点から労働時間の把握は欠かせません。長時間労働は、脳卒中や心筋梗塞などの過労関連疾患のリスクを高めることが知られており、年齢を重ねるほどその危険性は増します。
さらに、管理職自身が自らの労務管理を適切に行えていない場合、部下への指導やサポートの精度も低下し、結果としてチーム全体の生産性や士気の低下につながります。したがって、中間管理職が恒常的に長時間労働を続けている場合には、その背景を分析し、業務の分担や権限移譲、会議や報告体制の見直しなど、労働時間を減らすための具体的な仕組みを検討・導入することが必要です。
仮に労働時間がそれほど長くない場合でも、全体の業務量自体が多ければ余裕のない働き方になっているかもしれません。また、部下の負担を減らすために負担が増えているケースもあります。
したがって、長時間労働対策について検討する際には、業務量もセットに考えなければなりません。不必要な業務がないか、外注できる作業はないかなど、全社的な業務負担軽減策を検討しましょう。
(2)介護、育児…プライベート要因を確認する
中間管理職の年代になると、育児や介護などプライベートな問題がストレスの大きな要因になっていることも考えられます。
近年、国も育児や介護による離職防止を目的として両立支援に力を入れていますが、依然として「育児や介護は女性の役割」「私的な事情で仕事に支障を出してはいけない」といった価値観が根強く残る組織も少なくありません。こうした意識が改善されない限り、制度を整備しても実際には活用されず、従業員の離職やメンタル不調につながる恐れがあります。
育児や介護は誰にでも起こり得るライフイベントであり、企業としても一時的なサポートではなく、長期的な視点で「働き続けられる環境づくり」を進めることが求められます。単に両立支援制度を設けるだけでなく、「男性の育児休暇取得率を〇%にする」「介護休業からの復帰率を〇%に維持する」といった具体的な数値目標を掲げ、定期的に進捗を可視化することが重要です。
また、管理職が率先して制度を利用するなど、職場全体で「助け合える風土」を醸成する工夫も欠かせません。
また、制度を導入する時には、周りの従業員の負担も考慮しなければなりません。
休暇取得率が高まれば他の従業員に負担が集中し、「なぜ他の従業員のプライベートな問題をサポートしなければならないのか」といった、従業員間の不公平感につながるリスクがあるからです。
したがって、育児や介護などの休暇が必要ない従業員についても、休暇取得率を高め、負担が集中した際には十分に評価されるよう人事制度を見直すなど、不公平感を払拭する施策もあわせて検討しましょう。
(3)業務内容と高ストレスの関係を確認する
管理職に高ストレス者が多い場合、さらに詳細な分析を進めると、「同じ管理職でもA部は高ストレス者が多いが、B部は比較的少ない」といった部署間の差が見えてくることがあります。こうした場合には、まず業務内容や職場環境の違いがストレス要因となっていないかを検討することが重要です。
たとえば、営業部門であれば厳しいノルマや顧客対応のプレッシャーが影響している可能性がありますし、生産部門などでは、一部の部署のみが長時間労働を強いられているケースも考えられます。また、管理職同士の連携不足や、上層部からのサポート体制の差など、組織構造上の要因が影響している場合もあります。
この場合には、現場でヒアリングを行って管理職として日々感じている課題、自身のストレスなどについて話してもらうとよいでしょう。
管理職自身から本音を聞き出すのは、想像以上に難しいことではありますが、可能な限り「自由に働ける環境であるか」「仕事にメリットを感じているか」「負担が大きくなったと感じていないか」など、確認してみましょう。
また、そもそも管理職に適性のない人もいます。仕事ができる人=マネジメント能力が高い人ではないのです。個人の業務については高いパフォーマンスを発揮する人でも、周囲とのコミュニケーションが苦手というタイプもいますし、いわゆる大人の発達障害傾向がある人は適切なサポートを行うのが苦手で、マネジメントに向いていない場合もあります。
管理職のモチベーションを保ちつつメンタルヘルス不調を未然に防ぎ、長期的に成果を上げてもらうためには、ストレスチェックの集団分析をもとに調査を実施し、管理職を含めた残業時間管理の徹底、業務内容の見直し、両立支援の施策実施などを講じることが必要です。
まとめ
ストレスチェック制度の集団分析は、職場の問題点を把握し改善につなげることができます。管理監督者に高ストレス者が多い場合には、長時間労働などの労務負荷の問題、業務内容や人事異動、部署の働き方、退職者の有無などストレスと関連がありそうな情報を集めることで、職場環境改善活動の一助とすることができます。
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ストレスチェックを実施するだけで終わらせず、職場環境の改善につなげるためにぜひご活用ください。
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