職場環境を改善する7つのポイント

職場環境の改善とは、ストレスチェック等を活用して職場のストレス要因を把握・改善し、従業員の健康と生産性向上のために講ずる対策です。

この記事では、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を参考に職場環境改善の具体的な実施事項についてご紹介します。

職場環境の把握と改善

職場環境の改善は、職場環境等のストレス要因を把握・改善し、心身の健康問題を未然に防止する対策をいいます。
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針(以下、厚労省指針といいます)」では、職場環境等について以下のように記載されています。

「労働者の心の健康には、作業環境、作業方法、労働者の心身の疲労の回復を図るための施設及び設備等、職場生活で必要となる施設及び設備等、労働時間、仕事の量と質、パワーハラスメントやセクシャルハラスメント等職場内のハラスメントを含む職場の人間関係、職場の組織及び人事労務管理体制、職場の文化や風土等の職場環境等が影響を与える。」

(1)職場環境改善とは

職場環境の方法はさまざまですが、よく取り上げられるのが労働時間の短縮、有給取得の推進など、勤務時間や休日の取り方の改善です。
その他、温度・湿度や騒音、分煙、作業方法の改善、職場のコミュニケーションの改善、セミナーの実施や相談窓口の設置なども、方策として有効です。

また、職場環境の改善にはストレスチェック制度(※後述)を活用して、その結果を分析する方法も有効です。ストレスチェック制度では、職場環境の改善について次のように努力義務として位置づけられています。

「事業者は、検査を行った場合は、当該検査を行った医師等に、当該検査の結果を当該事業場の当該部署に所属する労働者の集団その他の一定規模の集団ごとに集計させ、その結果について分析するよう求めなければならない。」
「事業者は、前項の分析結果を勘案し、その必要があると認めるときは、当該集団の労働者の実情を考慮して、当該集団の労働者の心理的な負担を軽減するための適切な措置を講ずるよう努めなければならない。」

※ストレスチェック制度とは、平成27年(2015年)の12月から常時50人以上の労働者がいる事業場に義務づけられた制度(50人未満の事業場では、当分の間努力義務)です。ストレスチェックを通じて労働者のストレス程度を把握し、労働者自身のストレスへの気づきを促し、その結果を職場改善につなげ、メンタルヘルス不調を未然に防止することを目的としています。

(2)職場環境改善のメリット

職場環境の改善は、仕事のストレス要因や健康状態が改善するだけでなく、生産性が向上することが多くの研究で報告されています。

さらに効果的なストレス対策を行うためには、労働者個人のストレス対策だけでなく、職場環境の改善などの組織的なストレス対策も組み合わせて行うことが重要だということも分かっています。

厚生労働省「これからはじめる職場環境改善」

職場環境を把握し改善するための10個のポイント

目に見えないストレスの対策は、どこから手をつけていいか分かりにくいものです。そこでおすすめなのが、ストレスチェック制度をきっかけとして始める職場環境の改善です。

ストレスチェックは、ストレスの特徴や傾向を数値化するだけでなく、結果を職場改善に活かすことが可能です。そこで、ストレスチェックを活用して職場環境の改善を進める方法についてご紹介します。

引用: 厚生労働省:これからはじめる「職場環境改善~スタートのための手引~」

(1)職場環境改善計画実施前の準備

まずは会社として「メンタルヘルス不調の未然防止」及び「職場環境の改善」のためにストレスチェック制度を実施する旨の方針を示します。
方針表明の際には、そもそもストレスチェックをどのような意図で導入するのか、従業員の健康管理について会社としての考え方を明らかにします。

なお、従業員50人以上の会社の場合、衛生管理者(業種・規模によっては統括安全衛生管理者、安全管理者も選任)と産業医を選任し、月1回以上衛生委員会(業種によっては安全衛生委員会)を設置する必要がありますが、事業所の衛生委員会は、ストレスチェック制度の実施方法や実施状況および、それらを踏まえた改善等について調査審議して文書化し、すべての従業員に周知しなければなりません。

検討すべき主な事項
 
①ストレスチェック制度の目的および周知方法
②ストレスチェックは誰が実施するか
③ストレスチェックはいつ実施するか
④ストレスチェックはどの質問票を使うか
⑤面接指導の申出は誰にするか
⑥面接指導は、どの医師が行うか
⑦集計結果の利用目的および利用方法の範囲
⑧職場環境改善の実施手順

(2)職場環境改善の3つの方法を検討

職場環境の改善は、「誰が中心となって行うか」によって、①経営層主導型、②管理監督者主導型、③従業員参加型に大きく分けられます。
それぞれの方式の特徴や考えられるメリット・デメリットを検討したうえで、各々の事業場に合った方法を選択します。
どの方法で実施する場合も、職場環境の改善はPDCAサイクルで実施するとよいでしょう。

引用: 厚生労働省:これからはじめる「職場環境改善~スタートのための手引~」

①経営層主導型で行うメリット・デメリット

集団分析の結果をもとに、経営層が事業場全体の対策を進める方法です。明確な課題と方針を提示することができるので、労働時間の削減や人員配置など事業場全体としての取り組みが必要な場合には有効です。
しかし、部署ごとの事業内容や課題の特徴を反映した対策になりにくいというデメリットがあります。

②管理監督者主導で行うメリット・デメリット

部署ごとの集団分析結果をもとに、管理監督者が対策を進める方法です。課題が部署ごとに異なる場合に有効で、管理監督者の意欲や自主性を引き出し、それぞれの課題を具体的に計画へと反映できるメリットがあります。
一方で、管理監督者の権限を越えた対策ができず、管理監督者の独りよがりの対策となってしまうデメリットもあるため、産業保健スタッフの意見を聞くなどの体制が必要です。

③従業員参加型で行うメリット・デメリット

各部署の従業員が対策や計画に主体的に参加する方法で、職場の問題点を皆で解決しようという意思がある職場に向いています。

従業員の意見を反映することできめ細かい対策を実施することができますし、従業員同士のコミュニケーションが向上するというメリットがあります。
しかし、多忙な部署や人間関係に問題がある部署ではスムーズに進まないリスクがあります。また、対策が部署内に限定される可能性もあります。

(3)ストレスチェックの実施

ストレスチェックは、ストレス反応だけでなく仕事のストレス要因、緩衝要因といった、さまざまな項目を同時に測定できる調査票です。
ストレス反応では、心的ストレスだけでなく身体的ストレスも測定できます。
また、調査票の種類によっては、ネガティブ反応だけでなくポジティブな反応についても評価できます。

ストレスチェックの実施については、以下の記事で詳しくご紹介していますので、あわせてご覧ください。

会社のストレスチェック|実施手順と活用方法

ストレスチェックとは|実施方法は?罰則はあるの?

(4)ストレスチェックのデータ収集と分析

ストレスチェックの結果を労働者に通知して、面接指導の対象者に対しては面接指導を受けるよう勧奨します。
医師からの意見を聴取したうえで必要であると判断した場合には、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の減少など就業上の措置を講じます。
就業上の措置を行ったことでストレス状態に改善が見られた場合には、産業医等の意見を聞いたうえで、通常の勤務に戻すなど適切な措置を講じます。

(5)集団分析結果の活用

労働者本人のセルフケアを進めるとともに重要なのが、ストレスチェックの結果を職場環境の改善につなげることです。
ストレスチェックの結果を職場や部署単位で集計・分析することで、職場のストレスを改善するための対策を講じます。

ストレスチェックの分析結果から得られる「仕事のストレス判定図」は、目に見えにくい職場単位でのストレスを数値化したものです。
仕事のストレス判定図では、仕事の量的負担、仕事のコントロール、上司の支援、同僚の支援の4つの指標から健康リスク(リスク値)を算出します。
そしてその健康リスクを2つの判定図「仕事の量-コントロール判定図」と「職場の支援判定図」にプロットし、組織ごとのストレスの特徴を確認することができます。

ストレスチェッカー「仕事のストレス判定図」

仕事のストレス判定図の健康リスクは、仕事のストレスに関するリスクの指標の1つですので、事業場の特徴も検討した上で総合的に評価をすることが適切です。

厚生労働省のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」に掲載されている「職場環境改善のためのヒント集」は仕事のストレス判定図との関連性のある資料となっており、職場環境の改善する場面で活用することができます。

以下からダウンロードすることができますので、参考にしてください。

職場環境改善のためのヒント集

引用: 厚生労働省「こころの耳」

(6)職場環境改善計画の立案・実施

集団分析の結果やその他の情報を総合して職場の状況を分析し、職場環境改善の計画を立案します。

①経営主導型の場合には、事業者や経営層が中心となり職場環境改善の計画を立案します。

②管理監督者主導型では、管理監督者が中心となり計画を立案しますが、この場合には、あらかじめ推進担当者が管理監督者に職場環境改善の方法をレクチャーしておくとよいでしょう。

③従業員参加型では、従業員参加のワークショップを開催します。
1グループ5~8人になるようグループを分け、グループごとに進行役、記録役、発表役を選びグループ討議します。

(7)計画実施後の評価と改善

計画が実施された後、推進担当者はその実施状況と効果を評価します。
評価する際には、プロセスとアウトカムについて評価しますが、この時どのようなものを指標にして効果を評価するのか決めておきます。

プロセスの評価においては、計画どおりに実施されたかどうか評価し、計画どおりに実施されていない場合には何が障害になったか調査して、改善方法を検討します。

アウトカムの評価においては、目的とする健康状態やストレスの指標が改善できたどうかを評価します。

これらの評価をもとに、次年度に向けて計画を改善し、より適切な対策につながるようにします。

まとめ

職場改善等に関するデータを収集するうえで、ストレスチェック制度がよいきっかけとなります。
ストレスチェック制度が義務となった以降、「法律で決まったから仕方なく実施している」というケースもあるかもしれません。

しかし、厚生労働省の調査でも、健康への投資によってメンタルヘルス疾患による休業日数が56%低下した場合、その費用対効果は投資額の1.4倍にもなることが実証されています。

引用: 平成16年厚生労働省労働科学研究費補助金 労働安全衛生総合研究事業「労働者の自殺リスク評価とその対応に関する研究」

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