令和6年版厚生労働白書のポイント【精神科医 監修】

令和6年版厚生労働白書では、「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に」をテーマに、精神疾患の現状や職場のメンタルヘルス、地域・職場における支援などを幅広く取り上げています。
この記事では、令和6年版厚生労働白書の内容から、こころの健康に関するポイントを分かりやすく解説します。

※なお、令和7年版厚生労働白書では、若者に向けた社会保障・労働施策がテーマとなっています。令和7年版のポイントは、以下の記事で解説しています。
参考:令和7年版厚生労働白書のポイント

監修医師:近澤 徹
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役


参考:厚生労働省/白書、年次報告書

こころの健康とは

WHO(世界保健機関)では、こころの健康を、人生のストレスに対処しながら自らの能力を発揮し、学び、働き、コミュニティにも貢献できる精神的に満たされた状態としています。この状態は、精神障害の有無にかかわらず、すべての人の健康やウェルビーイングを支える重要な要素です。

こころの健康は、単に精神疾患がない状態を指すものではありません。自分らしく生活し、人との関係を築きながら、日々の出来事に対応できることも含まれます。

こころの健康が損なわれると、本人の生活や仕事だけでなく、家庭、地域、職場でのコミュニケーションにも影響が及ぶ可能性があります。自殺は依然として深刻な社会問題であり、日本の自殺死亡率は、ほかの先進国と比較して高い水準にあります。

こころの健康の重要性

こころの健康は、個人の幸福や生活の質だけでなく、家族関係や職場、地域社会の安定にも深く関わっています。こころの状態は一定ではなく、生活環境や年齢、健康状態、人とのつながりなどによって変化します。

現代社会では、ライフステージごとに異なるストレス要因が存在し、働く環境や社会全体の状況、社会的な障壁などが、こころの健康に影響を与えます。

具体的には、家庭環境や成育環境、仲間集団での自我形成、周産期、世帯構成の変化、就業環境、仕事と家庭生活との両立、喪失体験、生活の不活発化などが挙げられます。
このほか、進学、就職、結婚、出産、子育て、介護、退職、死別といったライフイベントや、差別・偏見であるスティグマ、社会的排除、孤独・孤立、身体的な疾患なども、こころの健康に影響を及ぼす可能性があります。

精神疾患のリスク

主な精神疾患や精神障害には、うつ病、双極性障害、適応障害、統合失調症、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、摂食障害、依存症などがあります。症状や経過は一人ひとり異なり、日常生活や就労への影響にも個人差があります。

こころの不調が長期化すると、欠勤や休職、就労継続の困難、対人関係の悪化などにつながることがあります。本人だけで問題を抱え込まず、家族や職場、医療機関、相談窓口などの支援につながることが大切です。
令和6年版厚生労働白書では、精神障害による労災認定件数が令和4年度に710件となり、当時の過去最多を記録したことが紹介されています。
また、令和5年の自殺者数は21,837人で、そのうち小中高生の自殺者数は513人となり、過去2番目に多い水準でした。G7各国との比較では、日本の自殺死亡率が最も高く、男女別では男性が2番目、女性が最も高い状況にあるとされています。

こころの健康へ取り組む重要性

誰もが経験する可能性のあるライフイベントや日常の出来事が、深刻なこころの不調につながらないよう、本人のセルフケアだけでなく、家庭、地域、職場、行政が連携して支えることが求められています。

地域では、母子保健と児童福祉の連携や、こども家庭センターの整備が進められています。令和6年版厚生労働白書では、こどもの自殺対策、困難な問題を抱える女性への支援、改正DV防止法への対応、依存症に対する相談・回復支援なども取り上げられました。

職場では、労働者の心身の健康を確保するため、メンタルヘルス対策や治療と仕事の両立支援、育児・介護休業制度の整備、フリーランスに対するハラスメント対策などが進められています。制度を設けるだけでなく、必要な人が実際に利用できる環境を整えることも重要です。
社会全体の施策としては、孤独・孤立対策の重点計画や、人とのつながりを築ける居場所づくり、自殺総合対策大綱、こども・若者の自殺対策、依存症・薬物対策などがあります。
さらに、改正障害者差別解消法への対応や、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築、自治体や関係機関の重層的な連携、障害のある人の社会参加を支える取り組みも進められています。

こころの健康への取り組み事例

こころの不調を抱える人が地域や職場で安心して生活するためには、精神疾患やメンタルヘルスに対する理解を深め、必要な支援につなげることが大切です。

社会全体の意識を変えるための普及啓発に加え、差別や偏見をなくす取り組み、固定的な性別役割分業意識を見直す取り組みも求められます。また、一人ひとりが睡眠や食生活などの日常生活を整え、こころの状態が気になるときに相談できる窓口を知っておくことも重要です。

令和6年版厚生労働白書では、依存症の問題を抱える人の回復と成長を支援するNPO法人、多面的な支援によって障害者の就労移行を支える施設、テレワーク勤務者へのメンタルヘルス対策を行う企業など、地域や職場における具体的な事例が紹介されています。

依存症の問題を抱える方々の回復と成長を支援(NPO法人ジャパンマック福岡)

NPO法人ジャパンマック福岡では、依存症からの本質的な回復を目指し、本人だけでなく、家族や職員も一体となって支援を行っています。
依存症は本人の意思だけで解決することが難しく、家族関係や生活環境を含めた継続的な支援が必要となる場合があります。そのため、本人の回復だけでなく、家族も含めて問題への理解を深めることを重視しています。

さらに、県や市、関係行政機関とも連携し、依存症に関する正しい知識を広めるための研修会や講師派遣を実施しています。地域の関係機関が共通の理解を持ち、必要な支援につなげられる体制づくりにも取り組んでいます。

多面的なサポートで障害者の就労移行を支援(LITALICOワークス赤羽)

LITALICOワークス赤羽では、安定して働き続けるためには、就職活動だけでなく、利用者の生活全体を整えることが大切だという考えに基づいて支援しています。
利用者の状態や生活上の課題に応じて、主治医や地域の福祉機関とも連携し、就職に向けた準備を進めています。医療、福祉、就労支援がそれぞれ独立するのではなく、必要な情報を共有しながら支援する点が重要です。

入社前には、独自の「職場での合理的配慮ガイドブック」を活用し、就職後に起こる可能性のある困りごとや、職場に求めたい配慮を整理しています。本人と企業が事前に認識を共有することで、安定した就労につなげています。

テレワーク勤務者へのメンタルヘルス対策(株式会社ジョイゾー)

株式会社ジョイゾーでは、テレワークの導入によって見えてきたコミュニケーション上の課題や、従業員の孤立を防ぐための取り組みを行っています。
バーチャルオフィスを導入するほか、業務上の定例ミーティングとは別に個別面談を実施し、仕事の進捗だけでなく、従業員の体調や困りごとを確認しています。

また、サテライトオフィスを活用し、社員研修を兼ねたワーケーションも実施しています。働く場所を一時的に変え、従業員同士が直接交流する機会を設けることで、リフレッシュと研修、コミュニケーションの促進を図っています。

社員への細かい目配りで健康な職場づくり(株式会社アキツ)

株式会社アキツでは、従業員の安全と健康を守るため、毎月1回、安全衛生統括責任者が講師となり、労働安全衛生に関する講習会を実施しています。
定期的に学ぶ機会を設けることで、従業員一人ひとりの安全衛生に対する意識を高めるとともに、職場全体で健康管理について考える環境を整えています。

さらに、人間ドックを希望する35歳以上の社員に対しては、1回あたり10万円を上限として費用を助成しています。病気の早期発見や健康状態の確認を支援し、従業員が長く働き続けられる職場づくりに取り組んでいます。

こころの健康とストレスチェック

職場におけるこころの健康づくりでは、ストレスチェックを適切に実施し、その結果をセルフケアや職場環境改善に活用することが重要です。
ストレスチェックとは、労働者が質問票に回答し、自分のストレス状態を確認するための検査です。精神疾患を診断したり、発症の有無を判定したりするものではありません。

労働者本人にストレスへの気づきを促してセルフケアにつなげること、高ストレス者を必要に応じて医師の面接指導につなげること、集団ごとの結果を分析して職場環境改善に役立てることにより、メンタルヘルス不調の未然防止を図ります。
ストレスチェックは実施するだけで終わらせず、相談体制の周知や集団分析、職場環境改善まで継続して取り組むことが大切です。

組織全体のメンタルヘルス改善にも活用できる

ストレスチェックは、従業員本人のセルフケアだけでなく、組織全体のメンタルヘルス対策にも活用できます。
個人を特定できない形で部署や職場ごとの結果を集計・分析することにより、仕事の量的負担、仕事の裁量、上司や同僚からの支援など、職場におけるストレス要因の傾向を把握できます。
特定の部署で負担が高い傾向が確認された場合には、その原因を検討し、業務分担や人員配置、仕事の進め方、コミュニケーションの方法などを見直します。
集団分析の結果を職場環境改善につなげることで、従業員の心身の健康を守るだけでなく、働きやすい組織づくりや人材の定着にもつながる可能性があります。

従業員自身のメンタルヘルスへの意識も高める

ストレスチェックは、従業員一人ひとりが自分のストレス状態を客観的に振り返り、メンタルヘルスへの意識を高める機会になります。
自覚症状がなくても、結果を見ることで、仕事の負担や周囲からの支援、心身に現れているストレス反応について考えるきっかけを得られます。

ストレスが高まっていると気づいた場合には、睡眠や休養の取り方を見直す、運動や趣味の時間を設ける、家族や友人に相談するなど、自分に合ったセルフケアを検討できます。
症状が強い場合や長期間続く場合には、セルフケアだけで対応しようとせず、社内の相談窓口、産業医、医療機関などに相談することも大切です。

高いストレス状態への早期対応が可能に

ストレスチェックの結果、高ストレス者に該当した労働者は、一定の要件のもとで、事業者に対して医師による面接指導を申し出ることができます。
申出を受けた事業者は、医師による面接指導を実施しなければなりません。面接指導では、勤務状況や心理的な負担、心身の状態などを医師が確認し、必要な対応について意見を述べます。
事業者は医師の意見を踏まえ、必要に応じて労働時間の短縮、業務内容や就業場所の変更などの就業上の措置を検討します。

なお、面接指導を申し出たことを理由に、解雇や配置転換などの不利益な取り扱いを行うことは禁止されています。労働者が安心して支援を求められる体制を整えることが重要です。

従業員の安心感にもつながる

ストレスチェックを適切に実施し、相談窓口や支援体制を分かりやすく周知することで、組織としてメンタルヘルス対策に取り組む姿勢を従業員に示すことができます。

ただし、制度を導入するだけで従業員の安心感が高まるとは限りません。個人の結果が本人の同意なく事業者へ提供されないことや、面接指導の申出を理由とする不利益な取り扱いが禁止されていることなどを丁寧に説明する必要があります。

プライバシーに配慮した運用を行い、相談した従業員が不利益を受けない環境を整えることで、必要なときに支援を求められる職場づくりにつながります。

さらに、集団分析の結果を職場環境改善に反映し、従業員の意見にも耳を傾けることで、組織に対する信頼や職場内のコミュニケーションの改善も期待できます。

 

ストレスチェッカーとは

「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しています。
また、無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下である「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場でも実施義務化が進むため、早めの準備が大切です。
導入や運用については、ぜひお気軽にご相談ください。

ストレスチェック導入のご相談はこちら

 

監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

精神科医 近澤徹氏

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役・近澤 徹

オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。


> 近澤 徹 | Medi Face 医師起業家(Twitter)

 

    あわせて読みたい

    >ストレスチェックサービスおすすめ22選

    >ジョハリの窓とは?分かりやすく解説

    >マイクロアグレッションとは?

    >メンタルタフネスとは?高める方法は?

    >アクティブレストとは?効果は?

    >ソーシャル・ジェットラグとは?

    >マインドワンダリングとは?産業医監修

    >自己承認力とは?高める方法は?

    >リアリティショックとは?対策は?

    >ジョブ・クラフティングとは?産業医 監修

    >どうにでもなれ効果とは?ストレスとの関係は?

    >リバースメンターとは?世代間ギャップ対策

    >役割葛藤とは?対処法は?

    >隠れ疲労とは?症状とメカニズムを解説

    >職場における「心のブレーキ」対策

    >気分が落ち込む原因と対処法

    >インポスター症候群とは?公認心理師 監修

    >入社後ギャップとは?原因と対処法を解説

    >職場の人間関係に疲れたら読むコラム

    >ポモドーロ・テクニックとは?効果は?