
令和7年版の厚生労働白書では、「次世代の主役となる若者の皆さんへ―変化する社会における社会保障・労働施策の役割を知る―」をテーマに、社会保障や労働施策を知る意味が解説されています。
高校生を対象とした調査結果や、社会保障教育・労働法教育の事例も紹介されており、若者を採用・育成する企業にとっても参考になる内容です。
この記事では、令和7年版厚生労働白書の主要なポイントを、企業担当者向けに分かりやすく解説します。
※令和6年版厚生労働白書では、こころの健康や職場のメンタルヘルスがテーマとなっています。令和6年版のポイントは、以下の記事で解説しています。
参考:令和6年版厚生労働白書のポイント【精神科医 監修】
参考:厚生労働省/白書、年次報告書
目次
令和7年版厚生労働白書とは
厚生労働白書は、厚生労働行政の現状や課題、今後の施策の方向性をまとめた年次報告書です。
第1部では、若者を主な対象として、社会保障や労働施策が生活をどのように支えているのか、制度を知ることにどのような意味があるのかを取り上げています。
社会保障や労働法を、病気や失業などの問題が起きてから利用する制度としてだけでなく、将来の生活や働き方を主体的に選ぶための知識として捉えている点が、令和7年版の大きなポイントです。
第1部のテーマは社会保障・労働施策と若者
令和7年版厚生労働白書の第1部のテーマは、「次世代の主役となる若者の皆さんへ―変化する社会における社会保障・労働施策の役割を知る―」です。
若者は、社会保障制度によって支えられる側であると同時に、将来の制度や社会を支える当事者でもあります。そのため、制度の仕組みや利用方法だけでなく、社会全体で支え合う意味を理解することも重視されています。
若者が生活上の問題や労働トラブルに直面したとき、必要な制度や相談窓口を知っていれば、問題を一人で抱え込まず、適切な支援につながることができます。
第1部は3つの章で構成されている
令和7年版厚生労働白書の第1部は、大きく3つの章で構成されています。
第1章では、社会保障と労働施策の成り立ちや役割、人口減少・超高齢社会における今後の方向性が解説されています。
第2章では、高校生3,000人を対象とした調査結果をもとに、若者の社会保障・労働施策への関心や理解度、制度を知ることの意義がまとめられています。
第3章では、学校などで行われている社会保障教育・労働法教育の事例と、今後の取り組みの方向性が紹介されています。
社会保障と労働施策が果たす役割
社会保障と労働施策は、病気やけが、失業、出産、介護、老後など、個人の力だけでは十分に対応できない生活上のリスクを、社会全体で支える制度です。
社会保障と労働施策は別々の制度として扱われることもありますが、実際には密接に関係しています。たとえば、労働者が仕事中にけがをした場合には労災保険、失業した場合には雇用保険、病気になった場合には医療保険が生活を支えます。
白書では、これらの制度が一人ひとりの生活を支えるとともに、社会や経済の安定にも関わっていることが示されています。
社会保障は生活の安定を支えるセーフティネット
社会保障制度は、主に「社会保険」「社会福祉」「公的扶助」「保健医療・公衆衛生」の4つから構成されています。
社会保険には、医療保険、年金、介護保険、雇用保険、労災保険などがあります。病気やけが、老齢、障害、失業などによって生活が不安定になることを防ぎます。
社会福祉には、障害福祉、児童福祉、生活困窮者への支援などが含まれます。公的扶助である生活保護は、生活に困窮した人の最低限度の生活を保障し、自立を支える制度です。
保健医療・公衆衛生には、医療サービス、健康づくり、母子保健、感染症対策、食品や医薬品の安全確保などが含まれます。
労働施策は安心して働ける環境を支える
労働施策は、労働時間や賃金、休日、安全衛生などの最低限のルールを定め、働く人を不当な扱いや過度な負担から守る役割を担っています。
このほか、職業紹介、雇用保険、職業訓練、仕事と育児・介護の両立支援、ハラスメント対策、労働災害の防止なども、労働施策に含まれます。
白書では、労働施策の目的として、誰もが生きがいを持って能力を発揮できる社会や、多様な働き方を選び、自分の未来を自らつくることのできる社会の実現を掲げています。
従業員が安心して働ける環境を整えることは、本人の生活を守るだけでなく、企業の生産性や人材の定着にも関係します。
人口減少・超高齢社会への対応が求められている
日本の人口は2008年をピークに減少へ転じています。白書では、2050年の総人口が1億469万人まで減少し、高齢化率は37%程度になると推計しています。
生産年齢人口の減少が続くなか、現在の社会保障制度や労働施策を、人口減少社会に対応した持続可能な仕組みに見直すことが課題です。
今後の方向性としては、「少子化・人口減少の流れを変える」「超高齢社会に備える」「地域の支え合いを強める」という3つが示されています。
若者から高齢者まで、すべての世代が支える側と支えられる側になり得る「全世代型社会保障」の構築も進められています。
若者の社会保障・労働施策に対する意識
令和7年版厚生労働白書では、高校1年生から3年生までの3,000人を対象として、2025年1月に行われたアンケート調査の結果が紹介されています。
調査では、社会保障や働くときのルールに対する関心、制度の理解度、学校で社会保障教育や労働法教育を受けた経験などを確認しています。
その結果、若者は働くときのルールに高い関心を持つ一方、制度の具体的な内容については、十分に理解できていない場合があることが分かりました。
労働時間や賃金への関心は約8割
社会保障や労働施策について「とても関心がある」「やや関心がある」と回答した割合は、医療が63.6%、年金が58.3%、介護が43.3%、福祉が49.2%、公衆衛生が47.5%でした。
一方、労働時間のきまりへの関心は79.5%、賃金のきまりへの関心は80.0%となっています。
高校生にとって、賃金や労働時間はアルバイトや就職に直結するため、社会保障分野よりも身近な問題として捉えられていると考えられます。
企業が若い人材を採用する際にも、賃金や勤務時間だけでなく、休暇、社会保険、福利厚生などの労働条件を分かりやすく説明することが大切です。
制度を理解している割合はおおむね5~6割
社会保障や労働施策の内容を「よく知っている」「何となく知っている」と回答した割合は、調査項目によっておおむね5割から6割でした。
関心を持っていても、利用できる制度や具体的な労働ルールまでは理解していない若者が少なくないことが分かります。
たとえば、アルバイトも労災保険の対象となること、一定の要件を満たせば有給休暇を取得できること、法定労働時間を超えた労働には割増賃金が必要になることなどは、働き始める前に知っておきたい内容です。
企業側も、従業員が知っていることを前提にせず、入社時研修や社内資料を通じて繰り返し伝える必要があります。
社会保障教育・労働法教育を受けた経験
学校の授業などで社会保障教育を受けた経験がある高校生は65.3%、労働法教育を受けた経験がある高校生は62.7%でした。
教育を受けた経験がある人のうち、授業の内容を覚えていると回答した割合は、社会保障教育で54.2%、労働法教育で70.0%となっています。
また、社会保障教育や労働法教育を受けた経験がある人ほど、制度への関心度や理解度が高い傾向も確認されました。
一度説明するだけでなく、実際の生活や仕事に関係するタイミングで繰り返し学ぶことが、知識の定着につながると考えられます。
インターネットやSNSの情報に不安もある
調査では、社会保障や労働施策を知るために利用したい手段として、インターネットやSNSが挙げられています。
一方、インターネットやSNSを選んだ人のうち、90.6%が「SNSなどの情報が正しいかどうか分からない」と回答しました。
若者が日常的に利用する媒体で情報を届けることは有効ですが、発信元や情報の更新日が明確でなければ、正しい情報を判断できない可能性があります。
企業が就業規則や福利厚生、相談窓口などを周知する際にも、社内ポータルや公式資料など、従業員が信頼できる情報源を分かりやすく示すことが必要です。
社会保障・労働施策を知る意義
令和7年版厚生労働白書では、社会保障や労働施策を知る意義を、個人の生活上の問題解決に役立てる視点と、社会を支える当事者として考える視点から説明しています。
制度は存在するだけでは十分ではありません。本人が制度の存在を知り、自分が対象になる可能性を理解し、必要なときに相談や申請ができることが重要です。
社会保障や労働施策について学ぶことは、自分の権利を守るだけでなく、周囲で困っている人を適切な支援につなげることにも役立ちます。
生活上の問題を一人で抱え込まずに済む
病気やけが、失業、障害、出産、子育て、介護などは、誰にでも起こる可能性があります。
利用できる制度や相談窓口を知っていれば、問題を本人や家族だけで抱え込まず、自治体、ハローワーク、労働基準監督署、医療機関などに相談できます。
若者にとっても、社会保障は老後になってから関係する制度ではありません。アルバイト中のけが、家族の介護、妊娠・出産、失業など、若い時期から関係する場面があります。
企業が従業員に制度を周知する際には、制度名だけでなく、どのような場面で利用できるのかを具体的に伝えることが有効です。
労働トラブルの予防や解決に役立つ
働くときのルールを知ることで、不適切な労働条件を見分けたり、労働トラブルが起きたときに適切な相談先を選んだりできます。
労働時間、休憩、休日、賃金、解雇、ハラスメントなどに関する問題は、本人が問題だと認識できなければ、相談につながらないことがあります。
特に若い従業員は、職場で提示された条件を当然のものとして受け入れてしまう場合があります。企業には、法令を守るだけでなく、就業規則や相談制度を理解できる形で伝える姿勢が求められます。
相談したことで不利益を受けるのではないかという不安を減らし、安心して声を上げられる環境を整えることも必要です。
社会を支える当事者として考えられる
社会保障は、一部の支援を必要とする人だけを対象とした仕組みではありません。
保険料や税を負担する人、医療・介護・福祉の仕事に携わる人、企業で雇用を支える人、地域活動に参加する人など、多くの人によって制度が成り立っています。
制度の給付と負担について知ることで、自分を支援の利用者としてだけではなく、社会を支える当事者として捉えられるようになります。
世代や立場によって必要とする支援が異なることを理解し、将来の制度や働き方について考えることも、社会保障・労働施策を学ぶ意味の一つです。
社会保障教育・労働法教育の取り組み事例
令和7年版厚生労働白書では、学校や大学で行われている社会保障教育・労働法教育の事例が紹介されています。
制度名や法律の条文を覚えるだけではなく、具体的な生活上の問題やライフイベントをもとに、自分が利用できる制度や相談先を考える内容となっています。
企業の研修でも、制度を一方的に説明するのではなく、事例やクイズ、グループワークを取り入れることで、従業員が自分の問題として考えるきっかけとして活用することができます。
社会保障を自分の問題として考える授業(東京都立世田谷泉高等学校)
東京都立世田谷泉高等学校では、公民科「公共」の授業で、厚生労働省が作成したストーリー形式の教材などを活用しています。
生活上の困難に直面した人物の事例をもとに、利用できる制度や相談窓口を調べ、社会保障制度がなぜ必要なのかを考えます。
授業後には、社会保障を自分の問題として捉えられるようになったり、社会保障の負担に対する納得感が生じたりする傾向が確認されています。
具体的なストーリーを通じて学ぶことで、制度と自分の生活との関係を理解できるようにしています。
ライフイベントから社会保障を学ぶ授業(茨城県立土浦第一高等学校)
茨城県立土浦第一高等学校では、家庭基礎の授業で、就職、結婚、出産、病気、介護などのライフイベントから社会保障を考えています。
個人の家計への影響も確認しながら、社会保障の負担と給付水準についてグループで議論します。
自分の生活に必要な制度を知るだけでなく、社会全体としてどの程度の負担と給付が必要なのかまで視野を広げる内容です。
働くときのルールを学ぶ労働条件セミナー
淑徳大学や山口県立南陽工業高等学校では、学生や生徒を対象とした労働条件セミナーが実施されています。
セミナーの目的は、適正な労働条件の会社を選ぶための知識を身につけること、労働トラブルを予防すること、トラブルが起きた場合の相談先を知ることです。
仕事を始める前、働いている間、退職するときという場面に分け、労働法の基礎知識を具体的な事例やクイズを交えて説明しています。
参加者からは、相談することの大切さや、労働時間・休日・休暇、就職活動、ハラスメントに関する内容が役立ったという声が寄せられています。
令和7年版厚生労働白書から企業が考えるべきこと
令和7年版厚生労働白書は、主に若者に向けて社会保障や労働施策を説明したものですが、企業の人事・労務担当者にも多くの示唆があります。
若い従業員が制度に関心を持っていても、具体的な内容まで理解しているとは限りません。企業側から、正確な情報を分かりやすく伝える必要があります。
採用時や入社時だけでなく、配属、結婚、出産、介護、休職など、それぞれのライフステージに応じて情報を提供することが大切です。
入社時に労働条件と利用できる制度を説明する
若い従業員を採用する際には、賃金や勤務時間だけでなく、休憩、休日、時間外労働、有給休暇、社会保険、福利厚生なども具体的に説明することが大切です。
雇用契約書や就業規則を渡すだけでは、内容が十分に理解されないこともあります。入社時研修で重要な項目を説明し、後から確認できる社内資料を用意するとよいでしょう。
育児・介護休業、傷病手当金、労災保険、雇用保険などは、必要な状況になるまで調べる機会が少ない制度です。
利用できる条件や相談先をあらかじめ伝えることで、従業員が問題を一人で抱え込むことを防げます。
信頼できる情報を分かりやすく届ける
社内制度や相談窓口について、情報が複数の場所に分散していると、必要なときに見つけられない可能性があります。
社内ポータルやイントラネットに情報をまとめるほか、短い動画、図解、よくある質問などを活用し、理解しやすい形で周知する方法があります。
また、法改正や制度変更があった場合には、掲載内容を更新し、更新日と情報の発信元を明記することも大切です。
SNSやインターネット上には不正確な情報も含まれるため、企業が公式情報を示すことは、従業員の不安や誤解を減らすことにつながります。
相談できる環境を整える
相談窓口を設置していても、従業員がその存在や相談できる内容を知らなければ、実際の利用にはつながりません。
労働条件、ハラスメント、健康、育児・介護、メンタルヘルスなど、どのような問題を相談できるのかを具体的に周知する必要があります。
相談内容がどのように扱われるのか、誰が情報を確認するのか、相談したことで不利益を受けないことも説明しましょう。
社内だけで対応することが難しい場合には、産業医、外部相談窓口、医療機関、公的機関などにつなげられる体制を整えておくことも大切です。
まとめ
令和7年版厚生労働白書では、若者が社会保障や労働施策を知ることは、生活上の問題や労働トラブルから自分を守るだけでなく、将来の生活を主体的に選ぶためにも重要だとしています。
高校生を対象とした調査では、労働時間や賃金に対する関心は約8割に達する一方、制度の具体的な内容を理解している割合は、おおむね5割から6割でした。
企業には、若い従業員が知っていることを前提とせず、労働条件、社会保険、休暇制度、相談窓口などを分かりやすく伝えることが求められます。
制度の周知に加え、ストレスチェックや相談体制、職場環境改善を組み合わせることで、従業員が安心して働き続けられる環境を整えることが大切です。

