
パニック症(パニック障害)は、理由もなく突然起こる強いパニック発作を何度も繰り返す病気です。
パニック症のある人が職場にいる場合、無理に励まさず、急な変化やプレッシャーを避ける配慮が大切です。
職場全体に正しい理解を促し、無理のない業務配分と柔軟な働き方をサポートする姿勢が求められます。
監修医師:近澤 徹
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
目次
パニック症(パニック障害)とは
パニック症とは、予期しないパニック発作を繰り返し、再発への強い不安や行動の変化が続く疾患です。
危険がない状況でも、動悸や息苦しさ、めまい、発汗などの症状が突然現れます。ただし、身体疾患や薬物などが原因でないことを確認する必要があります。
パニック症は人口の1~3%程度にみられ、決してまれな病気ではありません。パニック発作自体は多くの人が経験し得ますが、一度発作が起きただけでパニック症と診断されるわけではありません。
発作後の不安が続く期間や、外出を避けるなど生活への影響も含め、医師が総合的に判断します。
パニック症の主な症状
パニック症では、動悸、息苦しさ、めまい、発汗、手足の震え、吐き気、腹部の不快感、胸の圧迫感など、多様な症状が現れます。こうした発作は前触れなく突然始まり、数分以内にピークに達した後、通常は数分から数十分ほどで次第におさまります。しかし、その体験は非常に衝撃的で、「またあの発作が起きたらどうしよう」という強い不安を日常的に抱えるようになることがあります。
多くの場合、複数の症状がほぼ同時に現れ、時間の経過とともに徐々に軽くなっていきます。どのような症状が目立つかは人によって異なり、たとえば「急に心臓が激しく脈打ち、このまま倒れるのではないか」と感じる人もいれば、「原因が思い当たらないのに吐き気や腹痛に襲われた」と訴える人もいます。
これらは心臓や呼吸器などの身体疾患でも起こり得る症状です。そのため、医療機関では必要に応じて検査を行い、身体疾患や薬物など、ほかの原因による症状ではないことを確認します。検査で明らかな異常が見つからなくても、本人が感じる苦痛や恐怖は非常に強く、外見からは伝わりにくいため、周囲の理解を得にくいという難しさも伴います。
パニック症とパニックの違い
「パニック症」と「パニック」は、言葉が似ていても意味する内容は大きく異なります。日常会話で使われる「パニック」とは、予想外の出来事や緊急事態に直面し、冷静さを失って慌てたり混乱したりする状態を指します。「パニクる」といった表現があるように、原因となる出来事が比較的はっきりしており、それに対する一時的な反応として起こるものです。
一方、パニック症は、予期しない激しい不安や動悸、息苦しさなどを伴う「パニック発作」が繰り返される病気です。発作は静かな場所で安静にしているときや、夜間の睡眠中に起こることもあります。また、発作を経験した状況や場所で再び起こることもあり、その後は「また発作が起きるのではないか」という予期不安を抱くことがあります。
「パニック症」と聞いて、「冷静さを失いやすい人」「感情や行動をコントロールできない人」といったイメージを持たれることもあります。しかし、本人の性格や意思の弱さが原因で起こるものではありません。こうした誤解は偏見や受診の遅れにつながる可能性があるため、病気として正しく理解することが大切です。
パニック症と似た症状の病気
パニック発作の際に見られる、激しい動悸、息苦しさ、めまいといった症状は、身体的な病気でも現れることがあるため、単なる心因性のものと自己判断するのは危険です。突然強い症状に襲われたとき、それが身体の異常によるものか、パニック発作によるものかを症状だけで見分けるのは難しく、医療機関で適切な診断を受けることが重要です。
パニック症と似た症状を起こす身体疾患には以下のようなものがあります。
鉄欠乏性貧血
酸素を運ぶ能力が低下することで、動悸や息切れを感じやすくなります。特に女性に多く見られます。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)
新陳代謝を促す甲状腺ホルモンの働きが活発になりすぎて、疲れやすくなり、動悸、息切れ、発汗、体重減少が見られます。
褐色細胞腫
副腎にできる腫瘍で、カテコールアミンというホルモンが過剰に出ることにより、動悸、発汗、立ちくらみなどの症状が現れやすくなります。
心臓の病気(狭心症・不整脈・僧帽弁逸脱症など)
心拍のリズムの乱れや胸の痛みが起きることがあり、症状が一時的な場合でも検査が必要です。
低血糖
血糖値が下がりすぎることで、動悸、脱力、ふるえ、ひどいときは意識障害が起こる可能性があります。
更年期障害
特に女性に見られ、ホットフラッシュ(突然ののぼせ)、発汗、耳鳴り、不整脈などが発作的に出現します。
てんかん(側頭葉てんかんなど)
自律神経症状として発汗、過呼吸、頻脈のほか、非現実感や意識が途切れたりすることがあります。
メニエール病
耳の内耳に関係する疾患で、突然ぐるぐると回るような激しいめまいが生じ、これが数時間続く点がパニック発作とは異なります。
パニック症の治療法
パニック症は、単に休養を取っていれば自然に治るとは限りません。症状が続く場合には、早めに医療機関を受診し、状態に合った治療を受けることが回復への第一歩です。
主な治療法には、抗うつ薬などを用いる薬物療法と、発作への受け止め方や回避行動を見直す認知行動療法があります。あわせて、睡眠や食事などの生活リズムを整え、過度な飲酒やカフェインを控えるなど、心身への負担を減らすことも大切です。
こうした治療とセルフケアを継続することで、発作や予期不安が軽くなり、避けていた場所へ行けるようになるなど、日常生活を取り戻せる人は少なくありません。症状が安定した後も、薬を自己判断で中止せず、医師と相談しながら減量や治療の終了を検討します。
治療にかかる期間には個人差があります。発作への恐怖の強さ、回避行動の程度、併存する症状などによって経過は異なり、比較的短期間で落ち着く人もいれば、数か月以上かけて段階的に治療を進める人もいます。焦らず、自分の状態に合わせて取り組むことが大切です。
パニック症の職場における影響と周囲の理解
これまでご紹介したとおり、パニック症とは、予期しない強い不安や、動悸、息苦しさ、めまい、吐き気などの身体症状を伴うパニック発作を繰り返す精神疾患です。発作そのものに加え、「また発作が起きるかもしれない」という予期不安が続き、発作が起きた場所や状況を避けるようになることもあります。
体調が安定しているように見えても、本人は強い不安を抱えながら業務にあたっている場合があります。そのため、突然の体調不良によって仕事を一時的に中断したり、休憩や早退が必要になったりする可能性もあります。ただし、症状の現れ方や仕事への影響には個人差があり、すべての人に同じ対応が必要なわけではありません。
こうした状況を本人だけの問題とせず、職場で正しい知識を共有し、必要な支援を検討することが大切です。「精神的に弱い」「気の持ちよう」といった誤解を避け、医学的な治療の対象となる疾患であることを理解して接することが、信頼関係を築く第一歩となります。
業務上の配慮としては、本人と相談しながら、業務量や仕事内容、勤務する場所・時間などを調整する方法があります。たとえば、業務負荷を一時的に軽減する、休憩を取りやすくする、時差出勤やリモートワークを取り入れるなど、症状や職務内容に合った対応を検討します。必要に応じて、本人の同意を得たうえで、主治医や産業医の意見を確認することも有効です。
一方、本人が病名や症状を職場にどこまで伝えるかは、プライバシーに関わる問題です。詳しい事情を無理に聞き出したり、本人の許可なく周囲へ伝えたりしてはいけません。本人の意思を尊重しながら、業務上どのような困りごとがあり、どのような配慮が必要かを話し合うことが大切です。
パニック症があっても、適切な治療を受け、働く環境が整えば、安定して仕事を続けられる人は少なくありません。職場の理解と適切な配慮は、本人の安心感や能力の発揮につながります。また、相談しやすく休憩を取りやすい環境を整えることは、特定の人だけでなく、職場全体にとっても働きやすい環境づくりにつながります。
パニック症とストレスチェック
ストレスチェックとは、仕事や人間関係による心理的負荷を数値化し、自分自身の状態を客観的に把握するツールです。
ストレスチェックは、パニック症の早期発見につながる可能性があります。高ストレスと判定された場合には、パニック症の初期症状であるパニック発作や、それにつながる心身の緊張や不安が背景にある可能性があります。その段階で気づきを得ることで、専門機関への相談や受診のきっかけとなり、早めの対処につながることが期待されます。
特に、発作の原因が特定できないと感じている人にとって、ストレスチェックによって心身の緊張に気づくことが、医療機関への受診や環境の見直しにつながるケースがあります。また、職場の管理者がチェック結果をもとに適切なサポートを検討するきっかけにもなります。自覚しにくいストレスを可視化し、早期にケアへつなげるための有効な手段です。
本質的な判断には使えない
ストレスチェックで測定される項目には、仕事の量や質、人間関係、職場環境といったストレスの原因に加えて、身体的な不調や心理的な反応といった自覚症状も含まれます。
ストレスチェック制度を活用することで、本人が気づかないうちにたまっているストレスの存在が可視化され、心身の状態に目を向けるきっかけになります。
ただし、ストレスチェックはあくまでも一次的な評価ツールであり、パニック症そのものを診断するものではありません。高ストレスと判定された場合には、産業医との面談を通じて状態を確認し、必要に応じて医療機関での診察を受けることが勧められています。職場での早期対応が、その後の予防や治療につながる可能性もあるため、気になるサインが見られた場合には、ためらわず相談することが大切です。
ストレスチェックの活用方法
パニック症を抱える本人にとっても、ストレスチェックは自身の状態を客観的に見つめ直すきっかけになります。また、職場側にとっては、従業員の精神的な負荷を軽減するための施策を検討する重要な材料となります。たとえば、過重労働の見直しや、業務の柔軟な分担、相談体制の整備など、環境面からの支援が可能になります。
パニック症に限らず、心の不調に気づいたら、早めに医療機関に相談し、適切なサポートを受けることが大切です。ストレスチェックはそのための第一歩となる存在です。
緊張や不安、対人関係のストレスが数値として表れることで、自分のコンディションに合った対処法を考えやすくなります。
また、組織としても高ストレス者の傾向や職場環境の問題を早期に察知することで、適切な対応を取りやすくなります。さらに、ストレスチェックは面談のきっかけづくりにもなり、定期的なケアの体制をつくる一助になります。
監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹
【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役・近澤 徹
オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。
まとめ
パニック症は、適切な治療を受けることで改善が期待できる疾患です。「症状の軽減」や「社会生活への支障がなくなるレベルまでの回復」は十分期待できますし、状況によっては、服薬なしで生活できる状態に回復する人もいます。
ストレスチェック制度は、心身の状態を客観的に把握し、早期にケアにつなげるための有効なツールです。本人が気づきにくい疲労や不調の兆しを見つける手助けにもなります。
ストレスチェック制度を活用することで、本人のストレス状態の早期把握が可能となり、精神的負荷の軽減に繋げられます。定期的なチェックと面談の機会を設けることで、異変に気づきやすくなり、必要な支援を早期に講じることができます。職場での支援体制とストレスチェックを組み合わせることで、本人の安心感が高まり、無理のない働き方の継続がしやすくなります。
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