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プレゼンティーイズムとは、体調が万全ではない状態で出勤し、仕事のパフォーマンスが落ちてしまっている状態を指します。しかし、実際に企業でこれをしっかり測定しているケースは少なく、まずはデータを取ることが大事になってきます。
「アブセンティーイズム(欠勤)」だけでなく、この「プレゼンティーイズム(出勤しているけどパフォーマンス低下)」についてもあわせて分析することで、生産性をどう改善・向上できるかが見えてきます。
また、職場でのモチベーションや仕事への熱意を示す「ワーク・エンゲイジメント」も見逃せません。こうした健康関連の指標をしっかり把握していくことが、組織全体のパフォーマンス向上につながるポイントになります。
目次
プレゼンティーイズムとは
プレゼンティーイズム(Presenteeism) とは、従業員が体調不良やメンタルの不調を抱えながらも出勤し、業務に従事するものの、十分なパフォーマンスを発揮できない状態を指します。つまり、「出勤はしているが、本来の能力を発揮できていない」状態です。
企業の生産性向上においては、アブセンティーイズム(Absenteeism:欠勤) への対策だけでなく、プレゼンティーイズムの改善が重要視されるようになっています。表面的には従業員が出勤しているため問題が見えにくいですが、業務効率やクオリティの低下につながるため、企業にとって大きな損失をもたらすリスクがあるからです。また、長期的にプレゼンティーイズムが続くと、従業員の健康悪化やモチベーションの低下を招き、結果的に離職率の上昇につながってしまいます。そのため、プレゼンティーイズムは一時的な問題ではなく、組織全体での継続的な改善が求められる重要な課題と捉えるべきです。
(1)プレゼンティーイズムの原因
プレゼンティーイズムが発生する背景には、以下のような要因があります。
1. 身体的な健康問題
風邪や頭痛、アレルギー、消化器系の不調、慢性疾患(腰痛、高血圧、糖尿病など)を抱えながら働くと、どうしても集中力や作業効率が低下します。特に、慢性的な疾患を抱えている従業員は、パフォーマンスの低下が長期化する傾向があります。このような状態が積み重なると、仕事への意欲が低下し、業務の質が落ちてしまうリスクが高くなります。
2. メンタルヘルスの問題
ストレス、うつ、不安障害などの精神的な問題も、大きな影響を与えます。精神的に不調な状態で出勤すると、判断力の低下や生産性の低下が顕著になり、職場全体の士気にも影響を及ぼす可能性があります。また、精神的な不調が続くと、業務の遂行が困難になり、最終的には休職や退職に至るケースも少なくありません。
3. 職場環境の問題
過度な業務負担、人間関係のトラブル、ハラスメントなどの職場環境がプレゼンティーイズムを引き起こす要因となることもあります。特に、長時間労働や適切な休息が取れない状況では、体調不良を抱えながらも出勤せざるを得ない状況が生まれがちです。職場環境が悪化すれば、従業員の満足度が低下し、結果的に組織全体のパフォーマンスにも影響を及ぼします。
4. 企業文化や働き方
「休むことが悪」とされる企業文化や、「自分がいないと業務が回らない」というプレッシャーも、従業員が無理をして出勤する原因になります。また、有給休暇が取得しづらい職場環境もプレゼンティーイズムを助長します。組織の価値観が「長時間労働=成果」という考え方になっている場合、従業員が無理をして働き続ける傾向が強まり、健康問題が悪化する可能性があります。
(2)プレゼンティーイズムが企業に与える影響
プレゼンティーイズムは、個人の健康だけでなく、企業の生産性や経済的な損失にもつながります。
1. 生産性の低下
体調不良のまま働くと、集中力や判断力が低下し、業務のスピードが落ちるだけでなく、ミスが増える可能性が高まります。結果的に、通常よりも多くの時間と労力を要することになり、全体のパフォーマンスが下がります。特にチーム作業では、1人のパフォーマンス低下が周囲にも影響を与え、組織全体の業務効率が悪化することもあります。
2. 医療コストの増加
プレゼンティーイズムを放置すると、従業員の健康状態がさらに悪化し、後々長期の休職や入院につながるリスクが高まります。企業としても医療費の負担が増える可能性があり、長期的なコスト増加を招くことになります。健康診断や予防対策を軽視することは、結果的に企業全体の医療関連費用が膨れ上がることにつながるため、早期の対策が重要です。
3. 組織全体のモチベーション低下
体調不良を抱えながら働く従業員が増えると、職場全体の雰囲気が悪くなりチームのモチベーション低下を招きます。さらに、パフォーマンスの低い社員が増えることで、業務の停滞や他の従業員への負担増加につながることもあります。長期間にわたりプレゼンティーイズムの影響を放置すると、企業文化自体が「無理をして働くことが当たり前」となり、従業員の定着率が悪化する原因となります。
(3)プレゼンティーイズムの対策と改善方法
プレゼンティーイズムを減らし、健康的で生産性の高い職場を実現するためには、以下のような対策が有効です。
1. 健康管理支援の強化
企業が健康診断やストレスチェックを定期的に実施し、従業員の健康状態を把握することが重要です。また、産業医やカウンセラーの活用、健康相談窓口の設置など、従業員が気軽に健康について相談できる環境を整えることも大切です。
2. 柔軟な働き方の導入
テレワークやフレックスタイム制、時短勤務など、個々の事業場の状況に応じて多様な働き方を認めることで、従業員が無理なく働ける環境を作ることができます。また、体調不良の際に気兼ねなく休めるよう、有給休暇の取得促進や病欠時のサポート制度を充実させることも効果的です。職場の風土として「休むことも仕事のうち」という意識を根付かせることが重要です。
(4)ストレスチェックでプレゼンティーイズムを評価する方法
プレゼンティーイズムを評価するには、ストレスチェックを活用するのが有効です。ストレスチェックは、従業員のメンタルや身体の健康状態を把握し、職場環境の課題を見つけるためのツールですが、これを応用してプレゼンティーイズムの実態も評価できます。
具体的には、従業員が「体調不良やストレスを抱えながら仕事をしているか」「その影響で業務効率が落ちているか」を測る質問を設けるのがポイントです。また、WHO-HPQ(健康と仕事のパフォーマンスに関する質問票) などの評価尺度を活用し、「健康状態が業務の生産性にどれくらい影響を与えているか」を数値化する方法があります。
また、ストレスの程度、仕事への満足度、集中力の低下 などをチェックし、プレゼンティーイズムの兆候が見られる従業員が多い場合、職場環境の改善が必要になります。データを基に、健康支援の充実や働き方の見直しを進めることが、プレゼンティーイズムの抑制につながります。
(5)ストレスチェック以外でプレゼンティーイズムを評価する方法
ストレスチェック以外にも、プレゼンティーイズムを評価する方法はいくつかあります。代表的なものとして、自己評価アンケート、生産性データの分析、勤務態度や行動の観察 などが挙げられます。
1. 自己評価アンケートの実施
従業員自身に「体調不良やストレスが業務にどの程度影響を与えているか」を自己申告してもらう方法です。WHO-HPQ(健康と仕事のパフォーマンスに関する質問票) や WLQ(Work Limitations Questionnaire) などの評価ツールを活用し、どの程度のパフォーマンス低下があるのかを定量的に測定します。
参考:経済産業省 商務情報政策局ヘルスケア産業課/企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~
2. 生産性データの分析
業務の進捗データや成果物の質、エラーの頻度などを分析し、体調不良が仕事に影響を与えているかを評価します。特に、通常のパフォーマンスと比較し、明らかに生産性が低下している従業員が多い場合は、プレゼンティーイズムが疑われます。
3. 勤務態度や行動の観察
遅刻や早退が増えたり、休憩時間が長くなったり、集中力が続かず作業効率が落ちている従業員の傾向を観察する方法です。上司や同僚が、従業員の勤務態度などに違和感を覚える場合、プレゼンティーイズムが潜在している可能性が高いと考えられます。
これらの方法を組み合わせることで、ストレスチェックなしでもプレゼンティーイズムの実態を把握することは、ある程度は可能です。
まとめ
プレゼンティーイズムは、従業員の健康や企業の生産性に大きな影響を与えます。これを改善するためには、健康管理、柔軟な働き方、企業文化の見直しが必要です。従業員が本来の能力を発揮できる環境を整えることが、企業の持続的な成長につながります。
適切にストレスチェックを行い、その結果をもとに職場環境改善を実施することで、従業員のストレスを軽減し、モチベーションを向上させることが期待できます。また、職場環境が改善されることで、企業の生産性向上や離職率の低下にもつながります。従業員が安心して働ける環境をつくるために、組織全体で継続的な取り組みを進めていくことが重要です。
ストレスチェックは、従業員が自身の健康状態を把握するだけでなく、職場全体の課題を明確にし、改善へとつなげる重要な手段です。特に情報通信業界の特性を考慮し、適切な活用方法を取り入れることで、従業員のメンタルヘルスを守りながら、働きやすい職場環境を整えていきましょう。
:参照記事
>ストレスチェックの高ストレス者が中間管理職に多い職場とは