ストレスチェックを受けることで、職場のストレスや悩みが解消したりメンタルヘルス不調者が減ったりといった効果を感じられない、だからストレスチェックは意味がないという人がいます。ストレスチェックは意味がないと言われている理由と、本当に意味がないのかを検証します。
目次
ストレスチェックは意味ないと言われる理由
従業員50人以上の事業場で働く人であれば、すでに何回かストレスチェックの受検経験はお持ちだと思います。
しかし、「ストレスチェックは意味がない」「ストレスチェックを実施してもストレスが解消したという声は聞かない」「職場全体でメンタルヘルス不調者が減った実感はない」という声も聞かれます。
(1)受検した労働者の割合が低い
「ストレスチェックは意味がない」という声が聞かれるのは、ストレスチェックの目的を理解していないために受検した労働者の割合が8割程度にとどまっていることも原因のひとつと考えられます。
厚生労働省が発表した調査結果によれば、平成29年6月末時点で約8割にとどまっています。
事業規模 | 50~99人 | 100~299人 | 300~999人 | 1,000人以上 |
受検した労働者の割合 | 77.0% | 78.3% | 79.1% | 77.1% |
一般定期健康診断については、労働者は受診することが義務とされていますが、ストレスチェック制度については労働者に受検は義務づけられていません。すでにうつ病等のメンタルヘルス疾患で治療を受けている人は不要とされますし、労働者に強制して受検させることはできません。そのためか、ストレスチェックを受検した労働者の割合は事業場の規模にかかわらず、8割程度しかいないのが実情です。
しかしストレスチェック制度の目的は、労働者にストレスへの気づきを促し、職場の改善につなげ働きやすい職場づくりを推進し、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することです。
したがってストレスチェックを受検しないことを選択できることは伝えるべきですが、職場の実情を正確に把握するためにも、できるだけ受検をするよう勧めることが大切です。
(2)医師による面接指導を受けた労働者の割合が低い
ストレスチェックの結果、高ストレス者と選定された労働者がいた場合、事業者はその労働者から申し出があった場合に医師による面接指導を実施しなければなりません。そして面接指導実施後には医師から意見聴取を行い、必要に応じて就業上の措置を講じなければなりません。
しかし、この面接指導を受けた事業場の割合も約3割にとどまっています。
事業規模 | 50~99人 | 100~299人 | 300~999人 | 1,000人以上 |
医師による面接指導を 受けた労働者の割合 |
0.8% | 0.7% | 0.6% | 0.5% |
面接指導の申し出を行わない理由は労働者によってさまざまですが、メンタルヘルスについて正しい理解をしていない、自身のストレスを軽視している、面接指導を受けることに抵抗を感じているなどが考えられます。
事業場としては、高ストレス者と選定された労働者が面接指導を受けることの重要性を正しく理解するように説明し、面接指導を受けたことで不利益取り扱いがされないことなどを周知し、面接指導の実施が進むよう措置を講じることが必要です。
つまり事業主は、本人が自主的に面接指導の申し出ができる(=会社を信用している)体制の整備が大切であることを認識することが大切です。
(3)集団分析を職場環境改善に活用できていない
ストレスチェックは実施して終わりではなく、その結果を集団ごとに分析して職場の課題を見つけ、職場環境の改善に活用することが求められます。
しかし、ストレスチェックの実施のみ、もしくは結果の集計のみで終わってしまっている事業場は少なくありません。
「ストレスチェックや集団分析を実施するだけでは、従業員のストレスの改善や職場の生産性向上は得られない。集団分析結果に基づく職場環境改善が必須である」という研究結果もあります。つまり、ストレスチェックを実施するだけ、集団分析を実施するだけでは、お金の無駄遣いになりかねないということになります。
平成27年度労働安全衛生総合研究事業・「ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境の改善効果に関する研究」
集団分析結果から課題を見つけ、各事業場や従業員の傾向に合った対策を実施することは、職場環境を改善するだけでなく、会社が本気で「従業員の心の健康を考えている」というメッセージを示すことにもなります。
したがってストレスチェックを意味がないと考える人は、集団分析結果を活用し働きやすい職場環境の構築や従業員のワークエンゲイジメントを向上させる施策の実施こそが、ストレスチェックの集団分析に基づく職場環境活動の最終目標だということを改めて認識することが大切です。
ストレスチェックは本当に意味ないか?
これまでご紹介したように、ストレスチェックについて意味がないと考える人がいるのは、労働者の受検率が低い、面接指導の受診率が低い、集団分析が十分活用できていないなどの理由が考えられます。
しかし、ストレスチェックを適切に活用しメンタルヘルス不調の未然防止、職場環境の改善、生産性の向上につなげているケースは多々あります。
(1)集団分析を活用してセルフケアの情報を提供
ストレスチェックでは、ストレスによって起こる心身の反応についても確認することができます。不眠や頭痛、腹痛などの身体愁訴はメンタルヘルス不調によってもあらわれますが、これらの身体愁訴がストレスによるものだと気づくのが遅れがちになるケースもあります。
したがって、ある部署だけ身体愁訴の得点が高いというような傾向があれば、長時間労働や仕事のプレッシャーの有無について確認するとともに、セルフケアに関する情報を提供することを検討します。
セルフケアとは、ストレスに対する心身の反応や心の健康についての理解を促進することで、自らの心の健康状態について正しく認識してもらうことです。情報提供の際には、あわせて労働者が自発的に相談できる環境の整備も行うことが望ましいです。
自らのストレスに気づくことで、ストレスの予防や軽減をする方法に関心を持ち、さらに適切に相談することができれば、メンタルヘルス不調を未然に防止する効果が期待できます。
(2)ストレスチェックで従業員の意識を改革
ストレスチェックの結果を集団分析して職場環境の改善を行う際には、管理監督者だけでなく、部下にも活動への参加を促すことが大切です。
ストレスチェックの結果が個人へ通知されるだけで、職場では何も活用されないのであれば、労働者は「ストレスチェックを受けても意味がない」と感じてしまうでしょう。
ストレスチェック担当者だけでなく、経営幹部や管理監督者が職場のストレスの存在を軽視せず、その改善に取り組もうという姿勢を示すだけでも、部下にとっては、会社や上司への信頼感につながります。
具体的には、まず衛生委員会で調査審議した結果を参考にしながら集団分析の結果を検証し、他の職場や他社の取り組み事例を学びます。なお、従業員が参加するワークショップなどを実施する際には、ストレスチェックの集団分析をよく知らない従業員も多いことが予想されます。したがって、最初のうちは実施事務従事者や産業衛生スタッフがファシリテーターとして同席し、正しい理解と適切な議論を促すとよいでしょう。
次に職場の課題や良い点を洗い出し、改善に向けたアクションについて考え改善計画を策定します。
この策定した改善計画は、職場全体に周知します。そして、計画を実施した後はその成果やさらに改善すべき点を話し合い、PDCAサイクルを回すと効果的です。
(3)メンタルヘルス対策を経営課題と捉える
職場の生産性は、多くの経営幹部や管理者が抱えている問題です。
ストレスチェックの結果、「生産性低下の原因は職場のストレスによるものである」という仮説が立つのならば、メンタルヘルス対策は経営課題と捉えるべきです。
実際に、職場環境の改善活動は、仕事のストレス要因や健康状態が改善するだけでなく生産性が向上することが多くの研究で報告されています。
従業員の健康増進が生産性向上に与える影響を理解することは、より積極的に経営資源を投入するきっかけにもなります。
たとえばある企業では、ストレスチェックの結果をもとに「チャージ休暇」という制度を導入しました。これは、「エネルギーをチャージして生産性を向上してほしい」という目的から導入されたもので、要件次第で交通費を補助して、休暇の取得を促しています。
このように休暇の目的を明確にすることで、企業が事業成長やミッション実現のためにメンタルヘルス対策に真剣に取り組んでいるのだという意図が伝わります。
仕事のストレスが個人や職場にどれだけ影響を与えるのかを理解し、それを解消するための施策を実施するのは、経営課題であり経営者の使命ともいえます。
ただし、経営者のトップダウンだけで施策を進めると、それはそれで従業員が「自分たちが考える必要はない」と受け身になってしまうかもしれません。したがって、職場改善の取り組みは全従業員にオープンにして従業員の前向きな参加を促すことが大切です。
まとめ
厚生労働省は、「ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上とする」という数値目標を掲げています(第13次労働災害防止計画)。
なぜなら効果的なストレス対策を行うためには、労働者個人のストレス対策だけでなく、職場環境の改善などの組織的なストレス対策も組み合わせて行うことが重要だということが分かっているからです。
ストレスチェックを意味のないもので終わらせないための施策は、どんなに有能な経営者でも管理監督者でも、一足飛びに行えるわけではありません。
大切なのは、はじめの1歩を踏み出し継続することです。適切にストレスチェックを実施し、その結果を集団分析して改善活動を継続すれば、職場環境の改善、生産性の向上を実現することができるはずです。売上や利益に即効性を感じられなくても、人材への投資になることは間違いありません。
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