ストレスチェック制度を導入する際には、実施者(医師・保健師等)の選定のほか、実施事務従事者を決めなければなりません。
ストレスチェックの実施事務従事者は、実施者の指示によって質問票の回収やデータ入力、個人のストレスチェックの結果記録の作成などを行います。
目次
ストレスチェックの実施事務従事者とは
ストレスチェックの実施事務従事者とは、実施者の補助を行う人です。
実施者とはストレスチェックを実施する人で、医師、保健師または厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師・精神保健福祉士・歯科医師・公認心理師などの有資格者です。
実施者も実施事務従事者も、外部業者に委託することができます。
(1)ストレスチェックの実施事務従事者の役割
ストレスチェックの実施事務従事者は、実施者の指示によって主に以下の業務を行います。
・個人のストレスチェック結果の記録を作成する。 ・個人のストレスチェック結果を労働者に通知する。 ・個人のストレスチェック結果を集団分析し、その結果を事業者に提供する。 ・高ストレスであり面接指導が必要と判断された労働者に対して、医師による面接指導の申し出を行うように勧奨する。 |
(2)実施事務従事者になれない者
実施事務従事者は個人情報を取り扱うことから、原則として直接的な人事権を有する人はなることができませんが、人事担当部署の従業員(人事権のない人に限ります)が実施事務従事者になることは可能です。
人事権のある社長、その他役員、人事部長など | ストレスチェックの実施事務に従事不可 |
人事権のない人事課の従業員、その他部署の従業員 | ストレスチェックの実施事務に従事可 |
なお、個人情報を取り扱わない業務、たとえばストレスチェックの実施計画の策定や委託する外部機関との契約の取り組め、ストレスチェックの実施計画や実施日時などに関する事項を労働者に通知する業務などについては、人事権を持つ人も行うことができます。
人事に関する直接の権限(人事権)の有無により、ストレスチェックの実施事務に従事できるか否かを整理すると、以下のとおりになります。
【人事権を持つ人が従事できる業務】
・ストレスチェックの実施計画やスケジュールを策定すること (※以下は、事業者、実施者、実施事務従事者が連携して実施) |
【人事権を持つ人が従事できない業務】
・記入の終わった調査票の回収、記入内容の確認 |
(3)実施事務従事者には守秘義務がある
ストレスチェックの実施事務従事者については、厚生労働省の指針で以下のような留意事項が示されています。
事業者が、労働者の解雇、昇進又は異動の人事を担当する職員(当該労働者の解雇、昇進又は異動に直接の権限を持つ監督的地位にある者を除く。)をストレスチェックの実施の事務に従事させる場合には、次に掲げる事項を当該職員に周知させなければならないものとする。
① ストレスチェックの実施事務従事者には労働安全衛生法第104条の規定に基づき秘密の保持義務が課されること。 |
この指針では、人事担当の従業員がストレスチェックの実施事務従事者になる場合に、その従業員に対する周知義務を定めています。
産業保健スタッフが在籍していないなど体制が十分でない事業場においては、人事担当の従業員が実施事務に従事する可能性があることから、その従業員に情報管理などの重要性を認識させることが目的と考えられます。
(4)実施事務従事者の守秘義務違反には罰則がある
ストレスチェックの実施事務従事者には、労働安全衛生法104条の守秘義務が課されます。仮に違反した場合には労働安全衛生法119条1項による罰則が定められています(6月以下の懲役または50万円以下の罰金)。
また、ストレスチェックの実施事務は実施者の指示で行うべきものであり、実施の事務に関与していない所属部署の管理監督者などの指示によって秘密を漏らすことも許されません。
そして、ストレスチェックの実施事務従事者は、従事したなかで知り得た秘密を実施事務と関係ない業務に利用することも禁じられています。
ストレスチェックの実施事務従事に関する秘密保持については、これらの留意事項を十分に説明し、認識させる必要があります。
(5)ストレスチェックの実施者・実施事務従事者の外部委託
ストレスチェック制度を導入するためには、実施事務従事者だけでなく実施者、実施担当者、実務担当者など、さまざまな人が関わります。
また、最初のストレスチェックを実施する際には事業者が方針を表明し、衛生委員会等でストレスチェック制度の調査票の選定や結果の保存、面接指導の勧奨方法、集団分析をふまえた職場環境の改善などについて調査審議を行う必要もあります。
産業医や産業保健スタッフが常駐している事業場なら、スムーズに実施することもできるかと思いますが、嘱託産業医しかいない事業場や産業医が実施者になることができない状況の場合などは、実施者や実施事務従事者などを外部機関に委託することができます。
外部委託する際のメリットは、ストレスチェック制度のスムーズな導入と実施だけではありません。
社内の従業員が実施事務従事者になれば、ストレスチェックを受検すること自体に躊躇してしまう人もいるでしょう。しかし外部機関に委託すれば、従業員は「会社が個人の回答データを、自由に閲覧することは出来ない」という安心感を持ち、ストレスチェックの受検率を向上させることにつながります。
また、高ストレス者と判断された従業員のなかには、自身の不調をある程度認識していて医師の面接指導を受けたいと思っていても、社内の担当者に申し出ることに抵抗を感じる人もいます。
このような場合でも、外部機関ならば社内の担当者に直接連絡することなく、面接指導を申し出ることも可能なので、従業員の面接の申し出のハードルを下げることができます。
まとめ
以上、ストレスチェックの実施事務従事者の意味、業務内容、役割、要件などについてご紹介しました。
ストレスチェックの実施事務従事者は、人事権を有する人はなれませんが、ストレスチェックの実施計画や受検しない労働者への勧奨などは、人事権を有する人でも行うことができます。
また、社内で実施体制を整備できない場合や、実施者、実施事務従事者などストレスチェックに必要な人員を確保できない場合には、外部機関に委託することも検討しましょう。
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【監修】 公認心理師 山本 久美(株式会社HRデ―タラボ) 大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わるなかで、職場のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。 |