法定のストレスチェックにおいて、ストレスの評価は実施者が行うものです。この項で使用する「高ストレス者」とは、実施者が用いた選定基準によって「高ストレス」と判定された人を指します。
ストレスチェックの結果、高ストレス者がいた場合に「個人の問題ではないか」「とりあえず様子を見よう」とするのは誤った認識です。
たとえ一部でも強い不調を抱える従業員がいるのであれば、それは職場全体の問題である可能性があります。
ハインリッヒの法則(労働災害における経験則のひとつ)によれば「1つの重大事故の背景には29の軽微な事故があり、さらに300のミスや見落としが隠されている(1:29:300の法則)」といいます。
これを職場の安全衛生に置き換えれば、「1人の高ストレス者の背景には、多くの従業員の不満やストレスが隠されている」ということが言えるのです。
目次
ストレスチェックの高ストレス者とは
ストレスチェックの「高ストレス者」とは、心身のストレス反応の高い人をいいます。
高ストレス者の選定基準は、実施者の意見及び衛生委員会等での調査審議を踏まえて事業者が決定し、個々人の評価は実施者が行います。
①「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」(心身のストレス反応)の評価点数の合計が高い者
②「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目の評価点数の合計が一定以上で、かつ「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目(仕事のストレス要因)および「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」(周囲のサポート)の評価点数の合計が著しく高い者 |
(1)「高ストレス者」の選定例を知っておこう
数値基準に基づいて高ストレス者を選定する方法については、厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルに記載されています。
マニュアルではまず合計点数を算出し、回答結果に基づき各項目の点数に置き換える方法が示されています。
①「心身のストレス反応」(29項目)の合計点数(ストレスが高いほうを4点、低い方を1点とする)を算出し、合計点数が77点以上である者を「高ストレス者」とする。
②「仕事のストレス要因」(17項目)および「周囲のサポート」(9項目)の合計点数(ストレスが高い方を4点、低い方を1点とする)を算出し合計点数が76点以上であって、かつ「心身のストレス反応」の合計点数が63点以上である者を高ストレス者とする。 |
※ストレスチェック制度における高ストレス者の選定方法については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
ストレスチェッカー「ストレスチェック制度における高ストレス者の選定」
(2)高ストレスの原因の確認は重要
ストレスチェックの結果、高ストレス者と選定された人がいた場合には、その原因を確認することは非常に重要です。高ストレスと選定された人のなかには、一般的かつ一時的な疲労を感じているだけのケースもありますが、メンタルヘルス不調の予備軍がいる可能性、すでにメンタルヘルス疾患を発症している可能性も大いに考えられるからです。
過重労働やハラスメントなど業務上の問題で、メンタルヘルス不調になったにもかかわらず、会社が何も考慮しないで、そのまま私傷病として取り扱い欠勤や休職だけで対応すると、再び同様の事態が発生し、他の従業員がメンタルヘルス不調になるリスクが生じます。
また、労働者のメンタルヘルス不調について会社は安全配慮義務違反として責任を追及されるリスクがあります。
(3)個人の問題で終わらせない
ストレスチェックの結果は、「特定の個人の問題」とは限りません。たしかに少人数の集団分析では、一部の従業員の結果が集計に大きく影響を与える場合もありますし、管理監督者としては自分の部下が高ストレスと判定されたとは認めたくないものでしょう。
しかし、ストレスを個人の問題と捉えてしまうと、管理監督者が部下の本音を把握する必要がなくなり、職場環境の改善につなげるきっかけを失ってしまいます。
どうしても「特定の個人の問題ではないか」という意見が根強い場合には、データを正確に検証するために、結果が極端な上下5%の個人データを除外したうえで、残りの結果を分析するという方法もあります。こうすることで、一般的な従業員の傾向をみることができます。得られた傾向が変わらない場合には、やはり個人の問題ではなく職場全体の問題として対応を考える必要があります。
ストレスチェッカーでは、ストレスチェックの集団分析を無料で行うほか、集団分析へのコンサルティングも行っております。ストレスチェックの結果を有効利用するためにも、ぜひご活用ください。
若手に高ストレス者が多い場合
ストレスチェックの結果、若手に高ストレス者が多い、あるいは若手従業員の結果が平均よりもかなり悪い場合には、「最近の若者は、メンタルが弱い」といった管理監督者の声が聞かれることがあります。
しかし、データを詳細に検証してみると「最近の若者は…」という単純な問題ではないケースが多いのも事実です。また、若手の意識の違いを理解しないまま対応していた、管理監督者側の課題が浮き彫りになることもあります。
(1)労務問題の有無を確認する
まず、ストレスチェックの集団分析は、個別の従業員にアプローチするためのものではありませんから、「きっとあの人だろう」と決めつけるのはNGです。
とはいえ、負担を感じている人、強いストレスを受けている人がいることが明らかになったのですから、まずは労務問題の有無を確認することが大切です。個人にアプローチせずとも、残業時間が極端に多い状況が続いていないか、休暇の取得ができているか、休日出勤の状況、同僚や取引先とトラブルが発生した事実はないかなど、ある程度の労務問題は把握できるはずです。
(2)若手の「意識の違い」を理解する
若手従業員の高ストレス者が多い職場では、「最近の若者はメンタルが弱い」「すぐにハラスメントを口にする」といった意見が出ることもあります。しかし、若者を「メンタルが弱くなった」と責める前に、30年前と今ではスマートフォン、メール、SNSなど、仕事の進め方に大きな変化があったことに留意しなければなりません。
会社を1歩出ればプライベートの時間を持てた時代とは異なり、退社後も連絡をとる手段がある今の環境は、以前とは異なるストレスが存在するはずです。さらに今の若手従業員は、経済的な豊かさよりワーク・ライフ・バランスを重視する傾向があります。
勤務時間外や休日に不要不急の連絡をしていないか、有給休暇や育児休暇などを取得する従業員に配慮しているかなど、確認しましょう。
また、ハラスメントに関する法律が変わっている点についても、注意が必要です。20年前、30年前なら問題とならなかった言動が、今はパワハラやセクハラと認定され、違法行為とされる可能性もあります。
世間話のつもりで「結婚しないの?」「彼氏いないの?」と聞いたり、参加強制の飲み会に誘ったりする行為は、パワハラやセクハラとなることがあるので注意しましょう。
(3)若手の「コミュニケーション」を理解する
「重要な報告や連絡は、対面か電話があたりまえ」という人も多いと思いますが、若手従業員のなかには、「メールやSNSでの報告に問題があると思わない」と考える人が多いものです。
このような若手に対して「メールやSNSで報告を済ませるなど、許されない」と一方的に伝えても理解されないだけです。
たしかにメールやSNSは、「事柄の背景が伝わりにくい」などのデメリットはありますが、やりとりの記録が残るので「言った言わない」の問題がなくなるなど、多くのメリットもあります。一方的にメールやSNSを否定するのではなく、それぞれのメリット、デメリットを理解し場面に応じて使い分けるようにしましょう。
また若手を注意する際は、悪い点ばかりを指摘しないよう留意が必要です。「相談しても、きっと小言を言われるだけだ」と感じられてしまうと、コミュニケーションの頻度自体が減ってしまいます。
若手の部下からの相談に対処する時には、「内容に関わらず、まず相談してくれたことを評価する」「言葉を遮らず最後まで話を聴く」「できていない点だけでなく、できている点も伝える」などの配慮が必要になります。
まとめ
以上、若手に高ストレス者が多い時の対処法についてご紹介しました。
若手従業員にストレスが溜まっているケースでは、そもそも採用の段階でミスマッチが生じているケースも多々あります。
したがって、ストレスチェックの結果を分析するとともに、学生に対する情報提供が適切か、業務内容に合致した人材を採用できているかなど、採用担当者を含め話し合いをした方がよいでしょう。
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