
新型うつが、若年層を中心に増加していると言われています。
新型うつは、いわゆるマスコミ用語で、病気として定義されたものではありませんが、特に職場や学校といった義務が伴う場所で症状が出やすいとされています。単に「甘え」や「怠け」と誤解されることも多いので、正しい理解とサポートが重要です。
目次
新型うつとは
「新型うつ」は、若い世代に多く見られる症状で、仕事や勉強といったプレッシャーがきっかけで発症しやすく、業務中は気分が沈みがちですが、休日や好きなことをしているときは元気に過ごせるといった特徴があります。
「新型うつ」とは、いわゆるマスコミ用語で、精神医学的に考察されたものではなく、また病気として定義されたものでもありません。
通常、新型うつが問題になる場合には、若い人の軽い抑うつ気分を指すことが多く、特徴としては、「若い人に多い」「仕事は回避するが、余暇は楽しく過ごせる」「性格面で成熟度が低い傾向がある」などが挙げられます。
本格的なうつ病の前触れの可能性があり、適応障害や双極II型障害と混同されることもありますので、注意が必要です。
また、周囲は「甘え」や「怠け」と決めつけず、適切なサポートをすることが求められます。
(1)従来型うつとの違い
従来型のうつ病は、どんな状況でも気分が落ち込んでしまい、楽しみを感じられない状態が続くのが特徴です。一方、新型うつは、自分が好きなことや楽しいと感じる場面では元気に活動できるのが大きな違いです。たとえば、仕事や学校には行けないのに、趣味のイベントや旅行には問題なく参加できるケースが見られます。
また、従来のうつ病の人は自責の念が強く、自分を責めがちですが、新型うつは、こだわりがあり、負けず嫌いで、自己中心的に見え、他人や環境のせいにする傾向があります。そのため、職場や家庭での人間関係のトラブルが発生しやすく、周囲との摩擦が問題となることもあります。
(2)双極II型障害との違い
双極II型障害は、気分の浮き沈みが激しく、軽躁状態(気分が高揚し活動的になる状態)と抑うつ状態を繰り返す病気です。
新型うつも気分の変動があるため、双極II型障害と混同されやすいですが、軽躁状態のような極端な活動的な時期がないという違いがあります。
(3)適応障害との違い
適応障害は、特定のストレス要因(転職、引っ越し、家庭問題など)によって一時的に気分が落ち込む状態です。ストレスの原因が取り除かれると、比較的早く症状が改善するのが特徴です。
職場において、新型うつと見られるものの多くは、この適応障害である可能性が高いといえます。
ただし、新型うつは、環境の変化があっても新たなストレス要因を見つけてしまい、繰り返しうつ状態に陥ることが多いです。
新型うつの症状
従来のうつ病は、中高年に多いと言われますが、新型うつは若い人に多く見られます。また、自分の好きな活動の時は元気になり、自分に好ましい出来事はあるとうつが軽くなるという特徴があります。
また、うつで休むことにあまり抵抗がなく、周囲からひんしゅくを買うケースもあります。
また、従来のうつ病は、自責的で何でも自分の責任と考えてしまう傾向がありますが、新型うつは、会社や上司、同僚のせいにしがちであるという特徴があります。
(1)傷つき体験の蓄積
新型うつは、もともとの学力や技能が高いのですが、打たれ弱い傾向があります。他者と比較されることに過度に敏感で、目標や締め切りなどを大きな苦痛と感じます。また、上司や同僚の言葉にも過度に傷つきます。
また、周囲の人が何気なく言った言葉でも深く傷つき、「自分は理解されていない」と感じることが多いです。このような傷つき体験の蓄積から、職場や学校での適応が難しくなり、仕事や学業を続けることが困難になるケースもあります。
(2)環境による影響
新型うつは、周囲の環境によって症状が大きく左右されるという特徴があります。ストレスが多い職場や学校では気分が落ち込み、仕事や勉強が手につかなくなりますが、趣味や好きなことには積極的になれるケースが多いです。これは、ストレスの原因となる場面でだけ症状が出るためで、環境が変わると気分が回復することもあります。
しかし、環境が変わっても根本的なストレス耐性が低いため、新しい職場や学校でも同じ問題が発生し、再びうつ状態に陥ることがあります。そのため、単に環境を変えるだけではなく、ストレスへの対処方法を身につけることが重要です。
新型うつへの対処法
新型うつについては、上司による部下の成長支援を行うことで、状態改善に貢献する可能性が高いと言われています。
まずは、新型うつについて正しく理解し、本人の目標や周囲への希望を尋ねてみるなどの配慮を見せると、改善が期待できます。
(1)新型うつを理解する
新型うつについて理解を深めるためには、単なる甘えや怠惰と決めつけず、本人が感じているストレスや苦しさを尊重し、適切な支援を行うことが重要です。職場や学校では、メンタルヘルスに関する知識を共有し、周囲の理解を深めることで、新型うつがより安心して過ごせる環境を作ることが求められます。
(2)ストレスチェックの活用
ストレスチェックは、新型うつの予防や早期発見に役立つ重要なツールです。職場や学校で定期的に実施することで、ストレスの蓄積度を客観的に把握し、適切な対応を取ることができます。特に職場では、ストレスチェックを個人単位で行うだけでなく、集団分析を活用することで、組織全体のストレスの傾向を把握することが可能です。
集団分析では、部署ごとのストレス状況や業務負担の偏り、人間関係の問題などを可視化できます。たとえば、特定の部署だけストレスが高い場合、業務の見直しや働き方の改善を検討するきっかけになります。また、組織全体のストレス状況を把握することで、職場環境の改善につなげることができ、メンタルヘルス対策の一環として活用することが望まれます。
個人に対しては、高ストレス者に対するフォローアップ面談や、メンタルヘルスに関するカウンセリングを実施することが重要です。ストレスチェックの結果を元に、心理的な負担が大きい人には専門的なサポートを提供し、状況に応じて業務の調整や休養を勧めることも必要となります。
(3)多様なうつについて情報提供
うつ病にはさまざまな種類があり、新型うつを含めた正しい情報を広めることが大切です。多くの人は「うつ病=気分がずっと落ち込む状態」と認識していますが、新型うつのように環境によって症状が変化するタイプもあり、一概に「うつ病」とひとまとめにすることはできません。
企業においては、メンタルヘルスに関する研修やセミナーを実施し、従業員が適切な知識を持つことが重要です。うつ病の種類(従来型うつ、新型うつ、双極II型障害、適応障害など)を学ぶことで、それぞれの違いを理解し、適切な対応をとれるようになります。
誤った偏見や先入観をなくし、適切な接し方を学ぶことで、本人が安心して回復できる環境を整えることが可能となります。
(4)上司による部下の成長支援
職場では、上司が部下の成長を支援し、精神的な負担を軽減することが重要です。新型うつは、仕事や人間関係のストレスが大きな要因となるため、上司が適切なサポートを行うことで、発症や悪化を防ぐことができます。
具体的には、定期的な面談を実施して本人の要望を聞き、業務量の調整や職場環境の改善を図ることが必要です。また、部下の長所を認め、成功体験を積ませることで、自己肯定感を高めることができます。
新型うつの人は「自分は本来もっと評価されるべき」「理不尽な環境が悪い」といった考えを持ち、自己評価が高すぎることで環境とのギャップに苦しむケースもあります。しかし、すべての新型うつが自己評価が高いわけではなく、環境への適応が難しくなることで、結果的に自己肯定感が揺らぐケースもあります。そのため、一概に「自己評価が高すぎる」と決めつけるのではなく、その人の背景や思考パターンを理解し、ポジティブなフィードバックを意識的に行うことが大切です。
(5)復職後の仕事復帰の注意点
新型うつの人が職場復帰する際には、無理のないペースで仕事に戻れるよう配慮することが大切です。うつ病の回復には波があり、急にフルタイム勤務に戻ると再発のリスクが高まるため、段階的な復帰が望まれます。
まず、短時間勤務や在宅勤務からスタートし、徐々に業務量を増やしていくことが理想的です。職場の同僚や上司も、復帰したばかりの社員に過度な期待をせず、温かく見守る姿勢が求められます。
また、復職後のフォローアップも重要です。定期的な面談を行い、メンタルヘルスの専門家と連携し、必要に応じてカウンセリングを受けられる環境を整えることも、再発防止につながります。
新型うつの人が安心して仕事に戻れるよう、職場全体で支える意識を持ち、無理のない復職プランを作ることが求められます。
まとめ
ストレスチェック制度が導入された現代の職場では、新型うつの早期発見と対策が重要です。個人のストレス状況を把握するだけでなく、集団分析を活用し、職場全体のストレス傾向を把握することが求められます。ストレスが高い部署には業務の見直しや働き方の調整を行い、職場環境の改善を進めることが大切です。
また、管理職向けのメンタルヘルス研修を実施し、部下の状態を適切に把握し、過度なプレッシャーをかけない指導を心がけることも必要です。柔軟な働き方の導入や、ストレス相談窓口の設置など、従業員が安心して働ける環境を整えることが、新型うつの予防につながります。
:参照記事
>職場のメンタルヘルス|病気の症状と注意点
監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹
【監修医師】 精神科医・日本医師会認定産業医 株式会社Medi Face代表取締役 近澤 徹 ![]() オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。 |