上司いじめとは?正しい対処法を産業医が解説

最近は、職場で部下が上司を追い込む「上司いじめ」が目立つようになっています。
これまでは上司から部下へのパワハラが大きな問題として扱われてきましたが、近年はその逆で、部下が上司を標的にするケースも無視できなくなってきました。職場環境の変化や価値観の多様化によって、上司が部下を強く指導しにくくなり、周囲も見て見ぬふりをしやすくなることがあります。
その結果、人間関係がさらにこじれ、業務の停滞やチーム全体の不信感につながるなど、職場全体に深刻な影響を及ぼしかねません。

監修医師:近澤 徹
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役

上司いじめとは

上司いじめとは、部下が上司に対して行うハラスメントや嫌がらせのことを指します。「逆パワハラ」と呼ばれることもあります。具体的には、暴言や無視、過剰な業務要求、プライバシーの侵害などが挙げられます。
このようなパワハラ行為は、職場の士気が低下し、組織全体の生産性にも悪影響を及ぼします。企業はハラスメント防止策を強化し、上司も部下も適切なコミュニケーションを心がけ、健全な職場環境を維持することが重要です。

(1)上司いじめが激増している

近年、職場において部下が上司をいじめる「上司いじめ」が増加しています。これまでは「パワハラ(パワーハラスメント)」といえば、上司から部下へのいじめが問題視されていましたが、逆に部下が上司を標的にするケースが目立つようになっています。
職場環境の変化や労働者の価値観の変化により、上司が部下に対して強く指導できない状況が生まれ、上司が孤立しやすくなっていて、これが上司いじめの温床となり、職場の人間関係や業務遂行にも深刻な影響を及ぼしています。

(2)上司いじめが深刻化する原因

上司いじめが深刻化する背景には、いくつもの要因が重なっています。
まず、上司側が部下の機嫌を損ねることや、少し厳しく言っただけでパワハラと受け取られることを恐れて、必要な注意や指導を控えてしまう傾向があります。
加えて、近年の働き方改革の流れの中で、部下の権利や守られるべき立場が強く意識される一方で、上司の立場が相対的に弱くなりやすい面もあります。その結果、上司が我慢し続ける構図が生まれてしまいます。
さらに、部下同士の結びつきが強い職場では、上司だけが孤立してしまうといった傾向も見られます。

上司いじめの具体例

上司いじめの具体例としては、身体的な攻撃だけでなく、精神的に追い詰める行為や、人間関係の中で孤立させる行為などが挙げられます。
上司はいじめに遭っても相談しづらく孤立しがちですが、事例や対処法を知ることで自分を守ることができます。実際のケースを知ることで、いじめが発生しやすい状況やパターンを理解し、適切な対応を取ることが可能になります。また、会社の相談窓口や第三者機関を活用することで、冷静に問題を解することも期待できます。

(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)

上司に対して直接的な暴行を加えたり、物を投げつけたりするケースが報告されています。たとえば、指示に不満を持った部下が、会議室や休憩室などで上司に対し暴力を振るうことがあります。
暴力や障害は、服務規律違反など、企業秩序を乱す問題行為として、懲戒処分の対象となり得ますし、刑事事件に発展することもあります。
相手にケガを負わせるほどではなくても、物を投げつける、机を強く叩くなどの威嚇行為、足蹴りをするなども身体的な攻撃に当たります。

(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・暴言)

上司に対して暴言を吐いたり、侮辱したりするケースも少なくありません。たとえば、上司が会議で発言した内容を馬鹿にする、陰で「無能」「使えない」などと中傷する、さらにはSNS上で悪口を書き込んだり「セクハラをしている、横領している」といった嘘をSNSで拡散したり、怪文書を会社の上層部や取引先に送ったりして、精神的に追い詰める行為が含まれます。これがエスカレートすると、上司の精神的負担が増し、うつ病などの健康被害を引き起こすこともあります。
また、「訴えてやる」「労基署に行く」などと脅すケースも増えています。
しかし、労基署が問題視するのは、労働基準関係法令を守らない会社であって、従業員等の個人の問題ではありませんから、冷静に対応することが大切です。

(3)人間関係からの切り離し(仲間外し・無視)

部下たちが結託して、上司を意図的に孤立させることもあります。たとえば、上司を飲み会やランチに誘わない、会議で上司の意見を完全に無視する、挨拶をしないといった行為が見られます。
上司が良かれと思って部下にアドバイスをしたところ、「うるさいヤツ」と思われ、他の部下も指示に従わなくなった、コミュニケーションをとろうとして飲み会に誘ったら、セクハラだと皆から無視されるようになった、というケースもあります。
部下が結託していると、上司いじめを証明する協力者も得にくいことから、余計に上司は孤立してしまいます。そして、こうした態度が続くと、上司の仕事の進行に支障をきたし、職場全体の士気も低下します。
こうした仲間外しはパワハラであり、ただ人に追従しただけだとしても、一人一人が加害者になり得るのだということを従業員に自覚させることが大切です。

(4)過大な要求・過小な要求

意図的に無理な仕事を押し付けたり、逆に仕事を与えなかったりと上司を困らせることも、いじめの一種です。たとえば、「あの資料を1時間以内にまとめてください」と理不尽な要求をする、または「この業務は、上司がやる必要はない」と仕事を奪い、役職の権威を下げるといったケースがあります。
逆に、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事をさせる、まったく仕事をさせないといった行為も、パワハラ(過小な要求)に当たります。
このような場合には、とにかく記録をとり証拠を集め、早い段階で会社に相談することが重要です。
相談することで自身の評価が気になる…という方もいますが、まずは自分の心身の健康を優先することが大切だということを、従業員に周知することが大切です。

(5)個の侵害(私的なことへの過度な立ち入り)

上司のプライベートな情報を詮索し、それを暴露する行為もいじめの一環です。
たとえば、「上司の家庭がうまくいっていないらしい」といった噂を広めたり、私生活に関する情報を職場で笑いのネタにしたりといった行為は、個の侵害に当たり、パワハラに当たります。
自分が知り得た他人の情報を、他の労働者に暴露することは、プライバシーの観点でも絶対にしてはいけません。
プライバシーを侵害する行為は、職場の信頼関係を損ねる大きな問題となります。

上司いじめへの対処法

上司いじめは、職場全体の生産性を低下させ、組織の健全な運営を阻害します。企業と労働者双方が協力し、適切な対策を講じることで、健全な職場環境を維持することが求められます。
会社は、ハラスメント防止策を講じ、相談窓口の設置やストレスチェックの活用、適切な調査と対処を行う責任があります。一方、従業員は、職場の秩序を守るために、いじめに加担せず、問題が発生した際には適切な手段で報告する義務があります。上司も一人で抱え込まず、信頼できる人や専門機関に相談し、冷静に対処することが大切です。

(1)会社の責任

企業には、従業員が安心して働ける職場環境を整える責任があります。
したがって、上司いじめの兆候が見られた場合には、早い段階で適切な対応を取ることが欠かせません。
まず、企業全体でハラスメント防止研修を行い、上司から部下への問題だけでなく、部下から上司への不適切な言動についても共通理解を持つ必要があります。さらに、上司と部下の関係を一方的な我慢にしない組織風土をつくり、日頃から健全なコミュニケーションとチームワークを育てていくことも、企業に求められます。
さらに、ハラスメントに関する相談窓口を設け、上司側も安心して相談できる体制を整えることが大切です。

(2)従業員の責任

上司と部下は、互いに尊重し合いながら仕事を進めるべきです。上司だからといって無条件に威厳を保てるわけではなく、部下に対して適切な指導とコミュニケーションを取ることが求められます。
同時に、部下も上司を一方的に敵視するのではなく、職場の一員として円滑な人間関係を築く努力をするべきです。もしも職場で上司いじめが発生した場合は、周囲の従業員も見て見ぬふりをせず、積極的に報告や相談を行うことが重要です。上司自身も孤立しないように信頼できる人に相談し、問題を抱え込まないことが大切です。

(3)ストレスチェックの活用

上司いじめの問題を把握し、対策を講じるために、ストレスチェックの活用が有効です。ストレスチェックは、従業員の心理的な負担や職場環境の問題を可視化するツールであり、上司いじめの兆候を早期に発見することができます。特に、ストレスチェックの結果から、特定の部署や役職で強いストレスを抱えている傾向が見られる場合、職場内でいじめやハラスメントが発生している可能性があります。上司自身がストレスチェックを受けることで、自身のメンタルヘルスの状態を確認し、適切な対処を考えるきっかけにもなります。

また、個々の結果だけでなく、集団分析を活用することで、職場全体のストレス状況を把握することができます。集団分析では、部署ごとや役職ごとにストレスの傾向を比較し、どこに問題があるのかを明確にすることが可能です。たとえば、特定の部署で管理職のストレスが著しく高い場合、上司いじめが発生している可能性があり、会社は具体的な対策を検討する必要があります。さらに、集団分析を通じて、職場環境の改善やハラスメント防止策を講じる際の参考にもなります。

ストレスチェックの結果を活用し、適切な対応を取ることで、上司いじめを未然に防ぎ、職場の健全な環境を維持することができます。
 

ストレスチェッカーとは

「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
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まとめ

上司いじめは、職場の士気や生産性を大きく低下させる深刻な問題です。部下からの暴言や無視、過剰な業務負担などが続くと、上司のメンタルヘルスが悪化し、適切な指導や業務遂行が困難になります。結果として、組織全体のパフォーマンスが低下し、人材流出にもつながります。

上司いじめの問題に対処するには、企業がハラスメント防止策を強化し、上司と部下の健全な関係を築くことが重要です。特にストレスチェックを活用することで、上司の心身の健康状態を把握し、早期に対策を講じることが可能になります。定期的な実施と結果のフィードバックを通じて、職場環境の改善につなげることが求められます。
 

監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

精神科医 近澤徹氏

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役・近澤 徹

オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。


> 近澤 徹 | Medi Face 医師起業家(Twitter)

 

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