目次
ストレスチェックの集団分析
ストレスチェックの集団分析とは、職場全体のストレス状況を把握するための手法であり、個々の結果を特定せずに部署ごとや職種ごとに集計されたデータを使用して職場環境の改善点を明確にすることができます。
集団分析をより活用するためには、性別、年代、雇用形態などで細分化して分析することが効果的と言われます。
そこで今回は、ストレスチェックの集団分析の活用方法について、産業医の近澤先生に伺います。
Q:近澤先生の簡単なプロフィールをお願いします。
精神科医・日本医師会認定産業医の近澤 徹です。
株式会社Medi Face代表取締役/FRAISEクリニック統括医師/Z産業医事務所代表医師を務めさせていただいております。
株式会社Medi Faceでは、オンライン診療システム「Mente Clinic」を開発し、うつ病・メンタル不調の回復にご活用いただいております。
法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わっています。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施しています。
Q:産業医として、ストレスチェックにおいて中心的な役割を果たされているということですね。
はい。ストレスチェックは、労働者のメンタルヘルス不調の早期発見と適切な対応を目的としており、産業医の役割として、労働者の心身の状態を把握し、メンタルヘルス不調の兆候を見つけること、そして、労働者に働きかけ、必要なサポートを行っています。また、必要に応じて事業者に対して就業上の配慮を求めることもあります。
ストレスチェックの活用方法について
Q:今日はストレスチェックの活用方法について、伺いたいと思っています。
ストレスチェックは、実施するだけでなく、集団分析等を活用することで、職場改善につながる制度ということで、その辺りを具体的に教えていただきたいと思っています。
ストレスチェックとは?
Q:まず、ストレスチェックについて、簡単に教えてください。
ストレスチェックとは、職場で働く従業員の精神的な健康状態を把握し、ストレスの高い状態を早期に発見するための検査です。主に質問票を用いて実施され、職場環境の改善や個人のメンタルヘルス向上を目的としています。結果は個人に通知され、本人の同意がなければ、事業者には提供されません。
ストレスチェックは義務?
Q:ストレスチェックが義務付けられている事業場の規模を教えてください。
ストレスチェックの実施が義務付けられているのは、従業員が50人以上いる事業場です。これには、正社員だけでなく、契約社員や派遣社員なども含まれます。事業者は年に1回以上、ストレスチェックを行い、結果に基づいて必要な対策を講じる責任があります。なお、従業員が50人未満の事業場でも、任意でストレスチェックを実施することが推奨されています。
高ストレス者の面接とは?
Q:高ストレス者と判断された場合、医師による面接が行われますが、どのような流れで行われるのでしょうか。
ストレスチェックの結果、ストレスが高いと判断された従業員には、医師による面接指導を受ける権利があります。面接の流れは、まず従業員が医師の面接を希望する旨を事業者に申し出ることから始まります。その後、事業者が医師と面接の日時を調整し、面接が実施されます。医師は従業員の健康状態を評価し、必要に応じて就業上の措置を事業者に提案します。
ただ、実際には高ストレス者と判断されても、面接を申し出ないケースも多々あります。
なかには、一時的なストレスによる体調変化に過ぎず、医師面接が不要なケースもありますし、ストレス要因が会社外にあるなどの理由で医師面接の必要があまりないケースもあります。
ただし、本来は医師面接が必要なのに「会社に知られたくない」という理由で本人が拒否するケースもあります。
ですから、あらかじめ「会社に情報が伝わることはない」ということを周知しておくことが大切です。つまり、本人が自主的に面接を申し出ることができる企業、信頼される会社づくりが大切だということです。
また、社外の医療資源を活用するのも有効です。
ストレスチェックの集団分析とは?
Q:ストレスチェックの集団分析とは、どのようなものなのでしょうか。
集団分析は、ストレスチェックの結果を基に、職場全体のストレス状況を分析する手法です。個人の結果を特定せず、部署ごとや職種ごとに集計されたデータを用いて、職場環境の改善点を明らかにします。事業者はこの分析結果を参考にし、職場のストレス要因を特定し、必要な対策を講じることが求められます。
毎年の傾向をつかむためには同じ時期に実施するのがおすすめですが、もし繁忙期などに当たってしまっていたら、翌年は時期をずらすなどの工夫も必要です。
また、より集団分析を意味のあるものにするためにも、できるだけ高い受検率が大切になります。
ストレスチェックの集団分析を活用するためには?
Q:集団分析をもっと活用するためには、どのような工夫が必要ですか。
性別で分ける・年代別で分ける・雇用形態別に分けるなど、さまざまな工夫をすることで、より集団分析を活用することができるようになります。
たとえば、女性の方が男性よりストレス要因の得点が高い結果が出た場合には、セクシャルハラスメントやジェンダーハラスメントが横行しているリスクがあるかもしれませんし、女性管理職が少なくてキャリアパスが見えないなどの悩みを抱えている女性が多いのかもしれません。
また、女性のトイレ不足、生理休暇・出産、育児制度の見直しが必要なのかもしれません。
また、年代別に分けて分析するのも有効です。
若手の離職率が高い会社の場合は、20代のストレス度を詳しく確認してみましょう。20代は、仕事だけでなくプライベートも充実させるのが当たり前の年代です。40代、50代から見れば、問題ないと感じる程度の残業や飲み会でも、20代にとっては強い負担に感じていることもあります。
また、コミュニケーション手段もメールやSNSが主となっていて、古い雰囲気の会社だと人間関係の問題を抱えてしまうことがあります。
30~40代は自己コントロール感の問題が生じにくい年代ですが、管理職への昇進のプレッシャーを感じやすい年代です。また、管理職になったとたん仕事がうまく回せなくなり、ギャップに悩む人もいます。
したがって、30~40代のストレス度が高いようであれば、大まかな傾向を確認したら、マネジメント能力向上のためのセミナーを実施したり、EAP(従業員支援プログラム)によるサービスを利用したりするなど、サポートを充実させるようにしましょう。
50~60代は、多くの会社で役職定年を迎える年代で、仕事の内容や立ち位置が大きく変わることから、モチベーションを落としたり周囲との関係の変化で悩んだりする人が少なくありません。
そこで、50~60代のストレス度が高いようであれば、役職定年後もモチベーションを保てるよう、仕事の内容や待遇を工夫したり、退職後の不安を軽減するためのセミナーを実施したりといった施策を行ってみるのもいいかもしれません。
集団分析の部署別分析とは?
Q:集団分析を部署別に分析するのも、おすすめと聞きました。
はい、そのとおりです。
たとえば、営業部門は外回りが多く、労務管理が難しい仕事のひとつです。
コミュニケーションが苦手な人にはストレスがかかりやすい職場であるうえに、会社と取引先との間で板挟みになるといったケースも多いです。
したがって、営業部門のストレス度が高い場合には、顧客から理不尽な扱いを受けていないか、過度なノルマを強制していないかといった点を十分に確認することが大切です。
間接部門は、業務量は比較的安定しているのでメンタル不調は発症しにくい職場ではありますが、ずっと同じ職場にいると人間関係にトラブルが生じることがあります。また、自分の仕事内容そのものに意義を見出せなくなりモチベーションを落としてしまう人もいます。
したがって、間接部門のストレス度が高い場合には、仲の悪い従業員同士の関わりを減らしたり、定期的に席替えしたり、フリーアドレスを導入するなどの工夫が大切になってきます。
いずれにせよ、集団分析を活用した職場環境改善対策は、毎年過去のデータと突き合わせてPDCAサイクルを回すことが大切です。
Q:ありがとうございました。次回は、高ストレス者と集団分析の活用の仕方について、お話を聞かせていただきます。
:参照記事
>ストレスチェックの集団分析|10個のポイント
監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹
【監修医師】 精神科医・日本医師会認定産業医 株式会社Medi Face代表取締役 近澤 徹 オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。 |