アルコール依存症の社員|主な症状や職場での対応方法

アルコール依存症やアルコール依存症の一歩手前の状態(プレアルコホリズム)の状態で就労していると、次第に職場でさまざまな問題を起こし、家族や上司などに指摘され、治療を勧められるケースが増えています。
このように、「アルコール依存症では?」と疑われる社員がいる場合、職場ではどのように対応すればよいのでしょうか。

アルコール依存症とは

アルコール依存症の患者というと、かつてはアルコール中毒(アル中)などと呼ばれ、泥酔して大声で怒鳴ったり暴言を吐いて暴れたりといったイメージされる人も多いのではないでしょうか。
しかし、ここ20年ほどは、これほどの重症なケースは減少しており、全体的に軽症化している傾向がみられます。暴れたり怒鳴ったりといった、あからさまな問題行動をする患者はあまり見られなくなり、「おとなしいアルコール依存症患者」が増加傾向にあります。
しかし、大声で怒鳴ったり暴れたりするようなことがなくても、「大切にしていた仕事、家族、趣味よりも、はるかに『飲酒』を優先させる状態」が続けば、それはアルコール依存症である可能性が高いといえます。
具体的には、「飲酒がコントロールできない」「健康上の不調の原因はアルコールにあると分かっているのにやめられない」「朝、昼、晩と数時間おきに飲酒する」などの症状が見られたら、アルコール依存症である可能性を疑います。

(1)そもそも「依存症」とは?

昨今は、アルコール依存症だけでなく、「薬物依存症」「ギャンブル依存症」「買い物依存症」「スマホ依存症」「ダイエット依存症」など、さまざまな依存症が社会問題となっています。

では、この「依存症」とはどのような病気なのでしょうか。
依存症は、もともとは世界保健機関(WHO)が提唱したものですが、この提唱を簡単にいうと「ある快感を覚えた特定のものごとを繰り返し行うことで、さらなる刺激が欲しくなり、それをしないではいられない、しないことが耐え難い状態」をいいます。

たとえば、最初は憂さ晴らしなどの軽い気持ちでギャンブルを始めたところ、ギャンブルがもたらす解放感や高揚感にはまり、それがいつしか習慣となり、いつの間にか、家族より仕事よりギャンブルを優先するようになってしまいます。「分かってはいるけど、やめられない」という状態、これこそがまさにさまざまな依存症に共通する特徴です。

なお、依存の対象は、多岐にわたりますが、大きく「モノ」「行為」「人」があります。
「モノ」はアルコールや薬物、「行為」はギャンブルやスマホ、過食・拒食、カルト、「人」は恋愛、家族、やDV・虐待などを対象とした依存症です。

(2)アルコール依存症は複雑化する傾向がある

最近のアルコール依存症は、複雑化しています。
これは、アルコール依存症になる原因として、双極性障害や統合失調症などの病気をあわせ持っていたり、家族や仕事のトラブルなどさまざまな問題を抱えていたりするケースが増えているためです。
また、以前のように連続飲酒発作や暴れたり暴言を吐いたりといった社会的問題行動としてあらわれるケースが少なくなり、あまり目立たない「おとなしいアルコール依存症患者」も増えています。

なお、アルコール依存症には遺伝的な要素がある可能性も指摘されており、DNAの配列などの観点から研究が行われていますが、明確な結論は出ていません。

(3)アルコール依存症と思われる職場での行動

アルコール依存症の患者について、職場では下記のような行動がみられることがあります。

・不規則な勤務
遅刻や早退が増える、突然欠勤する、長期蹴金する、遅刻や欠勤について言い訳めいた理由を言う。

・体調不良
むくみ、顔色不良、頻回なトイレ、健康診断の以上、手の震え、発汗

業務効率の低下
業務意欲のムラ、不注意なミスの増加

・出勤時の酒臭
マスクをとらない、ガムやコーヒーで臭いをごまかす、人から離れた位置に立つ

・勤務態度のムラ
イライラする、孤立する、酒の席で問題行動を起こす

(4)アルコール依存症診断(AUDIT)

アルコール依存症の診断として、WHOは「AUDIT」という判断基準を提唱しています。
評価は、合計で10点から19点が危険飲酒の状態、20点以上でアルコール依存症の疑いとなります。

1 あなたはアルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲みますか? 0 飲まない
1 1カ月に1度以下
2 1カ月に2~4度
3 1週に2~3度
4 1週に4度以上
2 飲酒するときには通常どのくらいの量を飲みますか?
ただし「日本酒1合=2ドリンク」「ビール大瓶1本=2.5ドリンク」「ウィスキー水割りダブル1杯=2ドリンク」「焼酎お湯割り1杯=1ドリンク」「ワイングラス1杯=1.5ドリンク」「梅酒小コップ1杯=1ドリンク」とします。
0 1~2ドリンク
1 3~4ドリンク
2 5~6ドリンク
3 7~9ドリンク
4 10ドリンク以上
3 1度に6ドリンク以上飲酒することがどのくらいの頻度でありますか? 0 ない
1 1カ月に1度未満
2 1カ月に1度
3 1週に1度
4 毎日あるいはほとんど毎日
4 過去1年間に、飲み始めると止められなかった事が、どのくらいの頻度でありましたか? 0 ない
1 1カ月に1度未満
2 1カ月に1度
3 1週に1度
4 毎日あるいはほとんど毎日
5 過去1年間に、普通だと行えることを飲酒していたためにできなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか? 0 ない
1 1カ月に1度未満
2 1カ月に1度
3 1週に1度
4 毎日あるいはほとんど毎日
6 過去1年間に、深酒の後体調を整えるために、朝迎え酒をせねばならなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか? 0 ない
1 1カ月に1度未満
2 1カ月に1度
3 1週に1度
4 毎日あるいはほとんど毎日
7 過去1年間に、飲酒後、罪悪感や自責の念にかられたことが、どのくらいの頻度でありましたか? 0 ない
1 1カ月に1回未満
2 1カ月に1回
3 1週に1回
4 毎日あるいはほとんど毎日
8 過去1年間に、飲酒のため前夜の出来事を思い出せなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか? 0 ない
1 1カ月に1度未満
2 1カ月に1度
3 1週に1度
4 毎日あるいはほとんど毎日
9 あなたの飲酒のために、あなた自身か他の誰かがけがをしたことがありますか? 0 ない
2 あるが、過去1年にはなし
4 過去1年間にあり
10 肉親や親戚・友人・医師あるいは他の健康管理にたずさわる人が、あなたの飲酒について心配したり、飲酒量を減らすように勧めたりしたことがありますか? 0 ない
2 あるが、過去1年にはなし
4 過去1年間にあり

> 厚生労働省e-ヘルスネット「AUDIT」

アルコール依存症の社員への対応

アルコール依存症の患者は、大切な仕事や家族、趣味より飲酒を優先させてしまう状態に陥っていることを自覚していても、専門外来を受診しないことが多々あります。

したがって、アルコール依存症であるか否かは、上司や同僚、家族など、まわりの人が「無断欠勤やミスを繰り返す」「人間関係のトラブルを起こす」などの行動について、どう判断しているかが判断材料となります。そして、明らかに問題行動が目立ち「やはり、おかしい」と思ったら、本人に「専門の病院で診てもらうように」と促すべきといえます。

しかし、なかには、どんなに受診を勧めても「必要ない」とはねつけられてしまうこともあります。
このように、職場でアルコールによる問題が認められるのに、本人が受診を拒否する場合には、家族と連絡をとって、家族だけでも先に専門医に相談するよう勧めることが大切です。

(1)アルコール依存症の治療

アルコール依存症は、専門性の高い疾患であるため、専門医の受診が非常に大切です。頭ごなしに「もう2度と飲酒はするな!」など怒鳴っても、本人を否定することにつながりかねず、かえって飲酒をさせる原因となってしまうので、絶対にNGです。

アルコール依存症の治療の基本は、専門医療機関への通院、薬物療法、自助グループへの参加です。本人の症状によっては、3カ月程度の入院を勧められることもあります。
薬物療法としては、抗酒薬や断酒補助薬などが用いられます。
治療は、早期に開始することが望ましいとされていますので、前述したAUDITで8点以上であれば、治療導入を検討してみましょう。

なお、自治体によっては「アルコール健康障害サポート医」を養成していることもありますので、受診の際には自治体のホームページなどを確認することをおすすめします。

(2)復職の前提条件を確認する

アルコール依存症で治療していた社員が復職する場合には、本人が断酒の必要性を正しく認識し、かつその時点で断酒を継続できていることが絶対条件となります。
また、本人が心から復職を希望しているのか、主治医が復職可能であると判断しているのかもポイントとなります。

なお、断酒をして数カ月してもしかし、本人の心の中に「酒を飲みたい」という思いがくすぶっていると、何かのきっかけでその思いが発火してしまうこともあります。そこで、再発防止のために、医療機関と連携をとったり飲酒のチェック機関を複数持っていたりすることをおすすめします。

(3)就業面で配慮を行う

アルコール依存症を治療後に復職した社員には、前述したように定期通院ができるように勤務日程の調整を行うなどの配慮が大切です。
また、歓送迎会など仕事上で飲酒する機会を回避できるような調整も必要となります。
さらに、仕事面で過度のストレスが生じないように配慮し、ストレスが生じたような時には適切な対応を行います。

まとめ

アルコール依存症は、本人が傷つくような言動をしたり、腫れ物を触るように対応したりするケースがみられることがありますが、これでは問題を複雑化するだけです。伝えるべきことを冷静に伝え、対処すべきことをしっかりと話し合い、さまざまな機関を活用して、正しい治療を行うことが大切です。

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