メンタルヘルスマネジメントの8つのポイント

心の病を発症すると、作業効率が低下したり長期休業が必要になったりすることがあります。
令和5年に厚生労働省が発表した「労働安全衛生調査(実態調査) 結果」によれば、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業又は退職した労働者の割合は13.5%で、このうち、連続1カ月以上休業した労働者がいた事業所の割合は、10.4%、退職した労働者がいた事業所の割合は6.4%になっています。
また、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は63.8%で、その内訳については、「ストレスチェックの実施」が65.0%、次いで、「メンタルヘルス不調の労働者に対する必要な配慮の実施」が49.6%となっています。
さらに、ストレスチェックを実施した事業所のうち、手段分析をを実施した割合は69.2%であり、その分析結果を職場の環境改善等に活用した事業所の割合は、78.0%となっています。

ストレスチェック実施企業の約7割が集団分析を行い、その約8割が職場環境の改善に活用していることから、予防と改善をセットで進める流れが見えてきます。
長期休業者が出れば、業務のしわ寄せで周囲の負担が増え、職場全体の生産性も落ちやすくなります。だからこそメンタルヘルスマネジメントは個人任せにするものではなく、組織全体の課題として捉え、仕組みとして継続的に取り組むべきだ、という認識が広がっていると言えます。
参考: 厚生労働省/令和5年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概要

監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)

メンタルヘルスマネジメントとは

メンタルヘルスマネジメントとは、労働者がメンタルヘルス不調に陥らないよう、職場環境の見直しや各種対策を進め、心の健康を守る取り組みを継続的に推進することをいいます。個人の努力だけに任せず、組織として予防と早期対応の仕組みを整える考え方です。

具体的には、メンタルヘルスケアの意義を理解したうえで、ストレスチェックを活用して組織の状態を把握し、集団分析などから職場環境の課題を整理して必要な措置を講じます。あわせて、教育研修を通じてセルフケアやラインケア、ハラスメントに関する知識を深め、相談しやすい体制づくりも重要になります。

(1)メンタルヘルスケアの重要性を認識する

職場のメンタルヘルスが社会問題として注目される一方で、「メンタルヘルスは個人の問題だ」「本人の心が弱いだけだ」といった見方が、今も根強く残っているのも事実です。

しかし、職場でメンタルヘルス不調が起きる背景には、業務量の偏りや納期のプレッシャー、人間関係、評価制度、長時間労働など、職場環境に起因する要素が絡むことが多く、個人の資質だけで片付けられる話ではありません。
必要な措置を講じずに放置すれば、環境はさらに悪化し、本人の作業効率が落ちるだけでなく、業務のしわ寄せで周囲の負担も増え、職場全体の生産性が下がるおそれがあります。強いストレスによって集中力や判断力が低下すれば、ミスや事故、顧客対応の品質低下といった形で影響が広がることもあります。

さらに、状況によっては労災申請や損害賠償請求など、訴訟に発展する可能性も否定できません。企業はリスクマネジメントの観点からもメンタルヘルスケアを重要課題と捉え、労働者や社会に対する責任として、メンタルヘルスマネジメントを積極的に進める姿勢が求められています。

(2)メンタルヘルスケアの基礎知識を知る

メンタルヘルスマネジメントを進めるうえで欠かせないのが、メンタルヘルスケアの基礎知識です。

厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルスケア指針)」では、労働者が個人の努力だけでストレス要因に対処するのは難しいとし、まず事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する姿勢を明確に示すことが求められています。
そのうえで、衛生委員会等で実態を把握し調査・審議を行い、取り組みの方針や手順を整理した「心の健康づくり計画」を策定する必要があるとされています。

また計画の運用では、一次予防(不調の未然防止)、二次予防(早期発見・対応)、三次予防(休職者への対応、復職支援、再発防止)を意識して進めることが重要です。さらに、計画を実効性のあるものにするために、以下の「4つのケア」を継続的に推進することが望ましいとされています。

参考:厚生労働省/職場における心の健康づくり

(3)会社責任(労災や訴訟リスク)を理解する

昨今、精神障害等による労災認定件数は、増加傾向にあります。

参考: 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

労災申請を受け付ける労働基準監督署には、取り調べや逮捕もできる機能があります。過重労働やハラスメントを原因とするメンタルヘルス不調による労災申請がされれば、労働基準監督署の立ち入り調査を受け、人事担当者はもちろん経営幹部も対応に追われる可能性があります。さらに訴訟に発展すれば、それによる時間と労力の負担は計り知れません。
ましてやメンタルヘルス疾患を発症した際の損害賠償額は、年々増額傾向にあります。万が一自殺など重大な結果を招いてしまった場合には、その損害賠償額は極めて高額になる可能性があります。

従業員のメンタルヘルス不調によって労災申請されたり、訴訟に発展したりすることは、事業者にとってリスクであると認識することが大切です。

(4)ストレスチェックを活用する

ストレスチェック制度とは、労働者に選択式の質問へ回答してもらい、その結果をもとに自分のストレス状況に気づくための検査です。。労働者が自身の状態を客観視することで、メンタルヘルス不調の予防につなげるとともに、集計結果を分析して職場環境の改善に活かすことが目的です。
平成27年(2015年)に50人以上の事業場で実施が義務化される形でスタートましたが、2028年5月までにはすべての事業場に義務化される見込みです
さらに、ストレスチェックの結果を分析し、各職場や組織に合った対策を考えることは、単にストレスを減らすだけでなく、「会社が従業員の働きやすさを本気で整えようとしている」というメッセージにもなり、、相談のしやすさや安心感が生まれ、離職防止やチームの安定にもつながりやすくなります。
 

ストレスチェッカーとは

「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しているのはもちろん、2025年5月からは無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。
導入や運用の相談は、ぜひお気軽にお問合せください。


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(5)セルフケア-ストレスへの気づきと対処

メンタルヘルス不調を予防するための第一歩は、「自分のストレス状態に気づくこと」です。メンタルヘルス不調は心理的負荷が関係することから、周囲が気づきにくい側面があります。そこで、自分自身がまずストレスに気づくことができれば、早期に適切な対応をとることができるというわけです。

心身の不調を感じたりストレスチェックの結果で高ストレス者と判定されたりしたら、すぐに問題を解決に走るよりも、まずは体調の回復を優先することが重要です。
十分な休息・睡眠はもちろん、趣味や適度な運動、マインドフルネス(瞑想)もストレス軽減に効果があることが分かっています。

参考: セルフケアとは?

ただし、メンタルヘルス不調はひとりでは対処が難しいことも多いので、自発的に相談することも大切です。メンタルヘルスマネジメントにおいては、労働者が問題をひとりで抱え込まず、友人や家族、職場の同僚や上司、産業医などに協力を求めることができる体制を整備する必要があります。

具体的には、労働者に研修などを通じてセルフケアの重要性や対処法、相談することの大切さについて積極的に教育します。

(6)ラインケア-管理監督者の役割

厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」によれば、管理監督者は、部下の状況や具体的なストレス要因を把握し、改善できる立場にあることから、ラインケア(部下を積極的にサポートする)を行う必要があるとしています。

管理監督者に求められているのは、以下のとおりです。

参考: ラインケアの基本|(見る・聴く・対処)の7つのポイント

(7)社内外資源との連携

事業場内資源
社内資源のうち事業場内の産業医、保健師、衛生管理者を「事業場内産業保健スタッフ」といいます。メンタルヘルスマネジメントを推進するうえでは、人事労務管理者や管理監督者が、この事業場内産業保健スタッフと連携し活用することが大切なポイントです。

産業医:
1000人以上の労働者がいる事業場や、有害な業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場では、専属産業医を選任する必要があります。また50人以上の労働者がいる事業場では、嘱託の産業医を選任することになっています。
産業医は健康診断や面接指導を行い、産業保健のプロとして労働者の状態を評価し、健康を維持できるようアドバイスを行うほか、職場改善の提案なども行います。

保健師・看護師:
保健指導、健康の相談・教育、疾病予防をすることが主な役割です。
メンタルヘルス不調の疑いがある人を早期発見したり、メンタルヘルス不調者のフォローアップを行ったりするほか、労働者や管理監督者の相談窓口となり必要に応じて産業医との面談につなげるなどの役割も担います。

人事労務管理スタッフ:
人事労務管理スタッフは、産業医と連携し労働者のストレスの軽減や時間外労働の制限など、人事労務管理上の適切な配慮を行います。

事業場外資源のうち行政機関等
厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、メンタルヘルスケアに関する専門的な知識を有する事業場外資源を活用することが有効とされています。

以下に事業場外資源の代表的なものをご紹介します。

中央労働災害防止協会:
労働災害防止団体法に基づいて設立された期間です。
心の健康づくり計画の支援、教育研修などを有償で行います。

精神保健福祉センター:
精神保健、精神障害福祉に置いて、知識の普及や調査研究を実施し、相談窓口にもなります。

勤労者メンタルヘルスセンター:
労災病院に設置される、メンタルヘルス専門センターです。

事業場外資源のうち民間の機関
メンタルヘルスに関して十分なトレーニングを受けたカウンセラーや臨床心理士、保健師、公認心理師などによる面談や電話相談も有効とされています。

外部EAP機関:
外部EAP機関は、事業所に対しては組織の生産性に関わる問題を見つけて支援し、労働者に対しては仕事のパフォーマンスに影響を与える個人的な問題(健康、家庭問題、人間関係、その他のストレス要因など)を見つけて支援します。
外部EAP機関と連携しメンタルヘルスマネジメントに関する業務を委託することで、さらに専門性の高いサービスを活用することができます。

「ストレスチェッカー」では、ストレスチェックデータに加え、業績評価や残業時間等のHRデータをクロス解析し、総合的にHRデータを使った組織分析が可能です。またさまざまなテーマでセミナーも実施しております。

(8)職場復帰支援の方法

メンタルヘルス不調で休職していた従業員の職場復帰も、メンタルヘルスマネジメントの重要な事項です。
メンタルヘルス疾患からの復職は、時間がかかるケースもあります。このタイミングを見誤り早く復職させてしまうと再発のリスクが高まります。

まずは休職中の従業員の不安感を軽減できるよう、十分な情報提供を行います。管理監督者の理解と支援は、スムーズな復職に大きな影響を与えます。
さらに人事労務管理担当者や産業保健スタッフ、主治医と連携し、復職しようとする従業員の心理的支援や職場環境改善につなげます。

職場復帰にあたっては、事前に職場復帰支援プログラム(休職の開始から通常業務までの復帰の流れ)を明確にしておくことが必要です。もちろん、職場復帰は個々の状況に応じて臨機応変に対応することが求められますが、休職する従業員には、これらの体制が完備されていることを周知することで、安心感を与えることができます。

まとめ

以上、メンタルヘルスマネジメントを推進するうえで知っておきたい8つのポイントについてご紹介しました。
NIOSH(米国立労働安全衛生研究所)の健康職場モデルは、マネジメントのあり方や組織文化、価値観といった職場の要素が、従業員の心身の健康だけでなく、組織の生産性にも影響するという考え方です。過重労働や対人関係などの仕事上のストレッサーによる健康障害を防ぎながら、健康と高いパフォーマンスを両立させることを目指します。

同モデルでは、従業員のエンゲージメントと組織の生産性は両立し得るとされ、さらに両者は相互に作用し合い、良い循環をつくれるとも示唆されています。ストレスチェック制度を単なる実施で終わらせず、結果の分析や職場改善につなげることで、メンタルヘルスマネジメントを前に進め、生産性の高い職場づくりに結びつけたいところです。

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    監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)

    公認心理師 山本久美さんの写真

    大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わる中、社内のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。
    現在は公認心理師として、ストレスチェックのコンサルタントを中心に、働く人を対象とした対面・Webやメールなどによるカウンセリングを行っている。産業保健領域が専門。

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