ラインケアの基本|(見る・聴く・対処)の7つのポイント

職場のメンタルヘルス対策を効果的に進めるためには、①セルフケア、②ラインケア、③事業場内産業保健スタッフによるケア、④事業場外資源によるケアの4つのケアが必要です。
このうちラインケア(管理者によるケア)とは、「労働者と日常的に接する管理監督者が、心の健康に関して職場環境などの改善や労働者に対する相談対応を行うこと」をいいます。

メンタルヘルスの4つのケア

厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、メンタルヘルス対策を効果的に進めるためには、4つのメンタルヘルスケアを推進することが重要であるとしています。

セルフケア 労働者自身がストレスや心の健康について理解し、自らのストレスを予防、軽減あるいはこれに対処すること
ラインケア 労働者と日常的に接する管理監督者が、心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応を行うこと
事業場内産業保健スタッフなどによるケア 産業医、衛生管理者などの事業場内産業保健スタッフなどが、事業場の心の健康づくり対策の提言を行うとともに、その推進を担い、また、労働者および管理監督者を支援すること
事業場外資源によるケア 事業場外の機関および専門家を活用し、その支援を受けること

 

ラインケアとは

「ライン」は、職場における指揮命令系統、「ケア」は支援、援助、配慮、管理という意味です。
ラインケアとは、労働者と日常的に接する管理監督者が、心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応を行うことをいいます。

管理監督者は、日常的に部下の状況を把握する立場にあり、さらに個々の職場における具体的なストレス要因を把握しその改善を図ることができる立場にあることから、個々の従業員に過度な長時間労働、過重な疲労、心理的負荷などが生じないように配慮することが必要であるとされています。

管理監督者に求められていることは、以下のとおりです。

①メンタルヘルスに関する自社方針を理解する
②職場環境等の改善を進める
③部下の相談対応を行う
④職場復帰支援の方法を理解する
⑤産業保健スタッフや、事業場外資源との連携の方法を知る
⑥セルフケアの方法、個人情報の保護を理解する

管理監督者としては、ラインケアを行わなくても直接的には法的な罰則はありません。しかし、従業員や部下がメンタルヘルス疾患を発症し、例えば「原因は、職場のパワハラだ」「過重労働を強いられたからだ」などと申し立てられ、労災申請や訴訟に発展した場合には、ラインケアを適切に行っていたかを問われる可能性があります。

実際、精神障害等による労災認定件数は増加傾向にあります。
今や、ラインケアは看過できないコンプライアンスであるといえるのです。

厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

ラインケアの基本|(見る・聴く・対処)の7つのポイント

管理監督者は、部下の状況を日常的に把握できるため、ストレス要因を見つけて改善できる立場にあります。個々の労働者に長時間労働、過重な疲労、過度な心理的負荷などが生じないように配慮することが求められます。さらに、労働者からの自発的な相談に対応するよう努め、必要に応じて産業医や衛生管理者などの事業場内産業保健スタッフ、事業場外の医療機関などに相談や受診を促すよう努める必要があります。

しかし、このような責任を日々感じながら従業員や部下に接し適切に対処するのは難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。
そこでここでは、ラインケアの基本である「見る・聴く・対処する」の意味と6つのポイントをご紹介します。

(1)部下の不調に気づく(見る)

ラインケアの出発点は「見る」です。まずは「いつもと違うことに気がつく」ことが重要です。
今まで明るく元気だった部下が急に暗くなるなど、すぐ気づけるケースもありますが、「いつもと違うことに気づく」というのは意外に難しいものです。
まずは「いつも」の状態を知らなければ、変化に気づくことはできません。
日頃から部下からの相談に対応したり相談しやすい雰囲気をつくったりすることで、部下の変化に気づきやすくなります。

また、部下と毎日少しでも会話をする時間を持つなど、コミュニケーションを図るようにすると、態度や雰囲気などの変化から「いつもと違うこと」に気づくことが期待できます。

(2)不調に気づく「けちなのみや」のサイン(見る)

「いつもと違う」ことに気づくポイントは、「け・ち・な・の・み・や」です。

け:欠勤
ち:遅刻
な:泣き言
の:能率が悪い
み:ミス
や:辞めたい

け:欠勤
月曜日や長期休暇などの休み明けの欠勤は、要注意です。多くのメンタルヘルス不調者は、休み明けに欠勤するという兆候を示します。勤怠管理はそもそも管理職の大切な業務ですから、マネジメントの一環として注意したいポイントです。

ち:遅刻
遅刻が増えるのも、メンタルヘルス不調の初期に見られる兆候です。遅刻が続くようであれば、事情をよく聴いた上で早めに対処することが必要です。

な:泣き言
泣き言を口にするようになった時には、注意した方がよいでしょう。この時、安易に励ますのは禁物です。状況をよく聴いた上で、専門家に相談することを検討しましょう。

の:能率が悪い
単に努力不足というケースもありますが、以前と比較してパフォーマンスが下がるようなことがあれば、それはメンタルヘルス不調のサインである可能性もあります。

み:ミス
「予定を忘れる」「資料がうまく纏められない」など、これまではなかったような単純なミスが目立つのも、メンタルヘルス不調の重要なサインといえます。

や:辞めたい
「会社を辞めたい」という発言が出た時には、話をよく聴くなどして十分な注意が必要です。

(3)傾聴する(聴く)

「傾聴」とは、その文字のとおり「耳を傾けて聴く」という意味で、面接官の基本姿勢を示す言葉です。相手の言葉を聴くだけでなく一挙一動に集中し、相手の気持ちとその話の内容を理解しようとすることが大切です。

話を聴く際には、あくびをしたり足を組んだり、時計を見ることは避けましょう。真剣に相手の話を聴いていないように受け止められてしまいます。
仕事だから、上司だから、仕方なく対応しているという態度では、傾聴とはいえません。相手の言葉や気持ちに焦点を当て、親身に聴いてくれているかどうかは、相手にすぐに伝わるものなので注意が必要です。

傾聴の基本的姿勢(カール・ロジャーズ)
受容 肯定的関心を持って相手の話を聴くことの第一歩は、無条件に相手を受け止めることである。表現された言葉や行動よりも相手の気持ちを受け止めることがポイントとなる。
共感 相手の体験しつつある感情や思考が聴き手に直接感じ取られ、聴き手が相手と同様な心理的体験をすること(聴き手が、もし自分が相手と同じ状況におかれたと仮定したら、相手と同じような感情や思考を体験するだろうなと考えながら相手の話を聴くこと)。
自己一致 聴く側も自分の気持ちや感情に気づきながら、構えることなく、ありのままの自分で、素直に聴く態度でいること。相手が今どのような気持ちでいるか丁寧に汲み取ろうとする姿勢は誠実であり、純粋であると言える。
本人に考えさせる
オープンリード 相手がどこからでも自由に話せるような質問の仕方をすること。たとえば、相手が「上司とうまくいかない」と切り出した時に「それはなぜか」と聞くのではなく、「うまくいかないことをあなたはどう思っているのですか」と問えば、相手は自由に考えられる。
ついていく 相手が話し始めたら、その流れに沿って話を聴くこと。自分の知りたいと思う質問をして、話の方向を変えてしまうような相手の邪魔をしないこと。
リフレクション(伝え返し)
聴き手が相手の言葉の中の要点、感情、論理の展開などを伝え返すことによって、相手は自分の考えていることや気持ちを理解しやすくなる。伝え返す言葉は、相手が使った「感情を表現する言葉」をそのまま用いることが多い。

(4)傾聴する際のNGワード(聴く)

明らかに相手の考え方が正しくない場合や誤解が見られても、安易に否定や批判をせずに、まずは相手の考え方をそのままに受け止めましょう。
「みんな同じ状況なのに、なぜ君だけそうなの?」などと批判の混じった比較や「自分の若い時は…」という自分語りは厳禁です。近年では飲みに誘うことも逆効果になる可能性がありますので、避けたほうがよいでしょう。

傾聴する際のNGワード①急がせる「結局何が言いたいの?」「早く結論を言って」
②批判・比較「○さんも同じ状況で頑張っている」「それはおかしいよ」
③飲みに誘う「飲んで、憂さ晴らししよう」「飲みながら聞くよ」
④自慢する「私の若い頃はもっと大変だった」「気力で乗り越えた」
⑤脅迫する「こんな態度では、昇格できないぞ」

話の内容から、メンタルヘルス不調の疑いがある場合には、産業保健スタッフに相談に行くよう指示をします。ただし、産業保健スタッフを紹介する前に、まずは話を傾聴し共感するプロセスが大切です。

(5)適切な専門家につなぐ(対処)

管理監督者は、相談者のメンタル不調に気づいたら、自分で抱え込まずに産業保健スタッフ、産業医等に相談しましょう。社内のルールや対話における留意点を教えてもらうなど、適切な対処方法を確認することができます。

本人に専門家へ相談することを勧めても、かたくなに拒否されることがありますが、その場合には相談に行くことで不利益を被ることはないことを丁寧に説明し、焦らずに話を聴きながら、粘り強く勧めるようにしてみましょう。
対話の温かさから理解や共感が伝われば、専門家に相談することへの抵抗感が薄らぐはずです。

(6)組織として対応方法を明確にし、共有(対処)

管理監督者にラインケアの役割を果たしてもらうためには、メンタルヘルスに関する研修を行うことが有効です。
研修を通じて事例の内容を理解し、適切な対応を明確にすれば、部下の状態についての意識を高めることができます。「部下がメンタルヘルス不調になったらどうしよう」などの不安感もなくなり、早期に適切な措置を講ずることが期待できます。

(7)ストレスチェック結果の活用

ストレスチェック制度とは、労働者の心理的負担を検査する制度で、50人以上の事業場に義務づけられています。
ストレスチェックの「仕事のストレス判定図」は、個々のストレスチェック結果を職場ごとに集団分析してグラフ化したものです、会社全体や部、課などの集団ごとのストレス要因を評価し、従業員にどの程度の影響を与えているのかを判定することができます。

仕事のストレス判定図は、4つの仕事上のストレス要因である「仕事の量的負担」、「仕事のコントロール」、「上司の支援」、「同僚の支援」に着目して、ストレスの大きさとその健康への影響を判定します。

仕事のコントロールが低く量的負担が大きいほどストレスは高く、同僚や上司の支援が少ないほど、ストレスは高まります。

仕事のストレス判定図を活用し職場のメンタルヘルス対策として共有すべき範囲を衛生委員会などで話し合い、その内容を経営幹部や管理監督者の研修でも共有し、職場環境改善対策を積極的に講じるようにします。
共有された結果を、職場のミーティングで話題にして意見交換するのもよいでしょう。
経営幹部や管理監督者がストレスの影響を軽視せず、その改善に取り組もうとする姿勢は、部下に対して前向きな良い影響を与えるはずです。

まとめ

厚生労働省の指針では、職場のストレスや部下のメンタルヘルス対策について、上司が相談対応を行うことが必要であるとしています。

上司と部下のコミュニケーションが密な職場であれば、部下も相談しやすいですし、副次的にメンタルヘルス疾患も発生しづらくなります。日常的に部下からの相談に対応したり相談しやすい雰囲気をつくることや、長時間残業をしている部下に対して積極的に声を掛けることは重要です。

また、ストレスチェックを活用して職場のストレスの程度を把握し、職場単位のストレス改善に取り組むことも効果的です。
50人以上の事業場では、ストレスチェックを年1回実施することが義務づけられていますから、ストレスチェックを通じて職場環境の改善活動や管理監督者の研修を実施し、継続的な改善を目指すことをおすすめします。

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    【監修】
    公認心理師 山本 久美(株式会社HRデ―タラボ)

    大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わるなかで、職場のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。
    現在は公認心理師として、ストレスチェックのコンサルタントを中心に、働く人を対象とした対面・Webやメールなどによるカウンセリングを行っている。産業保健領域が専門。

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