ストレス爆発のしくみ

ストレス爆発で職場の空気が一瞬止まることがあります。怒鳴った本人も、周囲も、「そこまでの話だったか?」と戸惑う瞬間です。
しかしストレスが爆発する多くの場合、その原因は直前の出来事というわけではないケースがほとんどです。小さな我慢や違和感が積み重なり、たまたま最後に触れた出来事が引き金になっただけということが多々あるのです。
また、性格の問題ではなく働き方や環境がストレス爆発の原因であるケースもあります。
この記事では、職場で起きる“ストレス爆発”のしくみを整理していきます。

監修医師:近澤 徹
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役

ストレス爆発が起きるしくみ

ストレス爆発は性格の問題ではなく、脳のバランスが崩れた結果として起こります。強い不安や緊張を感じると感情の中枢である扁桃体が警報を出し、アドレナリンやコルチゾールが分泌されます。本来は理性を担う前頭前野がその反応を抑えますが、慢性的な疲労や強いストレスが続くと機能が低下しブレーキが効かなくなります。その結果、扁桃体が理性を乗っ取る「アミグダラ・ハイジャック」が起こり、衝動的な怒りや暴言として表面化します。

アミグダラ・ハイジャック

アミグダラ・ハイジャック(扁桃体ハイジャック)とは、脳のブレーキが外れ、感情のアクセルが暴走する状態です。ダニエル・ゴールマンが提唱した概念で、冷静な判断を担う前頭前野が恐怖や怒りを感知した扁桃体によって一時的に機能停止させられます。
外部の刺激を扁桃体が「危険」と判断すると、前頭前野の思考回路が遮断され、闘争・逃走反応が作動します。アドレナリンやコルチゾールが放出され、理性的な判断よりも即時反応が優先されます。
通常は軽いストレスなら理性が抑えますが、極度の疲労、過去の体験による過敏反応、刺激の過大評価が重なるとブレーキが追いつきません。つまり、本人の性格ではなく、脳の処理能力が一時的に限界を超えた状態ということです。

マイクロストレスの蓄積

マイクロストレスとは、一つひとつは取るに足らない小さな負荷が積み重なり、ある日突然ストレス爆発として表面化する“時限爆弾”のようなものです。たとえば、同僚の細かな愚痴、返信待ちのメール、急な優先順位の変更など、日常的に繰り返される出来事が原因になり得ます。これらの多くは身近な人間関係の中で起こるため、問題として扱われず流されがちです。
一つひとつが軽いため脳は危険と判断せず、通常のストレス反応が起きないまま受け入れ続けてしまいます。その結果、無自覚のまま負荷だけが蓄積し、限界を超えた瞬間に一気に噴き出します。

トリガーによる爆発

ストレス爆発は突然キレたように見えますが、実際は段階を踏んで起きます。まず蓄積期では、人間関係の気疲れや責任、将来不安などが少しずつ積み重なり、本人は「まだ大丈夫」と我慢を続けます。次に慢性期に入ると自律神経が乱れ、疲労感や不眠、頭痛が出始めますが、慣れてしまい限界に気づかずに過ごしてしまいます。
そして限界まで溜まったストレスに、ほんの小さな刺激が引き金となり一気に噴き出します。きっかけは、何気ない一言、軽いミス、散らかった机といった日常の出来事であることが多く、睡眠不足や空腹、急な予定変更、「自分だけ評価されていない」という感覚が重なると起こりやすくなります。

ストレス爆発が起きやすい人

ストレス爆発を起こしやすいのは、我慢強い人や完璧主義で責任感が強い人です。さらに休み方が分からず、疲れていても休めないタイプは危険です。限界まで耐えるため、周囲からは突然キレたように見えます。また中には性格ではなく、衝動を抑えにくい間欠性爆発性障害の可能性が関わるケースもあり、単なる気合や根性の問題では片づけられません。

「我慢できる人」ほど危ない

ストレス爆発を起こしやすいのは、怒りっぽい人ではなく、むしろ我慢できる人です。感情を抑え込み、限界まで耐え続けることで慢性的な負荷が蓄積し、ある日ささいな一言や出来事をきっかけに一気に噴き出します。その結果、突発的な怒りだけでなく、うつや不眠、体調不良として現れることもあります。怒りを抑え続ける人は血圧や心拍数が上がりやすく、重い疾患につながる可能性も指摘されています。また、爆発は長く続かず10分ほどで収まる一方、その後に強い後悔や自己嫌悪に陥りやすい傾向があります。背

完璧主義・責任感が強い

ストレス爆発を起こしやすいのは、いい加減な人ではなく、むしろ完璧主義で責任感が強い人です。仕事の精度が高く周囲から信頼されやすいのですが、「~するべきである」「~でなければならない」という基準を自分にも他人にも強く求めるため、現実が少しでも理想から外れると強い負荷がかかります。ミスに対して自責思考が強く、「自分が悪い」と抱え込みやすいため、ストレスを外に出さず内側に溜め続けます。さらに他人の評価を気にして「NO」と言えず、無理な依頼も引き受けて限界を超えてしまう傾向があります。100点以上の完成度を求め続けるほど余白は失われ、心の逃げ場もなくなります。その結果、ある日突然の怒りや感情の崩壊として表に出たり、燃え尽きの形で動けなくなったりすることがあります。

休み方がわからない

ストレス爆発を起こしやすい人の共通点の一つが、「休み方がわからない」ことです。休むことを怠けと捉え、慢性的な疲労を抱えたまま走り続けてしまいます。何もしていないと罪悪感を覚え、休日まで予定を詰め込み、結果として脳が常に仕事モードのまま切り替わりません。
本来の休息は、好きなことに没頭したり、運動や散歩、サウナ、自然に触れたりするなど物理的に環境を変えて思考を止める時間にあります。
したがって、まずは休むことはパフォーマンスを落とす行為ではなく、維持するための行動だと認識を変える必要があります。また、小さなストレスは溜め込まず、15分の休憩やお茶を飲むなど短時間でもこまめに処理することが重要です。限界を感じたときは無理に気分転換を探すより、あえて何もしない時間を作る方が回復する場合もあります。

IEDが原因であるケースも

ストレス爆発の背景には、単なる気質ではなく「間欠性爆発性障害(IED)」が関係している場合もあります。これは怒りを我慢できない性格というより、衝動的な感情を制御しにくくなる精神的な不調です。些細なきっかけで激怒し、物に当たる・怒鳴るなどの行動が起きる一方、10分ほどで収まり強い後悔に襲われる傾向があり、幼少期の虐待や暴力的環境の体験、脳内のセロトニン機能など神経学的な要因が関係すると考えられています。
適切な治療や認知行動療法によって改善が期待できるため、周囲も「性格の問題」と決めつけず、対処可能な状態として理解する視点が重要です。

ストレス爆発が起きやすい職場

長時間労働や残業が当たり前の職場では、疲労が抜けないまま働き続けることになり、感情の余裕が失われやすくなります。さらに会話が少ない、ハラスメントがある、他部署と隔絶された環境など、閉鎖的な人間関係もストレスを溜め込みやすい要因です。加えてミスが許されない空気や心理的安全性の低さ、権限が上司に集中した支配的な関係が重なると、不満を吐き出す場がなくなり限界まで蓄積されます。こうした環境では小さなきっかけで感情が一気に噴き出し、ストレス爆発が起きやすくなります。

我慢が美化されている

「我慢=美徳」という空気が強い職場では、ストレス爆発は起こりやすくなります。「辛いのは最初だけ」「みんな通ってきた道」「我慢してこそ一人前」といった言葉が共有されていると、辛さ、しんどさを口にすること自体が弱さのように扱われます。
また、怒りや疲労を表に出さず、一人で抱え込んで黙々と働く人ほど「優秀」「頼りになる」と評価される環境では、感情を抑える行動が習慣化します。その結果、小さなストレスを吐き出す機会が失われ、本人も周囲も限界に気づきにくくなります。
ある会社では、普段は温厚で文句も言わない社員が会議中に突然机を叩いて怒鳴り出し、そのまま退職しました。後から聞くと、半年以上体調不良を抱えていたのに「迷惑をかけたくない」と誰にも相談していなかったそうです。

長時間労働・残業の常態化

長時間労働が当たり前になっている職場では、ストレスはゆっくり確実に蓄積します。業務量に対して人員が足りず、離職者が出ても補充されないため、残った人の負担がさらに増えるといった負の連鎖が続くと、疲労は回復する前に積み重なり、心身の余裕が削られていきます。
また、「長く働く人ほど頑張っている」と評価される風土があると、早く帰ること自体が悪い行動のように扱われ、業務終了後に会議が始まるなど実質的な残業も増えます。
ある職場では、連日の22時退社が続いた従業員が締切りを1日早められた瞬間に激昂し、資料を床に投げてしまいました。本人は後で泣きながら「もう限界だった」と語ったそうです。

忙しすぎて対話がない

忙しすぎて対話がない職場では、ストレスは目に見えない形で蓄積します。会話は業務連絡だけで、雑談や相談の余地がなく、上司や同僚も常に慌ただしく話しかけづらいといった環境では感情を外に出す機会がなく、いわば“心の換気”が行われません。ストレスは処理されないまま溜まり続け、限界を超えたときに一気に噴き出します。さらに情報共有が不足するためミスや認識違いが連鎖し、「自分だけが分かっていない」「ここに居場所がない」と感じやすくなり、自己評価も下がります。孤立感は怒りや不安を増幅させ、爆発の引き金になります。

ミスが許されない

ミスが許されない職場は、常に緊張状態が続きやすく、ストレスが慢性化しやすい環境です。些細なミスでも強く指摘され、「完璧であって当たり前」という空気があると、働く側は常に監視されているような感覚になります。努力や工夫は評価されにくい一方で、失敗だけが目立って扱われるため、公平感も失われがちです。
ある職場では小さな入力ミスを全体会議で繰り返し責められていた従業員が、ある日突然強い口調で反論し、その後体調を崩して長期休職に入ったというケースがあります。

高ストレス者率が高い業種・職種

ストレス爆発が起きやすい職場には、業種特有の負荷が重なっているケースがあります。とくに慢性的な人手不足、不規則な勤務体制、対人対応の多さ、高い責任を伴う仕事はストレスが蓄積しやすく、感情のコントロールが難しくなりがちです。株式会社HRデータラボが行った調査では、健康リスクが高い業種として、運輸業、製造業、医療・福祉が上位に挙げられています。これらはいずれも「止められない仕事」「ミスが事故や命に直結する仕事」という共通点を持ち、緊張状態が長く続きます。負荷が日常化すると自覚のないまま疲労が溜まり、ある日突然の怒りや感情の噴出として現れることがあります。

参考:ストレスによる健康リスクが高い業種ランキング発表。1位は運輸業

ストレス爆発を回避するための対策

ストレス爆発を防ぐ第一歩は、「なんとなく不快」を放置しないことです。モヤモヤやイライラを言葉にして整理すると、感情の暴走はかなり弱まります。次に重要なのは物理的な距離を取ること。席を離れる、深呼吸する、いったん会話を止めるだけでも脳の興奮は落ち着きます。また、多くの場合は爆発前に集中力低下や被害感の強まりなどの前兆があります。それに気づけるかが分かれ道です。こうした傾向を客観的に把握する手段として、定期的なストレスチェックを活用すると、限界に達する前にブレーキをかけやすくなります。

“イライラの正体”を言葉にする

ストレス爆発を防ぐには、「イライラした」という感覚のままにしないことが重要です。怒りは突然生まれるものではなく、整理されていない感情が一気に噴き出した結果です。
まず有効なのが言語化です。感情的に反応する前に状況を具体化してみます。「最悪だ」ではなく「部下が指示通り動かず、確認作業が増えたことに焦っている」と言い換えるだけで、脳の興奮は下がります。
また、感情へラベルを貼ることも有効です。「これは焦り」「これは理不尽への反応」と心の中で名付けると、扁桃体の暴走が抑えられ衝動行動を避けやすくなります。

物理的に距離を置く

ストレス爆発を防ぐうえで即効性が高いのが「物理的に距離を置く」ことです。怒りが強くなった瞬間は理性で抑えるより、環境を変える方が早く効きます。
たとえばトイレに入る、飲み物を買いに行く、別のコピー機を使うなど、数分その場を離れるだけでも脳の興奮は下がります。席配置を変える、パーテーションを置く、イヤホンを使う、休憩時間をずらすといった工夫も有効です。

人間関係でも同様で、たとえばストレスの原因と思われる人の愚痴やマウントが始まったら「急ぎの仕事が」と会話を切り上げる、通知を切るなど接触量を減らします。さらに散歩する、帰宅して寝るといった離脱も立派な対処です。距離を取ることは逃げではなく、衝動的な行動を防ぐための戦略的な回避であり、爆発の連鎖を断つ最短ルートになります。

爆発の前兆に気づく

これまでご紹介してきたように、ストレス爆発は突然起きるものではなく、限界に近づいた心身が出すSOSの結果ですから、爆発前の小さなサインを見逃さないことが重要です。
頭痛や肩こり、寝つきの悪さ、食欲の変化、動悸やだるさなどの身体反応は典型的な前兆です。精神面では、些細なことでイライラする、気分が落ち込む、不安が強まる、涙もろくなるといった変化が現れます。さらに行動面では、人付き合いを避ける、返信が遅れる、ミスが増える、飲酒や喫煙が増える、「どうせダメだ」と考えるなどの傾向が出てきます。
これらは性格の問題ではなく、脳の処理能力が限界に近づいているサインです。違和感に早く気づき、休息や環境調整を行うことで、衝動的な爆発を未然に防げます。

ストレスチェックの活用

ストレス爆発を防ぐには、「限界まで我慢しない」仕組みを日常に組み込むことが大切です。
ストレスチェックを活用したりすると、自分がどのタイミングで負荷を感じやすいのか把握できます。結果として限界の前に休息や環境調整ができ、メンタル不調の予防につながります。また高ストレス状態が続く場合は、専門家への相談や職場環境の見直しに進めるきっかけにもなります。爆発してから対処するのではなく、「爆発しない状態」を作るための早期確認ツールとして活用することが重要です。

 

ストレスチェッカーとは

「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しているのはもちろん、2025年5月からは無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。
ストレス爆発は限界を自覚できないまま蓄積することで起きますから、ストレスチェックを活用して自分では気づきにくい負荷の度合いを客観的に把握することが有効です。


★ ストレスチェック導入のご相談はこちら

 

監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

精神科医 近澤徹氏

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役・近澤 徹

オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。


> 近澤 徹 | Medi Face 医師起業家(Twitter)


     

    まとめ

    ストレスチェックは、従業員のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした制度です。現在は従業員50人以上の事業場で義務化されていますが、今後は50人未満の企業にも対象が拡大される予定です。
    ストレス爆発は、限界を自覚できないまま蓄積することで起きます。ストレスチェック制度を活用することで、自分では気づきにくい負荷の度合いを客観的に把握でき、危険な状態になる前に休息や相談へつなげられます。また結果をもとに職場環境の見直しも可能になり、「我慢してから爆発」ではなく「兆しの段階で調整する」ことが可能です。
    ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
    導入方法や実施方法など、お気軽にお問合せください。

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