
統合失調症は、幻覚や妄想などの陽性症状、感情の平板化や意欲の低下といった陰性症状、集中力や記憶力の低下などの認知機能障害がみられる精神疾患です。慢性的な症状続くこともあり、生活への影響が大きいケースもあります。治療には抗精神病薬による薬物療法と、認知行動療法や生活支援などの心理社会的アプローチが組み合わせるのが一般的です。早期の診断と継続的な治療によって、多くの人が安定した日常生活を送ることが可能です。
目次
統合失調症とは
統合失調症は、思考や感情、認知、行動に影響を及ぼす精神疾患のひとつで、100人に1人が発症するとされる病気です。主に10代後半から30代前半にかけて発症することが多く、本人の意思とは関係なく現実の捉え方に歪みが生じるため、日常生活や社会生活にさまざまな困難が生じることがあります。
主な症状は「陽性症状」「陰性症状」「認知機能の障害」などに区分され、具体的には幻聴や妄想、感情表現の乏しさ、集中力や記憶力の低下などが挙げられます。
発症の原因は一つではなく、遺伝的な要因に加え、ストレスや環境、神経伝達物質のバランス異常などが複雑に関係していると考えられています。
治療するためには、抗精神病薬による薬物療法に加え、精神療法やリハビリテーション、家族支援など、本人の状態に合わせた継続的な支援が必要となります。症状が長期間安定する人も多く、適切な治療と周囲の理解があれば、就労や社会参加も十分に可能です。
統合失調症の陽性症状
統合失調症の「陽性症状」の代表的なものは「幻聴」と「妄想」です。
幻聴は、実際には誰もいないのに人の声が聞こえるという症状で、内容には命令的だったり批判的だったりするものも含まれ、本人にとっては現実と同じように感じられます。
妄想は事実に基づかない強い思い込みで、「誰かに監視されている」「テレビが自分に話しかけてくる」といった内容が多く見られます。
陽性症状は周囲から見て“異常”に見えることが多いため、誤解や偏見につながりやすいのも問題のひとつです。
適切な薬物療法を行なえば、このような症状は抑えることが可能であり、医師との連携による継続的な治療が重要です。症状が強く出ている時期には、無理な説得や否定を避け、安心できる環境を整えることが本人の安定につながります。
統合失調症の陰性症状:
統合失調症の「陰性症状」とは、本来あるはずの感情表現や意欲、社会的なやり取りが乏しくなる状態を指します。
「意欲の低下」「感情の平板化」「会話や表情の乏しさ」「人と関わろうとしない」といった症状がよく見られます。この陰性症状は、前述した陽性症状が落ち着いた後にも続くケースもあります。
朝起きて着替えたり食事をとったりするなどの日常の行動が、どうしても億劫になり、外出や就労といった社会的な活動が難しくなることもあります。また、表情が乏しくなったり、会話が単調になったりすることから、周囲から「無表情に見える」「無関心に感じる」と誤解されることもあります。
統合失調症の認知機能障害
統合失調症では、記憶力や集中力、判断力などの「認知機能」が低下することが多く見られます。
たとえば会話の内容を覚えておけない、集中できない、思考が混乱する、といった状態です。このような症状は一見わかりにくいものの、仕事の段取りが組めなかったり、会話についていけなかったりするため、周囲との関係性に影響することもあります。
特に、就労場面では作業の正確さやスピードに影響が出る場合があり、本人にとっては「自分ができない」と感じてしまう要因にもなります。
統合失調症のその他の症状
統合失調症には、陽性・陰性・認知機能障害以外にも、睡眠障害や身体の違和感といった症状があらわれることがあります。また、ストレスに弱くなる傾向があり、環境の変化や人間関係のストレスで症状が悪化するケースも少なくありません。
行動が突発的になったり、日常の意思決定が難しくなったり、感情がうまく伝わらなかったりといったケースも多くなります。
統合失調症の人を雇用するときに求められる配慮
統合失調症のある方を雇用する場合、症状の波や認知の特性を踏まえた配慮が重要です。たとえば、急な指示変更が苦手な人には事前に計画を伝える、集中力が続きにくい人には短時間勤務からスタートするなど、その人に合った働き方を一緒に模索していくことが大切です。
周囲の理解が不可欠で、本人の不調や静かな様子を「やる気がない」と誤解せず、体調の変化を尊重した柔軟な対応が求められます。業務内容はなるべくシンプルで分かりやすくする必要がありますし、確認のタイミングやメモの使用もサポートに役立ちます。また、体調や気分について気軽に話せる窓口があると、安心して仕事に取り組めるようになります。また、精神障がい者保健福祉手帳を持っている方であれば、雇用側には助成制度もあります。
多くの統合失調症の方は安定的に働ける
統合失調症は長く付き合う必要のあるものではありますが、きちんと治療を続けながら、安定した生活や就労を実現している人も多くいます。発症直後や再発の時期には生活の立て直しが必要ですが、症状が落ち着いていれば、一定のリズムで仕事を続けることも十分可能です。
実際、就労支援事業所や一般企業での雇用の場で、長年にわたって勤務を続けている人もいます。大切なのは、症状や調子の波があってもそれを理由に諦めず、周囲と相談しながら無理のない働き方を見つけていくことです。医療・福祉の専門職との連携や、家族、職場の理解があることで、本人の安心感につながり、結果的に長期的な安定につながります。
統合失調症の特性を知った上で対処する
統合失調症のある方と関わるうえで重要なのは、病気の特性を理解したうえで接することです。
感情の起伏が小さかったり反応が薄いように見えたりする場合でも、決して無関心ではありませんから、物事を急かさず、本人のペースに合わせることが信頼関係を築く近道になります。
なかには、疲れやすい人や一人でいることを好む人もいるため、生活や仕事の中では無理のないペースで関わっていく必要があります。周囲が「できない部分」ではなく「できる部分」に目を向ける姿勢を持つことで、本人の自信や安定にもつながります。
ストレスチェックは活用できるか
ストレスチェックは、症状が落ち着き、回復段階にある人にとって、有効なツールです。
「今の自分がどれくらいストレスを感じているのか」「どのような場面が負担になっているのか」を客観的に振り返る機会になります。
統合失調症はストレスが再発のきっかけになることがあるため、本人自身がストレスの兆しを自覚できるツールとして活用できます。
ただし、一般的なストレスチェックの設問では、本人の状態に合わない部分もあるため、必要に応じて産業医等と一緒に見直しながら使うと安心です。チェックの結果を活用して、働き方を調整したり、休息のタイミングを見直したりすることで、無理のない形で生活や就労を続ける助けになります。
監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹
【監修医師】 精神科医・日本医師会認定産業医 株式会社Medi Face代表取締役 近澤 徹 ![]() オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。 |
まとめ
統合失調症は、幻覚や妄想といった陽性症状、感情の乏しさや意欲の低下などの陰性症状、さらに思考力や集中力の低下といった認知機能の障害がみられる病気です。症状の現れ方や回復のスピードには個人差がありますが、多くの人が安定した生活や就労を継続していますが、統合失調症のある人と一緒に働くには、その人の状態を理解し、必要な支援を柔軟に取り入れていく姿勢が求められます。
職場では、体調の波に配慮しながら働けるよう、業務量の調整や静かな作業環境の確保、相談しやすい雰囲気づくりが大切です。また、ストレスが再発の引き金になることもあるため、本人の状態に応じてストレスチェックを活用することで、ストレスのサインに気づきやすくなります。とくに回復期の方にとっては、無理をせず、自分に合った働き方を探るきっかけにもなります。
ストレスチェッカーは、官公庁や上場企業、大学、大規模病院など、幅広い現場で導入されている国内最大級のストレスチェックツールです。受検画面のカスタマイズやメール文面の変更、未受検者への自動リマインド、進捗のリアルタイム管理、医師面接希望の収集まで、使う側の現場に合わせて柔軟に対応できます。
2025年5月1日からは、無料プランとWEB代行プランで「プレゼンティーイズム(体調や心理的な負担によって生産性が下がる状態)」の測定にも対応。まだ本人も気づいていない疲れや、やる気の低下などが数値で見えるようになるため、深刻化する前に手を打つきっかけになります。
また、どの部署にストレスが偏っているか、どんなタイプの不調が起きやすいかといった、職場全体の傾向も把握できます。
まずは気軽にご相談ください。
:参照記事
>燃え尽き症候群とは?精神科医が解説