
認知行動療法とは、うつ病、パニック障害、強迫性障害、薬物依存症、摂食障害、統合失調症などに有効とされる精神療法の技法の総称です。
精神療法とは、教示、対話、訓練を通して認知、情緒、行動などに変容をもたらすことで、問題の解決をはかる治療法です。
精神療法には、認知行動療法の他にも、家族療法や対人関係療法などさまざまな種類があります。
監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)
目次
認知行動療法とは
認知行動療法とは、自分の考え方のクセや偏り(認知)や行動に働きかける精神療法です。
元々、認知療法と行動療法は別々に研究・発展していました。
行動療法は心や認知といった曖昧で観測の難しいものではなく、客観的に観測できる「行動」に着目し、行動の変化、修正を行う治療法です。
一方、認知療法は人の「認知の歪み」に着目し、認知を修正することで患者の苦しみを取り除く治療法となっています。
一見すると相反する療法のように見えますが、その後の研究で認知と行動は切り離せない深い関係にあることも分かってきました。
そのため近年では修正の対象を認知や行動に厳密に定めず、両者の技法を組み合わせた療法を認知行動療法と呼称するようになりました。
精神療法と呼ばれるものには、認知行動療法の他にも、家族療法、対人関係療法、精神分析療法などさまざまな種類が存在しています。
| 認知行動療法 | 自分の考え方のクセや偏り(認知)や行動に働きかけ、修正する療法 |
| 家族療法 | 心の不調を家族全体の問題として捉え、お互いに理解を深める療法 |
| 対人関係療法 | 問題の焦点を人間関係に絞って、ストレスを軽減させる方法を探る療法 |
| 精神分析療法 | 無意識に繰り返す行動のパターンを探って、問題を解決する療法 |
認知行動療法の特徴
認知行動療法では、ある出来事に対して瞬間的に浮かぶイメージや考え方を「自動思考」と呼びます。自動思考は、いわば心のクセのようなもので、その現れ方や強さには人それぞれ違いがあります。
たとえば、親しい人にLINEを送ってすぐに返信がなかったとき、「嫌われたのではないか」「何か怒らせるようなことをしたのかもしれない」といった悲観的なイメージが浮かび、不安になる人もいるでしょう。認知行動療法は、こうした悲観的なイメージを生み出す「自動思考」に注目し、その捉え方を見直しながら行動も少しずつ変えていくことで、本来持っている心の力を取り戻し、問題の解決を目指す療法です。
近年では、瞑想の技法を取り入れた認知行動療法も登場しており、活用の幅はさらに広がっています。
参考: 厚生労働省「うつ病の認知療法・認知行動療法」
認知行動療法の効果
認知行動療法は、うつ病やパニック症状、強迫症などに有効であることが分かっています。
ただし、認知行動療法を受ければ、薬を使わずにすべてのうつ病やパニック症状、強迫症が改善するというわけではありません。症状の程度や経過によって、必要な治療は人それぞれ異なります。認知行動療法で効果を実感した場合でも、自己判断で医師から指導されている服薬を中止するのは避けましょう。
通常、うつ病の治療は、医師が一人ひとりの症状に応じた治療計画を立て、その計画に基づいて進められます。医師が薬物療法と認知行動療法を併用している場合は、両方のアプローチが有効だと判断したと考えられます。症状に応じて、薬物療法や認知行動療法に加え、食事療法や運動療法を組み合わせることも珍しくありません。
治療の方向性に迷いや不安を感じたときは、早めに医師へ相談することをおすすめします。
認知行動療法の「コラム法」とは
前述した自動思考は、自分の意思とは関係なく生じる認知のクセ・偏りです。
そこで認知行動療法では、この自動思考を見直して別の柔軟な考え方を身につけることを目的に、コラム法が用いられるケースがあります。
コラムとは、あらかじめ決められた項目に沿って、自分の体験を記入することで、自動思考を整理していきます。基本的な項目は「出来事」「考え(自動思考」「気分(感情)」の3つです。
自動思考を見直すには、コラム法を通じて、考えの根拠を捜し、その考えで本当に困ったことが起こるのかを想像すること、そして別の考え方を探すことが有効とされています。
これらを意識しながら、自動思考を見直してみると、事実に沿った別の考え方に気づくことができ、悲観的な考え方を修正して、問題が解決しやすくなります。
認知行動療法の「問題解決技法」とは
うつ病になると、悩みや心配ごとが次々と思い出され、何をどう対処していいか分からなくなり、気持ちばかり焦ってしまい物事に手がつけられなくなることもあります。
そのような時には、認知行動療法では「問題解決技法」が用いられます。
問題解決技法は、①問題を具体化する、②解決策を検討する、③その解決策のメリット、デメリットを考える、④解決策を実行する、⑤結果を評価するという5つのステップで行います。
解決策によって問題が解決すれば、その方法を続けます。そして解決できなかったら、①~③を繰り返します。このステップを繰り返すことで、自信を積み重ね、問題を解決する力を身につけることが期待できます。
認知行動療法の治療・通院
認知行動療法を受けたい人は、その療法に関心があることを医師に伝えましょう。なぜなら、日本ではうつ病やパニック症状などの治療は、薬物療法が中心だからです。
その医師が認知行動療法に精通していない場合には、認知行動療法を実施している専門機関に紹介状を書いてくれるでしょう。
なお、うつ病の治療として保険適用で認知行動療法を受ける場合には、1回の診療が30分を超えること、一連の治療は16回までとすること、医師が治療計画を作成して患者に詳細な説明を行う、といった要件があります。そこで、認知行動療法はこのペースで進められることが多いようです。したがって、週1回の通院で最大4カ月程度の通院による治療が目安となります。
認知行動療法は、原則として30分間の面接を16-20回行います(個々の状態によって変更することもできます)。
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【認知行動療法の進め方】
①まずは自分のストレスに気づき、問題を整理します。 ②その問題がどのような状況で起き、その結果どのような感情を引き起こしているか確認します。 ③自分の考え方(自動思考)が自身の感情や行動にどのように影響しているのか確認します。 ④自分の自動思考の特徴的なくせに気づきます。 ⑤自動思考の内容と現実とのズレに注目し、モノの見方を変えるための練習を行います。 ⑥モノの見方、考え方が変わってきたら、問題を解決する方法や人間関係を改善する方法を練習します。 |
ビジネスマンが実践しやすい考え方
ビジネスの現場では、同じ出来事が起きても、人によって受け止め方は変わります。認知行動療法は、「起きた出来事そのものではなく、その受け取り方(認知)が感情や行動に影響する」という考え方をベースに、ストレスの軽減やパフォーマンスの向上に役立てていく方法です。仕事の悩みをすぐに消す魔法ではありませんが、考え方のクセに気づき、行動を整えるヒントになります。
「ABC理論」で冷静に状況を整理する
出来事(A)が起きたとき、自分がどう受け取ったか(B)によって、感情や行動の結果(C)が変わると考えるのがABC理論です。
たとえば、上司に資料の修正を求められた場面で、「自分は無能だ」と受け取れば落ち込みやすくなります。一方で、「より良くするための助言だ」と捉え直せば、前向きに修正へ取り組みやすくなります。
まずは「何があったか」「どう考えたか」「どんな気分になったか」を分けて見ることが大切です。
「認知のゆがみ」に気づく
ストレスが強いときは、考え方が極端になりやすいものです。
たとえば、「一度のミスで全部だめだ」と考える全か無か思考、「いつも自分ばかり失敗する」と決めつける過剰な一般化、良い点を見ずに悪い点ばかりを見る心のフィルターなどがあります。
こうしたパターンに気づいたら、次は現実的でバランスの取れた見方を探します。「その考えを裏づける事実はあるか」「別の受け止め方はできないか」「親しい人が同じ状況なら何と声をかけるか」と自分に問いかけると、視野が広がりやすくなります。考え方を少し整えるだけでも、感情に振り回されにくくなり、次に取るべき行動も見えやすくなります。
思考と行動をセットで変える
認知行動療法では、考え方だけでなく行動も一緒に見直していきます。たとえば、気分が乗らない日でも「まず5分だけ取りかかる」と決める行動活性化は、仕事の先延ばし対策として取り入れやすい方法です。また、深呼吸、ストレッチ、短い休憩、誰かに相談するなど、自分なりの対処法をあらかじめ持っておくのも有効です。
仕事の合間に「今、自分はどう捉えているか」と一歩引いて見直す習慣をつけることは、メンタルヘルスやレジリエンスの強化にもつながります。
ストレスチェッカーとは
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ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。
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まとめ
認知行動療法は、薬物療法と併用すると効果が高いといわれますが、治療効果については、個人差があります。主治医とよく相談して、支持的精神療法や薬物療法と併用しながら、まずは一人でも実践しやすいコラム法などから試してみることで、心が楽になる方法を焦らず見つけていくことが大切です。
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監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)
大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わる中、社内のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。
現在は公認心理師として、ストレスチェックのコンサルタントを中心に、働く人を対象とした対面・Webやメールなどによるカウンセリングを行っている。産業保健領域が専門。

