メンタルヘルス不調・疾患には、うつ病、躁うつ病、統合失調症などがあり、それぞれ症状が異なり治療法も異なります。
心の病気についてはまだまだ誤解や偏見もあるため、対応を間違えてしまうと症状が悪化してしまう可能性もありますので、まずはメンタルヘルスケアについての正しい知識を持つことが大切です。
目次
メンタルヘルス疾患の症状
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」によると、メンタル不調とは「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むものをいう(※原文のまま)」と定義されています。
メンタルヘルス疾患に関する代表的な病名の1つに「うつ病」がありますが、似たような症状が現れるものとして「適応障害」や「不安障害」などがあります。また最近は、休暇中は元気なのに会社ではうつ状態になってしまう「新型うつ病」と呼ばれるうつ病の一種が、メディアを中心に社会問題化しました。
ここでは、代表的なメンタルヘルス不調・疾患にどのような症状が現れるのかをご紹介します。
(1)うつ病
うつ病とは、主に仕事や責務、人間関係などによるストレスがきっかけで脳内の神経伝達物質、ノルアドレナリンとセロトニンの分泌が減少することで、精神的・身体的な症状があらわれる病気です。うつ病を引き起こす原因はひとつではなく、生活の中で起こる様々な要因が結びついて発症します。
主な症状は、抑うつ気分や興味、関心の低下などです。集中力や判断力の低下により、仕事でミスを重ねてしまうことがあります。
その他、頭痛や肩こり、動悸、下痢や便秘などの症状に悩まされる人も多く、遅刻・早退・欠勤が発症前と比べて多くなります。
うつ病の原因は本人の性格と考えがちですが必ずしもそうではなく、身体の疲労からストレスが蓄積し、そのストレスを上手く解消できなかった場合なども、うつ病を発症する要因のひとつになります。
うつ病を疑われたら、まず医療機関を受診し専門家の指示のもと休養等が必要になります。治療の中心は心理的疲労回復を目指すもので、状態に応じて薬物療法、心理療法、精神療法などが用いられます。
(2)双極性障害
以前は「躁うつ病」と呼称されていたものです。躁病とは気分が異常に高揚し過活動になる状態を指します。過活動とは意味不明な行動とは異なり、一応合理的ではあるが、その程度が明らかに行き過ぎているものを指します。双極性障害は、この躁病とうつ病が併存している病気です。
躁状態の時には、例えば自分の能力以上の仕事を引き受けてしまう、配慮に欠けた言動が多くなる、攻撃性やイライラ感を伴う行動するなどします。
場合によっては大声で罵倒するなどのトラブルを起こすこともあります。
躁うつ病はうつ病の一種ではなく、まったく別の病気で治療法も治療薬も異なるので注意が必要です。
(3)新型うつ病
新型うつ病という名称はマスコミ用語で、今までのうつ病とは異なるタイプの疾患です。
新型うつ病には「気分変調性障害」や「非定型うつ病」など、いくつかのタイプがあり、非定型うつ病は若年層の女性に多くみられる傾向にあります。
会社では仕事に支障をきたすほどの不調を感じるけれども、仕事を離れ自分が楽しいと思うことになると問題なくできるため、診断は非常に難しいと言われています。
新型うつ病はさまざまな症例があるので、薬物療法だけでなく、生活指導(特に睡眠や生活リズム)や精神療法など対話を中心とした治療も必要となってきます。
(4)抑うつ状態
抑うつ状態とは、診断名ではなく、抑うつ気分が強い状態です。
「仕事に集中できない」「やる気が出ない」といった状態で、軽度だと一時的に回復することも多いので、不調が見逃されがちになります。
状態に応じて以下の2つに表現することができます。
①抑うつ気分
憂うつである、気分が落ち込む、とても悲しいなどといった気分を、抑うつ気分といいます。
②抑うつ状態
前述した抑うつ気分が強い状態をいいます。「うつ状態」のほうが日常生活でよく用いられるようです。
外見から抑うつ気分・抑うつ状態にあることを見分けることは困難で、本人ですら自覚できていないケースもあります。
また、「最近、気分が落ち込みがちだな」「集中力が落ちているな」と自覚してはいるもののケアをせず、それが悪化してうつ病を発症してしまうケース もあります。
(5)不安障害
不安障害とは心配や不安が過度になりすぎて日常生活に支障をきたす病気です。発症のきっかけや症状によってさまざまに分類されるので、ここでは代表的なものを紹介します。
「パニック障害」は、突然理由もなく激しい不安に襲われ、動悸や吐き気、窒息感や手足のふるえなどの症状が発作的に現れる病気です。実際は命にかかわるような状態ではないのに「死んでしまうのではないか」という恐怖を覚えることもあります。
「社交不安障害」は、人と接することだけでなく、人が多くいる場所に強い苦痛を感じる病気です。人に注目されることや人前で恥ずかしい思いをすることが怖くなり、会議の場などで一言も話せない、めまいや動悸、手足の震えなどが症状としてあらわれます。
恐怖から電車やバスを避けるようになり、外出や人と会うことを避けるようになることもあります。
不安障害の治療はカウンセリングと薬物療法が中心になります。薬は抗うつ薬や抗不安薬、睡眠薬などが用いられ、カウンセリングでは認知行動療法と呼ばれる心理療法が多く採用されます。
(6)適応障害
適応障害とは、はっきりと確認できる強い心理的ストレスのために、不安や抑うつといった症状が現れ、そのストレス要因が取り除かれれば症状が消滅する特徴をもつ精神障害です。
ストレス要因の発生から3カ月以内に発症するといわれており、情緒面だけでなく、めまいや動悸、頭痛、倦怠感などの身体的な症状にもあらわれます。また行動面では、行きすぎた飲酒や暴食、無断欠席、無謀な運転やケンカなどの攻撃的な行動がみられることもあります。
職場環境の改善やストレス要因の軽減などの策を講じ、本人のストレスへの適応力の向上や情緒面・行動面の症状へ介入することなどが必要になります。
(7)自律神経失調症
自律神経失調症は特定の疾患名ではなく、自律神経である交感神経と副交感神経のバランスが崩れることにより起こる、めまいや動悸、頭痛、睡眠障害、ほてり、倦怠感などさまざまな症状の総称です。
治療法として、ホルモン剤などによる対処療法や睡眠の周期を整える行動療法などがありますが、ストレスのコントロールと生活習慣の改善が大切です。
(8)統合失調症
総合失調症は、全人口の0.7% (100人に1人弱) の割合で発症するといわれています。
脳のさまざまな働きをまとめることが難しくなるために、「周りが自分にいじわるをしている」「自分は周りの人間より優れている」という妄想や「自分の悪口が聞こえる」「自分の噂話を聞いた」といった幻聴などが聞こえる、あるいは意欲の低下、感情表現が少なくなるなどが起こります。
発症の原因は正確には分かっていませんが、新しい薬や治療法の開発が進んだことにより、多くの患者が長期的な回復を期待できるようになっています。完治したように思っても再発してしまうことも多い病気ので、主治医と相談しながら、適切に病状を管理していく必要があります。
メンタルヘルス疾患の注意点
遅刻や早退を繰り返すようになったり、明らかに仕事に対する集中力、やる気が感じられなくなったりした人がいた場合、気分転換になるだろうとランチに誘ったり、一緒に飲みに行って励ましたりするのではないでしょうか。
しかしメンタル不調が原因の場合には、その励ましが逆効果になってしまうことがあります。
(1)まずは「聴くこと」
メンタルヘルス不調が疑われる場合には、管理監督者など周りの人が「心配しているよ」という思いやりのある態度で、声をかけることが大切です。
「最近、ぐっすり眠れている?」「身体の具合が悪そうだけど、どこか気になるところはあるの?」など、本人を安心させる姿勢で声をかけ、不安や不満を好意的・共感的に聴くようにします。
(2)叱咤激励は逆効果なことも
メンタルヘルス不調者に対しては、根性論や自分の人生観を押し付けることは避けましょう。「頑張りが足りない」とか「もっとできるはず」と励ますことが、本人に負担になる場合があります。なかには「自分の若い頃は…」などと武勇伝を語る人がいますが、これも逆効果となる場合がほとんどです。これらの行為が、症状を悪化させるリスクがあることを忘れてはいけません。
(3)専門医の治療を受けるように促す
従業員からメンタルヘルスに関わる相談を受けたら、憶測で病名などを伝えることは避け、専門医を受診するよう勧めましょう。相談者の状態が明らかに悪い場合は、医師による診断書ももらうよう伝えておくと、その後の対応がスムーズになります。
なお相談者が受診を希望しない場合には、就業規則を根拠に受診や診断書の提出を指示することも必要となります。
まとめ
職場のメンタルヘルスケアにおいては、従業員自身が不調に気づけるように工夫すること、管理監督者が職場環境の把握と改善を行い、不調者の発生を防ぐ策を講じること、そして休職者については適切な職場復帰支援を行うことが大切です。
ストレスチェックでは従業員に気づきを促し、職場環境の改善に役立つデータも得られますので、ぜひ積極的に活用してください。
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【監修】 公認心理師 山本 久美(株式会社HRデ―タラボ) 大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わるなかで、職場のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。 |