社交不安障害の症状を精神科医が解説

社交不安障害とは

社交不安障害(Social Anxiety Disorder)は、人前で話したり注目されたりする場面で、過度な緊張や不安を感じてしまう精神疾患のひとつです。
たとえば、会議での発言、上司への報告、初対面の人との会話、電話対応など、社会生活における多くの場面で強い不安が生じ、それを避けようとする傾向が見られます。そしてその結果、学業や仕事、対人関係に支障が出ることも少なくありません。
発症のきっかけは、本人の性格や育った環境、過去の体験、脳内の神経伝達物質のバランスなど複合的で、10代から20代の若い時期に発症するケースが多いとされています。
単なる「人見知り」とは異なり、本人の努力ではどうにもできない不安や恐怖が強く現れる症状で、放置すると長期化しやすいため、本人が正しく症状を理解し適切な治療を受けることが大切です。

社交不安障害の主な症状

社交不安障害の症状は、大きく「精神的な反応」と「身体的な反応」に分けられます。

精神的な反応
人にどう見られているかが過剰に気になり、「失敗したらどうしよう」「変に思われたらどうしよう」といった不安感が常につきまといます。発表や会話の場面を極端に避けたり、予期不安から体調を崩したりすることもあります。

身体的な反応
動悸、発汗、ふるえ、吐き気、顔の紅潮、声の震えなどが現れることが多く、周囲に不安な様子を見せまいとして、さらに緊張してしまう…という悪循環に陥りがちです。

これらの症状の程度には個人差があり、特定の場面でのみ不安を感じる人もいれば、日常生活全般で苦痛を感じる人もあります。
本人も、「些細なことで過剰に反応している」と理解していても、意識的にコントロールできないことでさらに辛さを感じています。

社交不安障害の治療法

社交不安障害の治療は、主に心理療法と薬物療法の2つが中心となります。
心理療法では、「認知行動療法(CBT)」がよく用いられます。不安を引き起こす思考のクセに気づき、それを現実的なものに修正していく手法です。
たとえば「会議で発言すると必ず失敗する」という極端な思い込みがある方には、実際にどれだけの確率で失敗しているのかを検討し、不安を和らげていきます。
薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬や、不安を抑える抗不安薬が処方されることがあります。また、必要に応じてβ遮断薬で交感神経の働きを抑え、心拍数や血圧を下げることもあります。
治療の効果は人それぞれですが、根気よく取り組むことで症状が軽減し、日常生活への支障が減るケースも多く見られます。

社交不安障害を持つ社員への職場の対応

社交不安障害を抱える社員が職場で安定して働けるようにするには、業務内容や職場環境の配慮が欠かせません。
プレゼンや接客、電話対応といった人前に出る業務を最初から求めず、段階的に慣れてもらう方が安心して働きやすくなります。また、ミスや遅れがあった場合にも過度に叱責せず、理解を示す言葉がけを行います。
また、業務の進め方や人間関係で困ったときにすぐ相談できる仕組みや、上司・同僚の温かい雰囲気づくりも重要です。
職場全体で、社交不安障害に対する正しい知識と支援の姿勢を持つことが、共に働くうえでの基本です。

職場環境の調整

社交不安障害を抱える方にとって、周囲の視線や人との関わり方が大きなストレス要因になることがあります。そのため、職場環境を少し調整するだけでも、働きやすさが大きく変わります。
オープンスペースではなく、なるべく静かで人目につきにくい場所に席を設ける、電話対応を減らす、会議への参加を段階的にするなどの工夫も考えられます。
また、突然の指示や変化がストレスになりやすいので、業務の見通しを事前に伝えたり、スケジュールを可視化したりしておくと安心感につながります。定期的な面談や声かけで状況を確認しながら、本人の希望や体調に合わせて柔軟に業務を調整していく姿勢も大切です。

通勤時間の調整

満員電車や朝の混雑した時間帯の通勤は、社交不安障害を持つ人にとって大きな負担になることがあります。知らない人との距離が近い環境、不測の出来事が起きやすい環境だと、不安感が強くなることがあるからです。
そのため、通勤時間を少しずらして混雑を避ける「時差出勤」や、週に何日か在宅勤務を取り入れるなどの配慮が、安心して働き続けるためには効果的です。また、自宅近くのサテライトオフィスやコワーキングスペースの利用も、移動によるストレス軽減につながります。
つまり、会社側には「成果を出すためにどこでどう働くか」「生産性を向上させるためには、どうすればよいのか」を柔軟に考える姿勢が求められます。

相談しやすい雰囲気づくり

社交不安障害を持つ方は、自分の困りごとを周囲に伝えることに大きなハードルを感じることがあります。そのため、職場全体で「相談しやすい雰囲気」をつくることがとても大切です。
上司や同僚が日頃から気にかける声かけを行い、誰に・どのように相談すればよいかを明示しておくことで、心理的な負担が軽減されます。また、評価の場や面談では、「頑張った点」や「改善できたこと」にもきちんと目を向け、自己肯定感が持てるようなフィードバックを意識することが必要です。

障害者雇用枠の活用

社交不安障害(社会不安障害)は、症状の程度や日常生活への影響によっては、精神障害者保健福祉手帳の対象となる場合があります。
企業側にとっては、雇用すると各種助成金を活用できますし、定着支援に関する補助もあります。また、バックオフィス作業や軽作業などを障害者に任せることで、他の従業員がよりコア業務に集中できる体制が整い、結果として職場全体の生産性向上につながることも少なくありません。
障がいのある人を含めた多様な人材を受け入れることで、社内の意識が変わり、ダイバーシティ推進にもつながります。

ストレスチェックの活用

職場でのメンタルヘルス対策の一環として導入されている「ストレスチェック制度」は、社交不安障害を抱える人にも活用できます。とくに、回復期にある人にとっては、自分の状態を数値やグラフで客観的に知ることができるため、状態の変化に早く気づく手がかりになります。
緊張や不安、対人関係のストレスが数値として表れることで、自分のコンディションに合った対処法を考えやすくなります。また、組織としても高ストレス者の傾向や職場環境の問題を早期に察知することで、適切な対応を取りやすくなります。さらにストレスチェックは面談のきっかけづくりにもなり、定期的なケアの体制をつくる一助になります。

監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
近澤 徹

オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。

> 近澤 徹| Medi Face 医師起業家

まとめ

社交不安障害は、適切な治療を受けることで改善が期待できる疾患です。「症状の軽減」や「社会生活への支障がなくなるレベルまでの回復」は十分期待できますし、状況によっては、服薬なしで生活できる状態に回復する人もいます。
ただし、ストレスや環境の変化、人間関係の問題が再燃の引き金になることもありますので、「症状と向き合い、コントロールして付き合う」意識が大切です。
ストレスチェック制度は、心身の状態を客観的に把握し、早期にケアにつなげるための有効なツールです。本人が気づきにくい疲労や不調の兆しを見つける手助けにもなります。ストレスチェック制度は、社交不安障害のある方だけでなく、企業全体の職場環境の改善、生産性の向上につなげることができます。

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