うつ病と食事の関係【精神科医 監修】

うつ病の治療というと、「薬で治療するしかない」と思っている方も多いのではないでしょうか。確かに薬によるうつ病の治療はとても重要ですが、食事による生活療法も同じぐらい重要です。中には、薬と同じぐらいの治療効果を示した食べ物もあるのです。
そこでこの記事では、うつ病の時に不足しやすい栄養素や、それを補うための食事について解説します。

うつ病とは

うつ病とは、気分が落ち込んだり、やる気が出なかったりといった精神症状が出る病気です。また、眠れない、疲れやすいというような身体症状が出ることもよくあります。さらに、食欲の変化や集中力の低下、無価値感や絶望感に襲われることもあります。うつ病を引き起こすメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質のバランスの乱れが一因ではないかと考えられています。

セロトニン不足を食事で補うには

セロトニンは、神経伝達物質の一つです。不足すると、暴力的になったり、不安感が増したりします。そして、セロトニンの不足がうつ病の原因の一つではないかと考えられています。実際に、うつ病の治療では脳内のセロトニンを増やす薬が使われています。

残念ながら、このセロトニンは体内で自動的に生成されるわけではありません。セロトニンは必須アミノ酸の一つであるトリプトファンから合成されるため、タンパク質を食事から摂る必要があります。さらに、セロトニンの生成にはビタミンB6やマグネシウムなどの栄養素も関与しています。これらの栄養素をバランスよく摂取することで、セロトニンの生成が促進することが期待できます。
このセロトニンの元となるトリプトファンを多く含む食べ物としては、以下のようなものがあります。

大豆類
乳製品
穀類
肉類
魚介類
ナッツ類

セロトニンの合成には鉄分も重要

セロトニンが体内で合成される際には、前述したトリプトファンだけでなく、その生成を助ける成分として鉄分も必要です。たとえば出産するときには鉄分が胎児に移行するため、母体は鉄不足に陥ります。産後うつは、この鉄不足が原因ではないかと考えられています。鉄分は酸素を運ぶヘモグロビンの生成にも必要で、体内のエネルギー代謝や免疫機能を支える重要な役割を果たします。鉄分が不足すると、疲労感や集中力の低下など、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。

鉄分を多く含む食べ物としては、以下のようなものがあります。

赤身の肉
レバー

ドーパミン不足を食事で補うには

ドーパミンは興味や楽しみを抱かせる神経伝達物質です。うつ病患者では、ドーパミン濃度が減少していることが知られています。
したがって、セロトニンと同様に、ドーパミンの生成にも必須アミノ酸の摂取が必要です。必須アミノ酸の一つであるチロシンを元にドーパミンは生成されます。
チロシンを多く含む食べ物は、乳製品です。乳製品の中でもチーズにチロシンが多く含まれています。

ドーパミンの生成にも鉄が重要

先ほどセロトニンの生成に鉄分が重要とお話ししましたが、実はドーパミンの生成にも鉄が必要です。ドーパミンの生成に欠かせない鉄分を十分に摂取することで、精神的な安定や集中力の向上が期待できます。また、鉄分の吸収を助けるために、ビタミンCを含む食品を一緒に摂ることも効果的です。

微量元素とうつ病の関係

うつ病の時には、次の微量元素も不足しやすいと言われています。

マグネシウム
亜鉛

うつ病と亜鉛の関係

うつ病で亜鉛の濃度が低い場合、亜鉛を補充することで治療効果が高まることが知られています。亜鉛は脳内の神経を維持したり、神経伝達物質の働きを調節したりすることで、抗うつ作用を示すと考えられています。また、亜鉛は抗酸化作用も持ち、神経細胞の保護に役立つとされています。亜鉛が不足すると、うつ病の症状が悪化する可能性があるため、バランスの取れた食事で亜鉛を適切に摂取することが重要です。

亜鉛を多く含む食べ物には、以下のようなものがあります。

牡蠣
豚レバー

うつ病とマグネシウムの関係

2017年、軽度のうつ病患者がマグネシウムの摂取を行うと、症状が軽快する傾向にあることが、アメリカの研究チームえ報告されました。
そして驚くべきことに、その効果は抗うつ薬に匹敵するレベルであったことも示されています。この研究では、二重盲検法という、とてもエビデンスレベルの高い実験手法が用いられています。

マグネシウムは、セロトニンとドーパミンの分泌を増やしたり、コルチゾールというストレスに応答して抑うつ気分をもたらすホルモンの生成を抑えたりすることで抗うつ作用を示すと考えられています。

マグネシウムは、次の食べ物に多く含まれています。不足していると感じた方は、これらを積極的に食べましょう。

海藻
バナナ
豆類

過剰な糖分はうつ病のリスクを高める?

ストレスを感じると、甘いものを食べて解消しようとする方もいるのではないでしょうか。しかし、うつ病と糖分の過剰摂取の間に因果関係があるかもしれないので、注意が必要です。

糖分をとりすぎることが、うつ病のリスクになり得ると明確に示した研究はありません。しかし、糖質の多い食事をとったグループは、そうでないグループに比べて精神疾患を発症するリスクが23%高かったという研究結果が報告されています。

他にも、マウスの実験ではありますが、砂糖を過剰摂取すると脳内の毛細血管に炎症が起こり、統合失調症や双極性障害などの精神疾患を引き起こしたという研究も報告されています。

うつ病からの早期回復とストレスチェック

うつ病を早期発見するためには、ストレスチェックが重要です。ストレスチェックは、精神的な負担を数値化し、個人のストレス状態を客観的に把握するためのツールです。定期的なストレスチェックを実施することで、従業員の心身の健康状態を把握し、早期に異変を察知することが可能で、うつ病の兆候を見逃さず、早期に適切な対策を講じることができます。また、ストレスチェックの結果をもとに、カウンセリングやメンタルヘルスケアを提供することで、予防や治療への道を開くことができます。ストレスチェックは、自己認識を高めるとともに、周囲の理解とサポートを得るきっかけにもなります。従業員のストレスを定期的にチェックし、早期発見・早期対応を徹底することで、うつ病の予防と健康な職場環境の維持が可能となります。

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
近澤 徹

オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。

> 近澤 徹| Medi Face 医師起業家