【2023年】衛生委員会のテーマ|年間スケジュール

会社は、働く従業員の安全や健康の維持に努めなければなりません。
そこで労働安全衛生法では、常時50人以上の労働者を雇用する事業場では衛生委員会を設置する義務があると定めています。そして、衛生委員会は毎月1回以上開催し、労働者の健康障害等に関する対策について調査審議しなければならないと規定しています。

しかし、「毎月どのようなテーマについて調査審議をすべきなのか困っている」という担当者も多いようです。
そこでこの記事では、法令に定められていることを中心に、衛生委員会で調査審議すべきテーマについてご紹介します。

衛生委員会とは

労働者規模が50人以上の事業場においては、業種を問わず衛生委員会を設置して、労働者の健康障害を防止するための対策などについて調査審議をしなければなりません。
また、労働者規模が50人以上の林業、鉱業、建設業、製造業の一部などの事業場、および100人以上の製造業、卸売業、小売業などは安全委員会を設置して、労働者の危険を防止するための対策などについて調査審議をする必要があります。

(1)衛生委員会の運営

衛生委員会を運営する際には、まず委員会としての基本方針を決めて労働者に周知します。

基本方針とは、労働災害防止、職業性疾病の予防を目標とし事業場として方針と対策を決定して取り組みを進め、その成果として労働者の安全と健康を保持することです。

労働者への周知の方法としては、社内に提示したり社内報に掲載したりして共有できるようにします。

(2)職場の問題点の洗い出し

職場の問題点とは、安全衛生に関する問題点です。
たとえば、職場の危険性・有害性のほか、健康診断やストレスチェックの実施状況を確認し、健康診断結果の事後対応やストレスチェックの結果について審議がなされていないなどの問題点がないか、調査します。

その他、問題点を洗い出す方法としては、職場パトロールを行ったり各部署の労働者にヒアリングしたりする方法もおすすめです。また、健康診断やストレスチェックの結果から、職場の問題点が明らかになることもあります。

たとえば、健康診断の尿検査結果から有害物質が体内に取り込まれていることが判明することがあります。その場合には、作業環境測定を実施して設備を確認し、改善しなければなりません。

また、平成27年(2015年)から50人以上の事業場に義務づけられたストレスチェックの結果は、職場単位のメンタルヘルスケア推進に役立てることができます。
具体的には職場単位の集計を行って(集団分析)、国内のほかの企業や社内の他部門との比較を行い、職場ごとの改善を行います(職場環境改善)。
集団ごとの分析結果である「仕事のストレス判定図」からは、健康リスク点数を算出することができ、会社全体や部、課ごとにストレス要因を評価し、従業員への影響を判定することができます。

ストレスチェックの義務化|基礎知識&用語

衛生委員会で話し合う年間テーマ

衛生委員会では、以下のような項目を審議します。

①労働者の健康障害を防止するための基本対策
②労働者の健康保持増進を図るための基本対策
③労働災害の原因や再発防止対策で衛生に関すること
④労働者の健康障害の防止、健康保持増進に関する重要事項

事業者は、上記に関して労働者の意見を聴いて職場改善を図ります。衛生委員会の役割と活動内容を労働者に周知し、委員会で自由に意見を言えるように工夫することも必要です。衛生委員会は、産業医が出席する必要があるので、産業医の巡回日に合わせて開催するのがよいでしょう。ただし、産業医の都合でやむを得ず出席できない場合には、産業医に後日議事内容を確認してもらい、次回の衛生委員会等でアドバイスを受けるようにします。

衛生委員会は、毎月1回以上開催しなければなりませんので、ここでは衛生委員会の年間スケジュール例についてご紹介します。

(4月)ストレスチェックなどメンタルヘルスケア研修

衛生委員会と同じく50人以上の事業場に義務づけられているストレスチェックは、年1回以上実施し、その実施状況を労働基準監督署に報告しなければなりません。

ストレスチェックとは|実施方法は?罰則はあるの?

ストレスチェックは、労働者自身に自分のストレス状況を自覚してもらうために行うものですが、ストレスチェックの結果を集団ごとに分析し、職場環境の改善に活用することもできます。
集団ごとの分析とは、個々の労働者のストレスチェックの結果を一定の集団(部、課など)ごとに集計して、特徴や傾向を把握することです。

ストレスチェックの集団分析|10個のポイント

この分析結果については、上司評価にもつながりかねないので、特定の管理職が不利益を被ったりそれが原因でトラブルに発展したりしないよう、分析結果をどのように共有するのかをあらかじめ衛生委員会で話し合っておくことが大切です。

また、メンタルヘルスケアにおける「4つのケア ※」が適切に実施されるためには、事業者は①心の健康計画を策定し、②関係者に方針を周知させ、③労働者からの相談窓口体制を整備し、④教育研修の機会を提供し、⑤事業場外試験とのネットワーク構築などを行います。
4つのケアの役割を理解してもらうためには、外部から専門家を招いて研修を行うのも有効です。研修を通じて部下の状態についての意識を高めることができますし、「部下がメンタルヘルス不調になったらどうしよう」といった不安を軽減できます。

職場環境を改善する7つのポイント

なお、会社や管理監督者には、安全配慮義務があります。
したがって研修においては、この法的リスクを理解したうえでメンタルヘルス不調にならずに成果を上げていく方法や、メンタルヘルス不調になった部下への適切な対応、リソースへのつなぎ方などが含まれているとよいでしょう。

安全配慮義務|目的・意味・条文は?違反するとどうなる?

※4つのケア

①セルフケア 労働者自身によるメンタルヘルスの理解、ストレスへの気づき、対処、自発的相談

②ラインケア
管理監督者による職場環境の把握、改善、労働者からの相談対応、職場復帰支援

③事業場内産業保健スタッフによるケア
セルフケア、ラインケアが効果的に実施されるための支援、実施計画の立案

④事業場外資源によるケア
事業場外資源とのネットワークづくり、各種サービスの提供


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(5月)感染症予防対策

依然として猛威を振るう新型コロナウイルス感染症に限らず、インフルエンザや結核などの感染症予防対策についても、衛生委員会の重要なテーマのひとつです。
手洗いやマスクの着用、咳エチケットの徹底はもちろん、感染が疑われる労働者の出勤停止についての扱いについても審議しましょう。

なお、厚生労働省では、新型コロナウイルス感染症について「症状がなくても感染を拡大するリスクがあるという本感染症の特性にかんがみた適切な対応が必要」としていて、当分の間は感染経路が特定されなくても、業務によって感染した可能性が高く業務に起因したと認められる場合には、労災保険給付の対象とするとしています。

(6月)食中毒予防・生活習慣病の予防

社員食堂や、職場で取り寄せている弁当で食中毒が発生した場合には、ほとんどのケースで業務災害となりますので、食中毒の予防は非常に大切です。
1度に3人以上が被災する災害については、労働基準監督署の立ち入り調査も行われます。
調理に従事する労働者の手洗いを徹底するのはもちろん、夏季の食料の腐敗、冬季のノロウイルス対策についても、情報を提供するようにしましょう。

(7月)熱中症予防のための対策

熱中症とは、高温多湿な環境下において、体内の水分や塩分のバランスがくずれて発症する障害をいいます。

高血圧、高血糖値、高コレステロール、肥満などの人は血液循環が悪いので熱中症になりやすいので、注意が必要です。
高血圧の治療で塩分を制限している労働者については、とくに熱中症を発症しやすい傾向があることから、産業医などと相談のうえ、適切な情報提供を行う必要があります。

また、前日飲酒をしていると、アルコールを肝臓が分解していく過程で水分が必要になることから、翌朝脱水症状になり熱中症を発症しやすくなります。労働者には、このような情報も社内報などを利用して提供するようにしましょう。

(8月)定期健康診断の案内および受診前の注意事項

定期健康診断については、「いつ実施するのか」「受診率を高めるためには、どうすればよいのか」をテーマにします。

交代勤務を行っている職場においては、それぞれの勤務時間帯でどう実施するのかも検討します。産前産後休業、育児休業などで受診できない場合は法令違反となりませんが、出張や取引先との打ち合わせなどで受診できなかった労働者については、別の日を定めるのか個別に医療機関で受診させるのかも決定します。

(9月)ハラスメント対策

ハラスメント問題は、個人対個人で生じるイメージがありますが、その背景には組織の問題が絡んでいるケースが多々あります。
とくにパワハラは、職務に密接に関連することが多いので注意が必要です。
事業者は、管理監督者を中心に「パワハラが人格や尊厳を傷つける行為であること」「生産性の高い職場環境づくりにおいては、パワハラは防止すべきであること」を明確に示して、その方針をトップから示すことが大切です。

管理監督者については、ハラスメントについての研修を実施することも効果があります。ハラスメント対策は被害者を保護するためだけに行うものではなく、優秀な人材の流出防止にもつながります。研修においては、その教育目的を明確にして組織全体の問題であるという自覚を促すことが大切です。

(10月)休憩室や休養所について

事業者は、労働者が有効に利用できる休憩室を設けなければなりません。休憩室の設置は努力義務ですが、著しく温熱、寒冷または冬温の作業場においては、作業場以外に休憩室を設置することは義務となっています。

また、常時50人以上または常時女性30人以上の労働者を使用する時は、労働者が横になれる休養室または休養所を、男性用と女性用と分けて設置しなければなりません。

(11月)ストレスチェックの活用・健康診断結果の評価

ストレスチェックの受検率や定期健康診断の受診率について、検討します。
受検率や受診率が低い場合には、高めるためにはどう推進すればよいのかも審議します。
ストレスチェックや健康診断を受けようとしない労働者もいますが、その対応についても審議するべきです。受けようとしない労働者は、自分自身の異常について自覚しているケースが多いからです。

また、ストレスチェックや健康診断の実施データをもとに、項目に不調が認められる労働者の割合について、前年や前々年と比較して変化したかを確認します。そして有所見率の改善のための取り組みなどもテーマにします。
労働者に対して健康セミナーを実施するのも効果的です。

ストレスチェックは毎年の実施が義務づけられていますので、職場環境の改善活動や管理職研修の実施後の見直しを行なうことで、継続的な改善を目指して、次年度への計画に結びつけることができます。

(12月)腰痛対策

腰痛は、疾病による労災請求の実に6割を占めていて、厚生労働省では、平成25年(2013年)に「職場における腰痛予防対策指針」を全面改訂しています。この指針を参考にして職場の状況に応じた対策を講じる必要があります。

厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」

なお、労働基準法では満18歳以上の女性が行う重量物作業について、継続作業は20キログラム以下、断続作業は30キログラム以下と規定されています。とはいうものの、作業様態にもよりますし、「重すぎる」と感じる労働者も多いと思われますので、実施状況等を記録しつつ継続的に取り組む必要があります。

(1月)長時間労働対策

長時間労働は、脳血管疾患や虚血性心疾患を発症するリスクだけでなく、メンタルヘルス疾患を発病するリスクもあります。

脳・心臓疾患を発症するリスクの高い労働者については、定期健康診断である程度把握することができますし、メンタルヘルス疾患についてもストレスチェックの結果からある程度リスクを把握することができます。

過重労働によるこれらのリスクを回避する対策を実施する場合には、まず事業者が「過労死や長時間労働による健康障害を生じさせない」という方針を、表明することが大切です。さらに、長時間労働対策推進計画を作成して具体的な手順、役割を明確にして実行します。

(2月)各種規定の取り組み状況の検討

安全衛生管理規定、リスクアセスメント規定などは、衛生委員会において審議すべきテーマです。
安全衛生管理規定には、健康診断やストレスチェックについても審議し、規定に定めます。

リスクアセスメントとは、リスクを特定して分析し、評価するプロセスのことです。
小規模事業場については作業の種類や工程もそれほど多くないので、リスクアセスメント規定の作成もそれほど難しくありませんが、大規模な事業場では作業の種類や機械等の数も多岐にわたることから、ひとつの規定に定めるのは困難です。その場合には、リスクアセスメント規定を設けたうえで、細部事項については小委員会などで別途定めることが必要になります。

(3月)次年度の年間スケジュール作成

1年間テーマを決めて審議した結果を委員会で発表して、職場にフィードバックします。また、委員会の発表や労働者へフィードバックした結果をもとに次年度の年間スケジュールを作成し、審議します。目標を達成できなかった場合には、原因を分析して次年度の改善計画に盛り込みます。目標達成できた場合には、さらなる改善や高めの目標を設定します。

まとめ

以上、衛生委員会で話し合うべき年間テーマについてご紹介しました。
ご紹介したテーマは、あくまで例であり、職場の状況に応じて機械等の定期自主検査、感電防止対策、粉じん対策、作業環境測定などについて調査審議すべきケースもあります。各々の職場の状況に合わせ、毎月のテーマを決めることが大切です。

なお、厚生労働省では、労働災害をゼロにするための取り組みを行うため、労働安全衛生マネジメントシステムの構築を呼びかけています。
このシステムのスタートは、「法令違反がないこと」であり、中心的な役割を担うのは「衛生委員会の活動」です。
衛生委員会で話し合うべきテーマを決める際には、衛生委員会の役割と活動内容を理解し、自主的な活動をどう進めるかを念頭に置く必要があります。

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    公認心理師 山本 久美(株式会社HRデ―タラボ)

    大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わるなかで、職場のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。
    現在は公認心理師として、ストレスチェックのコンサルタントを中心に、働く人を対象とした対面・Webやメールなどによるカウンセリングを行っている。産業保健領域が専門。

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