
大人の発達障害について認識が広まったこともあり、「発達障害の傾向がある部下に対して、どのように対応するべきか」「どのように配慮するべきか」といった悩みを持つ管理監督者が増えてきました。
ただ、一口に「大人の発達障害」といってもあらわれる特徴は個々それぞれですし、環境によっても現れ方は変わります。
そこで、この記事ではDSM-5(アメリカ精神医学会が出している精神障害の診断・統計マニュアル)をもとにADHDとASDの特徴についてご紹介するとともに、対応する際のポイントなどについてもご紹介します。
※発達障害については個別の疾患があるわけではなくひとつの特徴・傾向であることから、「障害」という言葉には違和感を覚えるところもありますが、日本においては発達障害という言い方が一般的であるため、この記事では、主にADHDとASDについて発達障害という表現でご紹介していきます。
監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)
目次
大人の発達障害とは
学校教育の現場だけではなく大人にも発達障害があるという、いわゆる「大人の発達障害」という言葉は、世間に認識されつつあります。
発達障害とは脳機能の発達がアンバランスである状態で、「注意欠如・多動性(ADHD)」「自閉症スペクトラム(ASD)」などを含めた総称です。
発達障害について認識が広まったとはいえ、まだまだ情報が十分ではないことから、未だに一般的なイメージはネガティブなものも多く、時として「病気だから治療が必要だ」とか「社会適応は無理だ」といった誤った解釈がされることもあります。
また本人たちも、学生時代までは周囲も「少し変わった人(子)だな」と言われることがあるだけで、これまで診断や支援を受けずに成長したケースが多々あります。そして社会に出ると求められる基準が変わり、それまで目立たなかった特徴がトラブルとして顕在化し、苦しんでいるケースがあります。
ここでは、発達障害のなかでもADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)についてご紹介し、これらの特徴を持つ方々に想定される課題や配慮すべき点についてもあわせてご紹介します。
(1)発達障害は1つの個性である
発達障害の傾向があるかどうかをはっきり見極めるのは、専門医にとっても簡単ではありません。さらに、その傾向が実際に問題になるかどうかは、本人だけで決まるものではなく、周囲がどう受け止めるかにも大きく左右されます。
たとえば欧米では、自ら発達障害であることを公表する有名人も増えており、発達障害は白黒で区切れるものではなく、相対的な傾向として理解されつつあります。つまり、周囲が「これは欠点ではなく一つの個性でもある」と受け止め、中立的かつ公平な姿勢で落ち着いて対応できれば、必要以上に問題を大きくせず、トラブルの予防や軽減につながる可能性があります。
(2)発達障害の特徴は環境によって現れ方が違う
発達障害の特徴が表に出るかどうかは、本人の性質だけで決まるのではなく、置かれた環境に大きく左右されます。環境との相性によっては特徴が強く現れることもあれば、それほど目立たず、特にトラブルにならないまま過ごせることもあります。
たとえば、ルーチンワークが中心で業務内容がおおむね決まっている職場では問題なく適応できた人でも、裁量の大きい仕事に就いた途端に対応が難しくなることがあります。
また、一般職としては精力的に仕事をこなしていた人が、管理監督職になったことで部下のマネジメントや調整業務に苦労し、そこで初めて問題が顕在化することもあります。
(3)メンタルヘルス疾患を発症しやすい
発達障害の傾向がある人は、職場で人間関係に悩んだり業務がうまく進められなかったりといった体験が増えることで、メンタルヘルス疾患を発症することがあります。本人にとっては、「努力しているのに、なぜかうまくいかない」という日々が積み重なっているのですから、当然それは大きなストレスになると考えられます。
本人自身も、眠れない、食欲がない、頭痛や腹痛といった症状を自覚しているものの、それらを体の不調ととらえてしまっているケースも多いようです。
しかし、遅刻や無断欠勤などの勤怠問題やストレスチェックの結果から問題が顕在化するようになれば、適切な対処(治療や休職など)で症状は改善する可能性があります。ただし、根本的なアプローチを行うためには対処的な治療だけでなく、業務の内容や進め方について十分に話し合い、必要に応じて就業上の措置を講じることになります。
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ADHDの特徴が見られる部下への対応

ADHDの特徴がある人は、必要なことに注意を向ける、あるいはその注意を維持することが苦手です。成人のADHD(注意欠如・多動症)の有病率は2~3%と言われていて、発達障害のなかでも比較的有病率が高いものです。
なお、日本国内の診断数自体は、大人で10年間に20倍以上に増えたという報告があります。これは「大人になってから気づく人」が増え、適切に診断されるようになった背景が影響しています。
参考:厚生労働科学研究成果データベース/発達障害の原因,疫学に関する情報のデータベース構築のための研究
不注意なミスがある
作業の細かなところでケアレスミスをしたり、約束を忘れたり、時間に遅れたり、忘れ物が多かったりといったことも生じます。
注意を持続することが困難
落ち着きがなく、離席や雑談が多くて集中力が続かないことがあります。思いついたことをすぐに行動に移したりあれこれ気が散ったり、よく考えずに思ったことをすぐに口に出してしまう傾向もあります。
実際会社などで他の労働者と対面で勤務する場面では、配慮して会話をしてもらうなどサポートを得ながら、ミスを減らす工夫をしているケースも多いようです。
(1)情報を整理し優先順位をつける
ADHDの方は、情報過多になると整理をつけて理解するのが難しくなることがあります。
したがって、情報の整理や優先順位をつけることの苦手さを補うサポートが求められます。たとえば、口頭で説明するだけでなく、その内容を箇条書きにまとめて説明し、最終的には何をすればよいのかを文字で示します。
要するに、情報を分解して概要と詳細に分け、そのうえで優先順位をつけるのです。可能であれば、この時に図やグラフなどをあわせて提示することでさらに理解が深まり、ミスを軽減することが期待できます。
(2)重要事項は最後にまとめて提示する
会議や打ち合わせが終わった後、再度「誰が何をするのか」「どのような目的でこれを行うのか」など、重要事項については再度提示するといった配慮も、ADHDの傾向のある人にとっては助けになります。
また、忘れ物が多い、遅刻しがちといったケアレスミスについてもこの方法は有効です。単に「忘れ物をするな」「遅刻をするな」という指導法ではなく、たとえば持ち物リストを渡して「毎朝、このリストをチェックしてね」というだけで、忘れ物は少なくなりますし、「9時までに来るためには、朝食で30分、支度で30分、通勤時間で1時間かかるのだから、7時に起床しましょう」と説明するだけで遅刻が少なくなります。
当たり前のことをていねいに説明する作業は、少し手間に感じられるかもしれません。しかし、ほんの短時間の配慮によってミスを減らせると考えれば、前向きに取り組みやすくなります。
また、こうした細かな気配りは当事者を助けるだけでなく、結果として職場全体の雰囲気やコミュニケーションの質を良くし、働きやすい環境づくりにもつながっていくはずです。
(3)テレワークにおけるストレスに配慮する
ADHDの傾向がある人は、他の労働者と同じ職場で勤務する場合、ちょっとした会話やサポートを受けながらミスを減らしていることも多いのですが、そのようなサポートを受けづらいテレワークなどでは、重要な情報を把握できない、もしくは正確に受け取れていない可能性があります。
そして過度なストレスにより、ADHDの特徴がさらに表面化しミスが増えてしまう可能性があります。
テレワークになったことで明らかにミスが増えたことに気づいた時には、その点について確認し、まずは生活リズムが崩れていないか、睡眠時間が減ったり飲酒量が増えたりといった行動がないか確認してみましょう。そのうえで、必要があると判断した場合には社内の産業保健スタッフに相談するなど、早めに対策を講じるべきです。
ASDの特徴が見られる部下への対応

相互の対人的・情緒的関係の欠落
ASDの特徴がある人は、他人との関わりが苦手です。
ここでいう関わりとは、相手の気持ちや言葉、態度、表情、その場の雰囲気などを含めて総合的に理解することや、自分の気持ちや考えを適切に伝えることを指します。もともとASDの傾向がある人は、他者への関心があまり強くなく、一人で過ごすことを好む場合が多いため、そのこと自体に苦痛や孤独をあまり感じないこともあります。そのため、周囲の人と円滑な関係を保ち、それをさらに深めていくことに難しさが生じやすくなります。
非言語コミュニケーション行動の欠落
自身の感情を適切にとらえることができないので、湧き上がってくる感情をうまく処理できず、時として感情が爆発してしまうことがあります。たとえば、上司や同僚やお客様の前で怒鳴ったり泣いたりしてしまうことがあります。
このように感情のコントロールが苦手なことから、さらに人間関係を悪化させ、社会的な評価を下げることにつながることもあります。
(1)「スモールトークは苦手」と理解する
ASDの特徴のある多くの人は、いわゆるスモールトークが苦手です。なかには、同僚と電車で取引先に移動することでも恐怖を感じる人もいるほどですから、そのことを理解して接することが大切です。
なお、テレワークや在宅勤務が増加している昨今でいえば、ASDの特徴のある人にとってはむしろ出社するより安心と答える人が多いようです。もちろん、各々の個性や仕事の状況にもよりますが、「テレワークの方が仕事がはかどる」ということもあります。
(2)質問と確認をていねいに行う
ASDの特徴がある人は、他者とのコミュニケーションが苦手なことから、困ったことがあっても援助要請ができず、また報告を怠ってしまい、孤立してしまうことがあります。
なかには、質問はしたいけれど援助を求めるのが苦手なため、それができないまま時間が過ぎ、作業を始めることすらできないケースもあるようです。
したがって、ASDの特徴がある人には「質問はありますか」「確認したいことはありますか」と積極的に尋ねることをおすすめします。
そして、本人が納得できるまで質問に答え、安心感を与えることが大切です。
たとえば、連絡を怠った場合には、「なぜ連絡をしないんだ!」と頭ごなしに叱責するのではなく「連絡がないとどうして困るのか」「なぜ連絡がないことが重大なのか」といったことを説明したうえで、適切な行動を具体的に指示するようにしましょう。
(3)テレワークによる孤立感を感じさせないよう配慮する
ASDの特徴がある人はスモールトークが苦手なことから、テレワークで作業する環境になっても、それ自体にはあまり苦痛を感じません。
しかし、新しい環境や状況に慣れるには時間がかかります。したがって同じ作業でも、テレワークとなったことにより別の工程が発生するようなことがあれば、不安感が高まり細かいことまで確認したくなります。
前述したとおり、ASDの特徴がある人は援助を求めることが苦手ではありますが、一方で新しい環境や状況については、確認したい欲求が高まる傾向があるのです。
実際、ASDの特徴がある人に新しい工程や作業内容を伝えると、細かい質問を受け困惑したという経験をした人も多いようです。
ただし、前にご紹介したとおり「質問したいのにできない」という環境は、孤立を感じさせてしまいます。細かい質問を受けても面倒がらずに何度でも説明し、新しい質問や確認がしやすいように余裕をもって接することが大切です。
まとめ
以上、大人の発達障害の特徴&対応方法についてご紹介しました。
これまでご紹介したように、発達障害の特徴がある人を、叱責したり急がせたりすることはNGです。作業が遅い人でも、あるパターンを確立しそれを繰り返すことで、問題なく作業を進めることができます。
本人はペースがつかめないことに焦り不安感を覚え、それをカバーするために労働時間が長くなり、本人が自覚している以上に疲労しメンタルヘルス不調に陥る可能性もあります。
こまめなコミュニケーションとともに、ストレスチェック制度などのメンタルヘルスチェックツールを活用し、早めにメンタルヘルス不調に気づき、必要な対策を講じるとともに、できるだけ業務の流れや処理方法をパターン化し、本人の不安感や孤独感を和らげる方法を編み出すなどの配慮も求められます。
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監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)
大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わる中、社内のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。
現在は公認心理師として、ストレスチェックのコンサルタントを中心に、働く人を対象とした対面・Webやメールなどによるカウンセリングを行っている。産業保健領域が専門。

