健康経営とは|10分で分かるメリットと導入方法

健康経営とは、「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる」という考えのもと、健康管理を経営的視点から考え戦略的に実践するという意味の概念です。

この記事では、健康経営の意味やメリット、健康経営のしくみづくりなどについてご紹介します。

健康経営とは

健康経営について、経済産業省は以下の概念を定義しています。

従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営学的な視点で考え、戦略的に実践すること。

▶ 経済産業省「健康経営の推進について」

経済産業省「健康経営の推進について」では、「企業が従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がることが期待される。」としています。

この概念は、アメリカの経営心理学者ロバート・ローゼン(Robert Rosen)氏が「健康な従業員こそが、収益性の高い会社をつくる」という思想を提唱したことから始まります。
かつては企業が従業員の健康より自社の業績を重視したため、多くの従業員が長時間労働を強いられ、健康を害してしまうケースが増加しました。それでも企業側は、「従業員の代わりはいくらでもいる」と考える傾向がありました。しかし、元気に働ける従業員が減ってくると、そうした企業ですら深刻な人手不足に陥ることになりました。さらにブラック企業の悪評を得てしまうと、労働者の採用が困難になったり離職率が高まったりして、生産性が著しく低下しました。

そこで、この状況を打破するために、企業が従業員の生活習慣に積極的に関与して、健康維持向上とともに働きがいや生きがいなどを総合的に向上していくことが必要であるという考えが生まれたのです。

(1)健康投資のリターンは3倍

健康経営の概念では、従業員の生活習慣予防、メンタルヘルス対策といった施策に関するすべての費用を「投資」と考えます。健康な従業員が働くことで生産性が上がり、業績向上にもつながる「リターン」が見込めるからです。

アメリカの医療大手企業ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、世界のグループ会社250社、約11万4000人以上に健康教育プログラムを提供し、健康経営に対する投資のリターンを試算したところ、投資「1」に対してリターン「3」のリターンがあったとし、企業側にとって大きなメリットがあることが分かっています。
また、経済産業研究所の研究プロジェクトによれば、メンタルヘルス休職者比率の上昇した企業は、それ以外の企業に比べ売上高利益率の落ち込みが大きいことが示唆されています。

▶ 経済産業省「企業による「健康投資」に関する情報開示について」

(2)健康経営と働き方改革の関係

働き方改革とは、正式名称を「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といい、日本法における8本の労働法の改正を行う法律の通称で、2019年から順次施行されています。

この働き方改革の柱は大きく「長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等」と「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)」の2つです。
そのため、健康経営は働き方改革と連動して語られるケースが多々あります。両者を区別する必要性はありませんが、あえて言うならば働き方改革が長時間労働の是正や有給休暇の取得率向上など「制度の是正」の話であることに対して、健康経営は「企業の経営戦略」の話であり、従業員の心身の健康に関与する施策を行うことで、その先にある生産性の向上、競争力の向上を目指すものであるという点で異なります。

(3)各省庁での取り組み

健康経営については、各省庁でもさまざまな取り組みを行っています。

・厚生労働省では、従来の環境整備型から多様な働き方改革ができる仕組み、高品質の働き方ができる仕組みの構築を進めるべく、雇用のセーフティネットの整備、働き方改革などの施策を進めています。
また、2018年6月には221社のブラック企業の社名と事案を公開し、労働環境の向上を目指しています。

・経済産業省の産業構造審議会基本政策部会報告書で、「経済成長と公平性の両立に向けて」において7つの提言を行い、予防医療の促進とあわせて起業や社会における健康経営・健康増進の取組を促進する内容が記載されました。

・2015年、厚生労働省、経済産業省、東京証券取引所の協働により「国民の健康寿命が延伸する社会」に対する取り組みの1つとして、健康経営の仕組みが発表されました。

健康経営のメリット

これまでご紹介してきたなかでも都度触れてきましたが、健康経営には生産性の向上や企業イメージの向上など、さまざまなメリットがあります。

(1)生産性の向上

個人の健康に関するリスクといえば、心理的リスク(ストレス、仕事満足度、生活満足度など)、生物学的リスク(血圧、血糖値、肥満、既往歴など)や、生活習慣リスク(喫煙、飲酒、睡眠、運動など)などが挙げられます。そしてこれらのリスクは、体調不良による欠勤や体調不良のまま出勤することによるモチベーションの低下などと相関関係があることが分かっています。

▶ 厚生労働省掲載「「健康経営」の枠組みに基づいた保険者・事業主のコラボヘルスによる健康課題の可視化」

健康経営の取り組みのなかで、従業員に健康診断の受診やストレスチェックの実施を推進し、心理的リスク、生物学的リスク、生活習慣リスクを軽減し肉体的にも精神的にも充実すれば、欠勤や休職などのリスクを減らし結果的に生産性が向上することが期待できます。

(2)従業員エンゲージメントの向上

従業員エンゲージメントとは、簡単にいえば「従業員の会社に対する愛着、満足度、思い入れなど」のことです。

以前は、定期昇給で給料が上がり長期雇用が保証されている「年功序列・終身雇用」が従業員エンゲージメントを高める要因のひとつでした。しかし現在は、特に若い人たちの間で「会社が、自分たちの健康やライフスタイルを大切にしてくれていると感じられること」こそが、従業員エンゲージメントを高める要因に変わってきています。

そこで、健康経営を推進させこの従業員エンゲージメントを高めることができれば、健康的に働く人材が定着するので離職率を低下させて採用コストを軽減することができますし、安定的かつ継続的なパフォーマンスを得られるという、中長期的なメリットを享受することもできるようになります。

(3)企業イメージの向上

健康的に働く人材が定着し、安定的で継続的なパフォーマンスを得ることができるようになれば、企業イメージが向上し株価にもいい影響を与えることが期待できます。

確かに株価というものは、会社そのものの魅力や経営者の魅力など、多くの要素が複雑に絡み合うものですから「健康経営をすれば、必ず株価が上がる」とは言いきれないと思われるかもしれません。

しかし、経営産業省の「商務情報政策局」の「健康経営銘柄について」(2015年4月)によると、健康経営に優れる企業の株価の平均騰落率は、東証株価指数(TOPIX)を上回る形で推移し、経営のコミットメントが相対的に高いという調査データが発表されています。この東証株価指数(TOPIX)は、リーマンショック以降でも安定し続けたのことから、健康経営を実践する企業は大きな経済危機に強い傾向があるということがいえるのではないでしょうか。

引用:▶ 経済産業省「健康経営の推進について(令和2年9月)」

健康経営のしくみづくり

健康経営のしくみづくりは、経営トップがまずその意義や重要性をしっかり認識して、社内外に理念を示すことからスタートします。健康経営は、単に「従業員個人の健康状態を良くする」というものではなく、経営戦略として企業としての業績や株価、企業イメージの向上といった点にあるからです。

理念を示したら、次に従業員の健康保持・増進に向けた組織体制を構築し、メンタルヘルス対策やストレスチェック、運動機会などの制度・施策を実行していきます。

(1)メンタルヘルス対策

身体的な不調だけでなくメンタルヘルスの不調によっても、従業員は休職したり業務が非効率になったりするリスクがあります。
そこで企業としては、メンタルヘルス不調を未然に防ぐための対策を講じる必要があります。

具体的には、相談窓口を設置したり後述するストレスチェックを実施したりして、メンタルヘルス不調に陥る可能性のある従業員を早期発見し、適切な措置を講じていきます。

(2)ストレスチェック

ストレスチェックとは、2015年(平成27年)からスタートした制度で、常時50人以上の労働者を使用している事業場に義務づけられました。
ストレスに関する質問票に労働者が記入し、それを集計・分析することで「自分のストレスが、今どのような状態にあるのか」という気づきを促し、さらに職場環境の改善につなげることを目的としています。

ストレスチェックは、さまざまなメンタルヘルス対策と相乗効果を発揮し、メンタルヘルス不調者の発生防止への効果が期待できます。

(3)食生活の改善

食生活は、生命を維持し人々が健康で幸福な生活を送るために欠かせないものです。大きく「身体的な健康」という視点からみれば、必要な栄養素を適正に摂取する目的以外にも食生活は社会的・文化的な営みを目的としていて、生活の質そのものとと深い関わりをもっていると言われています。

食生活の改善に関する代表的な取り組みとしては、従業員の健康意識向上のために社員食堂における栄養素やカロリーを表示したり、職場で朝食を提供してコミュニケーションの機会を設けたりするなどの施策が挙げられます。

(4)運動機会の推進

適度な運動は、ストレス緩和に高い効果があることが分かっています。

▶ 厚生労働省掲載「休養・こころの健康」

そこで、運動不足解消のために、定期的に運動機会を推進することは従業員のストレス解消のために有用です。

たとえば、歩数を測るデバイスを配布して従業員の歩数競争をするイベントを開催したり、徒歩や自転車での通勤推進の施策を実施したりといった方法がおすすめです。

(5)研修・セミナーなどの実施

「次世代ヘルスケア産業協議会 健康投資ワーキンググループ/日本健康会議中小1万社健康宣言ワーキンググループ」による「健康経営優良法人 2020(中小規模法人部門)の認定基準」によると、ヘルスリテラシーの向上のためには、管理職や従業員に対するセミナーの実施が必要であるとされています。

▶ 次世代ヘルスケア産業協議会 健康投資ワーキンググループ/日本健康会議 中小1万社健康宣言ワーキンググループ「健康経営優良法人 2020(中小規模法人部門)認定基準解説書」

実際、従業員に健康情報をもっと身近な課題として考えてもらうために、管理栄養士から毎週健康情報を発信したり、睡眠・禁煙・メンタルヘルスなどテーマを決めて定期的に研修を行ったりすることは、従業員の意識改革に極めて効果的です。
また、個々の従業員が取り組める「セルフケア研修」、同僚の悩みに気づき、解決策を一緒に考えるための「ラインケア研修」などは、チームづくりに効果があるといわれています。

まとめ

健康経営は、単に医療費という経費を削減することが目的ではなく企業が従業員の健康に配慮することで、経営面においても大きな成果が期待できるとする概念であり、1つの経営手法ともいえます。
その意味で健康経営は、これからの企業経営にとってますます重要になっていくものと考えられます。