SOGIハラ(ソジハラ)とは、SOGI(性的指向や性自認)に関連したハラスメントです。
SOGIハラについては、国も法律や指針を改訂し、企業に対して防止対策を講じるよう求めています。
SOGIハラを放置することは、損害賠償責任を追及されるリスクや社会的な信用の低下などのリスクを負うことになります。
目次
SOGIハラとは
SOGIハラとは、セクシュアルハラスメントのなかでも、とくに性的指向や性自認にまつわるハラスメントです。
国は、SOGIハラについて法律や指針を改定し、企業に対してSOGIハラ防止対策を講じるように求めています。
SOGIハラに関する課題に無頓着のままでいることは、深刻な法的リスクを見逃したり、現実に法的トラブルに発展したりという事態になりかねません。
(1)そもそも「SOGI」とは
SOGIとは、LGBTQに置き換わりつつある言葉で、Sexual Orientation & Gender Identity(性的指向および性的自認)の頭文字をとった言葉です。
セクシュアルマイノリティを特別な存在とするのではなく、性的指向および性的自認を、より一般的に人権課題として考えるべきであるという発想に基づいています。
これにジェンダー表現(Gender Expression)を加えて「SOGIE(ソジー)」という言葉が用いられたり、さらに身体の性的特徴(Sexual Characteristics)を加えて「SOGIESC(ソジエスク)」という言葉が用いられたりすることもあります。
Sexual Orientation(性的指向)
性的魅力を、どのような相手に対して感じるか(感じないか)
Gender Identity(性自認)
自分は、自分の性別をどう認識しているか
Gender Expression(ジェンダー表現)
服装や髪型、言葉づかいなど、外見に表れる性(ジェンダー)を、自分がどう表現したいか
Sexual Characteristics(身体の性的特徴)
生物学的・解剖学的特徴の出生時の外性器の形態など
(2)SOGIとLGBTQの違い
LGBTQがセクシュアルマイノリティと呼ばれる「人々」を表す用語であるのに対して、SOGIは性的指向や性自認といった「人が持つ属性」を意味する言葉であり、同義で使うことはできません。
SOGIハラは、LGBTQにだけ関係する言葉ではなく大きくパワーハラスメントの一種であり、性別、暴力、いじめなどによって精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、望まない性別での生活の強制、退職、解雇など社会生活上の不利益を被ったりすることです。
SOGIハラは、LGBTQに対する敵対心がなくても、何気ない会話や言動が差別や嫌がらせにつながることがあります。
(3)SOGIハラに関する法律や指針
パワハラ防止法では、組織や企業のハラスメントに関する対応が定められており、パワハラの防止が義務化されています(中小企業でも2022年4月から施行)。
このパワハラ防止法では、性的指向・性自認に対する「精神的な攻撃」「個の侵害」※がパワハラであると認定されています。つまり、SOGIハラは、国が認めたパワハラであり、企業は防止措置を講じなければなりません。
※「精神的な攻撃」とは、脅迫、侮辱、暴言などのことで、「個の侵害」とは、私的なことに過度に立入、性的指向や性自認などのセンシティブな個人情報について、了承を得ずに他人に暴露することです。
(4)SOGIハラのリスク
SOGIハラなどのハラスメントが原因で、被害者とされる従業員が休職や退職に追い込まれるケースがあります。最悪の場合には、自死に追い込まれる場合もあります。
また、ハラスメント行為が原因で被害者が企業を訴えるケースもあり、こうした場合には会社は裁判のために労力を費やしたうえで、損害賠償責任を負う可能性があります。
また、社会的な信用の喪失などのリスクもあります。
(5)SOGIハラとなりうる27の事例
SOGIハラ防止策を講じるうえでは、どのような行為がSOGIハラなのかを正確に理解する必要があります。
セクハラやパワハラについては、どのような行為がセクハラ・パワハラとなるのかについて、ある程度は常識として理解されてきていますが、SOGIハラに関する理解はまだまだ進んでいないのが現状です。
つまり、悪意がなくてもいつの間にかSOGIハラを行ってしまうケースが多々あります。
ここでは、SOGIハラの具体的な行動や発言について見てみましょう。
LGBTQを差別的な発言をしたり嘲笑したりする
【1】ホモ、レズ、オカマなどの差別的な用語を使うこと
【2】「男同士で仲良くしていると、ホモって思われる」「お前らホモか、気持ち悪い」など、存在を否定する発言
【3】男性が女装をして笑いをとる
【4】「あの人、レズっぽいよね」と嘲笑する
SOGIを理由に差別的な取扱いをする
【5】「女なのに化粧もしないなら、営業の仕事はさせない」と発言する
【6】「男らしい恰好をしないなら、営業から外れてもらう」と配置転換をする
【7】女性(男性)として採用したが、「男性(女性)として働きたい」と表明したことを理由に内定を取り消す
LGBTQを理由としたいじめ・無視・仲間外し
【8】ゲイをカミングアウトしている人に「一緒にいると、ホモと思われそうでイヤだ」と無視する
LGBTQに関する差別や偏見を公言する
【9】「ゲイは、生理的に無理」「レズを気持ち悪いと思うのは個人の自由」など、職場や飲み会の場で発言する
LGBTQを尊重せず望まない性別での生活等を強要する
【10】「男性(女性)にしか見えない」など、性自認を否定する
【11】従業員が性自認と一致する通称名を求めたり、制服の着用を求めたりした際に、合理的な理由なく認めない
【12】従業員が、性自認にもとづくトイレや更衣室の使用を望んだのにも関わらず一方的に制限し、要望に応えるための検討や調整をしない
LGBTQを尊重せず望まない性別で取り扱う
【13】トランス女性(男性)に対して、「彼(彼女)」という代名詞を使う
【14】トランス女性(男性)に対して、「男性(女性)にしか見えない」と性自認を否定する
【15】「男(女)らしくしろ」など、典型的な性規範を強要する
LGBTQに対する誤解に基づく発言
【16】「おれは、ゲイじゃないから、襲うなよ」などと発言する
【17】「レズは、一時の気の迷いじゃないのか」などと発言する
【18】「トランスジェンダーは、病気だから病院に行けば?」などと発言する
SOGIに関するプライバシーを侵す
【19】「いい年して結婚しないのは、ゲイだからじゃないのか」などと発言する
【20】「あの人って、男なの?女なの?」なとど発言する
【21】本人が望まないのに、「ゲイらしいよ」などと噂を広める
【22】本人が同意していない相手にSOGIを暴露する
【23】SOGIであることを開示(カミングアウト)するよう強要する
相手を不快にさせる性的な発言等を行う
【24】「トランスジェンダーの性生活ってどうなっているの?」と尋ねる
【25】性別適合手術などについて、尋ねる
【26】トランス男性に「女じゃないなら、いいだろう」と胸を触る
【27】「いい年なんだから、結婚したら?」などと発言する
SOGIハラ防止のための対策
SOGIハラ防止のためには、社内方針の明確化と周知・啓発、相談窓口の設置、マニュアルに基づく被害者ケア、再発防止などの対策を講じる必要があります。
SOGIハラ防止のためには、どのような行為がSOGIハラとなるのか、SOGIハラを誘発する発言、行動にはどのようなものがあるのか、そしてSOGIハラによってどのような影響があるのかを徹底して周知することが非常に重要です。
(1)社内方針の明確化と周知
社内方針や就業規則で、性別や障がい、国籍などによる差別の禁止を明記しているケースは多いですが、それに加えてLGBTQの人がいることを前提にしているかを見直す必要があります。
-記載例- ・各人の人権を尊重するとともに、人種・民族・宗教・国籍・社会的身分・性別・年齢・性的指向・性自認・障がいの有無などによる一切の差別やハラスメントを排除する。 ・性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。 ・従業員は、他の従業員の性的指向や性自認を、当該従業員の同意を得ずに、第三者に明らかにしてはいけない。 |
服装や通称使用についても対応を検討し、福利厚生(各種サービス)を見直します。
また、トイレの表記改善やオールジェンダートイレの設置など、社内ファシリティの改善も検討します。
SOGIハラ防止については、規則やルールが口先だけとならないよう、社内で周知されることが大切です。
社内方針で、差別禁止規定にLGBTQを盛り込み、経営トップがLGBTQ支援を明確に打ち出します。
経営トップが明確な方針を打ち出すことで、企業の姿勢に対する信頼がある職場となることが期待できます。
多様性を尊重しながら仕事を進める意識が育まれ、トラブルがあった場合にも解決に向けた発言がしやすい組織が構築され、取り組みの効果がより明確になることが期待されます。
(2)SOGIハラに関する社内研修の実施
ハラスメントやメンタルヘルス施策に関しても、LGBTQを盛り込み、人事、産業医、採用担当などに、LGBTQの研修を受講させて周知を図ります。
研修の内容としては、基本的な知識を扱う中で、ハラスメントやアウティング、カミングアウトについても取り扱います。シニアリーダー、マネージャー向けの研修では、部下からの相談への対応などのマネジメント上の配慮や、経営への影響についても説明することが大切です。
なお、グローバルカンパニーの場合には、国によってルールが違うので、各国の法律を調べることも大切です。
(3)相談窓口の設置
SOGIハラを含めたハラスメントの相談窓口を設置し、当事者もその他の従業員も相談可能であることを明記します。
相談窓口の担当者については、性的マイノリティに関する適切な知識を有していないと、二次被害やアウティングにつながるリスクがありますので、注意が必要です。また、相談窓口においては、ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生する恐れがある場合や、ハラスメントに該当するか否か微妙な場合でもあっても、広く相談に応じ適切な対応を行うことが必要です。
(4)被害者・加害者に対する適切な処置
被害者に対する適切なケア、加害者に対する適切な処置を行うことができるよう、対応についてはマニュアル化をします。
被害者から相談されたときは、「話してくれてありがとう」「秘密は、必ず守ります」と伝えます。不適切な対応をとると、本人を傷つけ、仕事への意欲が低下するだけでなく、訴訟に発展するリスクもありますので注意が必要です。
SOGIハラの加害者は、法的責任を負うことがありますが、SOGIハラを防止できなかったことを理由として会社も責任を負うことがあります。
早急に弁護士等に相談し、必要な対応についてアドバイスを受けます。
(5)その他講じるべき措置
その他講じるべき措置としては、従業員の意識調査の実施、啓発キャンぺーンの実施、商品サービスの見直しなどが挙げられます。
商品やサービスが差別的なものであるか、至急改善が必要ではないか見直します。
また、自社サイトではダイバーシティ経営を発信し、事業に関連する内容での調査、発信を行います。
https://www.mhlw.go.jp/content/000808159.pdf
まとめ
SOGIハラについて正確に理解し、適切なSOGIハラ防止対策を講じること、またLGBTQに関して適切かつ積極的に対応している企業は、取引先、消費者などのステークホルダーから見て、ダイバーシティ経営という価値観を発信し、実践する企業として評価を受けることにつながります。
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ストレスチェックを気づきに活かす
ストレスチェックとは、定期的に社員のストレスの状況について検査を行なう制度で、平成27年(2015年)12月1日に施行され、常時50人以上の労働者を使用する事業場において義務づけられています。
ストレスチェックの目的は、従業員本人にその結果を通知して、自らのストレスについて「気づき」を促すことで、メンタルヘルス不調のリスクを低減すること、及びストレスが高い人を早期に発見し、医師による面接指導につなげることで、メンタル不調を未然に防止することです。
さらに、ストレスチェックの検査結果を集団ごとに集計・分析することで、職場におけるストレス要因を評価し、職場環境改善につなげるという効果も期待されています。
会社にはメンタルヘルスに対する安全配慮義務があり、ストレスチェックだけでなく、さまざまなメンタルヘルス対策に積極的に対応していくことが求められています。
この安全配慮義務違反であり労働契約法の違反であると認定されれば、社員からメンタルヘルス不調において損害賠償責任を追及されるリスクがあります。
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【監修】 公認心理師 山本 久美(株式会社HRデ―タラボ) 大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わるなかで、職場のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。 |