受動喫煙対策については、健康増進法でも対策が盛り込まれていますし、労働安全衛生法においても労働者の受動喫煙防止のために適切な措置を講ずるよう求められています。
また、喫煙がうつ病や不安障害などにもたらす影響について、ワシントン大学の研究によると、禁煙することでメンタルヘルスが改善される可能性があることが示唆されています。
4,800人の喫煙者を対象に、禁煙した人と喫煙を続けた人の3年後を比較したところ、禁煙した人のうつ病、統合失調症、パニック障害、気分障害などの精神疾患の罹病率は、喫煙を続けた人よりも低いという結果になりました。
また、メンタルヘルスの問題を抱えていなかった人は、禁煙することで、後にメンタルヘルス疾患を発症する可能性は低くなりました。
ワシントン大学「Smoking cessation may improve mental health」
このようにたばこが心身に影響を与える可能性がある以上、事業主は積極的に受動喫煙対策、喫煙対策を推進することが求められます。
目次
受動喫煙対策の進め方
受動喫煙とは、室内またはこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされる状態をいいます。
たばこ煙に含まれる発がん性物質は、がん、動脈硬化や虚血性心疾患、脳卒中などのリスクを増大させることが分かっています。
望まない受動喫煙をなくすという目的から、施設の類型や場所ごとの利用者の違いに応じて、禁煙措置を講じたり喫煙場所の特定を行ったりすることが求められています。
受動喫煙対策を進めていない事業場については、健康上の問題になるということを理解し適切な措置を講じなければ、違法性を問われるリスクもあります。
この記事では、厚生労働省から公表されている「職場における喫煙対策のためのガイドライン」をもとに受動喫煙対策を進めるための6つのポイントをご紹介します。
(1)受動喫煙対策の推進計画の策定
受動喫煙対策を進めるうえでは、まず職場における喫煙の実態や職場の空気環境の測定など、喫煙における現状と課題を把握します。
また、その課題を解決するための具体的な方法について、当面の計画および中長期的な計画を策定します。推進計画には、受動喫煙防止対策に関し将来達成する目標と達成時期、当該目標達成のために講じる措置や活動等について、可能な限り具体的に記載します。
なお、これらの計画については経営トップなどが方針を表明し、労働者の積極的な協力を得ることが大切です。また、衛生委員会等で十分に検討し、確実に実施できるものを策定する必要があります。
(2)受動喫煙対策の推進体制の整備
受動喫煙対策を進めることについて、喫煙者と非喫煙者の個人間の問題とすることは好ましくありません。当事者間で解決するよう委ねることは、人間関係の悪化につながり問題の解決を難しくする可能性があるからです。
したがって受動喫煙対策を労働衛生管理の一環ととらえ、事業者の責任のもとで喫煙対策委員会や喫煙対策の担当部等を設置するなど、推進体制の整備を行うことが必要です。
(3)喫煙対策委員会における調査審議
厚生労働省のガイドラインによれば、喫煙対策を円滑に実施するためには、喫煙対策委員会を衛生委員会等の下に設置し、衛生担当者、喫煙者、非喫煙者の代表者等で構成する「喫煙対策委員会」を設置することが有用とされています。
喫煙対策委員会では、喫煙対策を推進するために合意形成を行う方法を検討し、あわせて喫煙対策の具体的な進め方や、喫煙行動基準等について検討し、衛生委員会に報告します。
また、喫煙対策委員会の運営や相談などに対応するための喫煙対策の担当部署や担当者を決めて、喫煙対策の推進状況を定期的に確認し、問題がある職場については改善指導を行うなどを進めることも有用とされています。
(4)施設・設備面の対策
施設や整備面の対策としては、喫煙室等の設置などが挙げられます。
喫煙室の設置が難しいなどの事情がある場合には、喫煙コーナーを設置します。喫煙コーナーは、天井から吊り下げた板等による壁、ついたて等により非喫煙場所に対する開口面を可能な限り小さくするよう工夫します。
事業場に喫煙室(コーナー)を設置するために建築物の新設や増改築が必要な場合には、設計段階から空間分離を前提とした喫煙室等の設置を計画します。喫煙室等には、たばこの煙が拡散する前に吸引して、屋外に排出する方式である喫煙対策機器を設置することも必要です。
また、適切に稼働させるとともに定期的に点検等を行い、維持管理を行う必要があります。
やむを得ず、たばこの煙を除去して屋内に廃棄する方式の空気清浄機を設置する場合には、適切な維持管理、喫煙室等の換気など特段の配慮を行うことが求められます。
(5)職場の空気環境の測定および対策
たばこの煙が動脈硬化や虚血性心疾患、脳卒中、メンタルヘルス不調を引き起こすリスクがあることから、職場の空気環境に及ぼしている影響を把握する必要があります。
事務所衛生基準規則に準じて、職場の空気環境の測定を行い、浮遊粉じんの濃度を0.15mg/m 3以下、および二酸化炭素の濃度を10ppm以下にするために必要な措置を講じることが求められます。
また、喫煙室や喫煙コーナーから非喫煙場所にたばこの煙やにおいが漏れることを防ぐために、非喫煙場所と喫煙場所との境界に喫煙室等に向かう気流の風速を0.2m/s以上とする措置も求められます。
(6)喫煙対策の教育・評価
事業者は、管理者や労働者に対して、受動喫煙による健康への影響、喫煙対策の内容、喫煙行動基準等に関する教育や相談を行い、喫煙対策に対する意識の向上を図ります。
厚生労働省では、喫煙による健康影響についての動画を公開しています。
これらの動画を教育研修等で活用するのも、おすすめです。
また、受動喫煙対策の実施や喫煙対策の担当部署等が定期的に喫煙対策の推進状況および効果を評価することも有効です。なお、これらの評価についてはその結果を経営トップや衛生委員会に報告し、必要に応じて喫煙対策の改善のための提言を行うことも望まれます。
まとめ
以上、受動喫煙対策を進めるための6つのステップについてご紹介しました。
喫煙は、がん、脳卒中、虚血性心疾患、糖尿病、歯周病など、多くの病気と関係しており予防できる最大の死亡原因です。また、ワシントン大学の研究データからは喫煙とメンタルヘルス不調の関連性も指摘されています。
受動喫煙においては、煙に含まれる発がん性物質などの有害成分を吸わされていることになり、単なるマナーという考え方だけでは解決できない健康問題です。
受動喫煙対策は、健康経営優良法人の評価にも含まれるほど重視されている取り組みです。
今後はますます、事業主として積極的に受動喫煙対策を推進することが求められます。
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【監修】 公認心理師 山本 久美(株式会社HRデ―タラボ) 大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わるなかで、職場のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。 |