35のハラスメント実例と代表的な20のハラスメント

昨今、さまざまなハラスメントの増加が問題視されています。
ハラスメント問題があると、被害者である従業員がメンタルヘルス疾患となる可能性がありますし、被害者やその遺族に訴えられれば、加害者だけでなく会社も損害賠償責任を負うリスクがあります。

この記事では、代表的な20のハラスメントと、過去のハラスメント関連の35の判例をご紹介します。

ハラスメントとは

ハラスメントは、直訳すると「嫌がらせ」「不愉快」などの意味で、他者に心理的・身体的苦痛を与える行為をいいます。マナー違反といったものから法的に違法なものまで、非常に幅広い行為を指します。
ハラスメント問題は、会社の規模や業種を問わず常に起こり得るリスクをはらんでおり、ひとたびハラスメント問題が発生すると、被害者となった従業員がメンタルヘルス疾患となってしまう場合があり、休職や退職をせざるを得なくなることがあります。さらに深刻な場合には、自ら命を絶ってしまうことも現実に起きています。

もしもそのようなことになれば会社は損害賠償責任を追及されるだけでなく、企業の信用を大きく失墜し、ビジネスにおいても極めて深刻なダメージを受けることになります。

代表的な20のハラスメント

ハラスメント問題を起こさないためには、従業員に対して何がハラスメント行為なのかを明確に意識づけすることが大切です。

そこでまず、代表的なハラスメントの例をご紹介します。

【1】セクシャルハラスメント
性的な言動や行為による嫌がらせ
例:肩や髪をむやみに触る、愛人になれと迫る、下ネタを大声で話す、意図的に性的な噂を流す、ヌードポスターを掲示する

【2】パワーハラスメント
職場における身体的・精神的苦痛を与える行為一般
例:「バカ野郎」と相手を侮辱する、「殺すぞ」と脅す、机を叩いて大きな音を出す、相手を殴る、相手を無視する、気に入らない部下を左遷する

【3】モラルハラスメント
言葉や態度によって行われる嫌がらせやいじめ行為
例:執拗に叱責する、相手の人格を否定するような態度をとる

【4】マタニティハラスメント
妊娠や出産を理由に嫌がらせをすること
例:つわりで苦しむ人の悪口を言う、「仕事がまわってきて迷惑だ」と言う

【5】パタニティハラスメント
育児制度を利用する男性社員に対する嫌がらせ
例:育児休暇を申請した男性を左遷させる、「育休は女がとるものだ」と言う、「育児は奥さんに任せて仕事に専念しろ」と言う

【6】時短ハラスメント
具体的な対策がないままに、従業員を早く帰らせようと強要すること
例:以前と変わらない業務量なのに、残業を禁止したり定時退社を強いる

【7】アカデミックハラスメント
大学教授が、教育・研究上の権力を濫用して学生に対して嫌がらせをすること
例:研究を妨害する、退学を強要する

【8】カスタマーハラスメント
カスタマー(客)による悪質なクレーム
例:客が店員を恫喝する、理不尽なクレームを入れる、過剰な要求をする

【9】SOGIハラスメント
性的マイノリティに対する嫌がらせ
「SOGI」とは、「Sexual Orientation and Gender Identity」の頭文字です。LGBTが、「L=レズビアン」、「G=ゲイ」、「B=バイセクシュアル」、「T=トランスジェンダー」を意味するのに対して、SOGI(ソジ)はすべての性的指向および性自認を指します。
例:「あの人、しぐさがゲイっぽい」と嘲笑する、他人の性的指向を暴露すること(アウティング)

【10】ジェンダーハラスメント
男らしさ・女らしさを強要すること
例:女性だけにお茶くみをさせる、「女性は早く結婚した方がいい」と言う

【11】アルコールハラスメント
アルコールを飲むよう、強要すること
例:イッキ飲みをさせる、大量に飲ませる、飲めない人に配慮をしない

【12】ケアハラスメント
家族の介護をする人に対するいやがらせ
例:「介護を理由に、早く帰れていいね」と言う、介護を理由に時短を申し出た従業員を左遷する

【13】セカンドハラスメント
ハラスメントを訴えたことへの嫌がらせ
例:セクハラやパワハラを受けた人の悪口を言う、「セクハラ訴えて、いくらもらったの?」と言う

【14】グルメハラスメント
料理へのこだわりを強要すること
例:相手が食べている料理をけなす、料理に関する知識を延々と話す

【15】ゼクシャルハラスメント
結婚に踏み切らない人に対して、結婚へのプレッシャーをかけること
例:「まだ結婚しないの」と言う、わざと「ゼクシィ」を机に置く

【16】エアコンハラスメント
エアコンの使用や温度についての嫌がらせ
例:寒いと言っている従業員がいるのに、エアコンの温度を下げる、外回りの営業マンが戻ってくるなりエアコンを自分だけに向ける

【17】スイーツハラスメント
ダイエット中やスイーツを食べることに制限がある人に、スイーツを差し入れること
例:職場でスイーツやお菓子のお土産を配る、「ダイエット中だけど、たまにはいいでしょ」とスイーツをお土産に買ってくる

【18】告白ハラスメント
告白によって相手を不快にさせること
例:1度だけでなく、度を越した頻度で何回もしつこく告白する

【19】ハラスメントハラスメント
ハラスメントではない行為について、ハラスメントだと騒ぐこと

【20】レイシャルハラスメント
国籍や人種差別による嫌がらせ

上記のなかには、スイーツハラスメントのように「就労環境を害された」とは言えず、企業が対策を講じるべきハラスメントには当たらないものもあり、不快と感じれば何でもかんでも「ハラスメント」だという、誤解が生じているようなものもあります。しかし、そのような行為でも日常的に繰り返されれば、業務に差し障りが生じることもありますので、知識として知っておくとよいでしょう。

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ハラスメントに関する会社の責任とリスク

ハラスメント問題が起こると、被害者の従業員がメンタルヘルス疾患を発症するリスクがあります。そして、加害者だけでなく会社も責任を追及される可能性があります。

【1】従業員のメンタルヘルス疾患発症等のリスク
セクハラやパワハラなどが複数回にわたって続くと、被害を受けている従業員はメンタルヘルス不調となってしまうかもしれません。1度メンタルヘルス疾患を発症すると治癒までに長い期間がかかります。

【2】男女雇用機会均等法の制裁
男女雇用機会均等法において事業主は、セクハラについて予防措置及び事後措置を講じなければならないと定められています。労働局長などから勧告を受けたにも関わらずこの措置を講じない場合には、企業名が公表されたり過料の制裁を受けたりすることがあります。

【3】職場環境の悪化・人材流出
ハラスメントの言動や行動が長期に続けば、職場環境は悪化し業務に支障をきたすリスクがあります。被害に遭っている従業員が休職・退職するだけでなく、他の従業員の士気も低下し、人材流出に繋がるなど、会社にとって大きなダメージが生じる可能性があります。

【4】損害賠償リスク
セクハラやパワハラ、モラハラなどの行為をした加害者本人は、不法行為(民法709条)に問われますが、会社や当該従業員の管理監督者も賠償の責任を負います(民法第715条第1項および第2項)。(使用者責任)

また、セクハラやパワハラ、モラハラなどの問題が起きないよう適切な措置を講じていない場合には安全配慮義務違反となり、債務不履行責任(民法415条)に基づく損害賠償責任を負うことがあります。

ハラスメントに関する35の事例

ハラスメント事案のなかには、違法性が高く裁判に発展する事例も多く存在します。
どのような言動、行為が問題視されたのか、事例の内容を知ることで、ハラスメント防止への基礎知識が得られるとともに、意識の醸成が期待できます。そこでここでは、セクハラ、パワハラ、マタハラに関する実際の裁判の事例をご紹介します。

(1)セクハラの事例

【1】岡山セクハラ(リサイクルショップ)事件(岡山地裁 平成14年11月6日判決)
店舗統括責任者の男性Bらが、店長の女性Aの膝の上に座ろうとしたり、Aの自宅にあがって抱きつき、キスをしたり押し倒したりした。

→Bの行為は不法行為と判断され、会社も使用者責任を負うものと判断されました。しかし、自宅にあがった行為は職務を行ううえでなされたものとは言えないとして、この点については会社の使用者責任は否定されました。

【2】横浜セクハラ事件(東京高裁 平成9年11月20日判決)
営業所長が、事務所で2人きりになった女性従業員に、抱きついてキスしたり手を触ったりした。

→営業所長の行為は、不法行為に該当すると判断されました。第一審では、被害者の陳述の一部について信用性なしとして請求を退けられましたが、控訴審では、性暴力被害者の対処行動に関する研究に基づき、被害者の供述の信用性が認められ逆転勝訴しました。

【3】大阪セクハラ(S運送会社)事件(大阪地裁 平成10年12月21日判決)
カラオケボックスで、女性社員の前に回り込んでソファに押し倒したり、スカートをめくろうとしたりした。

→加害者の行為は不法行為と判断されました。カラオケボックス内という点について、勤務時間でもなく勤務場所でもありませんが、業務に関連させて上司である地位を利用して行ったとして、会社の使用者責任が肯定されました。

【4】東京セクハラ(広告代理店A社)事件(東京地裁 平成8年12月21日判決)
「若い男性なら体の関係ばかりだろうけど、ある程度の年のいった人なら、身体だけでなく、月に1回の食事と月1回のそういう関係だけで生活の援助をしてくれる」といった趣旨の話をした。病院に入院した女性社員を見舞った際に、パジャマの内側に手を入れようとした。

→加害者の行為は愛人になれと誘うものであり、当然に不法行為と判断されました。
入院先の病院で行われた行為は勤務先ではありませんが、上司としての地位を利用して行われたものであるとし、職務と密接な関連性があるとして会社の使用者責任が肯定されました。

【5】消費者金融会社事件(京都地裁 平成18年4月27日判決)
上司が女性社員と食事中に太ももあたりをなでまわし、二次会の席で抱きつき「今日は泊っていけ」「俺と付き合え」などと発言した。

→一次会、二次会の行為とも、セクハラと認定されました。裁判所は、上司・会社に連帯して慰謝料を支払うよう命じました。

【6】大阪観光バス(懲戒解雇)事件(大阪地裁 平成18年4月28日判決)
観光バスの運転手が、トラベルコンパニオンのストッキングがほころんでいるとして膝の間に手に入れた。帰り際、人気のいないところに車を停車させ抱きつき、ホテルに行こうと誘った。
→わいせつ行為であり、許されるものでないとして、不法行為と判断されました。会社は運転手を懲戒解雇しましたが、その懲戒解雇は有効と判断されました。

【7】コンピューター・メンテナンス・サービス事件(東京地裁 平成10年12月7日判決)
コンピューターの管理業務に従事していた社員が、派遣社員である女性の肩をもんだ。残業を終えて帰ろうとする女性社員を追いかけ、同じエレベータに乗り、女性が降りようとしたところで物陰に引きずり込んで、胸を触った。

→女性社員に相当な苦痛と恐怖を与えた許されない行為であり、会社の名誉・信用をも著しく傷つけたと判断されました。男性の懲戒解雇につき、裁判所は、解雇権の濫用に当たらず有効と判断しました。

【8】東京セクハラ(破産出版会社D)事件(東京地裁 平成15年7月7日判決)
上司の編集長が女性編集者Aについて「Aはおかしい」「Aは、ストーカーじゃないか」と発言。Aが他の同僚と飲食店にいるのを見て、「2人はできているのかねえ」と発言。

→Aの名誉感情を傷つけたとして不法行為と判断されました。加害者と会社は連帯して損害賠償責任を負うものと判断されました。

【9】大阪セクハラ(大阪市立中学校)事件(最高裁二小 平成11年6月11日判決)
中学の女性英語教師Aについて、同僚の英語教師Bが「Aが生徒に厳しくあたっているのは、彼女に男がいないからだ」などと発言。

→Aへの発言が嫌がらせ、いじめと評価され、Aの人格権を侵害するもので不法行為に該当すると判断され、Bには、慰謝料の支払いが命じられました。Bはこれを不服として上告しましたが、棄却されました。

【10】岡山セクハラ(労働者派遣会社)事件(岡山地裁 平成14年5月15日)
専務取締役営業部長が、女性支店長であるAとBに肉体関係を迫ったが、AとBはこれを拒否し、会社にセクハラの申し出を行った。しかしAとBは社内を混乱させたとして、一般社員に降格し大幅に減給Aは70万円→30万円、Bは80万円→32万円)、その後仕事を取り上げられ、退職せざるを得なくなった。専務取締役営業部長は、自らのセクハラ行為を否定し、AとBは淫乱であると言いまわった。

→専務取締役営業部長は、上司としての立場を利用して肉体関係を迫ったもので、不法行為と判断されました。また、AとBを減給処分として降格させた点について、セクハラの申し出を行ったことを理由とすることは許されず、会社はこれらの状況を放置し、職場環境を悪化させたと判断されました。
会社と専務取締役営業部長は連帯して、慰謝料、未払賃金及び逸失利益の支払いが命じられました。

【11】東京セクハラ(M商事)事件(東京地裁 平成11年3月12日)
女性従業員Aが、上司から「ホテルに行こう」と繰り返し誘われたとして、セクハラを会社に訴え出たところ、会社は「個人間の問題だから、個人間で解決するように」と求めた。その後両者には示談が成立したが、示談成立後も両者が職場で言い争うなどしたため、会社は依願退職するよう求めた。

→会社はAに依願退職を求めていますが、社内で「Aは退職することになった」と述べ、また引継ぎを命じていることから、事実上は解雇であると判断されました。また、「セクハラは個人的な問題だから個人間で解決するように」と指示した点も問題視されました。結果として会社は、給与相当額6カ月、受けるはずだった賞与、慰謝料の支払いが命じられました。

【12】沼津セクハラ(F鉄道工業)事件(静岡地裁沼津支部 平成11年2月26日判決)
女性従業員Xは、事務次長、副支店長からセクハラを受け、会社に抗議をしたところ、その後の人員整理の際にXは解雇された。

→セクハラというまぎれもない事実があり、本件解雇は解雇権の乱用であると判断されました。また、会社は職場環境を調整する配慮を怠っており、会社に慰謝料の支払いを命じる判断をしました。

【13】日本HP社セクハラ事件(東京地裁 平成17年1月31日判決)
本部長Yは複数の女性従業員にセクハラ行為を行なった。会社はYにセクハラの事実確認をしたところ、Yは否定した。しかし、会社はYを懲戒解雇処分とした。

→Yは、弁明の機会を与えられておらず懲戒解雇は不当と主張しましたが、Yの懲戒解雇処分は有効と判断されました。

【14】和歌山セクハラ(青果卸売業)事件(和歌山地裁 平成10年3月11日判決)
離婚をして子どもを育てている女性従業員に対し、会社の役員4名が「おばん」「ばばあ」「くそばば」などと呼び、性的に露骨な表現でからかった。

→「おばん、ばばあ」などは、侮辱的な呼称であり職場環境を悪化させるものであると判断され、加害者はもちろん会社も使用者として不法行為責任を負うものとされました。

【15】A市職員(セクハラ損害賠償)事件(横浜地裁 平成16年7月8日判決)
上司の係長が女性職員に対して、「早く結婚しろ」「子どもを産め」などと発言し、「言葉のセクハラだけで身体のセクハラがないのは、魅力がないのか我々に理性があるからか考えろ」などと発言。

→係長の言動は、客観的にも多くの人たちの前で強い不快感、屈辱感を与える者であり、セクハラに該当すると判断されました。さらに国家賠償法1条1項の規定に基づき、A市にも慰謝料等の支払いが命じられました。

(2)パワハラの事例

【16】Y社ほか事件(東京高裁 平成18年3月8日判決)
派遣社員Yは、派遣先社員から手拳や肘で殴打され、足やひざで蹴られるという暴行を30回ほど受けた。

→暴行行為をした社員には不法行為責任が認められ、使用する会社に使用者責任が認められました。なお、本件は派遣社員の事案であったことから、勤務先のY社の安全配慮義務の責任は否定されました。

【17】C社事件(大阪地裁 平成25年6月6日判決)
営業社員Xは、上司から財布や通帳の中身を点検されたり、胸部を殴るなどの暴行を受けたりした。

→使用者といえども、従業員の私的領域にわたる指揮監督権を有するものではなく、所持品検査を行うことは正当化されないとされました。上司による暴行も、正当化する余地はないと判断されました。

【18】国・静岡労基署長事件(東京地裁 平成19年10月15日判決)
上司Cは、医療情報担当者(MR)であるAに対して、「存在が目障りだ、いるだけで迷惑だ」「お願いだから消えてくれ」など厳しい言葉で罵倒し、精神障害を発症したAは自殺した。Aの妻は、Aの死亡は業務に起因するとして遺族補償年金等を請求したが、労基署は不支給決定した。妻はこれを不服として訴訟を提起した。

→裁判所は、一連の行動はAの人格、存在自体を否定するものであり、これらの行為によってAが大きな心理的負荷を受けていることから業務起因性を認め、遺族補償給付を支給しない旨の処分を取り消すことを命じました。

【19】名古屋労基署長事件(名古屋高裁 平成19年10月31日判決)
上司Bは、主任Aに対して「主任失格」などの文言を用いて感情的に叱責し、「自分の知見の低さを自覚して」と経験不足を記載させる文章を作成させた。主任Aはその後うつ病を発症し、自殺した。名古屋労基署長は、Aの死亡は上司Bによるパワハラが原因であるが、業務外であるとして遺族補償年金等を不支給決定した。

→裁判所は、上司Bの行為はパワハラ行為であることを前提として、業務負荷とうつ病発症との間に相当因果関係があるとして、業務起因性を肯定し、遺族補償給付を支給しない旨の処分を取り消すことを命じました。

【20】A社パワハラ事件(大阪高裁 平成25年10月9日判決)
派遣労働者Xが指示通りに業務を行っていなかったことについて、派遣先従業員Aらから「あほ」「殺すぞ」などのパワハラを受け、就労を辞めざるを得なくなった。

→1度だけであれば違法とまではいえないような軽口でも、何度も繰り返し行われている時は、嫌がらせや侮辱となり違法性を有するとして、A社従業員およびA社の使用者責任に基づく損害賠償請求を認めました。

【21】M社パワハラ事件(名古屋高裁 平成26年1月15日判決)
代表取締役B・監査役Cは、従業員Aがミスをした時に頭を叩く程度の暴行を行い、「どうしてくれるんだ」など大声で怒鳴った。さらに、Aがミスをしたら損害賠償請求し、Aが支払えないならAの家族に請求するとも述べた。Aはその後自殺をした。

→たとえAに非があったとしても、BとCの行為は明らかに叱責の域を超えていて、自殺する3日前には退職強要もあったことから、これらの行為と自殺との因果関係を肯定し、被告会社及び代表者に対し逸失利益(死亡した従業員が生きていたならば得られたであろう利益)や慰謝料などの合計5,400万円余りの損害賠償が命じられました。

【22】S社ほかパワハラ事件(名古屋高裁 平成26年1月15日判決)
飲食店店長Aが仕事のミスをすると、エリアマネージャーUは「ばかだな、使えねえ」などと発言したり、しゃもじで殴ったりした。Aはうつ病を発症し自殺した。遺族は、エリアマネージャーUと会社に損害賠償請求をした。

→Uの行為はパワハラであり、不法行為責任は免れないと判断されました。また、会社にも安全配慮義務違反があると判断され、Uのパワハラ行為についても使用者責任があると認容されました。なお、Aは当時月あたり190時間~227時間の時間外労働をしており、労災は認定されていました。

【23】東京S社ほかパワハラ事件(東京地裁 平成26年7月31日判決)
社員Xの業務上のミスがあり、上司Aの指導が厳しいものとなった。「もう任せられない」「お前はばか」などの発言もあり、Xはうつ病を発症し休職を願い出ました。Aは、休職は年休で消化してくれと話し、休みをとるなら他部署への移動は白紙にするなどと述べた。

→上司Aの行為は、注意や指導として適切ではなく、会社の責任も認められ、裁判所から慰謝料の支払いが命じられました。

【24】岡山県貨物運送事件(仙台地裁 平成26年6月27日判決)
新入社員Aは、上司Yから「何でできないのだ」「何度も同じことを言わせるな」などと怒鳴られた。Aが提出した日誌についても「内容が分からない」などのコメントのみで具体的な指導がなく、励ましたりほめたりするようなコメントはなかった。Aの時間外労働は空調の効かない屋外で行われるもので、月あたり129時間50分にも及んだ。Aは平成21年4月から勤務を開始し、10月に自殺した。

→上司による度重なる叱責と長時間労働が、Aの自殺という最悪の結果を引き起こしたと判断されました。一審は、自殺と長時間労働との因果関係だけを認定していましたが、控訴審ではパワハラとの因果関係も認定して、会社と営業所長に6,900万円の支払いを命じました。

【25】A産業ほかパワハラ事件(福井地裁 平成26年11月28日判決)
新入社員Bは、入社後上司X1、X2らから受けた指導内容を記載するよう指導されており、そのノートにX1、X2らは、「いつまでも新人気分」「毎日同じことを言う身になれ」「指示が全く聞けない」「辞めても、どうせ再就職はできないだろう」と記していた。Aはその後自殺した。

→これらの言葉が、経験豊かな上司から入社1年にも満たないAに対してなされたことは、典型的なパワハラと判断されました。上司の不法行為責任(民法709条)、会社の使用者責任(民法715条)を肯定し、総額約7,261万円の支払いを命じました。

【26】医療法人財団K会事件(東京地裁 平成21年10月15日判決)
病院の事務総合職として採用された労働者Xは、業務を行ううえで多くのミスがあった。上司は面談し「ミスが非常に多い」「仕事が遅いのは問題ないから、ミスがないようチェックしてほしい」と何度も指導した。その後もXはミスが多く、上司は何度も面談したが改善されなかった。

→Xは、上司らの指導はパワハラであり、違法な退職強要を受けて精神疾患を発症したとして損害賠償請求をしました。裁判所は、上司らの指導はパワハラではなく、業務上の指示の範囲にとどまるもので違法ではないとして、Xの主張を排斥しました。

【27】国・中央労基署事件(東京地裁 平成26年10月9日判決)
労働者Xは、工場閉鎖に伴ってXが嫌がる別の工場に異動させたことは退職勧奨であり、その他上司から厳しい叱責を受けたことで、うつ病を発症したとして労働者災害補償保険法による休業補償給付の申請をしたが、支給しない決定がされたため、不支給決定の取り消しを求めた。

→上司による叱責は、うつ病を発症する1年以上前のものであり、その他にXは怒鳴られた事実はなく、上司の指導は理不尽ではなく理論的であると判断され、Xの請求を棄却しました。

【28】M道路事件(高松高裁 平成21年4月23日判決)
不正経理を行っていた営業所長Aは、上司B、Cから厳しい叱責を受け自殺したとして、Aの妻Xが会社に損害賠償を求めた。

→Aは不正経理を行っていて、その不正経理について是正するよう指導されていたのに、1年以上も放置し是正しなかったことについて叱責を受けたものであること、長時間労働などの事実もなかったこと、メンタルヘルス対策として管理者研修を実施していたことを評価し、会社の損害賠償責任を否定しました。

【29】Y書店事件(東京地裁 平成25年9月26日判決)
従業員Zは、上司から在庫書籍を探すよう指示されたが、これを嫌がらせだと主張した。また、データ入力作業を指示されたことは不当な差別であると主張した。

→データ入力などの作業は、比較的地味な作業ではあるが重要な業務のひとつであり、何ら差別的ではなく不法行為には当たらないと判断されました。

【30】Y電機事件(東京高裁 平成25年11月27日判決)
従業員Xは、長時間の残業を強いられたうえ、メールの書き方について「いい歳なのだから、若いメールを書いていちゃダメだよ」と叱責されたことで、うつ病を発症して休職し、その後退職を余儀なくされた。

→メール文面は未熟と判断されてもやむを得ないものであり、業務上不当な指導であったとはいえないと判断されました。しかし、うつ病の発症から寛解状態が4か月以上継続した症状に基づく損害については、会社の安全配慮義務違反と相当因果関係があるとされ、会社は534万5641円の支払いが命じられました。

【31】A航空会社事件(東京地裁 平成8年3月27日判決)
旅客課従業員Xは、上司Yらから「会社を辞めろ」「きちがい、仕事やっているのか」などと怒鳴られた。たばこの灰をXの頭に落とし、顔に輪ゴムを飛ばすなどの行為も行った。また、不要な業務しか与えず仕事の差別をした。その前提として、Xは退職勧奨の対象となったのに応じなかったという背景もあった。Xは損害賠償請求をした。

→退職勧奨に応じなかったXがいじめや嫌がらせを受けたものであり、さらにこれらの行為が長期にわたって継続していることから違法と判断され、慰謝料の支払いが命じられました(暴力行為等に対し200万円、仕事差別につき100万円)。

【32】T運輸事件(富山地裁 平成17年2月23日判決)
Y社がヤミカルテルを締結しているとして、従業員Zが新聞社等に告発したところ、「辞表を出せ」などと迫られ昇格もなくなり、草むしりなどの雑務などの仕事しか与えられなくなった。

→Y社がヤミカルテルを締結している事実はあり、Zが社内で努力したとしても、このような体制が是正された可能性は低く、Zの内部告発は正当性があるとして、1356万7182円(弁護士費用含む)の損害賠償の支払いを命じました。

(3)マタハラの事例

【33】広島(C病院)事件(最高裁一小 平成26年10月23日)
理学療法士Xは当時副主任であり、第2子妊娠に伴い軽易な業務への転換を申し出た。異動後、副主任から降格する辞令が出て、Xはしぶしぶこれを承諾した。育児休暇を取得して復帰後は、別の職員が副主任となっていて、Xは副主任の下で勤務することになった。

→最高裁は、軽易な作業への転換を契機とした降格は、男女雇用機会均等法違反であり、無効であると判断しました。

【34】医療法人I会事件(大阪高裁 平成26年7月18日)
男性看護士が3カ月の育児休暇を取得したところ、3カ月不就労であったことから、昇給せず昇格試験を受験する機会を与えられなかった。男性看護士は、育児・介護休業法10条に定める不利益取り扱いに該当し、公序良俗(民法90条)違反であり、得られたはずの給与、賞与、退職金の差額を請求した。

→一審では、昇格試験を受験させなかったことを慰謝料15万円の限度で認容しましたが、高裁では試験を受験させなかったことについては不法行為法上違法である、職能給が昇給しなかったことについては育児介護休業法10条の不利益取り扱いに当たると判断しました。

【34】K社事件(東京高裁 平成23年12月27日)
女性社員が産前産後休業とそれに続く育児休業から復職後、役割グレード、役割報酬が引き下げられたことなどは、人事権濫用であり無効であるとして、差額賃金を求めた。

→高裁判決では、役割報酬の引き下げは、労働者にとって重要な賃金額を不利益に変更するものであるから、就業規則等に明示すべきで使用者の一方的な行為によって行うことは許されず、人事権濫用であると判断しました。

【35】T学園事件(最高裁一小 平成15年12月4日)
女性労働者が出産後8週間休業し、その後子が1歳になるまで勤務時間短縮制度を利用して勤務していたところ、出勤率90%以上の要件を満たさないとして賞与が不支給となった。

→賞与が減額ではなく不支給となっていること、収入に対する賞与の割合が高いこと、産休等を取得することで賞与の支給要件自体を満たさなくなることから、本件90%条項は、公序良俗に反し無効であるとしました。

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まとめ

昨今は、ハラスメント行為の被害者が訴えるケースが増えており、そうなれば会社は訴訟のために労力を費やしたうえ、損害賠償責任を負うことにもなりかねません。
このような事態を防ぐためにも、しっかりとハラスメント対策を講じ、上司も部下も安心して働くことができるような職場づくりを実践することが大切です。

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