高ストレス者と集団分析を産業医が解説

ストレスチェックの高ストレス者と集団分析

ストレスチェックは、従業員の精神的な健康状態を把握し、早期にストレスが高い状態を発見するための検査です。50人以上の従業員がいる事業場では、実施が義務付けられています。ストレスチェックの結果から高ストレス者と判定された人がいた場合には、医師による面接指導を通じて、メンタルヘルスリスクをより詳細に評価することが求められます。また、集団分析を行い、高ストレス者が多い職場であると判定された場合には、そのデータをもとに職場環境の改善活動を進めることが重要です。

今回は、高ストレス者の面談指導や対応、高ストレス者割合が高い場合の対応などについて、産業医の近澤先生に伺います。

Q:近澤先生の簡単なプロフィールをお願いします。

精神科医・日本医師会認定産業医の近澤 徹です。
株式会社Medi Face代表取締役/FRAISEクリニック統括医師/Z産業医事務所代表医師を務めさせていただいております。
株式会社Medi Faceでは、オンライン診療システム「Mente Clinic」を開発し、うつ病・メンタル不調の回復にご活用いただいております。
法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わっています。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施しています。

高ストレス者の判定基準とは?

Q:ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定されることがあります。そもそも「高ストレス者」とは、どのような人のことをいうのでしょうか。

ストレスチェックの結果、以下の1または2のいずれかの要件を満たす場合、その労働者は高ストレス者として選定されます。

1:「心理的な負荷による心身の自覚症状に関する項目」(心身のストレス反応)の評価点数の合計が高い者
2:「心理的な負荷による心身の自覚症状に関する項目」(心身のストレス反応)の評価点数の合計が一定以上の者であって、かつ「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」(仕事のストレス要因)および「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目(周囲のサポート)の評価点数の合計が著しく高い者

高ストレス状態が続くと、メンタルヘルス不調に進展してしまうリスクがあるため、一定の基準を設けて「高ストレス者」を選定することで、医師の面接指導を行い、メンタルヘルス不調のリスクをより詳細に評価することが求められるわけです。

高ストレス者の割合は?

Q:ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定される割合は、どれくらいなのでしょうか。

利用する調査票や会社の状況にもよりますが、ストレスチェックでは大体、1割前後が高ストレス者に分類されることが多いと言われています。
令和3年(2021年)の全衛連ストレスチェックサービス実施結果報告書によると、受検者のうち高ストレスと判定された人の割合は14.2%でした。男女別にみると、男性は15.8%、女性は11.9%で男性の方が3.9%高かったという結果が出ています。

>令和3年全衛連ストレスチェックサービス実施結果報告書

高ストレス者の面談の目的は何でしょうか。

Q:高ストレス者の面談は、どのような目的で行われるのでしょうか。

高ストレス者に対する医師の面接指導は、顕在化しているストレス反応に対しての対処行動を手助けして、ストレスによる健康影響を防ぐ、あるいは未然に防止することにあります。
そして、面接指導を実施した場合には、担当した医師は事業者に対して、面接指導の結果の報告と就業上の措置について意見を申し述べることになっています。

高ストレス者の面談はどう行われる?

Q:実際、高ストレス者の面談は、どのように行われるのでしょうか。

面接指導は、労働者からの申し出があったら、概ね1カ月以内に実施する必要があります。面接指導は、原則として就業時間以内に設定します。
面接指導は「問診、その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うこと」とされているので、直接対面が原則ですが、必要な指導ができる状況であれば、オンラインでも可能です。
面接指導を通じて、労働者の疲労の状況やストレスの状況、その他の心身の状況を把握し、適切な指導を行うことが大切であると考えます。

高ストレス者が申し出ないこともある?

Q:高ストレス者と判定されても、労働者から面接指導の申し出がない場合もあると聞きました。

はい。残念ながら、申し出がない場合もあります。
高ストレス者と判定された労働者のうち、実際に医師の面接を受けている人の割合は約1割と言われています。つまり、高ストレスと判定されても面接指導を受けずにフォローをされていない方が、少なからずいることになります。

一時的なストレスによる体調変化で医師面接が不要な場合や、ストレス要因が会社外にあるために医師面接が必要とされないケースもあります。しかし、実際には医師面接が必要であっても、「会社に知られたくない」という理由で本人が面接を拒否することもあります。そのため、あらかじめ「会社に情報が伝わることはない」と周知することが重要です。要するに、従業員が自主的に面接を申し出やすく、信頼される会社づくりが必要だということです。

ストレスチェックの集団分析とは?

Q:ストレスチェックの集団分析とは、どのようなものなのでしょうか。

集団分析は、ストレスチェック結果をもとに、職場全体のストレス状況を把握するための手法です。個々の結果を特定せず、部署や職種ごとにデータを集計し、職場環境の改善点を明らかにします。性別や年代、雇用形態でデータを分けることで、より具体的な課題が浮かび上がります。例えば、女性のストレスが高い場合、ハラスメントや育児制度の問題を検討する必要があるかもしれません。こうした分析を活用して、PDCAサイクルを回し、毎年職場の環境改善を図ることが重要です。

高ストレス者と集団分析の活用方法は?

Q:ストレスチェックの結果、高ストレス者が多い場合には、どのような対応が必要でしょうか。

高ストレス者の人数や割合は、集団分析において非常に重要なデータです。たとえば、部署ごとに高ストレス者の割合を算出し、その結果を「あなたの職場には〇%の高ストレス者がいます」と管理職に報告することで、職場のストレス度が明確になります。この際、高ストレス者が特定されないよう慎重に配慮することが重要ですが、適切に伝えることで管理職の職場改善への意欲が高まることが期待されます。
また、「ある職場では高ストレス者の割合が高いのに、会社全体のストレス得点は高くない」という結果が出る場合もあります。
このような場合は、ストレスが一部の従業員に偏っている可能性があることを示唆しています。そこで、一部に仕事の偏りや人間関係の問題を抱えた従業員がいる可能性を念頭に、職場改善活動を進めることが重要です。

また、「仕事のストレス判定図」とあわせて確認することで、職場の問題点を正確に把握することができますし、産業医や実施事務従事者といった個人情報を確認できるスタッフが面接指導を促すなど、個別の対応を検討することもおすすめです。
>仕事のストレス判定図|判定の流れ・見方【まとめ】

:参照記事
>ストレスチェックの活用方法を産業医が解説!

>ストレスチェックの集団分析|10個のポイント

監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
近澤 徹

オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。

> 近澤 徹| Medi Face 医師起業家