常時使用する労働者数が50人以上の事業者は、衛生委員会の設置が義務づけられています。衛生委員会は、事業の種類(業種)に関わらず必ず設置して毎月開催しなければなりません(労働安全衛生法18条)。また、製造業など一定の業種に該当する場合は安全委員会を設置する必要があります。
目次
衛生委員会とは
衛生委員会とは、常時使用する労働者数が50人以上の事業場(※)で、事業の種類(業種)に関係なくかならず設置しなければならないとされている委員会です(労働安全衛生法18条、同法施行令9条)。
※事業場とは、工場、事務所、店舗のように、一定の場所に置いて相関連する組織の下で継続的に行われる作業の一体をいいます。したがって、1つの事業場ととらえるか否かは、主に場所的観念によって決定され、同一の場所にある場合は原則として1つの事業場とみなします。
林業、鉱業、建設業、製造業の一部の業種、運送業の一部の業種、自動車整備業、機械修理業、清掃業など一定の業種については「安全委員会」を設置しなければなりません。
事業の種類 | 安全委員会を設置すべき事業場の労働者数 | 衛生委員会を設置すべき事業場の労働者数 |
①林業、鉱業、建設業、製造業の一部の業種(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業および輸送用機械器具製造業)、運送業の一部の業種(道路貨物運送業および港湾運送業)、自動車整備業、機械修理業ならびに清掃業 | 50人以上 | 50人以上 |
②運送業で①以外の業種、製造業(物の加工業を含む)のうち①以外の業種、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、じゅう器等小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業 | 100人以上 | |
③上記以外の事業 | 設置義務なし |
安全委員会及び衛生委員会の両方を設けなければならない時は、それぞれの委員会の設置に代えて、安全衛生委員会を設置することができます。
業種規模によって「安全委員会」と「衛生委員会」両方の機能をもつ「安全衛生委員会」として運営してもよいとしています(安全衛生法19条)が、それぞれを別に設置する事業場もあります。
(1)衛生委員会の目的
(安全)衛生委員会の目的は、以下の事項について調査審議し、労働者の健康管理を進めることです。
①労働者の健康障害を防止するための基本対策 ②労働者の健康保持増進を図るための基本対策 ③労働災害の原因や再発防止対策で衛生に関すること ④労働者の健康障害の防止、健康保持増進に関する重要事項 |
安全委員会も設置しなければならない事業場の場合には、審議内容に安全に関する事項(負傷等の防止に関する事項)も追加されます。
(2)衛生委員会の構成メンバーと調査審議事項
(安全)衛生委員会の構成メンバーは、事業者(事業を行う者で、労働者を使用するもの 安全衛生法2条)が指名します。委員長(議長)には、事業の統括管理者で人事・総務部門の長がなるケースが一般的です。そのほか、衛生管理者、産業医、任命された従業員などで構成し、半数の委員については事業場の過半数労働組合の推薦に基づいて指名する必要があります。
保健師は、オブザーバーの立場で参加することが多いですが、人数の少ない事業場では保健師が司会進行役としてサポートし、議題提供、資料提供などを通して中心的な役割を担うこともあります。
安全委員会 | 衛生委員会 | |
委員の構成 | ①統括安全衛生管理者または事業の実施を統括管理する者等(1名) ②安全管理者 ③労働者(安全に関する経験を有する者) |
①統括安全衛生管理者または事業の実施を統括管理する者等(1名) ②衛生管理者 ③産業医 ④労働者(衛生に関する経験を有する者) |
調査審議事項 | ①安全に関する規程の作成に関すること。 ②危険性または有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置のうち、安全に係るものに関すること。 ③安全に関する計画の作成、実施、評価および改善に関すること。 ④安全教育の実施計画の作成に関すること。 など |
①衛生に関する規程の作成に関すること。 ②衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善に関すること。 ③衛生教育の実施計画の作成に関すること。 ④定期健康診断等の結果に対する対策の樹立に関すること。 ⑤長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること。 ⑥労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること。 など |
共通事項 | ①毎月1回以上開催すること。 ②委員会における議事の概要を労働者に周知すること。 ③委員会における議事で重要なものに係る記録を作成し、これを3年間保持すること。 |
(3)衛生委員会の設置までの流れ
衛生委員会を設置する際には、まず事業場トップが衛生委員会を設置する旨を表明する必要があります。
そのうえで(安全)衛生委員会規定を策定し、議長・委員を任命します。
委員のうち半数は、労働者側委員である必要があります。労働者の半数で組織する労働組合がある時にはその労働組合、労働組合がない時には、労働者の過半数を代表する者の推薦に基づき指名します(労働安全衛生法18条4項で準用する17条4項)。
委員会を開催したら、(安全)衛生委員規定の内容を審議し、議事録を作成・保存します。
なお、衛生委員会は毎月定期的に開催しなければなりません。特に臨時に開催すべき状況が発生した場合には、議長が委員会の招集をします。
①事業場トップが衛生委員会を設置する旨を表明する。 ②(安全)衛生委員会規定を策定する。 ③議長の任命(当該事業場において、その事業の実施を統括管理する者、もしくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名する)。 ④委員の任命(半数は労働者側) 委員は、次の者から事業者が指名します。 ・衛生管理者のうちから、事業者が指名した者 ・産業医のうちから、事業者が指名した者 ・当該事業場の労働者で、衛生に関し経験を有する者のうちから、事業者が指名した者(人事部や総務部などで労災事故防止、健康管理等の業務に携わったことのある者) ・作業環境測定を実施している作業環境測定士から、事業者が指名した者(事業場に作業環境測定士がいる場合) ⑤委員会の開催 ⑥(安全)衛生委員会規定の内容審議 ⑦議事録の作成・保存 ⑧労働者に周知するための概要を作成し、提示等の方法で周知する ⑨以後、毎月定期的に開催する |
(4)衛生委員会開催後の周知方法
衛生委員会で審議し、労働者に周知するための概要を作成したら、なるべく早い時期に周知します。
周知は、以下のいずれかの方法で行うとされており、(安全衛生法23条3項)、社内ポータル等で閲覧可能にしておくのがよいでしょう。
①常時各作業場で見やすい場所に提示、もしくは備え付ける。 ②書面を労働者に交付する。 ③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する。 |
「衛生委員会ニュース」として紙1枚程度にまとめ、産業医のアドバイスや定期健康診断の有所見率(異常が認められた人の割合)などとともに、議事録と決定事項を記載して交付する方法もおすすめです。
(5)衛生委員会の議事録作成と保存
衛生委員会等を開催し作成した議事録は、3年間保存しなければなりません(安全衛生法23条4項)。
議事録は、以下の事項について記載します。審議の詳細を記載する必要はありません。
①出席者名 ②事務局報告事項 ③各委員、各職場からの報告事項 ④議事の概要 ⑤産業医の意見(産業医が出席した場合) ⑥来月以降の安全衛生関連の行事の予定 ⑦来月の開催予定日時 ⑧その他安全衛生に関する事項 |
衛生委員会Q&A
衛生委員会については、どのように運営すべきなのか、何をテーマに審議すればいいのか分からない…という声がよく聞かれます。
そこで、ここでは衛生委員会に関してよくあるQ&Aをご紹介します。
(1)産業医が出席できなかった時は?
–産業医の都合が合わず、なかなか衛生委員会を開催することができません。どう対処すべきでしょうか。
衛生委員会は、月1回以上の開催が義務づけられており、産業医が出席する必要があります。しかし、やむを得ず産業医が出席できずに開催することもあるでしょう。その場合には、後日産業医が議事内容を確認し、次回の委員会で意見反映ができるようにしましょう。なお、産業医には可能な限り出席を求めてください。
(2)委員会で欠席者が出た時は?
–委員会で欠席者が出た場合には、どう対処すべきでしょうか。
あらかじめ(安全)衛生委員会規定に充足定数を定めておけば、欠席者が出ても開催することができます。
法令上、定足数について規定されてはいませんが、一般的には過半数の出席で成立すると(安全)衛生委員会規定に定めている事業場が多いようです。
なお、欠席者には後日開催内容を周知する必要があります。
(3)衛生委員会ではどんな議題を審議する?
–衛生委員会を開催する際、どのようなことを議題にすればよいのか困っています。
前述したとおり、衛生委員会では労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策、健康の保持増進を図るための基本となるべき対策、労災の原因や再発防止、衛生に関することについて審議する必要があります。
衛生委員会の議題は、年間でおおまかにスケジュールを組んでおくと便利です。定期健康診断等の実施時期にはその内容を盛り込んで、産業医や保健師による健康教育や勉強会を開くのもおすすめです。
以下に月別の議題例について挙げています。このとおりに進める必要はありませんので、個々の事業場の状況に合わせて議題内容を選定してください。
4月 ストレスチェックなどメンタルヘルスケア研修 5月 健康的な食生活 6月 食中毒予防 7月 熱中症予防のための対策 8月 健診の案内および受診前の注意事項 9月 睡眠について 10月 喫煙について 11月 健診結果の評価 12月 肩こり腰痛対策 1月 感染症予防対策 2月 長時間労働対策 3月 次年度の年間スケジュール作成 |
(4)新型コロナ等の感染症予防対策を議題にしたい
–新型コロナ等の感染症予防対策を議題にしたいと思いますが、何を審議するべきでしょうか。
新型コロナに限らず、人の集まる職場は感染症が発生するリスクが高くなります。3密(密閉空間、密集場所、密接場面)を避け、手洗いを励行し、マスクの着用を徹底するよう対策を講じましょう。なお、感染が疑われた場合の出勤停止についてどのような扱いとするかも審議する必要があります。
なお、厚生労働省は当分の間、感染症に関する規則である労働基準法施行規則「別表第1の2第6号5」の運用について、感染経路が特定されなくとも業務により感染した可能性が高く、業務に起因したものと認められる時には、労災保険給付の対象とするとしています(令和2年4月28日 基補発0428第1)。
(5)ストレスチェックについて何を決めればいい?
–50人以上の事業場に義務づけられた「ストレスチェック制度」について、衛生委員会で審議をしたいのですが、どのような事項について審議し決定すればよいのでしょうか。
ストレスチェック制度を実施する際には、衛生委員会を中心に、実施体制の整備や個人情報保護などの対策について検討します。
検討すべき事項としては、主に以下のようなものがあります。
衛生委員会を中心に、実施体制の整備や個人情報保護などの対策について検討します。
検討すべき事項としては、主に以下のようなものがあります。
①ストレスチェック制度は誰が実施するか
まずは、ストレスチェック制度を誰が実施するかを決定します。
ストレスチェックを行う際には、制度全体の責任者、実施者、事務処理を行う担当者、高ストレス者が希望した場合に面接指導を行う医師が必要です。
責任者は、衛生委員会のなかで選ぶ必要があります。
②ストレスチェック制度は、いつ実施するか
ストレスチェック制度は、年に1回以上実施することとされていますが、時期についての指定はありません。しかし、ストレスチェック制度の目的が「通常業務を行ううえで、どのくらいのストレスを感じているのか」を測定し労働者に気づきを促すことにあるので、異動時期・決算時期、繁忙期は避けた方がよいでしょう。
③どんな質問票を使ってストレスチェックを実施するか
質問票は、紙以外にネット上での記入・集計が可能です。
集計結果は、職場環境の改善に役立てることができますので、集計結果をどう活用していくのかも検討しましょう。
④面接指導はどの医師に依頼して実施するのか
ストレスチェックおよび面接指導は、当該事業場の産業医が実施することが望ましいとされています。しかし、産業医が対応しきれない場合もありますので、必要に応じて精神科医や心療内科医といった外部の専門医へのあっせんが必要になるでしょう。
電話相談の活用なども、検討しておきます。
⑤ストレスチェックの結果はどう保存するのか
事業者は、個人のストレスチェック結果の記録について5年間保存するために必要な措置を講じます。
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まとめ
衛生委員会は、50人以上の労働者がいるすべての事業場に設置しなければならず、月に1回以上労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策(健康診断やストレスチェックなど)、健康の保持増進を図るための基本となるべき対策、労災の原因や再発防止などについて調査審議しなければなりません。
また、衛生委員会を開催したら議事録を作成し保存する必要があります。労働基準監督署の立ち入り調査(臨検監督)では、衛生委員会の議事録は必ずチェックされると言われています。
適切に運営し、労災の防止、職場環境の改善等を推進しましょう。
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