職場のメンタルヘルスケアに必要な7つのポイント

職場でメンタルヘルスの問題に取り組む際には、「どのように進めるべきか」「どのような体制を整備すべきか」「何に注意して対策すべきか」など不明点が多く、なかなか思うように実践できないという声をお聞きします。

そこでこの記事では、職場のメンタルヘルス対策を行う際に最低限知っておきたい7つのポイントについてご紹介します。

職場のメンタルヘルスケア

近年、精神障害等の労災補償の請求件数が増加していることから、職場におけるメンタルヘルスケアが注目されています。メンタルヘルス不調の要因は様々ですが、「仕事の質・量」「仕事の失敗・責任の発生」「対人関係」などが、メンタルヘルス不調をおこす主な要因となっています。(厚生労働省「平成30年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況」

引用: 厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の推進について」

メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合は年々増加していますが、「メンタルヘルスは本人の性格の問題」という声が残っているのも事実です。
実際、厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の推進について」によれば、従業員がメンタルヘルス不調をきたした理由について、「本人の性格の問題」と回答した事業所が6割強もあることが分かっています。

引用: 厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の推進について」

しかし、メンタルヘルス不調を発症する要因は決して本人の性格の問題だけではありません。職場で適切な対策を実践できれば、メンタルヘルス不調を未然に防止することができますし、結果的に「離職率の低下」「生産性の向上」なども期待できます。

一方メンタルヘルス対策を怠ったり、企業の対応が不適切だったりすると、「作業効率が低下する」「離職につながる」「労災請求や民事訴訟につながる」などのリスクが高まります。

(1)メンタルヘルス対策を行うメリット

厚生労働省の「労働者の自殺リスク評価と対応に関する研究」によると、メンタルヘルス対策を実施したことでメンタル疾患による休業日数が50%減り、投資額と比較して1.4倍の便益が得られるという費用対効果があったことが実証されています。

労働者の自殺リスク評価と対応に関する研究 : 平成16年度総括・分担研究報告書 : 厚生労働省厚生労働科学研究費補助金労働安全衛生総合研究事業

つまりメンタルヘルス問題は生産性に直接影響する課題であり、その対策は企業経営のうえでもはや重要事項であるといえるのです。

(2)メンタルヘルス対策を怠るデメリット

メンタルヘルス対策を怠った結果生じる職場のストレスやメンタルヘルス不調の問題は、職場の生産性の低下を招き、最悪の場合は離職を招くことあるため、企業にとっては貴重な戦力を失うことにつながります。

コストの問題も深刻です。メンタルヘルス不調による休職は長期間となることも多く、人員補充にコストがかかります。それだけでなく、メンタルヘルス不調の対策を怠ったことで、状態を悪化させてしまった場合には、労災請求や民事訴訟につながるリスクもあるのです。

職場のメンタルヘルス対策のポイント

メンタルヘルス対策への取り組みは、まずどのような体制を整備すべきかを把握することからスタートします。
メンタルヘルスは身体的なケガや病気と違って発症の原因が多岐にわたるので、対策が立てにくいという課題があるからです。

そこで、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」などを参考にして、職場のメンタルヘルスに取り組む際に注意すべき7つのポイントをご紹介します。

厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」

(1)メンタルヘルスの特性を理解する

メンタルヘルス対策を実行する際には、メンタルヘルス不調の特性、プライバシー保護の重要性をまず理解しておくことが大切です。

①メンタルヘルス不調の特性
心の健康を害する要因は人それぞれです。
同じ職場環境におかれていても、メンタルヘルス不調に陥る人もいれば、そうならない人もいます。また、症状にも個人差があり治癒までの過程や時間にも差があります。
また、メンタルヘルスの不調は突然症状が現れるというケースだけでなく、長い期間ストレスを感じていたにもかかわらず本人も自覚がなく周りも気づかなかったというケースも少なくありません。なかには原因すらはっきりしないというケースもあります。

したがって、このような不調を未然に防ぐためにはストレスチェック制度の活用や研修などを通じて、本人に気づきを促す機会を提供しつづけることが重要です。

ストレスチェックとは|義務化とは?効果は?

②プライバシー保護
メンタルヘルスは、人の「心の健康」という最もプライベートな部分の問題です。そのため、その情報が確実に保護されるという安心感がなければ、労働者はメンタルヘルスケアに参加することはできません。
したがって、「情報は絶対に外部にもらさない」「情報を必要なこと以外に利用しない」といったプライバシーの保護には細心の注意を払わなければなりません。さらに、そのために万全な体制を整備することが、メンタルヘルスケアがより効果的に推進されるための条件です。

③人事労務の体制整備
職場におけるメンタルヘルス対策は、労働時間や業務内容、配属・異動といった人事労務の部分が密接関わってきます。したがって、相談窓口を設けたりプライバシー保護に配慮したりといった対策を講じても、人事労務部門との連携が不十分だと、適切に対策が進まない可能性があります。
したがって、人事労務管理部門とうまく連携しながらメンタルヘルス対策を進めていく必要があります。

(2)4つのメンタルヘルスケアについて理解する

厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」のなかでは、メンタルヘルスケアの方法として、主に以下の4つの方法があると示されています。

①セルフケア
セルフケアとは、「従業員が自分自身で行うケア」です。
自分の心の健康状態に気づき、予防や早めの対処をすることができます。また、自分に合ったストレスの対処法を身につけることも効果があります。

企業はストレスチェックなどを活用して、従業員にセルフチェックを行う機会を提供し自分の心身の状況を把握させることも有効です。そして相談窓口を設置するなど、サポートすることが求められます。

②ラインによるケア
ラインによるケアとは、「部下を持つ管理監督者が行うケア」です。
管理監督者は、部下の行動様式を日常的に把握し、異変に早く気づくために日ごろから部下に関心をもって接する必要がある立場にいます。

また、部下からの相談に対応するよう努め、必要に応じて産業医等の医師につなげることも求められます。
企業としては、管理監督者が適切な対応ができるように
ラインケア研修など技術を習得する機会を与えることが重要です。

③事業場内産業保健スタッフ等によるケア
事業場内産業保健スタッフ等によるケアとは、「専門スタッフによるケア」で、産業医、衛生管理者、保健師、心理職の他、人事労務スタッフが兼任するなどして、中心的な役割をになってセルフケア及びラインケアが効果的に実施されるよう支援します。案

④事業場外資源によるケア
社内に専門スタッフを配置できないという場合でも、メンタルヘルスケアには専門知識が必要なため、事業場外の専門機関のアドバイスやサポートを取入れて、メンタルヘルスケアを行う方が安全かつ効果的です。

(3)一次予防・二次予防・三次予防の方法を理解する

メンタルヘルスケアについては、メンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」、メンタルヘルス不調を早期に発見して適切に対処する「二次予防」、メンタルヘルス不調になった従業員の職場復帰への支援や再発を予防する「三次予防」に分けられます。

いずれも重要ではありますが、一次予防を強化してメンタルヘルス不調を未然に防止することができれば、二次予防、三次予防を必要とする人の数も減ると考えると、一次予防の重要性はより高いと言えます。

心身ともに業務に集中できる状態が整えば、従業員は高いモチベーションで業務に取り組み、結果的に会社の生産性も向上することが期待できます。

①一次予防
メンタルヘルスケアに関する研修を行ったり定期的にメンタルチェックを行ったりして、従業員が自身のストレス状態を把握し、不調となることを未然に防ぎます。
ストレスチェック制度は、この一次予防に位置づけられるもので、従業員がストレスの程度を把握して、自身への気づきを促すことを目的としています。

②二次予防
メンタルヘルスの問題は、期間が長くなるほど解決が困難になります。
したがって、可能な限り早期の発見と対応が大切になってきます。
二次予防とは、メンタルヘルス不調を早期に発見して適切な対応を行うことです。メンタルヘルスはセルフチェックの他、管理監督者によるチェック、産業医等の専門家の適切なアドバイスに基づくケアにより健康な状態へ回復することがあります。

③三次予防
三次予防とは、休職など療養するための体制を整備し、職場への復帰を支援し、再発防止に努めることです。

(4)メンタルヘルスケア推進を表明する

メンタルヘルス対策を実施するためには、まず会社としてメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨を表明し、それを従業員に理解してもらうことが必要です。
意思表明することで、事業活動や会社が考えるメンタルヘルスケアの位置づけが明確になりますし、積極的に取り組むモチベーションにつながる可能性があります。

(5)メンタルヘルスケアの体制を整備する

メンタルヘルスケアの体制に必要な役割や手順を明確にしたら、その手順を実施できる人材の確保や育成を行います。

そして、そのリーダーが中心となり、安全衛生部門のスタッフ等もサポートできる体制を構築します。
「職場全体で取り組む対策である」ということが明確になれば、目的に沿った実施が実現しやすくなるだけでなく、従業員のモチベーションアップにもつながります。

(6)ストレスチェックの実施と結果の活用

ストレスチェックは50人以上の事業場に義務づけられた制度で、平成27年(2015年)の12月からスタートしました。
ストレスチェックを年に1回以上行うことでメンタルヘルス不調を未然に防止し、セルフケアにつなげることを目的としています。

ストレスチェックを活用してメンタルヘルス不調を未然に防止できれば、労働の生産性は向上しますし、その結果、業績アップも期待できるのですから、大いに活用していきましょう。

(7)メンタルヘルスケア計画の目標と評価

実施体制が整備されたら、具体的な活動スケジュールや目標を作成します。
長期目標を実現するために年次目標を設定するのもよいでしょう。達成状況が分かるように、具体的な数値等で目標設定することをお勧めします。

なお評価を行う際は、衛生委員会等で達成状況を確認して行うことがよいでしょう。

なお、この時行う評価は優劣をつけるものではありません。
評価を行うのは従業員が健康的に就業できる環境の構築につなげるためのリスクアセスメントであり、職場環境の改善に結びつけることこそが目的であることを忘れないようにしましょう。

まとめ

職場にはさまざまなストレス要因があります。なかには自分のストレス状態に気づくことができず、適切な対応が遅れたことにより自覚のないままモチベーションの低下やメンタルヘルス不調に陥ることがあります。

職場のメンタルヘルスケアを積極的に推進し、このような課題を解決するための具体的な計画を策定して実施していくことは、従業員のモチベーションアップやメンタルヘルス不調を防止するだけでなく、結果的に会社の生産性の向上、業績アップにもつながります。

メンタルヘルスケア計画の実施に当たっては、一次予防、二次予防、三次予防が効果的に行われるように配慮し、中長期的な視点で継続的かつ計画的に推進する必要があります。
HRデータラボのストレスチェック代行プランは、担当コンサルタントによる法令に沿ったストレスチェックの実施支援だけでなく、集団分析はもちろん、セルフケア研修やラインケア研修など、企業様のメンタルヘルス対策をトータルでサポートさせていただきます。
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