レジリエンスとは?精神科医が解説!

レジリエンスとは、ストレスに対処し回復する力です。レジリエンスを構築することで、個々の従業員は創造性や問題解決能力が向上し、パフォーマンスの安定が期待できます。また、職場全体においてもチームの生産性が向上し、協力的な文化が生まれやすくなります。その結果、従業員のモチベーションが高まり、離職率の低下やストレス関連の欠勤が減少することが見込まれます。レジリエンスの強化は、健全な職場環境の形成に非常に重要な要素です。

レジリエンスとは

レジリエンスとは、困難な状況や逆境に直面した際に、その状況に対処し、元の状態に回復する力や適応する力のことを指します。たとえば、失敗やストレス、トラウマなどの負の経験に対して、精神的・感情的な柔軟性を持ち、適応的に対応する力です。

レジリエンスには、元の状態に回復するだけでなく、スライブ(=成長する、栄える)といった意味も含まれています。
トラウマを経験した人が、その経験を乗り越えた時に、経験を糧として、トラウマを経験する前よりも一層内面的に成長している状態になることです。
高いレジリエンスを持つ人は、ストレスやプレッシャーの中でも自分の感情をコントロールし、状況を前向きに捉えることができるため、精神的な健康状態が維持されやすくなります。

現代社会では、仕事のプレッシャーや人間関係、経済的な不安など、ストレス要因が多く、レジリエンスが求められる場面が増えています。そのため、レジリエンスを高める方法を理解することが、メンタルヘルスや自己成長において非常に重要視されています。

レジリエンス構築の10の方法

欧州では、リーマンショックをきっかけに、2009年頃から、予防的にEAPによる従業員向けのレジリエンス向上プログラムを行う企業が増えました。
アメリカ心理学会では、レジリエンス構築の10の方法を紹介しています。

① 人とのつながり
人間関係を大切にし、周囲の人々との良好なつながりを築くことがレジリエンスを強化します。家族、友人、同僚などとの交流や支え合いは、困難な状況に直面した際の精神的な支えとなります。孤立せずに他者に頼ることで、ストレスに対処する能力が向上し、問題解決にも前向きな姿勢を保てるようになります。

② 危機を、乗り越えられない難局と見なさないようにする
危機的な状況に直面した際、その問題を乗り越えられない困難として捉えないことが重要です。レジリエンスを高めるには、問題を冷静に分析し、それを解決可能な課題と見なす姿勢を持つことが不可欠です。このように考えることで、不安や恐怖に囚われず、前向きに対処できる力が生まれます。

③ 変化の受容・生きることの一部とみなす
変化は人生の一部であり、避けられないものだと受け入れることが大切です。変化に対して抵抗するのではなく、柔軟に受け入れる姿勢を持つことで、逆境にも適応できる力が養われます。変化をポジティブに捉えることで、新しい状況にも素早く対応でき、成長の機会を見つけられます。

④ 日々、目的をもって生きる
毎日の生活に目標や意義を見出すことで、レジリエンスは向上します。明確な目標を設定し、その目標に向かって進むことで、困難に直面しても希望を失わず、前進するエネルギーを維持できます。目標は小さなもので構いません。日常的な達成感が自己肯定感を高め、精神的な強さにつながります。

⑤ 心身の健康を保つ
心身の健康を維持することは、レジリエンスを高める基本です。十分な睡眠、適度な運動、バランスの取れた食生活は、ストレス耐性を強化し、心の安定を保つために不可欠です。また、メンタルヘルスにも気を配り、過度なストレスや不安を早期に解消するためのリラクゼーションや趣味を取り入れることが推奨されます。

⑥ 不幸な出来事を、自分の可能性を見出す機会と捉える
逆境や不幸な出来事を、成長の機会と捉えることがレジリエンス向上に役立ちます。困難な状況をただの苦しみとして受け止めるのではなく、自分の新たな可能性や強みを見つけ出すチャンスと考えることで、ポジティブな変化が生まれます。経験から学び、次のステップに活かすことが重要です。

⑦ 物事を大きな視点で捉える
問題に直面した際、一つの事象に固執せず、広い視野で全体を見渡すことが大切です。物事を俯瞰することで、感情に流されず冷静に状況を判断でき、より適切な対策を取ることが可能になります。長期的な視点を持つことで、現在の困難が将来的にどのような意味を持つかを考える余裕が生まれます。

⑧ 嫌なことと向き合い、決断して行動を起こす
困難や不快な問題に直面した時に、逃げるのではなく、冷静に向き合い、行動を起こすことがレジリエンスを強化します。問題を先送りにせず、具体的な解決策を見つけ、積極的に実行することで、自己効力感が高まり、次の困難に対する耐性がつきます。

⑨ ポジティブなセルフイメージを大切にする
自分自身に対して前向きな認識を持つことが、レジリエンスの強化につながります。自己肯定感を高めることで、逆境に直面しても「自分ならできる」と信じられる力が生まれます。自分を信じることが、困難な状況でも前進し続ける原動力となります。

⑩ これから起きることに希望を持つ(メンタルイメージ)
未来に対するポジティブなイメージを持ち、これから起こることに希望を持つことが、レジリエンスを高めます。楽観的な考え方は、困難な状況でも前向きに対処し続ける力を養い、希望があることで、ストレスにも耐えやすくなります。

レジリエンスの実験としては、オーストラリアのクイーンズランド大学の教授らが、ブリスベン市の政府機関でレジリエンス強化研修を7週間にわたって行ったところ、参加者は自己効力感、ワークライフバランス、仕事の満足度、やる気、楽観的思考が向上したと発表されています。

ワークエンゲージメントとレジリエンス

ワークエンゲージメントとは、仕事に対するポジティブで充実した精神状態を指します。高いワークエンゲージメントを持つ人は、仕事に対して熱意や活力を感じ、自己効力感が高い傾向があります。この状態は、個人のレジリエンスとも深く関連しています。

レジリエンスが高い人は、仕事のストレスや困難に対しても柔軟に対応でき、長期間にわたって高いパフォーマンスを発揮することができます。ワークエンゲージメントが高い人は、仕事での充実感や達成感を通じて自己肯定感が高まり、レジリエンスも自然と強化されていきます。

職場でのレジリエンスを高めることで、従業員はストレスや不安に押しつぶされることなく、仕事の要求に応える力が増します。レジリエンスとワークエンゲージメントは相互に影響し合う関係にあり、職場環境を改善し、従業員の幸福度とパフォーマンスを向上させるためには、両者をバランス良く育成することが重要です。

職場とレジリエンス

職場におけるレジリエンスは、従業員が困難な状況やストレスに直面しても、効果的に対処し、精神的な健康を維持する能力を指します。職場環境がレジリエンスを高める要因として大きな役割を果たしており、特にマネジメントの支援や同僚との協力関係が重要です。

職場でのレジリエンスを強化するためには、まず開かれたコミュニケーションが不可欠です。従業員がストレスや問題を自由に相談できる環境を整えることで、心理的な安心感が得られ、困難な状況でも冷静に対処できるようになります。また、柔軟な勤務制度やワークライフバランスのサポートも、従業員のレジリエンスを支える要因となります。

さらに、職場内でのトレーニングやスキルアップの機会を提供することで、従業員は自己効力感を高め、逆境に対する耐性を強化することができます。リーダーシップも重要で、マネージャーが従業員に対してサポートを提供し、前向きなフィードバックを与えることで、職場全体のレジリエンスが向上します。

ストレスチェックとレジリエンス

ストレスチェックは、従業員の心理的なストレス状態を評価し、メンタルヘルスの問題を早期に発見するためのツールです。
ストレスチェックは、個人のレジリエンスを向上させるためには、ストレスチェックが重要なツールとなります。定期的なストレスチェックを実施することで、従業員一人ひとりが自身のストレスレベルを正確に把握し、適切な対策を取ることができます。

レジリエンスとは、ストレスに対処し回復する力ですが、これを強化するためには、まずストレスの原因を明確にし、それに対する具体的なアクションプランを策定することが必要です。たとえば、日常の業務で感じるストレス源を特定し、それに対する対処法を学ぶことで、日々のストレス管理がより効果的になります。
タイムマネジメントを改善することが必要と分かれば、業務の優先順位を見直して効率的に進めることで、仕事の負担を軽減できます。また、深呼吸や瞑想、ヨガなどのリラクゼーションテクニックを取り入れる方法を学ぶことも、生産性向上に大きく貢献します。
人間関係の摩擦や職場の雰囲気がストレスの原因と分かれば、上司や同僚とコミュニケーションを取り、環境を改善する方法を検討することもできます。

また、ストレスチェックの結果は、組織全体のメンタルヘルス施策にも大きく寄与します。ストレスチェックの結果を基に職場のストレス要因を特定することで、従業員が抱える課題に対して個別の対応を取ることができ、組織全体のメンタルヘルス施策に大きな効果をもたらします。
従業員一人ひとりのストレスレベルに応じたサポートやリソースの提供が可能となり、レジリエンスの強化につなげることで、従業員の健康維持と仕事のパフォーマンスが向上し、職場全体の士気が高まり、組織全体の効率性や生産性も向上します。従業員が安心して働ける環境づくりが、結果として離職率の低下やチームの安定性、生産性の向上をもたらすことにつながります。

まとめ

ストレスチェックを実施しないことで、従業員が抱えるストレスの状態を把握できなくなり、潜在的な問題を見過ごしてしまう可能性が高まります。また、レジリエンスの構築を怠ることで、従業員がストレスや困難に直面した際に適切に対応できず、職場でのパフォーマンスが大幅に低下するリスクがあります。
また、従業員の健康状態が悪化すれば、企業はその対応に多くのコストを費やすことになります。医療費や労災費用が増加するほか、欠勤や休職による人材のロスが生じ、新たな人材の採用や研修にかかる費用も増加します。さらに、職場のメンタルヘルス問題が表面化すれば、ビジネスチャンスが減少し、企業全体の収益にも悪影響を及ぼすリスクさえあります。
ストレスチェックを行い、レジリエンス構築に積極的に取り組むことは、企業にとって経営的観点から見ても、合理的であると言えるのです。

:参照記事
>ストレスチェックの高ストレス者が中間管理職に多い職場とは

>ストレスチェックの高ストレス者が若手に多い職場とは

監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
近澤 徹

オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。

> 近澤 徹| Medi Face 医師起業家