パワーハラスメント研修|7つの基礎知識

パワーハラスメント防止が法制化されたことにより、企業はパワハラ対策を強化し実効性のある防止措置を講じることが求められ、パワハラに対する従業員の関心と理解を深めるために、努力義務ではありますが、社内研修等の実施に取り組む必要があります。

そこでこの記事では、パワーハラスメント防止研修を実施するうえで担当者が最低限知っておきたい7つの基礎知識をご紹介します。

パワーハラスメント防止研修|7つの基礎知識

パワハラに関しては、これまで労働契約法5条および民法に基づいて規制がされてきましたが、直接企業にパワハラ防止措置義務を課している法規制がありませんでした。
そこで職場のパワハラ防止への取り組みを企業に義務づける「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、大企業については令和2年(2020年)6月1日からパワハラ対策が義務づけられており、中小企業においても令和4年(2022年)4月1日から義務化されます。

これにより、企業はパワハラに関して労働者の相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備や、パワハラに関する関心と理解を深めるための研修の実施、パワハラの相談をしたことを理由とする不利益取り扱いの禁止などが義務付けられることになりました。

(1)パワーハラスメントのリスクを知る

パワハラ防止の研修を実施する際にはまず、パワハラ行為のリスクを正しく理解する必要があります。

パワハラ行為をした者の責任
パワハラ行為をした者は、民事上は不法行為責任(民法709条)を負い、その場合には被害者の損害に対して損害賠償責任が生じます。その金額は数百万円~数千万円にのぼることもあります。
またパワハラ行為の内容によっては、刑事責任を負う可能性もあります。
会社の責任
職場でパワハラと認定される事案が発生した際には、加害従業員だけでなく使用者である会社の責任も問われる可能性があります。

・安全配慮義務違反による損害賠償責任
企業と従業員は雇用契約を締結しており、企業には従業員の職場環境を整備する義務があります。これを怠ってハラスメントが発生し従業員が損害を負った場合には債務不履行として損害賠償責任を負います(民法415条)。

・使用者責任による損害賠償責任
企業は、従業員が不法行為による損害賠償責任を負う場合に従業員と連帯して損害賠償責任を負います(民法715条1項)。

・労災補償責任
労働災害は、企業の営利活動に伴って生じるものであることから、その補償責任を負います(労働基準法75条)。

・役員の損害賠償責任
企業の役員は、会社に対して善管注意義務を負っており、ハラスメントを放置したことで損害額が拡大されるような場合には、会社に対して損害賠償責任を負います(会社法423条)。また、故意・重過失によって従業員に損害を与えた場合には、従業員に対しても損害賠償責任を負います(会社法429条)。

労働環境の悪化・人材流出
パワハラに限らずハラスメントが横行するような職場に対しては、労働者は怒りや不満を感じるものであり、従業員のモチベーションに影響を及ぼす可能性があります。さらにハラスメントを理由として貴重な人材が社外へ流出してしまうリスクも生じます。

実際、ハラスメントを受けたと感じた人が退職したケースは13.4%にものぼるという調査結果(厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査(令和2年度報告書)があります。

厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査令和2年度報告書」

勧告および企業名の公表
企業がパワハラ防止措置義務を怠っていると認められる場合には、厚生労働大臣による是正等の勧告を受ける場合があります。それでもさらに従わなかった時には企業名が公表されます(労働施策総合推進法33条)

(2)パワハラ防止対策の正しい効果を知る

厚生労働省では、パワハラ防止対策に取り組む効果として、以下のような効果を得られるとしています。

管理職の意識の変化による職場環境の改善
職場のコミュニケーションの活性化
管理職の適切なマネジメント
従業員と会社の厚い信頼感

厚生労働省「みんなで考えよう職場のパワーハラスメント」

実際に厚生労働省の実態調査でも、パワハラ対策を講じたことによって、パワーハラスメントの予防・解決以外の効果として「職場のコミュニケーションが活性化する」や「管理職が適切なマネジメントができるようになる」などが挙げられています。

(3)パワハラ防止対策として講じるべき内容を知る

パワハラ防止研修以外にも、パワハラ防止対策として行うべき対策は数多くあります。
そこで、パワハラの法制化前からパワハラ防止対策を実施している企業ではどのような取り組みをしているのかを知っておきましょう。

①ルールの明確化(就業規則への記載など)
②トップのメッセージ
③パワハラ防止体制の整備(相談窓口の設置、責任者・担当者の選任など)
④方針の明確化
⑤管理職研修
⑥一般従業員研修
⑦従業員への周知・広報活動
⑧情報管理(プライバシー情報など)
⑨定期的なフォローアップとPDCA

すべての取り組みを実践することが望ましいですが、時間や費用がかかるものも多いことから、重要なもの・効果があるものから順番に取り組んでいくことが現実的です。
上記のなかで必須なのが、①ルールの明確化と②トップのメッセージです。

①ルールの明確化については、従業員がパワハラ行為を行った場合には処分をしなければならないケースがある以上、事前にルールを決めて周知をさせる必要があるからです。

また、②トップのメッセージについては、パワハラ防止に非常に重要な意味を持ちます。ハラスメント防止のためには、企業のトップが「ハラスメントは断固としてなくすべきである」という意識をもち、組織全体として取り組む必要があるからです。できれば企業のトップ自らが、ハラスメント防止の会議に出席するべきです。トップの行動は部下に対して強いメッセージを発信することになります。たとえば、企業のトップが営業会議に出席しているのを見れば、従業員は「社長は、営業に強い関心を持っているのだ」と受け止めます。
同じように、トップがハラスメント防止会議に出席すること自体が、従業員に強い影響を与えるものです。

ハラスメントがなくならない理由の1つは「わが社は大丈夫だろう」「ハラスメントなんて起きない」といった、トップの当事者意識の欠如にあることが多いので、トップの意識改革と強いメッセージは必ず実行するようにしたいものです。

次に取り組む事項については、厚生労働省による「パワーハラスメントの予防・解決のために実施している取組のうち、効果があると実感できたもの」の調査結果を参考にしましょう。
この調査結果によれば、「管理職を対象にパワハラについての講演や研修会」が77.3%、「一般社員を対象にパワハラについての講演や研修会」が70.6%という結果が出ています。

したがって、必須事項である①ルールの明確化と②トップのメッセージを実施したうえで、管理職を対象とした研修、一般の従業員を対象とした研修を実施するのがよいでしょう。

(4)パワハラ研修では「人事院ハンドブック」が活用できる

人事院の運用通知のなかには、パワハラ防止のための研修に使えるマニュアルがあります。

たとえば「パワーハラスメントハンドブック」では、パワハラだけでなくセクハラやマタハラなどハラスメント全体に当てはまる内容が記載されています。
「パワハラと指導の違い」や、「パワーハラスメントを防止するための留意点」「パワハラ被害を受けた時の対応」といった今すぐに研修に使えそうな知識だけでなく、アンガーマネジメントについてのコラムまで記載されています。
このハンドブックをベースに自社の状況に合わせてアレンジすれば、研修の資料として活用することも可能です。

人事院「パワーハラスメントハンドブック」

(5)パワハラ研修は「関心を持ってもらうこと」から始まる

従業員のなかには「パワハラ防止研修など、受けたくない」と思っている人も少なからずいるものです。
したがって、パワハラ防止研修に抵抗感を持つ人にも関心を持ってもらえるような内容にすることが大切です。
たとえば、パワハラの定義を説明したり、パワハラの相談件数の増加などのデータを示したりするだけではなかなか関心を示さない人でも、パワハラをマネジメントに関連づけて話すと、関心を得られる場合もあります。
また、パワハラの相談についてプライバシーが保護されることや、不利益取り扱いが禁止されていることを説明することで、パワハラ被害について相談しやすい環境となることも期待できます。

研修の内容を検討する際には、パワハラの定義やパワハラを防止するための対策を内容に盛り込む前に「どうすれば関心を持ってもらえるのか」に配慮することが大きなポイントとなります。

(6)管理職のパワハラ研修のポイント

管理職のなかには「最近は、何でもパワハラと騒ぎ過ぎだ。これまでの指導のどこが悪いのか」と考える人がいる一方で、「気になることがあっても、パワハラと言われるのがイヤで、注意を控える」と委縮してしまう人もいます。

そこで、パワハラから少し離れて「よりよいマネジメントとは何か」といった視点をテーマに取り込むのもおすすめです。

たとえば、『金曜日の夕方にこのプレゼン資料を、月曜日の午前中までに作成してくれと指示を出すことをパワハラに当たると思うか』という質問をすると、「パワハラとは言えない」と考える人もいますし「休日の業務を命じているのだから、パワハラだ」と考える人もいます。

しかし金曜日の夕方に指示を出すことを、「マネジメント」という視点で考えてみると、いくつかの問題があります。
その指示自体が部下に無理を強いる指示であるなら、言うまでもなくマネジメントとして問題がありますが、それだけではありません。もし部下がその資料を家に持ち帰れば、情報流出というリスクがあり大きな不祥事につながるリスクがあります。
また、この指示が適切・的確なものであったか、一方的で強圧な指示でなかったかも細かく検証する必要があります。

つまりマネジメントという観点からすれば、リスクはパワハラリスクだけでないわけです。そして、「よりよいマネジメントとは何か」という視点を軸としてさまざまなリスクについて示すことで、結果的にハラスメントの防止につながることが期待できます。

(7)一般の従業員のパワハラ研修のポイント

パワハラは、立場や年齢によって意識のギャップが存在します。
年齢層の高い管理職にとっては、「これくらいは、パワハラに当たらない」と考える傾向があり、若い人は「あの指導も、この指示もパワハラだ」と解釈する傾向があります。そしてこのギャップを埋めることこそが、パワハラ研修の大切な目的のひとつです。

年齢による意識のギャップは、環境因子によるところが大きいと言えます。
若い世代は、学校と家庭が主な環境でそれ以外を知らないことが多く、そのうえ学校によっては部活動以外の場で先輩や後輩との交流を禁じているところもあり、年齢の違う人と交流するという体験が持てずに成長しているケースが多々あります。
このような環境因子の違いを理解したうえで、「どのような行為がパワハラなのか」「どのような行為がパワハラではなく、指導なのか」を具体的に示していくことが必要です。
管理職は「悪いところがあれば、改善してもらう必要がある」からこそ、是々非々(公平な立場で、良いことは良いと賛成し、悪いことは悪いと反対すること)で対応しているのだという指導姿勢を、ていねいに説明し理解してもらうことが大切です。

まとめ

以上、パワハラ防止研修の担当者が最低限知っておきたい基礎知識についてご紹介しました。パワハラは、刑事責任を問われるような暴力、暴言よりも、ほんのちょっとしたボタンの掛け違いから起こるケースが多いものです。
管理職、一般の従業員の研修内容、立場や年齢による意識のギャップを十分理解したうえで、従業員に関心を持ってもらえる研修、必要性や重要性をよく理解してもらう研修を実施することが大切です。

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